桑田佳祐
2001-06-25

【収録曲】
全曲作詞作曲 桑田佳祐
全曲編曲       小林武史 with 桑田佳祐、藤井丈司
プロデュース 桑田佳祐、小林武史、藤井丈司

1.哀しみのプリズナー ★★★★★
2.今でも君を愛してる ★★★☆☆
3.路傍の家にて ★★★★★
4.Dear Boys ★★★☆☆
5.ハートに無礼美人(Get out of my Chevvy) ★★★★★
6.いつか何処かで(I feel the echo) ★★★★★
7.Big Blonde Boy ★★★☆☆
8.Blue~こんな夜には踊れない ★★★★★
9.遠い街角 (The wanderin' street) ★★★★☆
10.悲しい気持ち(Just a man in love) ★★★★★
11.愛撫と殺意の交差点 ★★★★☆
12.誰かの風の跡 ★★★★★

1988年7月9日発売(CD,LP,CT)
1992年6月27日再発
2001年6月25日再発(リマスター)
ビクター・タイシタレーベル
最高位1位 売上65.5万枚

桑田佳祐のソロ1stアルバム。先行シングル「悲しい気持ち(Just a man in love)」「いつか何処かで(I feel the echo)」を収録。2001年リマスター盤の初回盤はスリーブケース入り仕様。

今作リリース前年にはKUWATA BANDとして活動していた。KUWATA BANDの活動終了後、その活動に疑問を感じたようだ。KUWATA BANDではレコーディングを短時間で仕上げてライブやテレビ出演に力を入れていた。今度はスタジオにこもって曲作りに熱中したいと思ったという。当時の桑田佳祐は「ポップス」という言葉に再び愛着が湧いたようで、それも今作の制作を始めるきっかけとなった。

レコーディングは1987年の夏から約1年かけて行われた。結果的にサザンオールスターズのデビュー10周年と重なってしまい、サザンの活動再開直後に今作をリリースするという事態になった。

全面的なプロデュースは小林武史が務めた。桑田佳祐が小林武史にプロデュースを依頼したのは「ポップスへの探究心が凄かったから」とのこと。今作がプロデューサーやアレンジャーとしての小林武史の出世作となった。小林は桑田佳祐ソロだけでなく、サザンでも制作に関わることとなった。サザンと小林は1993年頃まで関わっていた。桑田が曲のコード進行やイメージを小林に伝え、それを聞いた小林がアイデアを出し、それを基に曲の方向性を考えていくというスタイルで制作が進められた。桑田佳祐、小林武史、藤井丈司の三人がお互いの主張を譲らなかったため一時はアルバムの完成が危ぶまれたという。

桑田は後に「このアルバムで一番幸せだったのは、小林君というパートナーに出会えたこと」「このアルバムのシェフは小林君。素材桑田は気持ち良く仕事させていただきました」と語っている。


「哀しみのプリズナー」は今作のオープニング曲。コーラスでアン・ルイスが参加した。この曲の仮イントロが後の「奇跡の地球」に繋がっているという。ギターのカッティングが中心になったイントロがとてもキレが良い。疾走感も感じさせるメロディーが心地良い。言葉がとにかく詰め込まれている。歌詞は社会派的な雰囲気がある。タイトルの「プリズナー」は「囚人」を意味する言葉なのだが、何故このフレーズを入れたのだろうか?「さぁ部屋中を暗くしてくれ」という歌い出しの歌詞からこの曲、そしてこのアルバムの世界に引き込まれてしまう。


「今でも君を愛してる」は2012年リリースのベスト盤「I LOVE YOU -now & forever-」にも収録された曲。桑田のコーラスから始まるイントロ。途中から入ってくるホーンが印象的。夏が来る前に別れてしまった恋人との思い出を振り返った歌詞。ぼそぼそとした感じの桑田のボーカルが歌詞の中の男の感情を物語っているかのよう。海を見ながら感傷に浸って聴きたい曲である。


「路傍の家にて」は明るくポップな曲。日本語と英語で韻を踏んでいく桑田佳祐ならではの歌詞が展開されている。「利ザヤ」「乱売」等リリース当時の社会を風刺したようなフレーズが登場するのが特徴。当時はバブル経済の真っただ中にあった。「飽くなき民の糧ぞんざいに 稼げど施せども御前に 明日をも知れぬ身に無礼」という歌詞が印象的。キーボードにホーンとどこまでも明るいサウンドになっている。社会派なイメージの歌詞とサウンドのギャップには驚かされる。


「Dear Boys」は懐かしい雰囲気溢れる曲。ウクレレや口笛の音が前面に出ている。コーラスには原由子が参加した。ジョン・レノンの「ビューティフル・ボーイ」に影響を受けたという。桑田自らもソロならではの曲」と語っている。父親となった桑田佳祐の心が描かれているような曲。「大人に見えぬ風を 手のひらに集めて 大切な日々はいつでも 日差しに紛れる」という歌詞が好き。


「ハートに無礼美人(Get out of my Chevvy)」はジャジーな雰囲気のある曲。ベースとブラスの絡むサウンドが非常にお洒落で格好良い。AORテイストも強い。桑田は歌謡曲的で、執拗に韻の踏み方にこだわった」と語っている。男女の駆け引きを描いた歌詞になっている。相手の女性は「その気にさせといて 何もかも拒む無礼美人」らしい。カッコの部分は「俺のシボレーから降りろ」というような意味があると思われる。サウンドと歌詞含めかなり好きな曲。


