スピッツ
2007-10-10


【収録曲】
全曲作詞作曲 草野正宗
全曲編曲       スピッツ&亀田誠治
プロデュース  スピッツ&亀田誠治


1.僕のギター ★★★★☆
2.桃 ★★★★★
3.群青 ★★★☆☆

4.Na・de・Na・de ボーイ ★★★★☆
5.ルキンフォー ★★★★☆

6.不思議 ★★★☆☆
7.点と点 ★★★★☆

8.P ★★★★★
9.魔法のコトバ ★★★★★
10.トビウオ ★★★☆☆
11.ネズミの進化 ★★★☆☆

12.漣 ★★★★★
13.砂漠の花 ★★★☆☆


2007年10月10日発売
2007年12月26日発売(LP)
2008年12月17日発売(SHM-CD仕様)
ユニバーサルミュージック
最高位1位 売上21.5万枚


スピッツの12thアルバム。先行シングル「魔法のコトバ」「ルキンフォー」「群青」を収録。前作「スーベニア」以来2年9ヶ月振りのリリースとなった。初回盤はスリーブケース入り。
スピッツの結成20周年記念アルバムでもある。


今作も亀田誠治がプロデュースに参加した。これで3作連続。レコーディングのスタイルは前作「スーベニア」とは変えて行ったという。前作では13曲(「スーベニア」の収録曲数)を3ヶ月でレコーディングするという詰め込んだ感じだったが、今作では1年以上前から4回に分けてレコーディングされた。亀田誠治やレコーディングエンジニアの高山徹が多忙だったためにこのようなスタイルになったとされる。マスタリングは2006年リリースのベスト盤「CYCLE HIT」2作のリマスターを行ったスティーブン・マーカッセンが担当した。


当初アルバムタイトルの案は「夕焼け」だったというが、楽曲「夕焼け」は「群青」のC/W曲となってアルバムに収録されず。アルバムタイトルは大和言葉にしたかったらしく、収録曲の「漣」を「さざなみ」と平仮名にし、それだけだとインパクトが弱いという理由で「CD」と加えた。ちなみに、今作はLP盤が出ているが、それのタイトルは「さざなみLP」と改題されている。



「僕のギター」は今作のオープニング曲。草野はこの曲について雨の中のストリートシンガーのイメージの曲」と語っている。アコギが前面に出たアコースティックなサウンドが展開されている。オープニングとしては少々地味な印象が否めないが爽やかな感じの曲である。オープニングというよりはラストのような風格がある。サビには激しいバンドサウンドが入って壮大なサウンドになる。歌詞はギターへの愛を感じさせるもの。「かき鳴らしては かき鳴らしては 祈ってる」というフレーズが印象的。



「桃」は透明感溢れるサウンドが展開されたポップな曲。繊細かつ美しいアルペジオはスピッツにしか奏でられない。サウンドは全編通してキラキラした雰囲気がある。「ハチミツ」の頃を彷彿とさせる。歌詞は多幸感溢れる感じのものになっている。「つかまえたその手を 離すことはない 永遠という戯言に溺れて」というサビの歌詞が印象的。今作の収録曲の中では一番好きな曲。



「群青」は先行シングル曲。スキマスイッチの大橋卓弥、女性歌手の植村花菜がコーラスで参加した。ほぼ全編通して草野、大橋、植村の3人で歌われているのだが草野以外の二人は正直聴こえにくい。爽やかながらもどこか切なさや懐かしさを感じさせるイントロが素晴らしい。スピッツの曲ならではのイントロである。聴いただけでスピッツの曲だと分かってしまう。サビの「優しかった時の 心取り戻せ 嘘つきと呼ばれていいから」という歌詞が好き。余談だがこの曲のPVにはアンガールズが出演している。アンガールズの二人はウサギの格好で登場しているが、かなりシュールなものになっている。



「Na・de・Na・de ボーイ」は爽快感溢れるロックナンバー。草野の自信作でもある。Aメロはラップのようなボーカルになっている。歌詞は語感を重視したもの。2番では「アラッソ」というフレーズが登場する。歌詞カードではハングル文字で表記されている。これは韓国語で「わかったよ」というような意味らしく、会話でもよく用いられるようだ。「明大前」のフレーズは草野が京王線に乗っている時にこの曲を思いついたからだという。メロディーに対する歌詞の乗り方が凄く良いためか、聴いているととても気持ちが良い。そのため割と中毒性のある曲。



「ルキンフォー」は先行シングル曲。「レコード会社直営♪」のCMソングに起用されたほか、トヨタの「アイシス」のCMソングにも起用された。タイトルは「Looking for」に由来する。「探す」というような意味のタイトルだけあって前に進んで行くことを歌った応援歌的な歌詞になっている。力強いバンドサウンドが歌詞にさらに力を持たせている。「届きそうな気がしてる」というフレーズが印象的。「届く」ではなく「届きそう」、さらに「気がしてる」と入れるスピッツらしい弱々しさ漂う言葉選びである。



