サニーデイ・サービス
2014-10-21


【収録曲】
全曲作詞作曲 曽我部恵一
プロデュース  曽我部恵一

1.おせんべい ★★★☆☆
2.星のレストラン ★★★☆☆

3.愛し合い 感じ合い 眠り合う ★★★☆☆
4.アビーロードごっこ ★★★★★
5.少年の日の夏 ★★★★☆

6.エアバルーン ★★★★☆
7.One Day ★★★★★
8.夏は行ってしまった ★★★★☆
9.夏のような人 ★★★★★
10.晴れた日のメロディ ★★★☆☆

11.君が呼んだから ★★★★☆


2014年10月21日発売
ROSE RECORDS
最高位49位 売上不明


サニーデイ・サービスの9thアルバム。先行シングル「夏は行ってしまった」「One Day」「アビーロードごっこ」を収録。前作「本日は晴天なり」からは4年6ヶ月振りのリリースとなった。初回盤は三方背BOX入り仕様。ROSE RECORDSのオンラインショップではライブミニアルバム「サニーデイ、海へ行く」が付属した。オンラインショップではアナログ盤とCDのセットでの発売もされた。


今作の制作の経緯について、曽我部は色々とゴタゴタがあってしばらくサニーデイのことを考えるのを止めようと思ったという。ドラムの丸山晴茂からは「俺、辞めるわ」という旨のメールが来てしまったようだが、いつものことだとシカトしていた。数ヶ月後には丸山から「そろそろスタジオ入らない?」とメールが来た。「なんだこいつ」と思いつつスタジオに行くといつも通りだった。そこから色々なことがスムーズに進んで行ったという。


サニーデイでライブをやりながらどのような曲を作っていくかを探って行ったという。その結果、「とにかく2人に委ねたい」ことが分かったようだ。曽我部が曲を作り、それをそのまま3人でやって、自然に出てきたものを録ろうと思ったという。3人が集まって何かをすることが大事だと考えていたようだ。彼らは古くからの友人たちなので家族も同然だった。意義や意味は求めないが、いるだけで安心できる存在。


今作について曽我部は「2014年の40代のおじさん3人の音の記録」と捉えている。無理して何かを作り出すのではなく、2人がいるから自分もいるという関係性になったようだ。色々なズレがあって解散したものの、再結成を通じてズレがあって当然だと思ったという。「ズレたままで良いじゃん」という発想で活動するようになった。



「おせんべい」は今作のオープニング曲。アコギが前面に出たフォーキーな楽曲。子供の頃の夏休みを描いたような、懐かしさを感じさせる歌詞が展開されている。それだけでなく、老いや人生の短さについて考えさせるようなフレーズも登場する。「おせんべいを買って行こう ぼくらがまだかじれるうちに」というサビの歌詞が印象的。日常のありふれた光景を描き出す歌詞は以前のサニーデイの楽曲でも見られたが、それとはまた違った描き方をしている。40代となったサニーデイが行き着いた境地とも言える。



「星のレストラン」はヨーロッパの民族音楽のテイストを持った曲。アコーディオンの音色が不思議な世界観を構成している。サビでは様々な食べ物や飲み物の名前が登場するが、Aメロではどことなく不気味なフレーズが登場する。「行方不明の子供たちばかりの街で まるで生まれて来なかったようなふりして 噂どおりの重い扉を押しましょう」という歌詞。楽しげな曲調やサウンドではあるのだが、それが逆に怖いイメージ。今までのサニーデイの曲には無かった世界観の曲。食べ物や飲み物の名前が沢山登場するので深夜に聴くのは注意した方が良いと思う。



「愛し合い 感じ合い 眠り合う」は少ない音の数でしっかり聴かせるバラード。ほぼアコギとピアノだけで構成されたサウンド。極めてスローな曲調であり、聴いていると眠くなってしまうような安心感がある。ラブソングではなく、自然への愛を歌ったような歌詞。「かなしかるらん 生き物たちは 愛し合い 感じ合い 眠り合う」というサビの歌詞が印象的。1日の終わりに聴きたくなるような雰囲気がある。



「アビーロードごっこ」は先行シングル曲。爽やかなポップロックナンバー。これぞサニーデイと言いたくなるような独特なグルーヴがある。疾走感のあるギターフレーズが聴いていてとても心地良い。「さみしくはないのさ かなしくはないのさ この空の青さに消えてなくなりたい」という歌詞が印象的。爽やかな曲に乗せられる文学的で繊細な歌詞。まさにサニーデイの王道と言えるような曲である。



