大江千里
1998-05-21

【収録曲】
全曲作詞作曲編曲 大江千里
7.作詞 永六輔 
7.作曲 いずみたく
プロデュース        大江千里

1.Tiger Champion ★★★☆☆
2.夙川パーキングナイト ★★★★☆
3.黒のオルフェウス ★★★☆☆
4.そばにいるきみのために ★★★★☆
5.KONICA 2009 ★★★☆☆
6.碧の蹉跌 ★★★★☆
7.見上げてごらん夜の星を ★★★★☆
8.風が吹いてる ★★★★★
9.Dubidubiduo ★★★★☆
10.White Casino ★★★★☆
11.ワンダーフォーゲル部 ★★★★☆
12.冬の背骨 ★★☆☆☆
13.Two of Us ★★★★★
14.The Muses ★★★☆☆
15.This is my life '98 mix ★★★★★
16.ハレルヤ ★★★☆☆

1998年5月21日発売
Epic Records
最高位29位 売上1.3万枚

大江千里の14thアルバム。先行シングル「Two of Us」「碧の蹉跌」を収録。前作「SENRI HAPPY」からは2年振りのリリースとなった。初回盤は三方背BOXケース入り仕様。

今作は大江千里のデビュー15周年記念作品である。リリース日は丁度デビュー記念日。1983年の5月21日、シングル「ワラビーぬぎすてて」、アルバム「WAKU WAKU」でデビューした。

今作は楽曲制作の面でも大きな変化を遂げた。デビュー当初から作詞作曲は大江千里自ら行ってきたが、今作では編曲に至るまでを大江千里が手がけている。そのためか、今までの作品よりも打ち込みが多用されているのが特徴。今作以降の作品では大江千里が自ら編曲を手がける。

内容の面でも今作はかなりの変化を遂げている。これまでの作品の多くは10曲入り(多くても12曲程度)で収録時間40分台とコンパクトなものだった。今作は16曲入りで収録時間73分とかなりのボリュームである。


「Tiger Champion」は今作のオープニング曲。打ち込みが多用されたサウンドが特徴的なメッセージソング。打ち込みの他にはギターサウンドが前面に出ている。比較的ロック色の強い曲である。歌詞は人々を眠っている虎に例えつつ、アドバイスを送るようなものになっている。「人から押しつけられる評価で何を悩んでるのさ あなたのやりたいことさえ解らず 口だけ達者になってませんか」という歌詞が印象的。応援歌のような内容の曲はこれまでもあったが、この曲のように生き方について語られるものはあまりなかった。 1曲目ではあるが、詞世界やサウンドから今までの大江千里の曲との違いを実感させてくる。


「夙川パーキングナイト」はシティポップのテイストを持った曲。曲自体はデビュー当初に書かれていたが、今作まで埋もれていた。シンプルなバンドサウンドで聴かせる曲。ギターのカッティングの音色が曲を彩っている。歌詞はクリスマスイブを舞台に、ドライブの様子を描いたもの。そのようなテーマのため、今作と同年にリリースされた冬ソングベスト「WINTER JOE」にも収録された。タイトルの「夙川」は西宮や芦屋の付近にある地名。関西学院大学で大学生活を過ごした大江千里ならではの曲である。流れるようなメロディーが聴いていて心地良い。願わくばもう少し早く収録してほしかった…


「黒のオルフェウス」は先行シングル「碧の蹉跌」のC/W曲。サンバやボサノバのテイストを取り入れた曲。ピアノやギターで効果的に盛り上げている。タイトルは映画『黒のオルフェ』から取ったのだろう。歌詞はかなりストーリー性のあるものになっており、そこも映画の影響を受けているのかもしれない。情熱的なラブソングである。「手配者」「アリバイ」「ナイフ」「赤い血」等物騒なフレーズが多用されるのが特徴。登場人物のことを想像しながら聴くのが面白いと思う。


