【収録曲】※30th盤の内容。他のものとは曲順や曲数が異なる。
全曲作詞作曲松本隆&大瀧詠一
全曲編曲        大瀧詠一
プロデュース  大瀧詠一

1.夏のペーパーバック ★★★★★
2.Bachelor Girl ★★★★★
3.木の葉のスケッチ ★★★★☆
4.魔法の瞳 ★★★★☆
5.銀色のジェット ★★★☆☆
6.1969年のドラッグレース ★★★★★
7.ガラス壜の中の船 ★★★★☆
8.ペパーミント・ブルー ★★★★★
9.恋のナックルボール ★★★★☆
10.レイクサイド ストーリー ★★★★☆
11.フィヨルドの少女 ★★★★☆

1984年3月21日発売(LP,CT)
1984年4月21日発売(マスターサウンド盤)
1984年6月1日発売(初CD化)
1989年6月1日発売(CD,CTリマスター、曲順差し替え)
1991年3月21日発売(CD選書盤)
1997年10月22日発売(MD)
2004年3月21日発売(20th盤)
2014年3月21日発売(30th盤、管理人所有)
NIAGARA/CBS/SONY
NIAGARA/Sony Records
最高位1位 売上58.9万枚(オリジナル盤、合算)
最高位75位 売上0.5万枚(マスターサウンド盤)
最高位39位 売上2.2万枚(20th盤)
最高位12位 売上1.0万枚(30th盤、初動)

大滝詠一の6thオリジナルアルバム。先行シングルは無し。先行シングル無しだったのは「シングルヒットが無ければアルバムは売れない」という当時の音楽界の常識を打ち破るためだった。30th盤の初回盤はデジパック・三方背BOX仕様で、大滝詠一ゆかりの人物からの寄稿文が掲載された"EACH TIMES"が付属。

CD化して発売された時、1位を獲得したのはマイケル・ジャクソンの「スリラー」だった。しかし、翌週には今作が1位を獲得し、結果的に日本人アーティストとしては初となるオリコンCDチャートで3週連続1位を獲得した。大滝詠一としてはシングル、アルバムを通じて唯一となる1位獲得作品である。

今回レビューする30th盤は"Final Complete EACH TIME"と銘打ってリリースされた。大瀧詠一本人による2013年リマスター音源、初公開となる純カラオケを収録したボーナスディスクの2枚組でのリリース。大瀧詠一は2013年12月30日に急死したが、リマスターの作業は生前に終わらせていたため、予定通りのリリースとなった。

大瀧詠一は今作をリリースしてから長きにわたって音楽活動を休業。新曲は1996年の「幸せな結末」まで世に出ることはなかった。オリジナルアルバムとしては生前最後の作品となった。亡くなった後である2016年に「DEBUT AGAIN」がリリースされたが、それはオリジナルアルバム扱いとなっている。


「夏のペーパーバック」は今作のオープニング曲。オリジナル盤では2曲目だった。ウエットな雰囲気漂うサウンドがとても心地良い。歌詞はプールサイドを舞台にしたバラード。リゾートソング路線を象徴するようなシチュエーションである。サウンドと大滝詠一の濡れたようなボーカルがとても合っている。どちらかと言うとボーカルの方が前面に出ている印象。「君が夢見るほど素敵じゃないさ  ただの脇役だよ ぼくなんてね」という歌詞が印象的。かなりネガティブなフレーズである。今作全体に感じられる、陰の雰囲気を象徴するようなフレーズだろう。


「Bachelor Girl」は今作発売後にシングルリリースされた「フィヨルドの少女」のC/W曲。オリジナル盤には未収録で、1989年盤に初収録となった。稲垣潤一に提供した曲のセルフカバーである。管理人は稲垣潤一バージョンを先に聴いていたが、どちらのバージョンも濡れたような歌声と都会的なサウンドが印象的である。タイトルは「自立して生活している未婚女性」を意味する。サウンドはエコーのかかったピアノと流麗なストリングスが前面に出ている。雨の日の気だるい雰囲気がこれ以上無い程上手く表現されている。歌詞は雨の降る街を舞台にしたバラード。男性の繊細な感情が綴られている。女性の方が一枚上手なように描かれている印象がある。どうやら大滝詠一は草食系男子の走りのようだ。


「木の葉のスケッチ」はアダルトな雰囲気漂う曲。北村英治によるクラリネットをフィーチャーしている。駅のホームを舞台にした歌詞。辛い別れ方をした二人の再会を描いている。きっと気まずい雰囲気だったのだろう。季節は冬。冷たさを感じさせるサウンドやボーカルに、温かみのあるクラリネットが乗る。感傷的な歌詞が展開されている。「時が刻む深い淵を 埋めつくせる言葉は無いんだね」という歌詞や「枝を離れたふたつの葉は風に散るしかない」というラストの歌詞が印象的。二人の心情やその時の様子がいとも簡単に想像できるような曲。


「魔法の鐘」は様々なサウンドエフェクトが用いられたポップな曲。オリジナル盤ではオープニング曲だった。タイトルからも何となくメルヘンな感じが漂っているが、歌詞も可愛らしいものになっている。正直歌詞に意味は無いと思われる。「イチゴみたいに赤いくちびる まるで生きてるショート・ケーキだよ」というフレーズがインパクト抜群。サウンドエフェクトを多く用いているためか、サウンドは若干古さを感じさせる。しかし、リリースから30年以上経過した今聴いてもサウンドやメロディーが作り込まれているのがよく分かる。一曲目に相応しい、かなりポップな曲だと思うのだが何故一曲目を外されてしまったのだろうか?前作のオープニングは「君は天然色」で相当にインパクトの強いオープニングだったが。インパクト不足と判断されたのだろうか。


