【収録曲】
全曲作詞作曲編曲 槇原敬之
プロデュース         槇原敬之

1.二つのハート ★★★★☆
2.Jewel In Our Hearts(Japanese Ver.) ★★★☆☆
3.犬はアイスが大好きだ ★★★☆☆
4.LUNCH TIME WARS ★★★★☆
5.林檎の花 ★★★★★
6.Appreciation ★★★★☆
7.White Lie ★★★★☆
8.風は名前を名乗らずに ★★★★☆
9.軒下のモンスター ★★★★★
10.Remember My Name ★★★★★
11.今日の終わりにありがとうを数えよう ★★★☆☆

(初回盤のみ)DISC2 DVD
1.林檎の花
2.Remember My Name

2011年7月27日発売
Buppuレーベル
最高位7位 売上4.0万枚

槇原敬之の18thアルバム。先行シングル「林檎の花」と配信限定シングル「Remember My Name」を収録。前作「不安の中に手を突っ込んで」からは1年1ヶ月振りのリリースとなった。初回盤はDVD付属。

槇原敬之がエイベックスからBuppuレーベルと銘打った自主レーベルへと移籍して最初のアルバム。そのためか、TwitterやYouTubeでデモ音源やミュージックビデオの公開をするなどプロモーションには力を入れていた。ちなみに、Buppuレーベルの商品の流通にはかつて槇原が在籍したSonyが関わっている。

移籍したので作風が変わった…ということはない。いつも通りの安定感溢れるポップスが展開されている。今作は東日本大震災の影響を受けているようで、それに関係する曲も収録されている。


「二つのハート」は今作のオープニング曲。タイトルから察するに、今作のタイトル曲とも言える。この曲が出来てから「Heart To Heart」というタイトルを思いついたようだ。温かみのあるラブソングになっている。槇原は病気の看病をしてお互いに頑張っている恋人同士が描いたという。しかし、それを前面に出して描いている訳ではなく、ラストの「具合が良くなったら あそこの神社へいこう 二人でお礼にいこう」というフレーズで体調を崩していることが分かるという仕掛けになっている。 "二人でいること"の幸せさをメインで描いている。この曲のような温かみを感じさせるラブソングは久し振りである。


「Jewel In Our Hearts(Japanese Ver.)」はBackstreet Boysのニック・カーターに提供した曲のセルフカバー。歌詞は新たに日本語で書かれた。雨に降られて服や髪が台無しになってしまった恋人たちが描かれている。互いの悪い所を改善しようとする心が「宝石」として語られる。その心は雨にも濡れることは無いのだろう。ミディアムテンポのバラードだが、サビは割とキャッチーな感じである。近年の槇原敬之の楽曲はこの曲のようなメッセージ性の強いラブソングが多い。


「犬はアイスが大好きだ」はタイトル通り犬を題材にした曲。槇原敬之は芸能界屈指の愛犬家としても知られており、犬が歌詞に出てくる曲がかなり多い。この曲は愛犬家としての槇原を前面に出した曲である。ラテン風の曲調が展開されており、楽しげな雰囲気が漂っている。槇原が飼っている犬はアイスが大好きらしい。バレないようにアイスを持って来ても気付いたら犬が並んで待っているそう。そこから飛躍して、何かを分け合うことの良さについて語っている。ちなみに、歌詞カードには※低脂肪のものに限ります!※チョコレート系はダメダメだよ!と注意書きが添えられている。ここまで犬を前面に出した曲は初めてだろう。何とも微笑ましい曲である。


「LUNCH TIME WARS」はファンキーなノリが心地良い曲。タイトルだけ聴くと分からないかもしれないが、かなり知名度の高い曲である。日本テレビ系の昼番組『ヒルナンデス!』のテーマソングとして作られた。この曲ができてから他の収録曲ができていったようで、今作の中ではかなり重要な立場にある曲と言える。色々な人に「どんな曲が良いと思う?」と聞きまわって作ったという。OLの昼休みを舞台に、ランチの奪い合いを描いている。女性目線で女性口調で歌っている。そのため、槇原敬之はオネエだった!というような声が出てきてしまった。サビでは堂々番組名を出してきている。これほどタイアップ相手に忠実に曲を作れるのは凄い。


「林檎の花」は先行シングル曲。JR東日本の東北新幹線新青森駅開業キャンペーン「MY FIRST AOMORI」のCMソングに起用された。この曲のシングルはサークルKサンクス限定発売だった。発売日が2011年3月11日だった。つまり、東日本大震災が起きた日。そのため、悲しい曲だと感じていたが、被災地の方々の様子を見てその印象は吹き飛んだようだ。槇原曰く「人間の気高さを再確認するきっかけになった歌」なのだという。ピアノを基調とした、しっとりと聴かせるバラードナンバー。登場人物は僕、君、あのこ。サビでは「君はあのこのことが本当は好きなんだろう」と主人公は客観的な目線で語っている。主人公がひっそりと恋心を抱きつつ二人を見ているのだろうか。色々な解釈ができるようになっている。近年の槇原のバラードの中では一番好きな曲である。


