高野寛
2004-01-15


【収録曲】
全曲作詞作曲編曲 高野寛
1.2.3.additional words BIKKE 
7.作詞作曲 Donovan P.Leitch
プロデュース        高野寛

1.確かな光 ★★★★★

2.1.2.3.4.5.6.7 days ★★★★☆
3.Ripe of Green ★★★★☆
4.忘却 ★★★☆☆
5.歓びの歌(サン・セバスチャンの思い出) ★★★★☆
6.hibiki ★★★★★
7.Sunshine Superman ★★★★☆
8.声は言葉にならない ★★★★☆

9.Sunburst 省略
10.Beautiful ★★★★★

11.美しい星 ★★★★★


2004年1月15日発売
Five Stars
最高位141位 売上不明


高野寛の10thアルバム。先行シングルは無し。前作「tide」からは約4年8ヶ月振りのリリースとなった。

前作リリース以降は高野寛、TOKYO No.1 SOUL SETのBIKKE、アンダーカレントの斉藤哲也の3人でバンド・Nathalie Wise(ナタリー ワイズ)を結成し、そこで活動していた。ナタリー・ワイズでの活動がメインだったためか、ソロ活動はしばらく休止していた。そのため、今作は久し振りのソロ活動再開作品である。


前作「tide」はアコースティックな作風が展開されていたが、今作もシンプルな作風となっている。前作と同じようなシンプルな路線がメインだが、エレクトロニカの要素も加えられている。



「確かな光」は今作のオープニングを飾るタイトル曲。今作と同年にリリースされたベスト盤「相変わらずさ」にも収録された。アコギとピアノが全面に出た、シンプルなサウンドが展開されている。ストリングスも使用されている。歌詞は1日の始まりを描いたもの。タイトルは朝日のことだろう。「ただ 君のこと 願うたび嬉しい それだけでまた今日も 一日の勇気がわくのさ」という歌詞が印象的。ささやくように優しい高野寛の歌声もこの曲の世界観を彩っている。このような曲なので、1日の始まりに聴くと凄く気分が良くなる。何でもない曲のようでいて、とても深遠な世界観を持っている曲という印象。日常の素晴らしさに気付かせてくれるようである。



「1.2.3.4.5.6.7 days」はフォーク色の強い曲。アコギとストリングスが前面に出た静かなサウンド。コーラスワークが凝っているのが特徴。タイトルだけ見ると分からないが、歌詞を見るとバースデーソングだと分かる。「別れた日々の数だけ 君はきっと強くなる そんなもんさ そんなもんさ」という歌詞が印象的。優しい雰囲気に包まれたような曲である。今作の作風を象徴している曲と言える。



「Ripe of Green」はここまでの流れを変えるようなポップな曲。アコギや打ち込みが前面に出たサウンドが展開されている。この曲でもストリングスが使用されている。清涼感溢れるアコギの音色が聴いていて心地良い。エレクトロニカ的なアプローチがされているのが特徴。歌詞は恋人の別れを描いたもの。「軽く頬を撫でた 日差しはまた 次の気配ほのめかして そして 風がのどを通り過ぎた 愛が恋を溶かしながら」という歌詞が印象的。涼しげなサウンドは心を癒してくれるようである。



「忘却」は浮遊感のある曲調が展開された曲。アコギと打ち込みが前面に出ている。聴いていると体の力が抜けていくような感覚がある。歌詞は気だるい夏の午後を描いたもの。「うたたねして時を忘れて 悪い汗をかいて目覚めて あれが夢でよかった それだけで ここに今生きてる それだけで」という歌詞が印象的。この曲を聴きながら昼寝すると気持ちが良いかもしれない。



「歓びの歌(サン・セバスチャンの思い出)」はポジティブな詞世界が展開された曲。1分と少しという長いイントロが特徴的。鐘の音や鳥のさえずりが使われている。「field recording」とあるので実際にどこかに出向いて録ったものなのだろう。演奏は高野寛単独で行われている。歌詞は日常の風景を描いたもの。「読みかけの本をふせたまま 久し振りに散歩をしようと 土臭い風が吹いてきて 初めての道に誘い出す」という歌詞が印象的。生きているということへの「歓び」に溢れている曲である。



「hibiki」はアコースティックなサウンドが展開されたポップナンバー。今作と同年にリリースされたベスト盤「相変わらずさ」に収録された。一聴すると地味な曲に感じられるが、サビは割とキャッチー。歌詞はメッセージ性の強いもの。「口ずさめばそれだけで 救われるから だから今日も歌うのさ 忘れないように いつまでもいつまでも 終わらないメロディー」という歌詞が印象的。高野寛らしい、普遍性を持ったポップスに仕上がっている。地味なようでいて何度も聴きたくなるようなキャッチーさも持っている。ポップス職人・高野寛の実力がうかがい知れる。



「Sunshine Superman」はドノヴァンの楽曲のカバー。サウンドはバンドサウンドだけでなく、打ち込みも多用されている。打ち込みも絶妙なバランス感覚でしっかり溶け込んでいるのは高野寛らしさを感じさせる。フォークロック色の強い原曲とは大幅に印象が変わっている。メロディーの美しさが印象的な曲なので、今作でカバーしたのは正解だと思う。


「声は言葉にならない」は浮遊感溢れるサウンドが展開された曲。コーラスには宮沢和史が参加した。この曲も全ての演奏を高野寛単独で行っている。エレクトロニカとロックを混ぜたような異色な曲調。歌詞はタイトル通りのことが語られている。「あれじゃなくて それじゃなくて そうじゃなくて そんなんじゃなくて 本当はもっと 本当はもっと 伝えたくて 伝えたくて」というサビの歌詞が印象的。まくしたてるようなボーカルは今までに見られなかったもの。言葉にしようのないことが多いためか、この曲の歌詞はかなり共感できる。



「Sunburst」はインスト曲。インストではあるが今作と同年にリリースされたベスト盤「相変わらずさ」に収録されており、待遇が良い。スキャットで歌われているので完全に音だけというわけではない。アルバムの流れの調整としては良いと思う。


「Beautiful」は爽やかなポップナンバー。サウンドは打ち込みとエレピが前面に出ている。今作の中では最もボーカルに力が入っているような印象。高野寛ならではの美しいメロディーに乗る静謐なサウンドは心を少しずつ浄化してくれるようである。広がりのあるサビのメロディーは特に素晴らしい。歌詞はストレートな愛の言葉が語られている。「ここに来るまでのことは 何もかも忘れてしまったよ 君といる今日の空が青すぎて永すぎて 溶けそうに淡いから」という歌詞が印象的。アルバムの後半に一番盛り上がる曲を入れてきた。それは好采配だと思う。



「美しい星」は今作のラストを飾る曲。サウンドはアコギとピアノが前面に出ている。壮大な世界観を持った曲である。歌詞は亡くなった大切な人へのメッセージのようになっている。「遠い星になった彼は今夜あたり何をしてる?」というフレーズがインパクト抜群。歌詞全体としては、生きていることへの感謝が語られている。静かではあるが圧倒的な力強さを感じさせる曲である。ラストならではの存在感がある曲。



中古屋ではたまに見かける程度。前作「tide」で見られたアコースティックな作風がさらに極まっている。今作は高野寛の歌声と美しいメロディーを楽しむ作品であると言える。良さが分かるようになるまでは時間がかかるかもしれない。ハマる前は聴いていると眠くなることだろう。ハマると段々心に沁みてくるような曲が多いのが特徴。J-POPとは一線を画したような世界観の作品であり、高野寛の新たな音楽性を見られる名盤である。


★★★★★