松任谷由実
1999-02-24


【収録曲】
全曲作詞作曲 松任谷由実
全曲編曲        松任谷正隆
プロデュース  松任谷正隆


1.SALAAM MOUSSON SALAAM AFRIQUE ★★★★★
2.ノーサイド ★★★★★
3.DOWNTOWN BOY ★★★★★
4.BLIZZARD ★★★★★
5.一緒に暮らそう ★★★★☆
6.破れた恋の繕し方教えます ★★★☆☆

7.午前4時の電話 ★★★★☆
8.木枯らしのダイアリー ★★★★★
9.SHANGRILAをめざせ ★★★★☆ 
10.〜ノーサイド・夏〜空耳のホイッスル ★★★☆☆


1984年12月1日発売
1985年6月1日発売(初CD化)
1999年2月24日再発(CDリマスター・現行盤)
2013年10月2日再発(1999年盤の廉価再発)
東芝EMI/EXPRESS
最高位1位 売上60.7万枚(合算。LP41.3万枚、CT19.4万枚)


松任谷由実の16thアルバム。先行シングルは無し。前作の後にリリースされたシングル「VOYAGER~日付のない墓標~」は未収録。前作「VOYAGER」からは丁度1年振りのリリースとなった。


今作のタイトルはラグビーの試合終了を指す言葉。作品はロサンゼルスオリンピックの影響を強く受けたようだ。今作は後のラグビー人気の元になった作品と言える。テーマは「Watch me.」というものらしい。ケースの裏側にはユーミンによる英詩が掲載されている。


YとMとIを組み合わせたような不思議なマークが印象的なジャケ写だが、これはピンク・フロイドを始めとした様々なアーティストのアルバムジャケットを手がけてきたヒプノシスによるもの。金ピカなジャケットもインパクト抜群。アートワークは信藤三雄が手がけた。


「SALAAM MOUSSON SALAAM AFRIQUE」は今作のオープニング曲。長ったらしいタイトルが特徴的だが、この曲はアフリカを舞台にしているので、「こんにちはモンスーン(季節風)、こんにちはアフリカ」という感じの訳になるのだろうか?イントロは静かなドラムの音から入り、いきなりシンセが入ってくる。静かではあるが、何かが始まるという予感をこれ以上無いほど感じさせてくる。ユーミンにしては珍しい程に力が込められたボーカルが印象的。どこまでも広がる大地を想像させるようなスケールを持った歌詞やサウンドが展開されている。ドラムやベースの音色は大地の鼓動のようだ。 後に民族音楽や精神世界的な作風になっていくユーミンの姿を予期しているような曲である。


「ノーサイド」は今作のタイトル曲。1985年に富士フイルムの「ビデオテープスーパーHG HiFi」のCMソングに起用された。ドラマTBS系『ルージュの伝言』やTBS系『ユーミン・ドラマブックス』でドラマ化された。 元々は松任谷夫妻がプロデュースを行っていた麗美のアルバムに提供した曲だった。そのため、セルフカバーである。タイトル通りラグビーをテーマにした曲。2000年代後半以降は若手アーティストによって定期的にカバーされており、数年連続で全国高等学校ラグビーフットボール大会のテーマソングとして使われた。曲はゆったりとしたバラード。エレピ主体の流麗なイントロから既にこの曲の世界に引き込まれる。ずっと選手を支えてきたマネージャーなのか、家族なのか。どの視点で語られているかは分からないが、 そこには壮大なドラマが綴られている。「同じゼッケン 誰かがつけて また次のシーズンを かけてゆく 人々がみんなあなたを忘れてもここにいるわ」という歌詞が印象的。物語の終わりにふさわしい美しさがある。


「DOWNTOWN BOY」はユーミンの王道と言えるポップな曲。1984年に富士フイルムの「ビデオテープスーパーHG HiFi」のCMソング、1998年三菱自動車の「トッポBJ」のCMソングに起用された。今作の発売前から富士フイルムのCMソングとしてよく放送されていたようなので実質的にシングル曲のような扱いだろう。タイトルや歌詞の内容はビリー・ジョエルの「Uptown Girl」を彷彿とさせる。「Uptown Girl」は富裕層の女性と格差のある恋をしている男性を描いた曲だが、それを女性の視点で描いている。跳ね上がるようなポップなメロディーが聴いていて心地良い。歌詞はどことなく懐かしさを感じさせるもの。「工場裏の夕陽の空地」「宝島だった秘密の空地」というフレーズは特にそれを感じられる。この曲を聴いていて一番驚いたのが「家族に会うのはいやだとあの日も近所で私を降ろした ついてはゆけない私は ミラーに泣きながら小さくなった」という2番の歌詞。彼氏の車のミラーに映る「私」の姿が、車が走るにつれて遠ざかっていく光景を描いているのだろう。ユーミンの繊細な心理描写には圧倒される。この曲は大好きな曲なのでつい文が長くなってしまった。


