岡村靖幸
2012-02-15


【収録曲】
全曲作詞作曲 岡村靖幸
3.作詞 神沢礼江
全曲編曲       岡村靖幸・西平彰
プロデュース  小坂洋二・小林和之

1.Out of Blue ★★★★☆

2.Young oh! oh! ★★★★☆
3.冷たくされても ★★★☆☆
4.Check Out Love ★★★★★
5.はじめて ★★★★☆
6.Water Bed ★★★☆☆

7.RAIN ★★★★★
8.彼女はScience Teacher ★★★☆☆

9.White courage ★★★★☆


1987年3月21日発売
1991年9月30日再発
2012年2月15日再発(リマスター、Blu-Spec CD)
EPICソニー
最高位、売上不明


岡村靖幸の1stアルバム。先行シングル「Out of Blue」「Check Out Love」を収録。今作発売後に「Young oh! oh!」がシングルカットされた。2012年再発盤の初回盤は紙ジャケ、ピクチャーレーベル仕様。


岡村靖幸は1985年、19歳で作曲家として音楽界入りを果たした。渡辺美里、吉川晃司、鈴木雅之らに楽曲提供していた。特に渡辺美里は多くの楽曲を提供しており、1stアルバム「eyes」や2ndアルバム「Lovin' you」には岡村が提供した曲が多く収録されている。


デビューのきっかけは渡辺美里のレコーディング中にあった。コーラスで参加していた時、空き時間にダンスを踊っていたところプロデューサーに「輝いてる」と見初められたことだった。それがシンガーとしてのデビューに繋がることとなった。


岡村は自身のデビューが決まった後、作曲は自分で行い、作詞は外部に依頼しようと考えていたようだ。ただ、他人の書いた歌詞を乗せて歌ってみても違和感があったようで、「だったら、いっそ歌詞も自分で書いちゃおう」と考え、岡村自ら作詞を手がけるようになったという。
後に岡村靖幸は他の追随を許さない圧倒的な詞世界を展開するようになるが、元々は自分で作詞する考えは無かったようだ。もし他者の歌詞に違和感を覚えていなかったら、岡村靖幸の大きな魅力である詞世界を楽しめなかったと思うと恐ろしい話である。



「Out of Blue」は岡村靖幸のデビューシングル曲。サウンドは焦燥感を煽るようなアコギのカッティングが前面に出ている。近年のライブでもラストに演奏することが多く、岡村靖幸自身この曲を重要視しているようだ。歌詞はどこか影を感じさせるものになっている。内省的な要素を持っている。「痛みかかえて闇を越えてゆく」というサビ終わりのフレーズが顕著。日本語と英語をごちゃ混ぜにした歌詞はこの頃から展開されている。しかし、どこかスカした雰囲気が出ている感じ。曲調やサウンドはデビュー曲というには成熟され過ぎている印象。後の岡村靖幸の曲を聴いた後にこの曲を聴くと幾分か地味な印象だが、これはこれで格好良い。


「Young oh! oh!」は今作発売後にシングルカットされた曲。ファンク色の強いダンスナンバー。イントロから相当にノリが良い。終始そのノリのままに聴かせてしまう。曲の終盤に急にテンポが速くなる不思議な構成。サウンドはシンセが前面に出ている。歌詞は英語が多用されている。サビの「I was just」と「愛はジャスト」で韻を踏んでいる辺りは岡村靖幸ならでは。シングルカットされたのも頷けるくらい明るい曲である。タイトル通り若さが溢れている。



「冷たくされても」はシンセが多用されたポップナンバー。岡村靖幸のキャリアを通しても数少ない、本人が作詞に関与していない曲。サウンドは古臭いシンセの音が前面に出ており、何とも時代性を感じさせる。サビまでは淡々と進んでいくが、サビは割とキャッチー。歌詞は彼女に浮気された青年を描いたもの。「嘘で飾りきれる愛が きみのすべてだろう ぼくを 見つめるなよ 窓に石を投げて きみを忘れてやるさ」という歌詞が印象的。サウンドに時代性を感じさせるが、曲自体はそこそこ好き。



