サニーデイ・サービス
2010-04-21


【収録曲】
全曲作詞作曲 曽我部恵一
プロデュース  曽我部恵一


1.恋人たち ★★★★★
2.Somewhere in My Heart ★★★★★
3.ふたつのハート ★★★☆☆

4.南口の恋 ★★★☆☆
5.まわる花 ★★★★☆

6.水色の世界 ★★★★☆
7.五月雨が通り過ぎて ★★★★☆

8.Dead Flowers ★★★★☆
9.Poetic Light-まよなか ★★★☆☆
10.だれも知らなかった朝に ★★★★☆


2010年4月21日発売
ROSE RECORDS
最高位16位 売上0.8万枚


サニーデイ・サービスの8thアルバム。先行シングルは無し。2000年にサニーデイ・サービスが解散し、2008年に再結成してから初のアルバム。初回盤は紙スリーブケース入り仕様。


サニーデイの解散について、曽我部は「始めた時から、バンドっていうのは青春のように終わりがあると思っていた。最後の『LOVE ALBUM』は無理に作ったから、理に適った流れで終わったんだと思っている」と語っている。管理人が何となく「LOVE ALBUM」に馴染めない理由が分かったような気がする。


サニーデイが再結成したのは、2008年のライジング・サン・ロックフェスティバルがきっかけ。「もう一度サニーデイで出てもらえないか」とフェスのプロデューサーに言われたという。それを言われた時に曽我部は再結成したらダメな理由を考えたが、その理由が思いつかなかったという。やってみてバッシングされようが、何もなく過ごしていくよりも面白いのではないかと思ったようだ。


再結成した当初、曽我部は音楽活動を充実させる一つのコマだと思っていた。新しいベスト盤や旧作のリマスター盤をリリースし、サニーデイの曲を再びプレゼンしようと思っていたようだ。しかし、サニーデイで新曲を作りたいと考えるようになり、そこから新作のリリースへと向かっていった。


今作の演奏やアレンジについて曽我部は「昔はもうちょっと"こういう風に弾いて"とかちょっとしたディレクションもしたんですけど、一回テクニックの部分ではあきらめているから、今回はそれもなく。その人が出す音でいいだろうって。だからバンドの呼吸や息遣いだけで演奏できたかなあと思う」と語っている。


「恋人たち」は今作のオープニング曲。2008年の年末にこの曲ができた時、曽我部は「サニーデイの曲だ」と思ったという。それをメンバーに送ったところ「じゃあ録る?」という流れになって製作されたようだ。サウンドがガシャガシャした印象で独特なのだが、曽我部が仕事場でマイクを立ててアコギで歌っているデモ音源に3人での演奏が被せられたからだという。聴いてすぐに「あの頃のサニーデイだ!」と思うような爽やかなポップナンバー。タイトルだけでサニーデイらしさを感じる。電車に乗って遠くまで出かける恋人たちを描いた歌詞。このテーマも王道と言ったところ。かつてのサニーデイのリスナーが懐かしく思ってしまうような曲である。再結成後最初のアルバムの始まりにふさわしい曲。



「Somewhere in My Heart」は落ち着いた雰囲気のロックナンバー。ファンクのようなテイストも持っている。「音は全然良くないんだけど、グルーヴだけはあった」と曽我部が語っている。サニーデイ・サービスにしか作れないバンドサウンドである。彼らより演奏が上手いバンドは数多くある。しかし、それとは違った魅力がある。歌詞は文学的な世界観を持ったもの。「ぼくは夢 ぼくは虹 ぼくは涙 ぼくは秘密」というフレーズが印象的。「〜なんです」というはっぴいえんどを彷彿とさせる言葉遣いも健在。



「ふたつのハート」はしっとりと聴かせるバラードナンバー。曲はフォークロック系。優しいメロディーだが、力強さも感じさせる。サビでは歌声を張り上げる部分がある。かつての曽我部恵一と今の曽我部恵一の歌声は少し違うのだが、どちらも魅力的だ。歌詞は直球なラブソング。「きみが好きな色の花を買っていこう 「きみみたいにきれいだ」ってもういちど言えるように」という歌詞が印象的。大人同士の甘酸っぱい恋愛がイメージできる。