「Appreciation」は東日本大震災の影響を受けたと思われる曲。原発について語られた内容になっている。今まで当たり前のように受け入れてきた原発を、事故が起きた瞬間に手のひらを返して批判する。何故今まで電気を作ってきた原発に感謝をしないのか?というような内容。リリース直後は東京電力を擁護しているというような批判が来たようだが、槇原はそれは誤解だとしている。サウンドはギターが前面に出たロック色の強いものになっている。内容はともかく、震災があった直後にこのような曲を出して世間に問題提起する槇原の姿勢は素晴らしいと思う。原発を批判する曲は多いが、逆の立場の曲はこの曲くらいしか知らない。


「White Lie」は前の曲と同じく東日本大震災に影響を受けたと思われる曲。タイトルは槇原曰く「方便の意」とのこと。東日本大震災の被災者を描いた歌詞が展開されている。"人間は神様に生かされている"という考えを持っていた昔の人間と今の人間を比べている感じ。「今の僕らはどうだろう さんざん頼っていたものにさえ 何か起こったとたんに 悪く言ってばかりだ」という歌詞が印象的。曲は美しいバラードなのだが、メッセージ性が相当に強い。ラストの "ほんとの事"というフレーズ。いまいち意味が分からない。槇原本人がそれについて語ったものを見たらさらに分からなくなった。


「風は名前を名乗らずに」はアコースティックなサウンドが心地良いバラードナンバー。終始アコギが前面に出ている。他の人を幸せにするためには、自分は何者でなくてもいいという考えが語られている。「誰かの幸せのため 何かしたいと思う気持ちが 分かって欲しいという気持ちに変わってしまえば無意味になる」という歌詞が印象的。恩着せがましい心を捨てて、爽やかに吹く風のような存在を目指したいものだ。


「軒下のモンスター」はセクシャルマイノリティを描いた曲。以前からもそれを思わせるような曲はあったが、この曲ほど明らかに分かるように描かれてはいなかった。槇原敬之は同性愛者だとされており、一部のメディアではカミングアウトしたという。この曲はカミングアウトソングと言われている。サウンド面はとても凝っており、かつての「Hungry Spider」を彷彿とさせるという声もある。ダンサブルながらも切なさを感じさせるサウンド。思春期の頃の同性愛者の心情を表現したような歌詞になっている。純粋な恋心が歌われているのだが、主人公自らをモンスターに例えている。そのような方々の心は分からないが、心の苦しみがよく伝わってくる曲だと思う。 このような曲を世に出した槇原敬之の心には脱帽する。軽い気持ちで聴けない曲である。


「Remember My Name」は配信限定シングル曲。毎日放送のニュース番組『VOICE』の「JUMP OVER WOMEN CANCER」コーナーのテーマソングとして作られた。子宮がんや乳がんと言った女性のがんの検診を促進するコーナーのようだ。相手への友情を歌った美しいバラードナンバー。悲しい気持ちを共有する事は、決して難しい事ではない。「名前を呼んでその人の顔が浮かぶというのは、心の中にその人がいて、決して孤独ではない」という槇原の考えが基になっている。「僕の名前を覚えていて それは君の友達の名前」というラストの歌詞が印象的。


「今日の終わりにありがとうを数えよう」は今作のラストを飾る曲。槇原曰く、寝る前に聴いて欲しい曲なのだという。ピアノやストリングスが前面に出た落ち着いた曲。ジャズテイストのサウンドである。「たくさんのものに助けられながら生きている 僕らはそう 生かされているんだね」という歌詞が印象的。アルバムの締めとしてはこれ以上無いほど適任な曲だと思う。


近年の作品なので中古屋では比較的高い。物議を醸したような曲も一部あるが、全体的には温かみのある優しい内容の作品になっている。やはりバラードは素晴らしい完成度の曲ばかり。気になるのは"感謝"や"ありがとう"、"神様"と言ったフレーズの多さ。以前からもあったものの、今作は特に多い印象がある。ファンなのにこのようなことを言うのも難だが、押しつけがましさや宗教っぽさを感じてしまってならない。肩肘張ってそのような曲を作らなくても、今まで通りのラブソングから十分に感謝や生き方を学べると思う。それを除けば素晴らしい作品である。

★★★★☆