「不思議」はディスコ風の曲。2013年には石田祐康監督の短編アニメ映画『陽なたのアオシグレ』の主題歌に起用された。この曲について田村明浩は「こういう曲をレコーディングできるようになったのは最近になってから」と語っている。思わず体が動いてしまうような軽快なサウンドになっている。ディスコ風とは言っても下品な感じにならずに雰囲気を崩さないのはスピッツならでは。「恋のフシギ」について歌われた歌詞。「過ぎていったモロモロはもういいよ」というサビの歌詞は力強い。



「点と点」は今作リリース前に行われたファンクラブ会員限定ライブで既に演奏されていた曲。イントロから勢いと疾走感に溢れている曲だが、そのまま最後まで聴かせてしまう。爽快感溢れるロックナンバー。ライブ映えする曲だと思う。「わかりますか?それまでの 思い込みをぶち壊すような 新しい組み合わせ 固い心フワフワに変える」という歌詞が印象的。



「P」も今作リリース前に行われたファンクラブ会員限定ライブで既に演奏されていた曲。そこで演奏されていた時はアコギの弾き語りによる曲だったようだ。今作では数少ない、かなり落ち着いた曲調。バンドサウンドは控えめに、エレピ(ローズピアノ)が前面に出たサウンド。ふわふわとした感じがある。メロディーと草野のボーカルの美しさを味わえる曲。サビの「抱きしめた時の空の色 思い出になるほど晴れ渡る」という歌詞が印象的。


「魔法のコトバ」は先行シングル曲。映画『ハチミツとクローバー』の主題歌として書き下ろされた。『ハチミツとクローバー』の作者である羽海野チカはスピッツのファンのようで、アニメ版では挿入歌にスピッツの楽曲がよく使われていた。そもそもタイトルもスピッツのアルバム「ハチミツ」から取っているようだ。「クローバー」はスガシカオの1stアルバム「Clover」から取られたようだ。スガシカオの楽曲もよく挿入歌に起用されていたという。今作収録曲の中では最も古い曲。曲は「ハチミツ」くらいの時期を思わせる ポップで上手くまとまった感じのサウンド。亀田誠治の提案でストリングスが使われているが、バンドサウンドを殺す程では無い。タイアップ相手が青春モノの作品というだけあって歌詞もどことなくピュアな印象。「君は何してる?笑顔が見たいぞ」という歌詞が印象的。「見たいよ」や「見たいな」ではなく「見たいぞ」である。一文字違うだけでかなり変わる。何となく可愛らしい感じになる。



「トビウオ」はヘビーなロックナンバー。歪んだギターが前面に出たギターロック。ここまでロックな曲は今作では少ない。スポーツドリンクのCMソングになることをイメージして作ったというが結局それは叶わず。勢いが凄いのはその経緯があったからなのか。「くたばる前に 替わりがきかない 宝を取り戻せ 君を」というサビの歌詞が印象的。あっという間に終わってしまう感覚がある曲。



「ネズミの進化」はファンクラブ会員限定ライブで演奏されていた曲。タイトルも曲調もかなり独特な雰囲気がある。聴く度にクセになっていくような感じ。大きく成長していくことだけが進化ではないというメッセージを感じさせる歌詞。自分の姿をネズミに例えているのがインパクト抜群。「いつか 目覚めたネズミになる」というラストの歌詞が印象的。まだ眠っているのである。いつかは本気を出して欲しいものだ。



「漣」はタイトル曲。草野はこの曲について「昔からアイデアとしてあったものが形になった。」と語っている。海岸を走っているような爽やかさを持った曲。サビの開放感溢れるメロディーと草野のボーカルが心地良い。「現は見つつ 夢から覚めずもう一度」という2番のサビの歌詞が印象的。語感の良さがたまらない。「君に会うのよ」というフレーズはインパクト抜群。女性的な感じがするのだが、意外と力強さも感じさせる。



「砂漠の花」は今作のラストを飾る曲。過去を回想する内容の曲。このような曲はスピッツのアルバムのラストに多いような気がする。ギターを始めとした力強いバンドサウンドが展開されているのだが、歌謡曲のようなメロディーや切なげな歌詞と少々アンバランスなように思える。「君と出会えなかったら モノクロの世界の中 迷いもがいてたんだろう 『あたり前』にとらわれて」という歌詞が印象的。


中古屋ではたまに見かける。ロック色はあまり前面に出さず、安定感すら感じさせるようなポップな曲が多く並ぶ。そのためか、少し地味な印象が否めないのだが一曲単位で聴くと素晴らしい完成度を誇るキレッキレな楽曲ばかり。聴きやすさは抜群。聴けば聴くほど魅力を発見できるような作品だと思う。

★★★★☆