小田和正
1995-03-25


【収録曲】
全曲作詞作曲編曲 小田和正
プロデュース         小田和正


1.勝手に寂しくならないで ★★★★★
2.春風に乱れて ★★★★★

3.16号を下って ★★★★☆
4.君が戻って来るなんて ★★★★☆
5.Far East Café ★★★☆☆
6.恋は大騒ぎ ★★★★★

7.Little Tokyo ★★★★☆
8.time can wait ★★★★★
9.good times & bad times ★★★★☆
10.あの人に会える ★★★☆☆


1990年5月9日発売
1995年3月25日再発
ファンハウス
最高位1位 売上32.0万枚

小田和正の3rdアルバム。先行シングル「Little Tokyo/あの人に会える」「恋は大騒ぎ」を収録。前作「BETWEEN THE WORD&THE HEART」以来2年2ヶ月振りのリリースとなった。オフコース解散後初のオリジナルアルバムとなった。


1989年にオフコースが解散し、小田和正はソロ活動に専念することになる。個人レーベル「Little Tokyo」を設立し、それまでとは違ったソロアーティストとしてスタートしていくという決意を示した。


今作は大ヒット前夜の雰囲気が漂っている。代表曲と言ってもいい「恋は大騒ぎ」が収録されている。そこからも、オフコース時代とは異なるポップな曲を展開したアルバムだということがうかがい知れる。そのためか、今までのオフコースファンからは賛否両論を呼んだ作品のようだ。


今作のタイトルはソロになってから設立した個人事務所「ファー・イースト・クラブ」に由来する。「ファー・イースト」は極東のこと。日本から世界に音楽を発信していきたいという小田和正の思いが込められている。小田和正自身のアンテナショップの名前にもなっている。ツアーバンドの名前も「FAR EAST CLUB BAND」という名前。


「勝手に寂しくならないで」は今作のオープニング曲。ラテン調の陽気な曲になっている。オフコース解散後最初のアルバムのオープニングは、今までとの違いを強調するようなポップな曲で飾ってきた。イントロのピアノが高揚感を誘う。ピアノとギターのカッティングがサウンドを牽引している。後半ではパーカッションが前面に出て来る。彼女に束縛されている男を描いた歌詞。彼女は会えない時に勝手に想像を膨らませているようだ。歌い出しから「約束させないで そんなに縛らないで」とインパクト抜群。「君といれば楽しいけれど でもそれがすべてじゃない 別に君が思うような そんな意味じゃなくて」という歌詞が印象的。男の本心が現れているようだが、愛想を尽かした訳ではないらしい。ベスト盤に収録されていればもっと人気が出ていたかもしれない。


「春風に乱れて」はベスト盤「Oh! Yeah!」にも収録されたポップナンバー。1994年には三菱自動車の「ミラージュ」のCMソングに起用された。サウンドはギターが前面に出ている。キーボードとギターによるスリリングなイントロから曲の世界観に引き込まれる。春風が吹き荒れているようなイメージ。この曲の特徴は徹底された分厚いコーラスワーク。小田和正自身に加えて、SING LIKE TALKINGの佐藤竹善、安部恭弘、木戸やすひろ、比山清が参加している。佐藤竹善が一番目立っている感じ。小田和正のボーカルとの絡みが凄い。コーラスワークの上手さはオフコース時代から何ら変わっていない。歌詞は片想いしている男の心を描いたもの。しかもミステリアスな女性。「いつまでたっても 君がよく分からない」という歌い出しから男の心情がよく現れている。「きっと君には 好きな人がいて それでも今は 君の心を叩くだけ」というサビの歌詞が何とも切ない。サウンド、歌詞、コーラスワーク。どれを取っても高いレベルにある名曲。何故シングルにしなかったのか疑問に思う程。



「16号を下って」は小田和正の地元である横浜を舞台にしたバラードナンバー。バラードなのだが、暗くはならずにポップな要素も入れている。サウンドはピアノがメイン。国道16号線は神奈川県・東京都・埼玉県・千葉県を通っている環状線のこと。16号を南へ下って海を目指すという内容の歌詞。「砂の上を走り 海の風にうたう それぞれの 愛するひとのために」という歌詞が印象的。ドライブ中に聴くのが良いかもしれない。



