くるり
2009-06-10

【収録曲】
全曲作詞作曲 岸田繁
全曲編曲       くるり
プロデュース  くるり

1.LV45 ★★★★☆
2.愉快なピーナッツ ★★★★★
3.太陽のブルース ★★★★☆
4.夜汽車 ★★★☆☆
5.リルレロ ★★★★☆
6.つらいことばかり ★★★★☆
7.さよならリグレット ★★★★★
8.かごの中のジョニー ★★★★☆
9.Natsuno ★★★★★
10.デルタ ★★★☆☆
11.魂のゆくえ ★★★★★
12.ベベブ ★★★☆☆
13.背骨 ★★★★☆
↓初回盤のみ収録のボーナストラック
14.三日月 ★★★★☆

2009年6月10日発売
SPEEDSTAR RECORDS
最高位5位 売上5.7万枚

くるりの8thアルバム。先行シングル「さよならリグレット」「三日月」「愉快なピーナッツ」を収録。前作「ワルツを踊れ Tanz Waltzer」以来約2年振りのリリースとなった。前作から今作リリースまでの間にライブ盤をリリースした。初回盤はボーナストラック「三日月」を収録、「謎の板」が封入されている。

アルバムごとに様々なジャンルに挑戦し続ける変芸自在のバンドと言えるくるりだが、今作は特にテーマは無い。シンプルにやりたくて根本を掘り下げていったという。今作はロックを基調としつつ、ルーツロックレゲエやジャズ、ソウル、エレクトロニカ等幅広いジャンルを取り入れたサウンドが展開されている。

岸田繁は今作について「特に苦しんでいる人に聴いてほしい」「いいステップを踏み出す一歩にするために聴いてほしい」と語っている。

初回盤に封入された「謎の板」は、現実世界を舞台に行われるゲームイベントに使用するアイテムだったという。CDショップや雑誌などと連動してクエスト攻略へのヒントが提示され、インターネットを使って多くのプレイヤーが謎解きに挑戦したようだ。


「LV45」は今作のオープニング曲。岸田繁はドラクエシリーズが大好きなのだという。ドラクエの影響を受けて作られたようだ。その制作背景やタイトルは「TEAM ROCK」収録の「LV30」を彷彿とさせる。スローテンポの曲。ゆったりとした曲調だが、重厚感溢れるバンドサウンドが展開されている。特にドラムが前面に出ている。RPGの世界観を取り込んだダークな歌詞が特徴的。「夢はここらで途切れそうだ 回線は悪魔に切られそうだ」というフレーズが印象的。どことなく闇を感じさせる歌詞だと思う。ラストは「回線は切られそうだ」というフレーズ通り、プツッと切られる感じで終わる。この辺りの凝ったアレンジが素晴らしい。


「愉快なピーナッツ」は先行シングル曲。発売当初はタイアップが無かったものの、今作発売後にAppleの「iPhone 3GS」のCMソングに起用された。今作のジャケ写と共にこの曲が流れるというものだった。ミディアムテンポの曲。終始バックで流れているギターが心地良い。タイトルは可愛らしい感じなのだが、歌詞は内省的な味わいがある。「そうだろ 僕の人生は結局 暇つぶしみたいだから 明日のことも足りない頭で 考えて 考えて」という歌詞が印象的。ピーナッツは何かの例えなのだろうか?


「太陽のブルース」はゆったりした曲調が心地良い曲。くるりのパブリックイメージの一つと言ってもいい、チオビタのCMソングに起用された。暖かみを感じさせるメロディーが展開されている。そのような優しい曲調に反して歌詞はどこかネガティブな雰囲気が漂っている。「歩いて戻っていった 来た道へ吸い込まれた 振り返れ 前はこっちだ 声も出ない 手も振れやしない」というサビの歌詞が印象的。何かを探している旅を描いていると解釈している。


「夜汽車」はジャズテイストのサウンドが展開された曲。弾むような音色のピアノがとても楽しげである。カントリーのテイストも感じさせる。そのような雰囲気はあまり無いのだが、「今夜はクリスマス」というフレーズからクリスマスソングでもあることが分かる。歌詞は憧れていた街へ行く恋人達を描いたもの。それを「夢の街」と表現しているのがロマンチック。ジャズに寄った曲はくるりにはあまり無かっただけに、新鮮な印象。突然新しいジャンルを取り入れても違和感無く聴けるのはくるりならでは。


「リルレロ」はサイケな雰囲気溢れるロックナンバー。終始歪んだギターサウンドが曲を牽引している。歌詞は意味不明。「蛇の目爛々」「蛇腹しゅうしゅう」と何度も連呼して歌われているのだが、それがやたら耳に残る。「お前は弱い 何故なら 気にするからだ」というフレーズは身につまされる。このようなサイケな曲はくるりのアルバムには高い頻度で収録される。大抵語感を重視したような意味不明な歌詞である。


「つらいことばかり」は軽快な曲調が展開された曲。タイトルに反してかなり明るいのである。三柴理によるピアノの音色がとても美しい。しかし、歌詞はタイトル通り暗い印象。「つらいことばかりだね」と言った後に「Oh Yeah」と言ってのける辺りには脱帽。本当に辛くなるとそうなってしまうのだろうか?前の「リルレロ」はサイケな雰囲気が漂っていたが、こちらの曲の方が狂気じみて感じられる。岸田のボーカルも音痴な人のカラオケのような感じになっている。恐らくそれは演出なのだろうが、その無気力を極めたようなボーカルもこの曲の狂気じみた世界観を表現していると言える。


