Awesome City Club
2017-01-25


【収録曲】
1.作詞 atagi, マツザカタクミ, いしわたり淳治
2.6.作詞 PORIN,マツザカタクミ
3.作詞 ユキエ
4.7.作詞 マツザカタクミ
5.作詞 atagi
全曲作曲 atagi
1.2.作曲 atagi, モリシー
1.編曲 いしわたり淳治
2.3.5.7.編曲 Awesome City Club,浦本雅史
4.編曲 Yaffle(Tokyo Recordings)
6.編曲 Curly Giraffe
1.Words Produced いしわたり淳治
4.Vocal Direction OBKR(Tokyo Recordings)
プロデュース Awesome City Club 


1.今夜だけ間違いじゃないことにしてあげる ★★★★★
2.Girls Don't Cry ★★★★☆
3.Sunriseまで ★★★☆☆
4.Cold & Dry ★★★☆☆
5.Movin' on ★★★★☆
6.青春の胸騒ぎ ★★★★★
7.Action! ★★★★☆


2017年1月25日発売
ビクター
最高位30位 売上不明


Awesome City Clubの4thアルバム。配信限定の先行シングル「今夜だけ間違いじゃないことにしてあげる」を収録。前作「Awesome City Tracks 3」からは約7ヶ月振りのリリースとなった。初回盤はスリーブケース入り仕様。


今作は1stから続いてきた「Awesome City Tracks」シリーズのラストと位置付けられている。今作含めこれまでの作品は「架空の都市Awesome Cityのサウンドトラック」というコンセプトのもとで制作されてきた。これまでの作品と同じく、7曲入りで全曲が新曲で構成されている。


今作はメンバー全員が楽曲制作に関わっているのが特徴。これまでの作品はマツザカタクミとatagiがメインだったが、彼ら以外のメンバーも作詞や作曲に参加した。プロデューサーも曲ごとに違っているが、これは以前から提案されていたことで、今作でようやく実現したようだ。


今作のテーマは「Awesome Revolution」である。楽曲で描かれているテーマはそれぞれ違うものの、「前向きになれる意味合いを込めた歌詞」を意識して作詞されたようだ。


「今夜だけ間違いじゃないことにしてあげる」は今作のオープニングを飾る先行シングル曲。フジテレビ系ドラマ『嫌われる勇気』のスピンオフドラマ『道子とキライちゃんの相談室』の主題歌に起用された。今作のリードトラックである。いしわたり淳治が作詞及びサウンドプロデュースで参加した。夜の街を想起させるような煌びやかなシンセサウンドが前面に出たポップナンバー。終わることのない夜を思わせる。atagiとPORINによる男女ボーカルがこの曲では展開されている。クラブを舞台にした男女の感情の駆け引きを描いた歌詞にぴったり合っている。聴いていると主人公になっているかのような感覚に襲われる。それ程繊細な描写がされているのである。しかも、そのような駆け引きの要素だけでなく、「遊び足りない」「割り切れない」といった若者ならではの感情も描かれている。 メロディー、歌詞共に質が高く、シティポップ・AORシーンに新たな風を吹かせるような曲が誕生したと言える。


「Girls Don't Cry」はPORINの単独ボーカル曲。1980年代の洋楽のようにキャッチーで明るいギターリフで彩られたポップナンバー。歌詞は女子への応援歌となっている。この曲の歌詞についてPORINは「女子に対して普遍的で前向きな歌詞を書こうと思った」と語っている。その狙い通り、女性なら誰もが共感できるような、聴き手に寄り添うような歌詞になっていると思う。PORINの伸びのある可愛らしい歌声がさらに歌詞に説得力を持たせているように感じる。しかし、応援歌にありがちな熱く重い感じに仕上げるのではなく、 あくまでポップでカジュアルに仕上げているのはAwesome City Clubならではと言ったところか。


「Sunriseまで」はドリームポップ色の強い曲。かつてのフィッシュマンズを彷彿とさせる。ふわふわとしていて、目を閉じて聴くと体が浮かんでいるような感覚になるサウンドである。それぞれの音がしっかり主張しているのにグルーヴが壊されない。このバランスが良い。歌詞はドラムのユキエによるもの。「オプティミスト」「フラッシュバック」「アルケミスト」といった横文字が多用され、どこかスカした印象を受ける詞世界となっている。歌詞全体として、一夜限りの恋をしようとする男女が描かれている。「気分次第」で愛し合おうとする二人の姿が特徴的。サウンド次第ではかなり濃厚な感じになりそうな歌詞のテーマではあるが、サラッと聴かせてくる。



