高野寛
2009-10-07

【収録曲】
全曲作詞作曲編曲 高野寛
6.作詞 高野寛、田中花乃
9.作曲 高野寛、忌野清志郎
12.15.編曲 亀田誠治
プロデュース        高野寛

1.Hummingbird 省略
2.LOV ★★★★★
3.道標(みちしるべ) ★★★★☆
4.Timeless ★★★★★
5.初恋プリズム ★★★★☆
6.each other ★★★☆☆
7.CHANGE ★★★☆☆
8.今日の僕らは ★★★★☆
9.小さな"YES" ★★★★☆
10.季節はずれの風吹く街で ★★★★☆
11.Winterlude 省略
12.PAIN ★★★★★ 
13.明日の空 ★★★★☆
14.あけぼの ★★★★☆
15.Black&White ★★★★★
16.虹の都へ(ver.09) ★★★★★

2009年10月7日発売
MILESTONE CROWDS
最高位103位 売上不明

高野寛の11thアルバム。先行シングル「LOV」「Black&White」を収録。前作「確かな光」からは約5年9ヶ月振りのリリースとなった。

今作は高野寛のデビュー20周年記念作である。リリース日は高野寛のデビューシングル「See You Again」がリリースされた日と同じで、デビュー20年記念日である。

21世紀に入ってからの高野寛は、音楽に対しての気持ちがかなり離れてしまっていたという。「僕がバンドだったら、たぶん活動停止か解散してたくらい」とのこと。しかし、新しい活動を模索しているうちに、シンガーソングライターとしての自らを客観視できるようになったようだ。

今作について高野寛は「"プロデューサー高野寛"が"アーティスト高野寛"をピカピカにした作品」と語っている。「第2のデビューアルバム」と位置付けているほど。今までの作品の中では最も歌詞に重点を置いて作られたようだ。高野寛と言えば打ち込みを多用したキラキラとしたポップスを作り上げてきたアーティストだが、今作ではシンセをほとんど使用していない。その分コーラスワークや音の壁を重視した音作りがされている。

今作のタイトルは「わかりやすくて深いもの」を表しているという。それでいて中身も表している。様々な色を持ったポップスを楽しめる今作にふさわしいタイトルだと思う。


「Humming Bird」は今作のオープニング曲。35秒程度の非常に短いインスト。少年少女による合唱とピアノが前面に出ている。優しい雰囲気に包まれたインストになっている。次の曲にはそのまま繋がっている。


「LOV」は先行シングル曲。実質的なオープニング曲と言える。今作の中で珍しく、キーボードが多用されたサウンドとなっている。ドラムとプログラミングで高橋幸宏が参加している。久々のソロ活動を再開にするにふさわしいエバーグリーンなポップス。とにかくポップでキャッチーなメロディーはベテランとなってもなお変わっていない。高野寛による多重コーラスがフィーチャーされており、爽やかな曲を築き上げている。歌詞はタイトル通り「LOVE」について描かれたもの。多幸感を感じさせる詞である。ポップス職人・高野寛の実力を再確認させられるような素晴らしいポップス。


「道標(みちしるべ)」はストリングスが多用されたポップナンバー。ストリングスの他にはアコギが前面に出ている。高野寛ならではの爽やかかつ力強いサウンドでしっかりと聴かせてくれる。この曲の特徴は歌詞。今作リリースの同年に亡くなった忌野清志郎への想いが語られた内容となっている。音楽性からはあまり想像がつかないが、高野寛は強い影響を受けたアーティストとして忌野清志郎を挙げており、コラボした曲も存在する。「君の声は僕の道標 だから今すぐに朝日の向こうへ走れ きっといつの日か また会えるから」という歌詞が印象的。忌野清志郎への隠しようのないリスペクト振りが伝わってくる曲になっていると思う。


「Timeless」は先行シングル「LOV」のC/W曲。バンドサウンドとストリングスの絡みが特徴的なポップロックナンバー。キレのあるギターのカッティングの音色が格好良い。あくまで落ち着いた曲調で力強く盛り上げている。歌詞は夜の街を抜け出してドライブする恋人たちを描いたもの。聴いていると、その情景が浮かんでくるような繊細な描写がされている。サウンドと相まって、疾走感やなんとも言えない緊張感が表現されていると思う。他のアーティストの曲に例えるならスピッツの「夜を駆ける」のような感じ。


