大江千里
2013-07-17


【収録曲】
全曲作詞作曲 大江千里
全曲編曲       大村憲司
プロデュース 大村憲司


1.シンデレラにはかなわない ★★★★☆
2.かわいいハートブレイカー ★★★★★
3.待ちわびて ★★★★☆
4.リップスティック・グラフィティ ★★★☆☆
5.浮気なLINDA ★★★☆☆

6.恋せよシルビア ★★★☆☆
7.三人目のパートナー ★★★★☆
8.HAPPY BIRTHDAY ★★★☆☆
9.BOYS&GIRLS ★★★★★ 
10.ふたつの宿題 ★★★★☆


1984年3月23日発売
1991年11月1日再発
2013年7月17日再発(Blu-Spec CD2 リマスター盤)
CBS/SONY Group(オリジナル盤)
EPIC/SONY RECORDS(1991年盤)
Sony Music Direct(2013年盤)
最高位80位 売上0.6万枚(LP)


大江千里の2ndアルバム。先行シングル「ふたつの宿題」「BOYS&GIRLS」を収録。前作「WAKU WAKU」からは約10ヶ月振りにリリースされた。


今作も前作と同様に大村憲司が全曲の編曲とプロデュースを担当した。大学生の日常を描いたお洒落な雰囲気漂うポップスが展開されている。前作よりも何となくロマンチックなイメージがある。曲名に女性の名前が多用されているのが印象的である。当時の大江千里は曲作りのヒントを得るために少女漫画を読んでいたらしい。「リップスティック・グラフィティ」は当時『りぼん』で連載されていた小椋冬美の同名の漫画が由来。大江千里のファンだった吉田まゆみは大江千里を自身の漫画の中に登場させたことでも知られる。
今作のキャッチコピーは「恋は永遠にアマチュア主義だね」というもの。


ジャケ写からも何となくわかるが、この頃の大江千里はアイドル的な売り方をしていた。そのため、主なファン層は女性。特に大江千里と近い年齢である女子大生が多めだった。


今作は最高位80位ながらも大江千里にとって初となるオリコンチャート入りを果たした。次作では一気にトップ10まで登りつめている。



「シンデレラにはかなわない」は今作のオープニング曲。大江千里らしい爽やかなポップスだが、サウンドはギターを始めとしてかなりソリッドなものになっている。歌詞はロマンチックなイメージのもの。アガサ・クリスティの翻訳による情景描写からヒントを得ていたという。「歯みがきのにおいの残った白い息とぎこちないKissも忘れそう」というフレーズが印象的。聴いているだけで映像が浮かんでくるような歌詞は大江千里の真骨頂と言える。


「かわいいハートブレイカー」はゆったりとしたバラードナンバー。曲はミディアムテンポのもの。キーボードを主体とした流麗なサウンドが展開されている。比較的シンプルな音作りになっている。このような曲の方が大江千里の歌声に合っているような印象がある。歌詞は失恋もの。「ポートランド」と神戸を思わせるフレーズが登場するのが関学生だった大江千里ならではと言ったところ。「男ユーミン」の異名を持つだけあって繊細な情景描写を得意としている。シングル曲ではないが、初期を代表する名曲の一つだと思う。



「待ちわびて」はミディアムテンポのポップな曲。サウンドはドラムやギターを中心にタイトなものになっている。大江千里のボーカルとサウンドのギャップが意外とクセになる。正直ボーカルが演奏に負けている感が否めない。コーラスにはEPOが参加しており、独特な歌声を響かせている。コーラスだがかなり目立っている。歌詞は別れてから好きだと言ってきた女性に振り回される男を描いたもの。「お前のそんな言い訳に誘われて やり直す気持も もう僕にはないのに」という歌詞が印象的。