「いつか何処かで(I feel the echo)」は先行シングル曲。日本航空の「JAL'88沖縄キャンペーン」のイメージソング及びCMソングに起用されたほか、映画『彼女が水着にきがえたら』の挿入歌に起用された。桑田自身も気に入っている曲であり「女性に2人きりの場面で聞かせるならこの曲。唯一自信を持って聞かせることのできる曲」という旨の発言もしている。イントロは小林武史のアレンジで出来たものらしい。何かが始まるような予感に満ちたイントロだと思う。優しく温かみのあるメロディーがとても心地良い。夏に吹く涼風のような爽やかさがある。前の恋人を思い出している内容の歌詞。「にじんだ光が 遠くでまたたく そんな夜空の果てなど 見たくない」という歌詞が印象的。


「Big Blonde Boy」はダリル・ホール&ジョン・オーツに会った時の印象を描いた曲。ダリル・ホール&ジョン・オーツは「いつか何処かで(I FEEL THE ECHO)」のC/W曲「SHE'S A BIG TEASER」のコーラスに参加した。キーボードも取り入れたロックサウンドが展開されている。ホール&オーツを「愛のおっとせいみたいなメリケン特有の野郎」と例えている。「いつか聴いた例の声が 僕にくれたOats(オツ)な和音」とさり気なくジョン・オーツの名前を入れてきているのが桑田佳祐ならでは。 割と意味が分からない歌詞が連発されているのだがそれでもサラッと聴かせてしまう辺りは流石。


「Blue ~こんな夜には踊れない」は大人の渋い雰囲気漂う曲。ギターのカッティングやキーボードによるキラキラとした音、打ち込みのドラムと色々と混ざったサウンドが展開されている。サビの後で転調して、サビの前でまた元のキーに戻るという不思議な曲の構造。アダルトな雰囲気がある歌詞。「ひと目逢って踊れば愛せるまでに 熱い気心が触れ合う 大人達の夜明け前」という歌詞が印象的。全体的に桑田のボーカルが低め。それもこの曲の渋い雰囲気を彩っていると言える。


「遠い街角 (The wanderin' street)」はピアノが前面に出たサウンドが心地良い曲。フジフイルムのCMソングに起用された。どこか懐かしい感じ。コーラスには竹内まりやが参加している。桑田佳祐・原由子、山下達郎・竹内まりや夫妻は家族ぐるみで仲が良く、山下達郎の「蒼氓」では4人によるコーラスも実現した。思い出が詰まった街角を描いた歌詞。「瞳の奥に 見慣れた顔が 浮かんで消える秋なのに あの頃には戻れない」という歌詞が印象的。カーペンターズの「Close To You」を彷彿とさせる美しい雰囲気がある。


「悲しい気持ち(Just a man in love)は先行シングル曲。桑田佳祐名義での1stシングル。桑田佳祐と小林武史。二人の天才ポップス職人が手を組んで作られた。キラキラとしたポップなイントロから引き込まれる。モータウンサウンドを彷彿とさせるベースもこの曲を彩っている。タイトルと反した明るい曲調ではあるがこれは意図したことらしい。別れた彼女のことを忘れられないという歌詞。「夏の女神に 最後のKissを 抱き合うたび溶けそうな 瞬間(とき)にお別れ」という歌い出しから素晴らしい。聴いていると、つい歌詞の中の男に感情移入してしまう。この曲が特に凄いのは 間奏キラキラしたポップなサウンドなのに何故か切ないのである。間奏を聴く度に鳥肌が立つ。この曲は桑田佳祐の傑作の一つだと思う。


「愛撫と殺意の交差点」は社会風刺的な歌詞が展開された曲。イントロ無しで始まる。コーラスには竹内まりやが参加した。政界や財界を風刺している。サビは英語詞。ラストのサビでは「子供たち、自分達がしてきたことは真似しないでくれ」「自分達が死んだ後はいい子になってくれ」という旨の詞で締めている。途中の「オーライ!」という子供の声は桑田佳祐の息子。クレジットでは"Shout"と表記されている。


「誰かの風の跡」は今作のラストを飾る曲。今作では唯一の桑田佳祐、小林武史、藤井丈司の三人だけで制作された曲。しっとりと聴かせる優しいバラード。夏の日を振り返った歌詞が展開されている。「風の季節に吐息集めて お前とのたわむれ 波の音聴き 身体寄せ合う 忘れない情熱の調べ」というサビの歌詞が印象的。ラストにふさわしい風格を持った曲。


ヒット作なので中古屋でよく見かけるが、CD初期の作品なので音質はあまりよろしくない。できれば2001年リマスター盤で聴くことをおすすめする。聴き流しているだけでも伝わってくるような、作り込まれたサウンドが展開されたアルバム。シンセの音は今聴くと少し古臭く感じられる所もあるが、それでも気にならない。とてもポップなのにマニアックなテイストも含まれている。桑田佳祐と小林武史、二人を支える藤井丈司。若く才能に溢れた当時の三人だからこそ作ることができた傑作。

★★★★★