「初恋プリズム」はアコースティックなサウンドが心地良いポップナンバー。アコギやピアノが前面に出ている。歌詞はタイトル通り初恋の思い出が語られたもの。夏休みの思い出の情景も描写されており、それもまた懐かしさを感じさせる。「君のことを知りたかった 君の心知らなかった」というサビの歌詞が印象的。曲自体も良いのだが、「初恋プリズム」というタイトルもまた素晴らしい。初恋ならではの脆さや美しさをこれ以上無いほど的確に言い表したタイトルだと思う。


「each other」は少ない音の数で聴かせるバラードナンバー。しっとりした曲調だが、サビは割とキャッチー。イントロにはウクレレが使われているが、そこからはアコギやエレピが前面に出たサウンドとなる。歌詞は作詞家やシンガーソングライターとして活動する田中花乃との共作によるもの。タイトルのフレーズは直接出てこないが、「僕」と「君」の関係について描かれている。遠距離恋愛をしている恋人たちだと解釈している。シンプルなサウンドだからこそ、高野寛の優しいボーカルがより響いてくると思う。


「CHANGE」は浮遊感のあるサウンドが心地良い曲。エレクトロニカのような音作りがされており、前作「確かな光」の作風を引き継いだ曲と言える。クラムボンの原田郁子とのツインボーカルによる曲。ベースの演奏で細野晴臣が参加している。歌詞は比較的メッセージ性の強いものとなっている。「変わってゆくもの」と「変わらないもの」について描かれている。変わらないものを守るためには自分たちが変わってゆく必要があるというメッセージが込められている。高野寛も原田郁子もとても優しく柔らかい歌声であり、良いコラボになっていると思う。極めて自然に溶け込んでいる感じがある。


「今日の僕らは」は忌野清志郎との共作がされた曲。忌野清志郎をゲストボーカルに招いた曲「泡の魔術」を制作した1992年頃に作った曲らしい。特に目的もなく「曲を一緒に作ろう」ということになり、8曲くらいレコーディングしたようだ。その後1曲ずつお互いのソロアルバムで発表し、この曲がその3曲目。まだ残っている曲があるので、いつ明かされるのか楽しみである。この曲は当時のデモテープの音源を基に作られているという。アコギやアコーディオンが前面に出たサウンドである。歌詞は制作当時のものから書き換えているようだ。優しい雰囲気溢れるラブソング。今作の作風とよく合っているので、今作で蔵出ししたのは正解だと思う。


「小さな"YES"」は 爽やかなメロディーが心地良いラブソング。2005年に行われた、TOKYO FMの同名のキャンペーンのために書き下ろした曲。サウンドはシンプルなバンドサウンドで構成されている。ギターサウンドが前面に出ている。歌詞はジョン・レノンとオノ・ヨーコの出会いの物語をモチーフにしているという。「君はまだ 僕の心 何ひとつ 知らなくて 僕はただ 君のこと 何もかも 知りたくて」という歌詞が印象的。シンプルで力強いバンドサウンドで彩られたポップスのためか、今作の中では少々地味な印象があるが、管理人の好きな曲。


「季節はずれの風吹く街で」はフォーキーなサウンドが特徴的な曲。この曲もシンプルなバンドサウンドで構成されている。このような曲でもサビはしっかりとキャッチーなものに仕上げている。その辺りはまさにポップス職人と言ったところか。歌詞は天気について描かれている。はっきりと分からない天気を未来と重ねて描写している。「夢を描いて 明日へ続く夢を 暗い暗い夜を 超えるために」という歌詞が印象的。曲や歌詞全てが爽やかな雰囲気を持っており、高野寛以外に作り出せないようなポップスになっていると思う。


「Winterlude」はインスト曲。様々な季節を描いた曲が収録されている今作だが、冬の曲だけ無かったので作られたという。タイトルは「Winter's interlude」の略。高野寛のスキャットとギターで構成されている。そこまで冬の雰囲気は感じないが、高野寛の美しい歌声を再確認できるようなインタルードになっていると思う。