「リップスティック・グラフィティ」は少女漫画からタイトルを取った曲。ピアノが主体となったサウンドが展開されたしっとりと聴かせるバラード。歌詞はロマンチックなイメージのもの。「少し海を見てて気づいたことがある 君がもし海なら ぼくは浮かぶ舟だよ」という歌詞が印象的。口紅で車に落書きをする光景が描かれているが、実際にやったらかなり大変なことになるのではないだろうか。



「浮気なLINDA」は軽快なメロディーが心地良いポップな曲。コーラスにはまだ売れていなかった頃のTM NETWORKが参加している。他の数曲にも参加しているがこの曲が一番目立って聴こえる。歌詞は浮気された男を描いたもの。「彼女はあの日そう言った ぼくとあいつを天秤にかけるならば死んだ方がましと」というフレーズはインパクト抜群。軽快な曲調であまり気にならないものの、よく見たらかなり凄い状況である。



「恋せよシルビア」は先行シングル「ふたつの宿題」のC/W曲。歌謡曲っぽさも感じさせるポップロックナンバー。シンセの音とギターの絡みが格好良い。札幌の地下鉄の中で曲を作ったという。「白い地下鉄」というフレーズが出てくるのはそのためだろうか?歌詞は彼氏がいる女性とデートする男を描いたもの。「スタイルは変えないで ひとつやふたつぐらいの悲しい思い出あったほうがいい」という歌詞が印象的。アイドル的な雰囲気を顕著に感じさせる曲である。


「三人目のパートナー」は先行シングル「BOYS&GIRLS」のC/W曲。レゲエのテイストも持った、しっとり聴かせるバラードナンバー。ギターの音色がとにかく心地良い。ダンスホールを舞台に、パートナーをとりかえる男を描いている。この曲のモデルになった女性がいたという。これまた情景が浮かんでくるような繊細な描写がされている。「いつだって男は出逢いの神秘 ハート焦がす」というサビの歌詞が印象的。管理人はそこまで好きな曲ではないがベスト盤によく収録されているので初期の名曲扱いされているのだと思われる。



「HAPPY BIRTHDAY」はタイトル通りのバースデーソング。サウンドはシンセが多用されている。シンセは何とも懐かしい音色を楽しめる。バックで聴こえるギターの音が心地良い。「HAPPY BIRTHDAY TO YOU 今夜だけ 君にだけ 優しくて暮れなずむ」というサビの歌詞が印象的。「君にだけ」と強調するあたりに多幸感を感じさせる。



「BOYS&GIRLS」は先行シングル曲。ピアノによるイントロが心地良いミディアムテンポのバラード。少年時代の懐かしい思い出が蘇ってくるような歌詞が展開されている。大江千里は東京に向かう途中の新幹線の中で曲を作ったという。聴いた人それぞれが主人公になれるような曲を作りたかったようだ。「十年経って出逢ったその時もラストは君と」というフレーズが印象的。ベスト盤に多数収録されているため初期の代表曲扱いされていると思われる。往年のライブでも定番だったのでファン人気も大江千里本人の思い入れもあったのだろう。



「ふたつの宿題」は今作のラストを飾る先行シングル曲。しっとりと聴かせる美しいバラード。高校生時代の日々を思い出させるような繊細な描写がされた歌詞。回想をした後に現在の状況が語られる。「「愛してる」って言葉はいつも早すぎる そうじゃなければ遅すぎる 間のわるい永遠の宿題だね」という歌詞が印象的。これはフランス映画のセリフにインスパイアされたものなのだという。この曲もまた初期を代表する曲だと言っていいだろう。


中古屋ではたまに見かける程度。現在はリマスター盤が出回っているのでそちらを聴くことをおすすめする。当時の大江千里は現役の大学生だっただけあって、キャンパスライフを美しく描き出したポップスがメイン。この頃から繊細な描写がされた歌詞や親しみやすいメロディーが展開されている。思いの外普遍性のある作品となっている。「BOYS&GIRLS」「ふたつの宿題」といった初期の代表曲と言えるような曲も収録されている。全曲通して1stよりも格段に完成度が上がっている。


★★★★☆