Mr.Children
2010-12-01


【収録曲】
全曲作詞作曲 桜井和寿
全曲編曲       小林武史&Mr.Children
プロデュース  小林武史

1.I ★★★★☆

2.擬態 ★★★★★
3.HOWL ★★★☆☆

4.I'm talking about Lovin' ★★★★☆
5.365日 ★★★☆☆
6.ロックンロールは生きている ★★★★☆

7.ロザリータ ★★☆☆☆
8.蒼 ★★☆☆☆
9.fanfare ★★★★★
10.ハル ★★★☆☆
11.Prelude ★★★★★
12.Forever ★★★☆☆


2010年12月1日発売
トイズファクトリー
最高位1位 売上78.4万枚


Mr.Childrenの16thアルバム。配信限定による先行シングル「fanfare」を収録。前作「SUPERMARKET FANTASY」からは約2年振りのリリースとなった。


前作以降CDによるリリースが一切無かったため、今作は全曲が初CD化となるアルバムである。唯一の先行シングルである「fanfare」も配信限定だった。全曲が初CD化となるのはデビューアルバム「EVERYTHING」以来。

今作は独特なプロモーションが行われた。発売日以外は収録内容のみならず、タイトルすら明かされなかった。一部の収録曲はCMで使われていたり、ライブで披露されていたりしたものの、発売前にそれを正式に明かすことはなかった。テレビ番組への出演だけでなく、雑誌等でのインタビューにも応じなかった。今作についての詳細な情報は発売直前の2010年11月29日になってようやく明かされることとなった。

このようなプロモーションを展開したためか、数作連続で続いていたミリオン記録は遂に途切れてしまったが、初動と2週目の売上だけで年間5位に滑り込んでいる。



「I」は今作のオープニング曲。曲は暗めのアコギの音色から始まるが、サビで一気に解放されたように激しいバンドサウンドが入ってくる。歌詞は内省的な雰囲気を持っている。「I」というタイトルからも察しがつくが、自分を卑下したような内容である。「自分が一番可愛い? ほら当たってるでしょう!? でもそれを責めたり 誰ができるの?」という歌詞が印象的。全編通して人間の真理を突いたような刺々しい歌詞が並んでいる。「深海」や「BOLERO」の頃のような詞である。ダークなテイストを持った曲だが、ミスチルはこれくらいの毒を持っていないとつまらない。この曲をオープニングに置いてきた辺りに、ミスチルの攻めた姿を感じさせる。


「擬態」は今作のリード曲。後にベスト「Mr.Children 2005-2010 <macro>」に収録された。今作発売直前の11月29日からラジオでオンエアされていた。元々はSalyuに提供する予定だったという曲だが、桜井和寿が「提供するにはもったいない」と考えてミスチルの曲となった。爽快なポップロックナンバーである。バンドサウンドがしっかり主張しており、その裏をピアノが支えている。そのような曲調やサウンドに反して歌詞はダークな雰囲気を持っているもの。「富を得た者はそうでない者より満たされてるって思ってるの!? 障害を持つ者はそうでない者より不自由だって誰が決めんの!?」という歌詞が印象的。この世を生きていくためには、あらゆるものが何かに「擬態」しているのではないかと考えられる「センス」が必要なのだろう。



「HOWL」は爽やかなポップロックナンバー。曲は桜井の雄叫びから始まる。サウンドはピアノが前面に出ている。バンドサウンドも主張しているが、それと同じくらいピアノが主張している。歌詞はポジティブなメッセージが並べられたものになっている。「夢見なくちゃつまんねぇ 淡々と死んでいきたくはない」という歌詞が印象的。サウンドや歌詞が一体となって突き抜けていくような明るさを持っている。聴くだけで何かを頑張ろうと思う気力が貰えるだろう。



「I'm talking about Lovin'」はここまでの流れを落ち着けるようなポップな曲。初期を彷彿とさせる温かみのあるメロディーやサウンドが展開されている。サウンドはピアノや装飾音が前面に出ている。歌詞は片想いしている男の気持ちが描かれたもの。「Friendじゃ辛いけど The ENDになるくらいなら慌てなくていいや。。。」という歌詞が印象的。このような歌詞のテーマが出てくるのは久し振りだと思う。今作リリースの時点でミスチルはベテランに差し掛かっていたが、この曲のような若々しさ溢れる曲を作れるのは流石と言ったところ。


「365日」は王道のバラードナンバー。後にベスト「Mr.Children 2005-2010 <macro>」に収録された。今作発売前の2009年からNTT東日本・NTT西日本のCMソングに起用されていたものの、今作まで音源化されることはなかった。サウンドはピアノが前面に出ている。サビは割とキャッチー。歌詞はストレートなラブソング。「聞こえてくる 流れてくる 君を巡る 想いのすべてよ どうか君に届け」という歌詞が印象的。この曲だけ聴いていたら名曲だと感じたかもしれないが、いかんせん似たようなサウンドの曲が多過ぎる。最早テンプレと化したバラードである。そのため、評価は低めになっている。 一回聴いたらお腹いっぱいになってしまう印象がある。


