SING LIKE TALKING
2011-05-18

【収録曲】
全曲作詞作曲 藤田千章/佐藤竹善
8.12.作曲 西村智彦
全曲編曲       SING LIKE TALKING
プロデュース  SING LIKE TALKING

1.Through The Night ★★★★★
2.A Wonderful World ★★★★★
3.飾りのないX'mas Tree ★★★★☆
4.Dearest ★★★★☆
5.涙の螺旋 ★★★★☆
6.きみの中に輝くもの ★★★☆☆
7.祈り ★★★★☆
8.Do-Nuts? 省略
9.硝子の城 ★★★★☆
10.Desert Rose(Adenium) ★★★★☆
11.Wild Flowers ★★★★★
12.Dog Day In The Noon 省略

2011年5月18日発売
ユニバーサルミュージック
最高位13位 売上0.7万枚 

SING LIKE TALKINGの12thアルバム。先行シングル「Dearest」を収録。前作「RENASCENCE」からは実に7年7ヶ月振りのリリースとなった。

SING LIKE TALKINGは前作アルバム「RENASCENCE」をリリース後、活動を休止してソロ活動に専念していた。いつ再開するかは考えていた訳ではなく、気付いたら数年間が過ぎていたという。2009年にFM802のライブイベントでSING LIKE TALKINGとしてオファーが来たことが再開のきっかけとなった。SLTブレイクの一因となったFM802のオファーだったので断れずに参加したところ、共演した小田和正や松たか子がとても喜んでくれたという。それはSLTのメンバーも同じで、とても楽しかったようだ。 次の日にはメンバー同士で「レコーディングどうしようか?」というような話をしていたという。

今作のタイトル「Empowerment」自己の力による、各個人それぞれの内面的可能性の開花」というような解釈で使われる言葉のこと。介護の分野や、国連の会議でも使われるようだ。今作は東日本大震災の影響も受けたという。メンバーは青森出身なので復興への想いも強いのだろう。


「Through The Night」は先行シングル「Dearest」のC/W曲。ボサノバ風のボーカルから始まり、そこからファンクへと移っていく。かつてのような濃厚なファンクではなく、ポップな要素も持っている。サウンドはギターのカッティングが前面に出ている。歌詞はタイトル通り夜の過ごし方について描いている。「だから 今夜は 忘れよう うねりの渦に任せよう 身も心も軽くなればいい どうなってもいい」というサビの歌詞が印象的。久し振りの新譜ではあるがいつも通りのオープニングである。曲の構成はかつての「together」を彷彿とさせる。


「A Wonderful World」は壮大なロックナンバー。歪んだギターサウンドと浮遊感のあるシンセの音との絡みが独特な奥行きを作り出している。重厚なサウンドではあるがサビは比較的キャッチー。歌詞は内省的な雰囲気を持っている。「最初から巧い具合にいく筈がないことはぼくも覚悟はしている 少しは悩みもするけど 理想って遠いもの」という歌詞が印象的。メッセージ性の強い歌詞なので壮大なサウンドと相まってかなりの説得力を持っている。かつてのように英語を多用しない歌詞も新鮮。ラストに置かれていても違和感の無いような曲である。


「飾りのない X'mas Tree」はタイトル通りのクリスマスソング。大人の雰囲気を感じさせる落ち着いたバラードナンバー。サウンドはアコギが前面に出ている。間奏の泣きのギターソロは圧巻。彼女と別れてしまった男が一人でクリスマスを過ごす様子を描いた歌詞。「叶わない願い それは君 ガラクタになったこの心に 瞬き出した街の灯は痛いだけ」という歌詞が印象的。サビのファルセットがとても美しいのだが、切ない。その感情が曲全体を通して伝わってくる。


「Dearest」は先行シングル曲。日本テレビ系情報番組『TheサンデーNEXT』のエンディングテーマに起用された。ギターやクラヴィネットが前面に出た力強いサウンド。2番からはピアノがメインになる。メロディーはとてもゆったりとしているだけにギャップがある。歌詞は男女の心のすれ違いについて語ったものになっている。「「大好き」なことって「大切」になっても吹き飛んでしまう灰のように掴めない」という歌詞が印象的。SLTらしい優しい歌詞が展開されており、SLTが戻ってきたことを象徴するような曲である。活動再開後初のシングルなのも頷ける良曲。