「銀色のジェット」は分厚いサウンドが展開されたスローナンバー。ストリングスやピアノがぶつかり合っているような感じのサウンド。非常に豪華な印象がある。メロディーは歌謡曲を彷彿とさせるもの。タイトル通り、飛行機を用いた歌詞が展開されている。この曲も失恋した後の男を描いたバラードになっている。女性は飛行機で何処かへ雲隠れしようとしているようだ。「君が捨てたこの都会で 生き続けるよ 失うものなど もうこれ以上 無いから」という歌詞が印象的。サウンドも歌詞もかなり重厚である。


「1969年のドラッグレース」ははっぴいえんど時代(結成前?)について語られた曲。映画『ちびまる子ちゃん わたしの好きな歌』の挿入歌に起用されたほか、テレビ宮崎の情報番組『UMKスーパーサタデー JAGA2天国』のテーマソングに起用された。1969年に大滝詠一、松本隆、細野晴臣の3人で東北に旅行したことが題材になっているという。松本隆が作詞し、大滝詠一が歌い、鈴木茂がギターを演奏した。細野晴臣が参加できなかったのが残念。軽快な曲調に乗る激しいギターサウンドが格好良い。大滝詠一のボーカルはいつになく力強い印象がある。何とシャウトしている部分もある。聴くと何故か懐かしい気分になれる曲である。


「ガラス壜の中の船」は静謐なサウンドが展開された曲。ストリングスとピアノがメイン。ボーカルを引き立てるようなサウンドである。しっとりとしたボーカルがこの曲の世界観を彩っている。曲の感じは「A LONG VACATION」の「雨のウェンズデイ」を思わせる感じ。"気まずいサヨナラを決めたあと"の二人を描いた歌詞。「君がぼくのこと誤解したように ぼくも君のこと誤解していたのさ 気付いてみても遅いかも知れないね」という歌詞が何とも切ない。「ガラス壜の中の船」というタイトルがとても好き。


「ペパーミント・ブルー」はタイトル通り清涼感溢れるサウンドが展開された曲。ちなみに、「ペパーミント・ブルー」という色は無いというが、清涼感や爽やかな雰囲気が想像できる。「A LONG VACATION」で定着した、リゾートソングという大滝詠一のイメージに合った曲。分厚く重ねられたサウンドに本人による多重コーラス。ウォール・オブ・サウンドの名に恥じない。歌詞は大人のイメージがあるラブソング。「斜め横の椅子を選ぶのは この角度からの君が とても綺麗だから」というサビの歌詞の一節が印象的。管理人にはまだ分からない世界観である。今作収録曲の中では一番好きな曲。


「恋のナックルボール」は遊び心を感じさせる楽しげな曲。いわゆる「ノベルティソング」の部類だろうか。オリジナル盤では4曲目だった。「A LONG VACATION」の「FUN×4」を彷彿とさせる。重厚なコーラスワークが展開されている。タイトル通り野球を題材にした歌詞。大滝詠一は野球好きとしても知られていた。「空振り」「変化球」「ストレート」「サイン」のような野球でよく使われるフレーズを無理なくさらっと歌詞の中に入れてしまう松本隆には脱帽。野球が好きな管理人には嬉しい曲である。聴くとついニヤリとしてしまう。


「レイクサイド ストーリー」は冬の湖を舞台にした曲。オリジナル盤ではラストを飾る曲である。全くそのようなフレーズは出てこないのだが、大学生の冬休みのようなイメージがある。比較的ポップな曲調でサビはキャッチー。歌詞は3人の若者を描いたもの。スケートをしているようだ。大滝詠一のボーカルがかなり力強い印象。「光る刃で描いたね 大きなハートの絵を」というサビの歌詞の一節が印象的。その光景を想像すると中々不思議な感じである。ちなみにこの曲はオリジナル盤と再発盤ではエンディング(アウトロ)が違うらしい。そこまでマニアックなファンではないので何とも言えないが、曲の印象が変わる程なのだろうか?


「フィヨルドの少女」は今作のラストを飾る曲。オリジナル盤には未収録で、1989年盤で初収録となった。「さらばシベリア鉄道」の続編のようなイメージのある曲。淡々とした感じと疾走感を併せ持ったサウンドはひんやりとした空気を感じさせる。しかし、「さらばシベリア鉄道」程の空気は感じられない。この曲が大滝詠一と松本隆がタッグを組んだ最後の曲である。それを考えると切なくなる。「心にささった氷の破片が溶けてゆく」というラストの歌詞が印象的。


ポップス、ロック史に残るような名盤「A LONG VACATION」の次のアルバムということで、過小評価されがちな作品。前作のような明るさはあまり感じられない。歌詞の面でいうと失恋モノのバラードが多い。全編通してどことなくネガティブな雰囲気が漂っている。夏に聴くのも良いが、冬に聴いても良いだろう。「A LONG VACATION」が好きなら間違いなく好きになれると思う。こちらも名盤である。

★★★★★