「PAIN」は亀田誠治が編曲に参加した曲。高野寛らしいポップな要素はそのままに、バンドサウンドや装飾音を上手いバランスでまとめる亀田誠治のアレンジがされている。そのバランスが素晴らしい。歌詞について高野寛は「ストレートだけど、今の自分にしか書けない」と語っている。愛することが時に痛みに変わることを描いている。「きっといつか 時が過ぎれば 痛みさえも 愛おしさになる」という歌詞が印象的。2人のポップス職人の共演は素晴らしい名曲を作り上げることになった。とてもアルバム曲として留めておくには勿体無いような曲になっている。調べなければシングル曲だと思ってしまうくらい。


「明日の空」はフォークロックテイストの強い曲。コーラスでハナレグミが参加した。高野寛とは反対のソウルフルな歌声で曲を彩っている。力強いバンドサウンドで構成されている。歌詞はメッセージ性の強いものとなっている。春の日を舞台に描いている。「生まれたての星が輝いた 雨上がりの夜空に ここにはない幸せ でも このまま歩いてゆこう 夜明けが来るまで」という歌詞が印象的。ポジティブなメッセージと明るい曲調は聴いているだけで力を貰えるような感覚になる。


「あけぼの」は前の曲と同じくシンプルなサウンドで構成された曲。アコギとエレピが前面に出たサウンド。曲を作ったのは1994年、歌詞ができたのが1999年。しかし、現在まで埋もれていたという。インストバージョンはナタリー・ワイズのアルバムで「遠い地平線」というタイトルで発表されている。歌詞は春の日を舞台に、大切な人との別れを描いたもの。美しい朝焼けが浮かんでくるような表現がされている。出逢いと別れが同時に訪れる、春ならではの曲だと思う。


「Black&White」は先行シングル曲。亀田誠治が編曲を担当した。亀田誠治に編曲を依頼したのは、ヒットチャートから離れたところで音楽をやっていると感じていたので、どんな曲がシングルにふさわしいのかという判断がずれると思ったことがきっかけ。亀田誠治との楽曲制作は「本当の意味のポップさ」を再確認する良い機会になったという。爽やかなギターサウンドが前面に出たポップロックナンバー。シンセも使われているが、バランスがよく取れている。歌詞は闇と光について語られたもの。ラブソングの要素も持っている。「笑う君の目の中に 孤独な影を見つけた いま確かにここにあるのは寄せた頬のぬくもりだけ」という歌詞が印象的。イントロを聴いた瞬間に引き込まれるような曲。2人の非凡な才能が素晴らしい曲を作り上げた。高野寛の新たな代表作ができたと思う。


「虹の都へ(ver.09)」は1990年にリリースされた4thシングル曲のセルフカバー。高野寛にとって最大のヒット曲であり、世代の方からはある程度知られている曲。セルフカバーはディレクターの提案によるものだという。元のバージョンは当時の匂いを強く感じさせるようなキラキラしたシンセが前面に出たサウンドだったが、こちらはシンセをほぼ使っていない。元のバージョンの古臭さを現代のサウンドで補っている感じ。新たな魅力が見つかるようなセルフカバーになったと思う。元のバージョンも好きだが、こちらも捨てがたい。


あまり売れた作品ではないので中古屋ではたまに見かける程度。「第2のデビューアルバム」と高野寛本人が位置付けているだけあって、原点回帰したような作風となっている。近年の作品はアコースティックな作風がメインだったので、"ポップス職人・高野寛"が久し振りに帰還した作品と言える。全編通してカラフルな魅力を持ったポップスを楽しめるアルバムである。ベテランと言われるようなキャリアになってもなお、瑞々しいポップスを生み出し続けている高野寛の実力がよく分かる作品。聴く度に新たな魅力を発見できるだろう。高野寛の音楽を聴いたことがないという方にも自信を持っておすすめできる。 誰もが楽しめる至高のポップアルバムだと思う。管理人の中では2nd「RING」と比肩する名盤。

★★★★★