「君が戻って来るなんて」はここまでの流れを落ち着けるようなスローバラード。別れた彼女と再会した男を描いている。何とも言えない気まずさが伝わって来るようである。「もう遅すぎる きっともう遅すぎる」というフレーズが切ない。サウンドはキーボードがメインだが、間奏ではサックスが登場する。この曲のようなしっとりと聴かせるバラードは小田和正の王道と言える。ソロアルバム前2作はAOR色の強い作品だったが、その作風を継いだ感じ。



「Far East Café」はタイトル曲。上品な雰囲気溢れるバラードナンバー。こちらもサックスが効果的に使われている。ラブソングなのだが、前述したタイトルへの思いが込められた歌詞がちりばめられている。「この広い都会の 片すみで見つけて いつでもこゝにいるから」という歌詞が印象的。「Far East Café」は「僕の心の中」にあるのだという。恋人や自らにとっての安らげる場所ということなのだろう。


「恋は大騒ぎ」は先行シングル曲。第一生命の「パスポート21」のCMソングに起用された。そのCMは小田和正が出演し、企画や演出も行なったという。コーラスにはEPOが参加した。売れ線全開のポップナンバー。ソロとしての小田和正の立ち位置を確立したと言っても良いだろう。モータウンサウンドの軽快な曲である。曲、歌詞含め今までの小田和正との違いを前面に打ち出しているような曲。小田は 「下世話にしよう。」と意識して作ったという。「下世話な方が意図がよく伝わる」という理由。この曲以降は「歌の中では演じても何をしてもOKになった」らしく、小田和正にとって大きな転機になった曲のようだ。



「Little Tokyo」は先行シングル曲。小田和正自身も出演した「ネスカフェ新ゴールドブレンド」のCMソングに起用された。後にベスト盤「Oh! Yeah!」に収録された。タイトルは個人レーベルと同名である。優しい雰囲気のラブソング。サウンドはギターが前面に出ている。「明日吹く風に 流されるとしても 今はたゞ この腕の中の君と 眼の前を 過ぎてゆく やわらかな時の流れを 信じて生きていたい」というサビの歌詞が印象的。



「time can wait」はアップテンポのポップロックナンバー。ギターが終始前面に出ている。ブラスセクションを用いており、そちらもサウンドを彩っている。歌詞は夢を追いかける人への応援歌になっている。「走り続けていても 歩いていても 空を見上げてため息つくも それぞれの人生」というフレーズが印象的。弾けたようなテンションの高い曲になっており、聴いていると元気が出て来る。この曲ももっと人気が出ていても良いと思う曲。ベスト盤に収録されていれば…と思ってしまってならない。


「good times & bad times」は力強いバラードナンバー。小田和正自身も出演した「ネスカフェ新ゴールドブレンド」のCMソングに起用された。「Little Tokyo」よりも先だった。テレビに殆ど出演することが無かった小田和正がCMに出演したため、大きな反響があったという。後にベスト盤「Oh!Yeah!」に収録された。サウンドは打ち込みがメイン。ラストには小田和正と外人コーラスとの掛け合いが展開されており、それが聴きどころ。今作収録バージョンでは次の曲とそのまま繋がっている。「この広い世界に ひとりだけの君をいつでも 捜している」という歌詞が印象的。


「あの人に会える」は先行シングル「Little Tokyo」のC/W曲。タイトルの「あの人」とは、伝説のプロゴルファーとして知られるジーン・サラゼンのことだという。「ジーン・サラゼン・ジュンクラシック」という彼の名前を冠したゴルフの大会を毎年栃木県の小川町(今の那珂川町)で行なっていたらしく、それにちなんだ曲。その大会の中継のテーマソングに提供されたという。サブタイトルは「 -a tune for sarazen's jun crassics-」というもの。小田和正はゴルフ好きなので、その縁もあったのだろう。「あの人に会える だからこゝに来る あの頃のまゝの この場所へ」という歌詞が印象的。曲はしっとりと聴かせるバラード。間奏のハーモニカが特徴的。小田和正のジーン・サラゼンへの想いが伝わって来るような曲である。


そこそこヒットしたが、中古屋ではたまに見かける程度。オフコース解散後初のアルバムということからか、全編通してポップな曲が多い印象。そのためとても聴きやすい作品である。オフコース在籍時代にリリースされたソロアルバム2作はAOR色の濃い作品だったが、今作は少し薄れている。完全に無くなった訳ではないが。今作リリースの翌年には「ラブ・ストーリーは突然に」が記録的な大ヒットを飛ばして国民的な歌手となっていくが、今作は大ヒット前夜と言える勢いを感じさせる。


★★★★★