「ロックンロールは生きている」はデジタルサウンドが取り入れられたロックナンバー。今作発売に先駆けてラジオ限定でオンエアされていたほか、CMでも少しだけ使用されていた。今作のリード曲の一つと言っていいだろう。疾走感のあるメロディーが聴いていてとても気持ち良い。激しいギターサウンドが展開される間奏は聴きどころの一つ。歌詞はタイトル通り「ロックンロールは生きている」と高らかに宣言するもの。「削り取られて 切り捨てられて 安売りされたあげく価値落として 首を傾げて 異議を唱えてもこれが現実と押さえ込まれた」という歌詞が印象的。近年のミスチルにはあまり見られなかったアクの強いロックナンバーなので、聴いていてとても爽快。



「ロザリータ」はしっとりと聴かせるバラードナンバー。2010年4月に行われたファンクラブ会員限定ライブで一度だけ演奏されていた曲。サウンドはピアノとストリングスが前面に出ており、ここまでの流れをぐっと落ち着けてくる感じ。歌詞は別れた恋人のことを思い出している男を描いたもの。「もう全てのデータを捨てたはずなのに どこかで君からの言葉を期待して過ごしている」という歌詞が印象的。曲全体を通してどこか気だるい雰囲気を持っており、その気だるさに引き込まれる。


「蒼」は前の曲と同じくしっとりとしたバラードナンバー。ピアノとアコギが前面に出た、極めてシンプルなサウンドが展開されている。ベースやドラムは登場しない。間奏には口笛が使われている。なんとも言えない哀愁が漂っている。歌詞は自分の身の丈を知らされて、もがこうとしている男の心情が描かれている。「自分では精一杯してるつもり でも動かないものばかりで 揺らめく陽炎に憧れ 目で追う 触れないと知っていても」という歌詞が印象的。前の曲に引き続いてかなりシンプルな曲なので、正直なところあまり印象に残っていない。


「fanfare」は配信限定による先行シングル曲。映画『ONE PIECE FILM STRONG WORLD』の主題歌に起用された。ONE PIECEシリーズの作者の尾田栄一郎がミスチルのファンであり、その縁で書き下ろされたという。6分越えの比較的長めなポップロックナンバー。サウンドはギターが前面に出ており、終始突き抜けるようなハイテンションな曲調。バンドサウンドだけでなく、ピアノやストリングスやホーンと言った装飾音も一体になって曲を盛り上げている。聴いていて「あまり無理するなよ」と言いたくなるくらいの高音で歌っているところがある。しかし、そのボーカルがこの曲の力強さを演出している。歌詞はポジティブなメッセージが語られたものになっている。圧倒的な力強さを持った曲であり、聴いていると心の中に眠っている闘志が湧いてくるような感覚になる。


「ハル」は落ち着いた曲調が展開されたバラードナンバー。どこか幻想的な雰囲気を持っている。サウンドはピアノとストリングスが前面に出ている。桜井のボーカルを聴かせるイメージのサウンド。歌詞は春の日を描いたもの。タイトルもそこから来ているのだろう。「春の風に 世界は素晴らしいなって少し思えた それを知らせるサインだったんじゃないかって考えたりもしてる 行き詰まってた日々に束の間のご褒美をくれる」というサビの歌詞が印象的。曲の中盤くらいから急に盛り上がっていく。かなり壮大な曲だが、「fanfare」の次だと凄く地味な曲に感じられる。



「Prelude」は壮大なポップロックナンバー。全7分近くに及ぶ大曲。サウンドはピアノとバンドサウンドのどちらも主張しているが、しっかりバランスが取れている。淡々とした感じで始まるが、曲が進むにつれてどんどん盛り上がっていく。歌詞は次の段階へと進む勇気をくれるようなポジティブなメッセージが並べられたもの。「光の射す方へ」「その向こうへ」と言った過去の曲を彷彿とさせるフレーズが登場するのが特徴。そのせいで解散説が一部で語られることとなってしまったようだ。壮大ながらもポップな曲、それも「Prelude」というタイトルの曲をアルバムの終わりに差し掛かる所に配置したセンスは凄い。普通だったらオープニングに配置するだろう。


「Forever」は今作のラストを飾る曲。ラストにふさわしい落ち着いた曲調のバラード。サウンドはピアノとアコギが前面に出ている。歌詞は別れた恋人へのメッセージのようになっているもの。随所で韻が踏まれているのが特徴。「どうすれば どうすれば 君のいない景色を当たり前と思えんだろう」という歌詞が印象的。ラスト以外に置き場所が無いと思うくらいストレートなバラードである。


ヒットしたので中古屋ではよく見かける。概ね一般リスナーが思うミスチルの楽曲像に応えたような作品である。前作はかなりポップな作風だったが、前作よりもロック色の強い曲が増えている。歌詞の内容も内省的な雰囲気を持ったものが多め。サウンド面では相変わらずピアノやストリングスが前面に出ている。次作ほどではないが。ピアノやストリングス→バンドサウンドと言った感じで優先度が逆転しつつある印象。一曲単位で聴くと良い曲が多いのだが、アルバム単位で聴くと印象に残りにくい。


★★★★☆