「涙の螺旋」はSLTらしさを感じさせるポップロックナンバー。サウンドはふわふわしたシンセの音色とうねるようなベースが前面に出ている。格好良いのだが、どこか懐かしい雰囲気を持ったメロディーが心地良い。歌詞は恋人へのメッセージのようになっている。恋人は泣いてばかりのようだ。「勇気を持ってサヨナラ キミがどこにいようと ボクなら 傍にいるから」という歌詞が印象的。 サウンドや歌詞だけでなく、タイトルもSLT特有の世界観を持っているように思う。


「きみの中に輝くもの」はしっとりと聴かせるバラードナンバー。アコギとキーボードが前面に出たサウンドが展開されている。シンプルなバンドサウンドを響かせている。歌詞はストレートな愛の言葉が並べられているものだが、この世界観は佐藤竹善ソロの「今日も君に恋をした」を想起させる。SLTにしては珍しい程ストレートなラブソングである。「不器用ってことは 誰より一番 ひたむきな証拠さ」という歌詞が印象的。佐藤竹善の力強くて美しい歌声がこの曲を何よりも彩っている。


「祈り」はピアノ主体のゆったりとしたバラードナンバー。音の数は少なめで、佐藤竹善のボーカルを強調するようなサウンドとなっている。歌詞はタイトル通りメッセージ性の強いものになっている。「居心地が悪いって毎日自分を責め続けても 確かなことはひとつもない それを希望と呼べばいいさ」という歌詞が印象的。6分半と今作の中でもかなり長尺の曲ではあるが、飽きることなくしっかりと聴かせる。この曲もまた、ラストに配置されていても違和感の無いような曲である。


「Do-Nuts?」は西村智彦作曲によるインスト曲。何ともコミカルで楽しげな曲になっているのだが、タイトルの「Nuts」はアメリカのスラングで「いかれている」というような意味があるらしい。タイトルのフレーズは西村智彦がアメリカの家電量販店に行った時に見たドーナツマシンに書かれていたものだという。ホーンやギターが前面に出た楽しそうな感じのサウンドになっている。アルバムの繋ぎというには勿体無いようなインストである。


「硝子の城」はジャズテイストの強い曲。ジャズファンクと言ったところか。バンドサウンドだけでなく、トランペットやエレピも使われている。歌詞は藤田千章ならではのシニカルな世界観を持ったものとなっている。「METABOLISM」で顕著に現れていた詞世界が再び姿を現した。「自分らしいって何だ 分かっているって奴がいたら 会いたいね キツい冗句さ」という歌詞が印象的。ひねくれた雰囲気がたまらない曲。SLTの闇の部分が現れたような曲なので今作の中では異彩を放っている。


「Desert Rose(Ademium)」はピアノ主体のしっとり聴かせるバラードナンバー。流麗なピアノと力強いドラムの絡みが聴いていて心地良い。壮大なサウンドが展開されている。塩谷哲によるピアノと佐藤竹善のボーカルの相性は抜群である。歌詞は前向きな雰囲気を持ったものになっている。「どうしたいって決める覚悟は 砂漠に根付いた薔薇さ」というサビの歌詞が印象的。愛する人への偽りの無い心がストレートに表現されている曲。


「Wild Flowers」は優しい雰囲気溢れるバラードナンバー。この曲もピアノが前面に出たサウンドが展開されている。2番に入ってからバンドサウンドが入ってきて、より荘厳な感じになる。ちなみに、この曲のドラムのクレジットは小笠原拓海となっているが、実際は佐藤強一なのだという。歌詞は恋人との思い出を振り返っているもの。恋人を一輪の花に例えている。佐藤竹善のボーカルや壮大なサウンドが素晴らしい。ライブで聴いたらさらに名曲だと感じられそう。  


「Dog Day In The Moon」は今作のラストを飾るインスト曲。西村智彦による作曲。タイトルの「Dog Day」は夏の盛りの暑い日のことを言う。西村智彦曰く、うだるような暑さの中を歩いているというイメージで作ったという。砂漠を想起させるような乾いたギターサウンドが特徴的。インタルードのつもりで他のところに入れようとしたが、置き場所が無くて結局ラストに回されたようだ。思惑通り暑さが伝わってくるようなサウンドになっている。


中古屋ではたまに見かける。SLTの久し振りの新譜だが、全体的な作風は「RENASCENCE」を引き継いだような感じである。壮大な曲が次々と出てくるという点では「Welcome To Another World」を彷彿とさせる。ブランクを経てメンバーの実力やボーカルがさらに向上しているような印象がある。内省的な雰囲気が強いためか、1回聴いただけでは良さが分かりにくい。2、3回程聴くと自然と沁みてくると思う。

★★★★☆