小田和正
1992-01-25


【収録曲】
全曲作詞作曲編曲 小田和正
プロデュース        小田和正


1.あなたを見つめて(INST) 省略
2.恋する二人 ★★★★☆ 
3.ふたつの奇跡 ★★★★★
4.思い出に変わるまで ★★★★★
5.あなたを見つめて/冬子のテーマ ★★★★☆
6.君に届くまで ★★★★☆
7.二人の夏 ★★★☆☆
8.風と君を待つだけ ★★★★★
9.いつか どこかで ★★★★☆

10.時に抱かれて/正木のテーマ ★★★★☆


1992年1月25日発売
ファンハウス
最高位1位 売上65.6万枚


小田和正の4thアルバム。先行シングル「あなたを見つめて」を収録。今作と同日に「いつか どこかで」がリリースされた。前作「Far East Café」からは1年8ヶ月振りのリリース。


今作はオリジナルアルバムのような形であるが、実際は小田和正自ら監督と脚本を担当した映画『いつか どこかで』のサウンドトラックである。ミュージシャンが監督を務めたというと、桑田佳祐の『稲村ジェーン』が思い浮かぶが、それに刺激されていたようだ。
映画は今作がリリースされた次の週に公開された。しかし、評論家からの評価は低く、興行的にもあまり良い結果ではなかった。「異業種監督」への偏見が強い時代だったのも影響しているのかもしれない。


劇中の音楽も小田和正が手がけたわけだが、そちらではインストだった曲にも歌詞をつけて収録している。サントラとは言ってもインスト曲は10曲中の1曲だけ。



「あなたを見つめて(INST)」は今作のオープニング曲。タイトルにもあるように、先行シングル曲「あなたを見つめて」のインストバージョン。ストリングスをフィーチャーしたものになっている。ストリングスのスコアを書いたのは小田和正自身。小田和正本人がオリジナルバージョンよりもこちらのバージョンの方が気に入っているというほど。かなり複雑な演奏がされている。物語の始まりを予感させる素晴らしいインストである。



「恋する二人」は先行シングル「あなたを見つめて」のC/W曲。カントリーの影響を受けたような軽快な曲調。サウンドはアコギが前面に出ている。少しハスキーな、声を枯らしたようなボーカルが特徴的。このような歌い方は小田和正には珍しい。歌詞はタイトル通りのラブソング。都会の夜を舞台に、恋人達を描いたものになっている。「暮れゆく街の 風はやさしくて つのる この想い 哀しくて」という歌詞が印象的。



「ふたつの奇跡」はしっとりしたバラードナンバー。映画では挿入歌として使われた。シンセやキーボードを効果的に用いたAOR色の強い曲になっている。このような曲は初期の小田和正ソロの王道と言える。サックスも使われており、間奏のサックスソロが素晴らしい。歌詞は都会を舞台にし、恋人の出逢いを描いている。「その心も 体も 君のその名前も好き 二人 会えたこと ふたつの奇跡」という歌詞が印象的。挿入歌に使われただけあって、とてもドラマチックな曲である。サウンドも相まってかなり濃厚なラブソングになっていると思う。


「思い出に変わるまで」はミディアムテンポのバラード。イントロ無しでボーカルが入ってくる。ピアノやホーンが前面に出た上質なサウンドが展開されている。AOR色の強いサウンドになっている。コーラスにはSING LIKE TALKINGの佐藤竹善が参加しており、息のあったコーラスワークを楽しめる。歌詞は別れた恋人のことを思い出しているもの。「今は時の流れに すべてを任せるだけ 二人がたゞの思い出に いつか変ってゆくまで 変ってゆくまで」という歌詞が印象的。サウンドが管理人の好みどストライクなので評価が高くなっている。



「あなたを見つめて/冬子のテーマ」は先行シングル曲。TBS系情報番組『筑紫哲也 NEWS23』のテーマソングに起用され、映画『いつか どこかで』の挿入歌に起用された。今作収録にあたってサブタイトルが追加されている。「冬子」は映画のヒロインの名前。しっとりとしたバラード。サウンドはキーボードやストリングスがメイン。厳かな雰囲気を持ったサウンドになっている。歌詞は直球なラブソング。「何も求めない 今何も望まない 明日 あなたに 会えれば それだけで」というフレーズが印象的。先行シングルらしいポップさは無いが、不思議と引き込まれる曲。


「君に届くまで」は今作では屈指のポップで明るい曲。挿入歌として劇中で使用された。メロディーや構成が「ラブ・ストーリーは突然に」と似ているのが特徴。ギターのカッティングやキーボードの使い方が特に似ている印象。イントロは長いストリングスのパートが入っているのでそこは違う。歌詞はストレートなラブソング。「そのまゝの 君が好き この気持 止めないで せめてこの想い 君に届くまで」という歌詞が印象的。「ラブ・ストーリーは突然に」をセルフパロディーしているかのような曲である。



「二人の夏」はラテンサウンドが展開された曲。映画の挿入歌として使われた。ラテン音楽の要素を取り入れるのは小田和正にとっては珍しい。サウンドはパーカッションやシンセによるホーンが前面に出ている。タイトル通り夏を舞台にしたラブソング。夏の真っ盛りと言うよりは夏の終わりをイメージさせるもの。「知らなければ 気になるけど 知りすぎれば 心が痛い」という歌詞が印象的。



「風と君を待つだけ」はシングル「いつか どこかで」のC/W曲。映画の挿入歌に起用されたほか、三菱の「ミラージュ」のCMソングに起用された。ピアノが主体になった力強いサウンドが心地良い曲。歌詞はとても前向きで明るい。ボーカルも力強く明るいものになっている。「誇りを捨てないで 諦めないで ひとりにならないで」と高らかに歌い上げるサビは何度聴いても力を貰えるような感覚になる。この曲がA面でも違和感が無かっただろう。



「いつか どこかで」は今作と同日にリリースされたシングル曲。小田和正が監督を務めた同じタイトルの映画の主題歌として作られたほか、第一生命の「パスポート21」のCMソングに起用された。ゆったりとしたバラードで、この曲もまたAOR色が強い。小田和正の曲にしては珍しく自慢の高音は控えめ。低音もまた色気がある。歌詞は恋に落ちる二人を描いたドラマチックなもの。「生まれて来てから いちばん大切なひと 今なら 素直に言える」という歌詞は顕著。実は「ラブ・ストーリーは突然に/Oh!Yeah!」に次いで小田和正のシングルでは2番ヒット曲。しかし、地味な印象が否めない。



「時に抱かれて/正木のテーマ」は今作のラストを飾る曲。こちらは時任三郎が演じた主人公の正木のテーマソングとして作られた。ピアノが主体になったしっとり聴かせるバラード。ふっと力を抜いたようなボーカルが聴いていてとても心地良い。歌詞は主人公からヒロインへの愛の言葉のようになっている。「生まれて来たから 明日を信じて おやすみ安らかに 愛する友よ 愛する人よ」という歌詞が印象的。ラストにふさわしい曲である。


ヒット作なので中古屋ではそこそこ見かける。サントラなので何となく敬遠してしまうかもしれないが、オリジナルアルバムと同じ感覚で聴ける。ラブソングがメインのアルバムなので小田和正のラブソングが好きな方にはたまらない作品だと思う。曲はAORテイストの強いものが多い。ソロ初期の小田和正に多く見られた作風である。都会を舞台にした曲が多いため、ドライブのお供に聴くと良いかもしれない。

★★★★☆