「南口の恋」はピアノが前面に出たポップなラブソング。ピアノの演奏で鈴木慶一が参加した。とても流麗な音色でこの曲の世界観を彩っている。歌詞はどこかファンタジックなイメージのもの。「生まれ変わったらぼくは青い鳥になりたい」という歌い出しのインパクトが抜群。街を舞台にし、恋人たちを描いた歌詞はまさにサニーデイの王道。「恋」といいつつ歌詞の中に「愛」が多用されているのはご愛嬌。


「まわる花」は解散前にライブで演奏されていた曲。「LOVE ALBUM TOUR」で演奏されていたようだ。ベースの田中貴は「当時のリハの最中に録ったデモもあって、実はたまーに聴いてたんだよね。もったいないなぁ、って」と語っている。曽我部恵一のソロでも録音されていたが未発表だったというが、やはりサニーデイらしいという理由で再録された。その時期に作られたためか、「LOVE ALBUM」の頃の作風を思わせる曲になっている。ファンクに歌謡曲を混ぜたような不思議なサウンドやメロディー。ギターのカッティングが前面に出ている。「100年前のめくるめく恋も いろづいてまわりだす」というフレーズのインパクトが凄い。甘ったるい程の言葉だが、これもやはり「LOVE ALBUM」の作風を想起させる。



「水色の世界」はしっとりと聴かせるフォークナンバー。今作の中でも最後の方に作られたという。アコギやコンガが前面に出ているサウンド。ボーカルを引き立てているような静かなサウンドである。はっぴいえんどの影響を強く受けていた頃のサニーデイのような曲。繊細かつ文学的な世界観の歌詞が展開されている。「ぼくの心のどこかにある水色の世界」について描いている。心の中にある悲しみについて語りつつも、悲しみという存在を否定せずに肯定している。この優しい雰囲気がたまらない。



「五月雨が通り過ぎて」は今作の中ではロック色の強い曲。2007年くらいに作られたという。どこか弱々しくスカスカしたバンドサウンドはサニーデイならでは。間奏のギターソロがとても切ない。ポップではあるがメロウな雰囲気を持っているメロディーが心地良い。失恋を描いた歌詞。「五月雨が通り過ぎて 恋の匂いを残してく いつかはぼくらぜんぶ 忘れてしまうのだろう」というサビの歌詞が印象的。



「Dead Flowers」は自分たちのことを歌ったという曲。曽我部は「サニーデイは"この3人の人生を代表しているものを歌う"っていうのが、なんとなくあった」と語っている。どこか寂しげな雰囲気がある曲。タイトル通り枯れてしまったような感じ。アコギの音色が前面に出ている。「とてもとても遠い日の物語 ついきのうの ほんのさっきのことのようで 不思議だね」という歌詞が印象的。



「Poetic Light-まよなか」はアルバムの終わりへ繋げることを意識したという曲。聴いていると眠くなってしまうような、静かなサウンドが展開されている。アコギとベースの絡みがお洒落。不安を煽るようなシンセの音も入っている。タイトル通り、まよなかを舞台にしたラブソング。「街に明かりともれば 世界ちょっときれいで もう少しいっしょにいて なにも見えなくなるまえに」という歌詞が印象的。たまには明かりの無い真っ暗な夜も良いのかもしれない。



「だれも知らなかった朝に」は今作のラストを飾る曲。この曲はレコーディングの中盤で作られたという。曽我部は「レコーディング後半に入った頃、"もしかしてこれが最後に来るストーリーなんじゃないか?"って気づいた」と語っている。関係無く作っていた曲が次第に繋がっていったという。一人暮らしの女の子を描いたラブソング。「あぁ 雲がゆっくり 音も立てずに流れている」というフレーズが印象的。一言一言を丁寧に歌い上げるようなボーカルが特徴。ラストにふさわしい静かで美しい雰囲気を持った曲。



中古屋ではたまに見かける。再結成後の最初のアルバムということもあってか、かつてのサニーデイ・サービスを彷彿とさせる曲が多く並んでいる。全編通して3人によるバンドサウンドに拘っている印象がある。穏やかで温かみのある曲ばかりなので落ち着きたい時に聴くことをおすすめする。タイトルの通り、晴れた日に聴きたくなるような作品である。


★★★★☆