「そばにいるきみのために」はポップなラブソング。アルバム曲ながらPVが制作されている。サウンドは打ち込みが多用されており、不思議と中毒性のあるサウンドを構成している。歌詞はタイトル通り、恋人へのストレートなメッセージが並べられたものになっている。「どっか遠い誰かより ぼくの腕の中笑ってよ じっときみは温もりをぼくに感じてていいよ」という歌詞が印象的。これといってキャッチーなメロディーというわけでもないのだが、不思議と耳に残る曲。


「KONICA 2009」はゆったりとしたバラードナンバー。サウンドは打ち込みが多用されている。中華風なサウンドも一部で登場する。女の子の声がところどころに入っているのが特徴。タイトルのフレーズはカメラのこと。歌詞には「撮りっきりKonica」というフレーズが堂々使われている。このような固有名詞を出して情景を想像させてくる詞世界は大江千里の得意技。どこか懐かしい雰囲気を感じさせる詞世界が展開されている。写真を撮ることが楽しく感じられそうな曲である。


「碧の蹉跌」は先行シングル曲。後追いで聴くととてもシングル曲とは思えないほど重厚なバラードナンバー。最早重苦しさすら感じさせる。サウンドはピアノが主体となっている。その理由はこの曲が作られた背景にある。作リリースの前年に亡くなった編曲家の大村雅朗に捧げる形で作られた曲である。大村雅朗は大江千里の数多くの楽曲で編曲を担当してきたため、信頼する存在であったようだ。「ぜんぶぜんぶ引きかえにして きみは生き続ける今もぼくの胸で」というサビの歌詞が印象的。かなり重い曲なので積極的に聴く気にはなれない。


「見上げてごらん夜の星を」は先行シングル「Two of Us」のC/W曲。坂本九の楽曲のカバーであり、1997年にリリースされた坂本九のトリビュートアルバムにも収録された。大江千里のアルバムに自身以外が作詞作曲した楽曲が収録されるのは初めてのこと。打ち込みサウンドとエレクトリックシタールが前面に出た、現代風のサウンドに生まれ変わっている。大江千里の温かみのある歌声がこの曲の持っている良さをさらに感じさせてくれる。いつまでも聴き継がれて愛されるだろう名曲。


「風が吹いてる」はピアノ主体のポップな曲。タイトルは「吹いてる」であり、「吹いている」ではない。跳ね上がるような、親しみやすいメロディーは大江千里ならではと言える。歌詞は東京の街を舞台に、別れてしまった恋人への想いが語られたもの。失ってから気づくこともある。それを後悔しても仕方がない。「ここで沢山の人と 出逢って別れてくけど きみに逢わなければ本当の孤独知らずにいた」という歌詞が印象的。「きみと生きたい」を彷彿とさせるフレーズである。歌詞のテーマや曲調からしてまさに王道と言ったところ。まず外さない曲である。


「Dubidubiduo」は爽やかなピアノポップナンバー。後に「'99MIX」と銘打ったバージョンでベスト盤「2000JOE」に収録された。イントロからぐいぐいと曲に引き込まれる感覚がある。この曲も跳ね上がるようなメロディーなので、聴いていてとても楽しい。歌詞は「笑いながら生きていこうよ」というポジティブなメッセージが語られている。タイトルの意味はよく分からないが、口ずさんでみるととても心地良い。不思議なフレーズである。少々苦しそうな歌い方が聴いていて気になってしまうが、それさえ気にしなければとてもポップな良い曲。


「White Casino」はミディアムテンポのバラードナンバー。サウンドは打ち込みとギターが前面に出ている。どことなく温かみを感じさせるメロディーが良い。曲中にはギタリストによる語りが入っているのが特徴。「White Casino」について描かれたラブソング。歌詞を見る限りだと「White Casino」は2人の愛の象徴のような場所として描かれている。孤独が無く、お互いを疑うことも無い。もちろんそのような場所は実際には無いのだが、そのようなものを信じたくなってしまう。


