スピッツ
2005-01-12


【収録曲】
全曲作詞作曲 草野正宗
全曲編曲       スピッツ&亀田誠治
プロデュース  スピッツ&亀田誠治

1.春の歌 ★★★★★

2.ありふれた人生 ★★★☆☆
3.甘ったれクリーチャー ★★★★★
4.優しくなりたいな ★★★☆☆

5.ナンプラー日和 ★★★★☆
6.正夢 ★★★★☆
7.ほのほ ★★★★★

8.ワタリ ★★★★☆
9.恋のはじまり ★★★★☆

10.自転車 ★★★☆☆
11.テイタム・オニール ★★★★☆
12.会いに行くよ ★★★☆☆
13.みそか ★★★★★


2005年1月12日発売
2008年12月17日発売(SHM-CD)
ユニバーサルミュージック
最高位1位 売上36.0万枚


スピッツの11thアルバム。先行シングル「正夢」を収録。今作発売後に「春の歌」が新曲「テクテク」との両A面シングルという形でシングルカットされた。前作「三日月ロック」からはスペシャルアルバム「色色衣」を挟んで2年4ヶ月振りのリリースとなった。初回盤はブックレットの素材が違う。


今作は前作「三日月ロック」に引き続き亀田誠治との共同プロデュース。そこから現在に至るまで亀田誠治との共同プロデュースで製作され続けている。プロデューサーが変わらなかったため、作風はそこまで変わりない。


前作のツアーで弾き語りを披露したが、その経験を通して「もし自分が一人で街中でストリートをやったら誰が聞いてくれるんだろう」と考えるようになり、伝わりやすいストレートな歌詞を重視するようになったという。そこは大きな変化と言える。


今作はレコーディングエンジニアに高山徹が参加している。くるりやCorneliusのアルバムを聴いたメンバーの希望で選ばれたようだ。シングル「夢追い虫」以来の参加となる。高山徹の癖なのかメンバーの意向なのかは分からないが、いつになく派手な音作りがされている。それが今作最大の特徴だろう。


「春の歌」は今作発売後にシングルカットされた曲。アクエリアスのCMソングに起用されたことがきっかけでシングルカットされることとなった。2014年にはロッテの「ガーナチョコレート」のCMソングに起用された。アクエリアスのCMは一年中放送されていたので季節関係無く「春の歌」と聞こえてくる現象が起こったようだ。ストレートで爽やかなポップロックナンバー。サビもキャッチーそのもの。歌詞も曲調の通りポジティブなメッセージが綴られている。長い冬が終わって春が始まるような感覚である。「「どうでもいい」とか そんな言葉で汚れた心 今放て」という歌詞が印象的。オープニングにふさわしく、リスナーをアルバムの中に引き込んでいくような曲である。タイアップがついたのも納得。



「ありふれた人生」は壮大な曲調が展開された曲。ストリングスやピアノが導入されている曲の一つ。バンドサウンドと比べてもかなり前面に出ている。壮大ではあるが美しいメロディーは絶品そのもの。歌詞はスピッツにしては珍しい程に直球な愛の言葉が並べられている。「あぁ 心がしおれそう 会いたい もう待てない」というサビの歌詞が印象的。草野が今作で意識したという「分かりやすい歌詞」という考えを象徴するような曲と言える。



「甘ったれクリーチャー」は重厚なロックナンバー。「あまったれ」のフレーズは今作に連動したライブのタイトルとしても使用された。ダサいようでいて少し格好良い素敵なタイトルだと思う。ヘビーなバンドサウンドが前面に出ている。どこを取っても格好良いが、特に間奏のドラムはたまらない。歌詞はどこか変態な感じのもの。「甘えたい 君の手で もみくちゃに乱されて 新しい生き物になりたい」という歌詞が印象的。爽やかなメロディーに力強いバンドサウンド、変態な世界観。このような曲こそスピッツの王道と言える。



「優しくなりたいな」はピアノ主体のしっとりとした曲。ありそうで意外と無かった曲調。バンドサウンドはほとんど無く、ピアノとボーカルがメイン。美しいサウンドとボーカルはまさに耳の保養である。歌詞はこれまた直球なラブソング。「君のことを知りたい どんな小さなことも 真昼に浮かぶ僕を 桜色に染め上げて」という歌詞が印象的。このような曲を作れる以上は十分すぎるほど優しいと思うのだが…



「ナンプラー日和」は沖縄民謡テイストの曲。スピッツにとってはかなり異色なアプローチがされている。三線が使用されており、Aメロは琉球音階を用いているという。三線とバンドサウンドが絡むという不思議な感覚を楽しめる。歌詞は比較的メッセージ性の強いものになっている。「愛しいあの娘の笑顔で 楽しい時間になりそうさ イジメだらけの世界でも どこかに光があるもんだ」というラストの歌詞が印象的。異色な曲調なので合わないと思うかもしれないが、スピッツの楽曲としてしっかりまとまっている上にアルバムの流れから浮いていない。意外とクセになる曲である。