「さよならリグレット」は先行シングル曲。ハウス食品の「ジャワカレー」のCMソングに起用された。くるりがプロデュースする音楽イベント、「京都音楽博覧会」を記念した曲である。コーラスには土岐麻子が参加した。前の曲の狂気じみたピアノとは異なり、こちらでは非常に優しい音色を聴かせてくれる。ピアニストは同じく三柴理なのだが、演奏だけでかなり曲の印象が違ってくるのだと気付かされる。それだけ三柴理が素晴らしい実力を持っているということなのだろう。子供の頃を振り返って、大人へと成長していく過程を描いたような歌詞が展開されている。「思い出ぽろぽろ 頬を伝って 飛んでゆけ どこまでも」という歌詞が印象的。歌詞の世界観やサウンドを含めて大好きな曲。


「かごの中のジョニー」は先行シングル「三日月」のC/W曲。曲は7分越えで今作の中では最長。"ジョニー"に語りかけるような歌詞が展開されているのだが、ジョニーは誰なのだろうか?自分の心の中にいる、もう一人の自分の姿の例えだと解釈している。力強いバンドサウンドとストリングスが競演している。相反するものであり、喧嘩をしているように思えるが、しっかりと調和している。後半はそのサウンドだけをじっくりと聴かせる。長さは感じさせない。


「Natsuno」はタイトル通り夏の情景が綴られた曲。美しく、懐かしい情景をシンプルで力強いバンドサウンドに乗せて歌っている。「終わりを知らない夏ならば 何所にもいかないよ」というフレーズが好き。夏という季節に対して持つ、何とも言えない感情はこのフレーズに集約されていると言っても過言ではない。夏は楽しいことばかりなのだが、それは終わりが分かっているからこそ楽しむことができているのかもしれない。爽やかな雰囲気に溢れた良曲。


「デルタ」はファンタジックな世界観を持った歌詞が展開された曲。「デルタの先」「デルタの主」というフレーズが何度も登場する。デルタが何を意味しているのかは分からないが、死後の世界だと解釈している。主人公は恐らく岸田繁自身だろう。どこか哀愁を感じさせる岸田のボーカルが印象的。歌詞は赤いものが多く使われている。「真っ赤なスカーフ」「真っ赤な嘘」「夕日」「真っ赤なベロ」「真っ赤なオレンジ」…赤は心臓や血を表現する色。それは今作のタイトルである 「魂」 にも通じる。今作の作風を象徴するような曲なのかもしれない。


「魂のゆくえ」はタイトル曲。跳ね上がるようなピアノが前面に出たポップな曲。聴いていて楽しくなれるようなサウンドである。くるりの楽曲としては珍しい程にメッセージ性の強い歌詞が展開されている。「輝かしい未来は 胸の中で咲く花のよう そこで揺れたものは 魂のゆくえと呼ばないか」という歌い出しの歌詞が印象的。この曲はくるりの決意表明なのかもしれない。これからのくるりのテーマソングと言ってもいいだろう。


「ベベブ」は呪文のようなタイトルがインパクト抜群な曲。ラストに出てくる「baby boo」というフレーズを略したものだと思われる。楽しげなバンドサウンドが展開されている。キーボードも前面に出ている。ずんずんと迫ってくるようなサウンドである。「風邪っ引き 素直になるなら そんなに大したことはない やさしさのすれ違いだよ 気付けば晴れていたんだよ」という歌詞が印象的。後半になってこのような曲を持ってくるのは意外。


「背骨」は今作のラストを飾る曲。初回盤だと次にボーナストラックがあるのでラストではないが。ヘビーなバンドサウンドが特徴的。歪んだギターサウンドが前面に出ている。タイトル通り、「背骨」のような骨太さを感じさせる。歌詞はとてもポジティブ。ラストの「晴れるか曇るか どうでもいいや 前を見ろ 背骨が育ってゆく」という歌詞が印象的。ここまで来て最もヘビーなロックナンバーを持って来た。


「三日月」は先行シングル曲。初回盤のみ収録のボーナストラックである。NHKの土曜時代劇『浪花の華~緒方洪庵事件帳~』の主題歌に起用された。シングル曲なのにそれを本編には収録しないというのは中々驚かされた。曲はピアノを主体とした、しっとりと聴かせるバラードナンバー。恋人達が別れて生きていく様子を描いている。「この淋しさを どうかやさしさに変えてゆきたい」というフレーズが印象的。三日月は二人がどこに行っても優しく見守っていてくれるのだろう。今作のラストという形でこの曲を聴くと、一つのストーリーのエンディングと言った感覚で聴ける。一曲単位で聴くよりも良い曲だと感じられる。


ヒット作ではないが、中古屋ではそこそこ見かける。くるりとしては初めてとなる、明確なテーマを持たない作品。そのためか、少々とっ散らかっている印象が否めない。これまでの作品にあった統一感は無い。しかし、一曲一曲は素晴らしいものばかり。くるりのアルバムというよりは、シンガーソングライターの岸田繁のアルバムという印象がある。ここまで内省的な世界観を持った作品は今までのくるりには無かった。新たなくるりの姿を見ることができた。

★★★★☆