「BLIZZARD」はユーミンのウインターソングの代表曲。1987年に映画『私をスキーに連れてって』の挿入歌に起用されて一躍人気曲に。1996年には三菱自動車の「Catch The Winter」のキャンペーンCMソングに起用された。著名な曲の割にシングル化されていないのが意外である。ポップな曲に乗るファンキーなサウンドが非常に格好良い。世界的ベーシストのルイス・ジョンソンによるベースや、ギターのカッティング、ホーンが前面に出たブラックミュージック色の強いサウンド。ついついベースラインに合わせて指を動かしてしまうことだろう。スリリングなシンセのフレーズも素晴らしい。歌詞はスキーの情景を描いたもの。スキー場で今でもよく流れているのも頷けるような繊細な描写がされている。ドラマチックな歌詞にファンキーなサウンド。どれを取っても名曲のそれ。



「一緒に暮らそう」は多幸感のあるポップなラブソング。サウンドはキーボードが終始前面に出ている。歌詞はウィンターセールに湧く街を描いている。一緒に暮らすことを決めた恋人たちが主人公。「長いこと探したの 今やっと会えたの ふりしきる粉雪も祝福してる」という歌詞が印象的。同じウインターソングである「BLIZZARD」からのこの曲への繋がりは、歌詞のストーリーも繋がっているのかと妄想したくなってしまう。ここまでの派手な曲の流れからすると幾分か地味に感じられるが、この曲もかなり良い。ウインターソングとしてもう少し取り上げられても良いと思うのだが…


「破れた恋の繕し方教えます」はシンセサウンドが多用されたポップな曲。今聴くと何とも時代性を感じさせる古臭いサウンドである。電話の着信音のようなサウンドがインパクト抜群。当時の空気すらどことなく伝わってくるようだ。そこに混じる生音のベースは異様に格好良い。この曲でもルイス・ジョンソンが参加している。歌詞はタイトル通り、離れかけた恋人の心を取り戻す策を教えている。しかし、その方法が恐ろしい。「バケツに月を映して 指でまぜながら呪文唱える」「彼が脱ぎ捨てたシャツを100回きざんで媚薬をかける」というもの。「アブラカタブラ」というフレーズがあることからもまるで魔女のようである。 この流れからするとかなり浮いて感じられるが、割とクセになる。



「午前4時の電話」は青春時代を思い出させるようなラブソング。サウンドはシンセが前面に出ている。歌詞は午前4時に電話をかけてくる恋人への感情を綴ったものになっている。それを迷惑がってはいるが本当は嬉しい。今で言うツンデレそのもの。「優しいことが 残酷になる どうぞ悪く思わないで きっと愛しているの」という歌詞が印象的。一つの恋愛映画を観ているかのようなドラマチックな世界観を持った曲である。



「木枯らしのダイアリー」はAORテイストの強い曲。流れていくようにゆったりとしたメロディーが心地良い。サウンドはシンセとギターが前面に出ている。この曲も冬を舞台にした曲である。失恋してから初めての冬を迎えた女性を描いている。しかし、今でも元の恋人のことが好きなようだ。「ねえ 元気でいるの 変わってゆくの 悲しくて すすめなくなるの」というサビの歌詞が印象的。未練がましい感じがたまらない。聴く度に良いと思えるような曲だろう。


「SHANGRILAをめざせ」は迫力のあるサウンドが展開された曲。後にユーミンが行った超大型ライブ「YUMING SPECTACLE SHANGRILA」のテーマソングに起用された。シンセやストリングスが前面に出た壮大なサウンド。タイトル通りユートピア探求をテーマにした歌詞。「私といっしょにみつけよう 伝説の国 Shangrila」という歌詞が印象的。ユーミンのギリギリな高音が特徴的。ミュージカルや舞台にでも使われそうな曲である。聴いているだけでワクワクしてくる。



「〜ノーサイド・夏〜空耳のホイッスル」は今作のラストを飾る曲。1985年に富士フイルムの「ビデオテープスーパーHG HiFi」のCMソングに起用された。タイトル通り「ノーサイド」の続編と言った感じの曲になっている。少年が老人になる姿が描かれているが、「青春の日々はどれだけ掛け替えのないものなのか」ということを表現したようだ。今作を美しく締めている。タイトル曲のリプライズで終えるのではなく、続編で締めるというのが新鮮だった。


ヒット作なので中古屋ではそこそこ見かける。リマスター盤はあまり出回っていないので新品やレンタルを当たるのが良いだろう。「ノーサイド」「DOWNTOWN BOY」「BLIZZARD」と一般リスナーからの知名度もある曲が並んでいるのでライトリスナーでも聴きやすい作品だと思う。今作以降顕著に見られる、今となっては古臭いシンセサウンドが展開されている。とはいえ後の作品ほど前面に出ているわけではなく、基本的には生音志向。そのため、そこまで時代性を感じさせるような作品ではない。 安定感のある作品だろう。

★★★★☆