「Check Out Love」は先行シングル曲。クールで都会的な雰囲気を持ったサウンドが展開されている。AOR色が強い。ギターのカッティングが前面に出ている。歌詞は気になっている女の子へのメッセージのようになっている。「友情なんか、僕は欲しくない newton なんかの言葉じゃ、Baby だまされない 本当だぜ」というサビの歌詞がインパクト抜群。突然ニュートンの名前を出してくる辺りは凄い。韻を踏むためだろうが、岡村靖幸の言語センスには驚くばかりである。クールなサウンドとキャッチーなサビを併せ持っている。「早熟」に収録されなかったのが残念。もう少し評価されても良いように思う。


「はじめて」はしっとりと聴かせるバラードナンバー。イントロ無しで曲が始まる。サウンドはほぼピアノ一本。岡村靖幸の憂いを帯びたボーカルは絶品。珍しくクセは控えめである。歌詞ははじめての恋に落ちた少年の心が描かれたもの。純情さを感じ取れるような詞になっている。何故か歌のパートが短く、3分57秒ある曲のうち1分50秒くらいまでしかない。後はストリングスが入ってきて、ストリングスの演奏だけで終わる。凄く勿体無い。もう少し歌の部分が多かったら初期の岡村靖幸屈指の名バラードになり得たと思う。



「Water Bed」はゆったりとしたファンクナンバー。歪んだギターサウンドが前面に出ている。岡村靖幸の粘っこいボーカルが際立っている。歌詞は後の岡村靖幸を彷彿とさせる変態的な世界観を持ったもの。この曲は語りの部分があるのが特徴。「ねえ 一番大事なコトって何か知ってる また いろいろあるんだけどさぁ リアリティ」というセリフはインパクト抜群。聴いているとつい笑ってしまう。他にも、デタラメ英語が登場している。この曲がフィーチャーされることはほとんど無いが、岡村靖幸の変態的な世界観の原点と言える曲だろう。


「RAIN」はロック色の強い曲。「これ本当に岡村靖幸の曲か?」と疑いたくなるような異色な曲調とサウンド。イントロには壮大なストリングスが入り、その後はヘビーなバンドサウンドとホーンが曲を牽引する。サウンドだけ聴いていたらゲームでラスボスと戦っているかのよう。格闘家の入場曲で使われていても違和感が無いだろう。この曲のようなサウンドは後にも先にも見られない。歌詞は雨の日を舞台にしている。この曲もまた内省的な詞世界である。「君は僕を求めているね 僕が君を求めているように 何が僕にできるのだろう 何が僕に言えるのだろう」という歌詞が印象的。何よりもサウンドのインパクトが凄過ぎる。他の曲が一瞬で霞む。



「彼女はScience Teacher」は先行シングル「Check Out Love」のC/W曲。ノリの良いダンスナンバー。キレの良いギターサウンドが前面に出ている。疾走感溢れるメロディーが展開されている、歌詞はタイトル通り彼女について語られたもの。「彼女は Science Teacher 愛の研究が 彼女の仕事さ」というフレーズが印象的。正直歌詞にはほぼ意味は無い。しかし、ノリだけで聴かせてしまう感じがたまらない。今の岡村靖幸が歌っても十分通用すると思う。



「White courage」は今作のラストを飾る曲。ピアノとアコギが前面に出た、しっとりとしたバラード。曲に表情をつけるような岡村靖幸のボーカルが素晴らしい。終始ゆったりとしたメロディーではあるが、それでもどんどん引き込まれる。この曲もまた内省的な雰囲気を持っている。「あと きみの夜汽車まで もうすぐ けれど心の中は とても遠い」という歌詞が印象的。あまり語られることはないが、佳作バラードの一つだと思う。


あまり売れた作品というわけではないが、中古屋ではそこそこ見かける。現在ではリマスター盤が出回っているのでそちらを聴くことをおすすめする。全曲の編曲を西平彰と共同で行なっているためか、次作以降見られる岡村靖幸独自のサウンドはあまり見られない。今作はシンセをふんだんに用いたポップロックがメイン。濃厚なファンクは次作以降楽しめる。詞世界についても後の「変態」「意味不明」と思うようなアクの強いものはほぼ無い。
今作は岡村靖幸の楽曲の世界観が完成されるまでの過程を描いた作品と言えるかもしれない。今作最大の魅力は1stならではの荒削りだったり、未完成だったりする要素だろう。

★★★☆☆