「正夢」は先行シングル曲。フジテレビ系ドラマ『めだか』の主題歌や富士フイルムの企業CMソングに起用された。開放感のあるサビと美しいメロディーが心地良いミディアムナンバー。ストリングスが使用されているが、バンドサウンドと同じくらい目立っている。歌詞は応援歌のようなアプローチがされている。「小さな幸せ つなぎあわせよう」というフレーズが印象的。2番では「愛は必ず 最後に勝つだろう」という歌詞があるが、これは草野の出身高校の先輩であるKANの「愛は勝つ」から拝借したもの。この曲の シングルのスペシャルサンクスにはKANの名前が掲載されている。パクリ疑惑を解消するための対策として素晴らしいことだと思う。



「ほのほ」は爽やかなポップロックナンバー。後にアニメ『ハチミツとクローバー』の挿入歌として使用された。元々は今作のタイトル候補だったとか。タイトルは「炎」の旧字体である。そのまま読むのか「ほのお」と読むかは不明。管理人はそのまま読む派である。力強いバンドサウンドに爽やかなメロディーが展開されている。歌詞は恋人への決意表明のような感じ。「今君だけのために 赤い火になる 君を暖めたい」というサビの歌詞が印象的。何ともドラマチックな歌詞である。シングルにしていても違和感の無いような曲になっていると思う。今作のアルバム曲の中では一番気に入っている。



「ワタリ」はテンポの速いロックナンバー。終始テンポが速く、あっという間に終わってしまう感覚がある。歌詞は力強いメッセージが込められたものになっている。「誰のせいでもねえ すべて俺のせい マジメ過ぎただけ 君が見た夢」という歌詞が印象的。口調もどこか荒い感じ。今作リリースの時点で既に中堅〜ベテランにさしかかっているが、デビューしたての若手バンドのような勢いの良さがある。衰え知らずで発展し続けるスピッツの姿を物語っているようである。



「恋のはじまり」はミディアムテンポのポップな曲。今作からレコーディングが始まったという。バンドサウンドの他にもエレピやオルガンが使われている。歌詞はタイトル通り恋の始まりについて描いたもの。「思い出せないのは君だけ 君の声 目の感じ 思い出したいのは君だけ ぼやけた優しい光」という歌詞が印象的。ピュアな恋心が綴られた歌詞になっている。管理人は割と好きなのだが、何となく地味な印象が否めない。シングルのC/W曲辺りの位置だったらもっと評価されていたかもしれない。



「自転車」はレゲエテイストの曲。これまた新機軸のアレンジがされた曲である。曲のアイデア自体はもっと前からあったらしい。曲は丁度3分くらいとかなり短い。歌詞は自転車で恋人の地元へ行こうとする男を描いている。「望まないことばかり 起こるこの頃 ペダル重たいきれど ピークをめざす」という歌詞が印象的。レゲエが意外とスピッツの曲と合っているのには驚いた。たまにはこのような攻めた曲があっても面白いと思う。



「テイタム・オニール」はひねくれたメロディーが展開されたポップな曲。タイトルは女優のテータム・オニールから取られている。昔好きだったのだろうか?歌詞は何を考えているか分からない女性に恋する男を描いている。「名もない変化球 意地でも打ち返そう」というフレーズが印象的。野球を用いて表現されているが、テータム・オニールがかつて出演した『がんばれ!ベアーズ』の影響を受けているのかもしれない。タイトルや独特な曲調から、割とインパクトが強い曲である。



「会いに行くよ」はしっとりと聴かせるバラードナンバー。サウンドはアコギが主体となったシンプルなもの。ストリングスが導入されている。バンドサウンドを覆うような勢いで目立っている。歌詞は恋人へのメッセージのようになっている。「会いに行くよ 全てを捨てるバカになれる」と力強く歌い上げるサビが印象的。この曲の中の恋人達はどれだけ離れた存在なのだろうか?そこだけが気になる。



「みそか」は今作のラストを飾る曲。2006年にアクエリアスのCMソングに起用された。パンクテイストの強い激しい曲調である。疾走感に溢れている。歌詞は力強いメッセージが語られたものになっている。後半のサビの連発は一気に気持ちが高ぶる。何故「みそか」というタイトルなのかは分からないが、不思議と大晦日に聴きたくなる。この曲をラストに据えたことで、たっぷりと余韻を残してアルバムを終えている。その余韻がクセになる。もう一度聴きたくなることだろう。


ヒット作なので中古屋ではそこそこ見かける。スピッツの王道的な路線のアルバムではあるが、所々に新機軸のアレンジを導入している。亀田誠治の影響を受けたのか、派手にストリングスを入れている曲もある。今作と他のアルバムとの最大の違いは音圧の強さ。割と攻めた感じの派手な音圧になっている。曲自体は全体的に良いのだが、そのせいか通して聴くと中々疲れてしまう。管理人の中では、好きではあるが上位にくるかと言ったらそうでもないという何とも言えない立場のアルバムになっている。一曲単位のキレで言うとかなり上位に入ってくる。


★★★★☆