「少年の日の夏」はタイトル通り、少年時代の夏のことを振り返った曲。アコギがメインだがストリングスも入っており、曲を彩っている。この曲もまた懐かしさを感じさせる曲である。昔好きだった女の子へのメッセージのような歌詞になっている。「あぁ あのお地蔵さんの前でまたきみに会いたいな 東京も今年は暑い夏です」というサビの歌詞が印象的。はっぴいえんどの影響を強く受けていた「若者たち」「東京」の頃を彷彿とさせる、「〜です」という語尾がここで登場する。かなり静かでスローな曲ではあるが不思議と引き込まれる。


「エアバルーン」はここまでの流れを変えるようなサイケな曲。歪んだギターサウンドが展開されている。雑音にならないギリギリを突いて格好良い音になっている。ボーカルは少し聴こえにくいように加工されている。「みんなみんな はしゃぎすぎてるみたい」と繰り返すサビの部分はインパクト抜群。サイケな曲はサニーデイの魅力の一つだったが、前作ではあまり見られなかった。今作になって遂にサイケなサニーデイが蘇った。


「One Day」は先行シングル曲。アコギを中心とした優しいバンドサウンドが展開された曲。レコーディングは夏の真っ盛りに行われたという。窓を開けてレコーディングしたため、イントロにはうっすらと蝉の声や近くを通りかかった子供たちの声が入っているようだ。自然を描き出した美しい歌詞が特徴。「夏は終わりこぼれる光 優しく波打つこの気持ち」というサビの一節が印象的。夏の真っ盛り〜夏の終わりにかけて聴きたくなるような曲。サニーデイの新たな代表曲が生まれたと思う。



「夏は行ってしまった」は先行シングル曲。サニーデイ・サービス再結成後初のシングルだった。実に2000年リリースの「魔法」以来12年振り。ロック色の強い曲。3人で鳴らすバンドサウンドには彼らにしか作り出せないグルーヴがある。夏の終わりを描いた文学的で切ない歌詞。「夏は行ってしまった きみやぼくやあの娘をおいて ただそれだけのこと」という歌詞が印象的。どことなく虚無感を感じさせるフレーズである。後半にはセリフが入っている。その部分も聴きどころの一つ。



「夏のような人」は心地良いピアノポップ。イントロからとても優しいピアノの音色が登場する。チェロも使われている。爽やかな雰囲気を持ったメロディーとの絡みはまさに耳の保養と言ったところか。「花は咲き 風は届け 夢はまだ眠っている 忘れられた恋も 遠い街のどこか歌っている」という歌詞が印象的。夏を思わせるフレーズはあまり出てこないのだが、それでも情景を想像できる。今作のアルバム曲の中では一番好きな曲。  



「晴れた日のメロディ」はアコギの弾き語りがメインのシンプルな曲。話し言葉による歌詞は聴き手に語りかけてくるような雰囲気がある。どこか幻想的な世界観を持っている。「ねぇ、もうちょっとの愛でぜんぶがぜんぶうまくいく 窓辺に置いたちっちゃな砂漠に水をやるような朝だよ」というサビの歌詞が印象的。晴れた日の朝、目が覚めた後に聴きたくなるような曲。



「きみが呼んだから」は今作のラストを飾る曲。アコギやピアノだけでなく、様々な楽器が使われている。マラカスのような音やシンバルのような音が聴こえる。楽しげな雰囲気があるサウンドである。優しさに溢れたラブソングになっている。「太陽の光 こぼれるこの道で ぼくはきみに会えるかな ぼくはきみに会えるかな」というラストの歌詞が印象的。"会えるかな"という気弱な感じはサニーデイならでは。



中古屋ではほとんど見かけないので新品をあたった方が早いと思う。「若者たち」や「東京」の頃を彷彿とさせる、フォークロック色の強い作品である。3人でやることにこだわった結果、原点回帰したような作品になった。アコースティックなサウンドがメインである。タイトルやジャケ写からも夏の雰囲気が漂っているが、収録曲も夏を描いた曲が多い。そのため、夏の盛りから終わりにかけて聴くとさらに楽しんで聴けると思う。作品全体としては、先行シングル曲以外にインパクトのある曲が少なかったのが残念なところ。


★★★★☆