「ワンダーフォーゲル部」はミディアムテンポのポップナンバー。打ち込み主体のサウンドながらもバンドサウンドがしっかり主張している。歌詞はタイトル通りワンダーフォーゲルをしている2人が描かれている。そもそもワンダーフォーゲルがどのようなものなのか知らなかったが、ハイキングやキャンプのようなものらしい。満天の星空が浮かんでくるような繊細な情景描写がされた歌詞になっている。恋人達の会話を想起させるフレーズも入っている。今作リリースの時点でベテランと言えるキャリアだった大江千里だが、この曲はまるで初期のような「可愛らしさ」を感じさせる。


「冬の背骨」はタンゴやワルツのテイストを持った曲。アルバム曲ながらPVが制作されている。ベトナムで撮影されており、独特な映像となっている。大江千里の曲としてはかなり異色の曲調だと言える。めまぐるしく曲調が変わるのが特徴。少し歌声が聴こえにくく加工されているところもある。歌詞は別れた恋人のことを思い出しているもの。「傷つけるつもりなかったけど きみの温もりに慣れ過ぎてた」という歌詞が印象的。異色過ぎてこの曲にあまり馴染めないのだが、ダレてしまいそうなところにこのような曲を入れるのはアルバムの流れを考えると正解だと思う。


「Two of Us」は先行シングル曲。ゆったりとしたメロディーが心地良いラブソング。サビの広がりのあるメロディーは絶品。サウンドはピアノとアコギが前面に出ている。歌詞は結婚を決めた恋人達を描いたもの。飾りのないシンプルな愛の言葉が並んでいる。「真面目なだけじゃなかったけど やっときみに辿りつけた あふれる想い 言葉じゃなくきみに伝えたい」という歌詞が印象的。枯れてしまった感じのこの頃の大江千里の歌声がこの曲の世界観を表現するのに一番適している印象。この時期の大江千里にしか歌えない名曲。歌詞、メロディー共に冴え渡っていると思う。


「The Muses」はゆったりとした曲調が心地良い曲。大江千里と親交がある引田天功(プリンセス・テンコー)に捧げる形で作られたという。サウンドは打ち込みが主体となっている。輝くようなシンセの音色が特徴的。タイトルはギリシャ神話の女神であるミューズから来ていると思われる。「一回だけ言うぜ 心の底から言うぜ きらきら輝くきみは 瞳の中のThe Muses(めがみ)」というサビの歌詞が印象的。聴く度に心に沁みてくるような曲だと思う。


「This is my life '98 mix」は1997年にリリースされた34thシングル「HYPERACTIVE DINOSAUR」のC/W曲。A面曲及びこの曲のシングルバージョンはアルバム未収録。ピアノとアコギが主体のしっとりとした曲。自然と耳に入ってくるような優しいメロディーが心地良い。歌詞はメッセージ性の強いもの。「ぼくらの生きてる今日は見えなくて 毎日をいそいで繰り返しばかり悩むよね 明日は必ず来るから 止まらず生きてゆきたいのさ」という歌詞が印象的。悩んでいる時や傷ついている時に聴くと少しずつ前に進む勇気を貰えるような曲だと思う。この曲も枯れてしまった歌声が曲の世界観を上手く表現していると思う。


「ハレルヤ」は今作のラストを飾る曲。しっとりとした曲調で聴かせる。ピアノ主体ではあるが、後半は力強いバンドサウンドが目立つようになる。バイオリンも使われている。歌詞は青春時代の思い出を振り返るような内容のもの。「あれからぼくは すべてを燃やし尽くしながら普通を生きてた」と言う歌詞が印象的。ラストにふさわしい壮大な曲である。「This is my life '98 mix」でアルバムを締めても良いと思うが、この曲があるなら仕方がない。


あまり売れた作品ではないので中古屋ではたまに見かける程度。今作以降のオリジナルアルバムは入手難度が高いため、そこそこ高値で売られていることが多い。前述の通り、中々のボリュームの作品だが、1曲1曲はそこまで長くない上に、様々な曲調を取り込んだ作風なので聴いていてダレることはない。かなり力の入ったアルバムだと思う。気になるのは歌声の衰え。前作でも違和感を抱いてしまったが、今作ではその衰えがより顕著になっている印象がある。今作以降の楽曲はさらに磨きがかかっていくだけに、歌声が衰えてしまったのは少々辛いところである。

★★★☆☆