「Cold & Dry」は落ち着いた曲調で聴かせる曲。音の数はかなり少なめで、ACCにしては珍しくボーカルの方が主張する感じのサウンドとなっている。タイトル通り、何となく冷ややかな感じの音作りがされていると思う。atagiの美しいファルセットがこの曲の荘厳さを強調している。歌詞は英語詞が多用されている。間違いなく日本語詞の方が少ない。英語詞の一部を切り取ってみると、失恋について描かれていると思われる。そのようなテーマの歌詞のためか、曲全体からどことなく虚無感が漂っている。夜の闇の中に引き込まれていきそうな雰囲気がある。



「Movin' on」は淡々とした曲調のダンスナンバー。サウンドは4つ打ちによるドラムやエレピが前面に出ている。曲の途中からはギターのカッティングが登場して曲を彩っている。極めて淡々とした曲調ではあるが、聴いていると不思議と盛り上がってくる。同じメロディーが繰り返される単純な構成だからだろうか?歌詞は真夜中の街を歩く恋人たちを描いている。1番、2番、3番で時間の経過が分かるような描写がされているのが特徴。深夜特有の何とも言い難い気分の高まりをこれ以上無いほどに上手く表現した詞世界になっていると思う。ダウナーな曲ではあるが、かなり中毒性がある。


「青春の胸騒ぎ」はメロウな雰囲気に溢れたバラードナンバー。シンセとバンドサウンドのバランスが取れたサウンドが心地良い。ソウルやAORのテイストを強く感じさせる美しいメロディーがたまらない。歌詞は初雪が降る東京を舞台に、青春時代の日々を振り返る内容。「あの頃に戻ってはしゃげたら かじかむ心 満たされるのかな」という歌詞が印象的。マツザカタクミと歌詞を共作したPORINは「若者が持っている特有の寂しさを書こうと思った」という旨の発言をしている。その発言通り、ふと感傷的になってしまう時の心情が繊細に描写された詞世界になっている。atagiとPORINによる男女ボーカルもこの曲の切なさを上手く表現している。このようなアプローチがされた曲はこれまでに無かったと思う。 ACCの音楽性の幅広さに驚かされると共に、完成度の高さにはただ聴き惚れるのみである。今作収録曲の中で一番好き。


「Action!」は今作のラストを飾る曲。前の曲からは繋がって始まる。この繋がり方が素晴らしい。ユキエによるカウントから始まるノリの良い曲。それでいてジャズのテイストを感じさせる上質なサウンドが展開されている。歌詞はタイトル通りメッセージ性の強いものとなっている。「いつかじゃなくて 明日じゃなくて 今すぐに飛び立って 未来は百花繚乱」という歌詞が印象的。聴いていると何かを挑戦しようと思う気持ちが高まってくる。聴き手それぞれが共感できるような歌詞になっていると思う。この曲をラストに配置することで、さらに気持ちが高揚するような作用があるように感じる。 この曲は新たなステップを踏み出していく全ての人への応援歌であり、これからのAwesome City Club自身への応援歌でもある。



ネオシティポップの旗手と称されるバンドだけあって、洋楽や邦楽をごちゃ混ぜにしたジャンルレスな音楽が展開されている。近年はシティポップやAORのブームが再来したためか、そのようなバンドが増えているが、その中でもAwesome City Clubは男女ボーカルという点で異彩を放っている。今作でもその強みがよく現れていると思う。管理人は今作と「Awesome City Tracks 2」しか持っていないので何とも言えないが、どうやら前作からシンセを多用したサウンドに変化したようだ。そのためか、より煌びやかかつポップなサウンドを楽しめるようになっている。しかし、今作のサウンドも好きなのだが、管理人としてはバンドの息遣いを強く感じられた「2」の方が響くものがあった。
何はともあれ、今作で「Awesome City Tracks」シリーズは終わりである。どのような変化を遂げるのか、次作以降の音楽に期待するほかない。

★★★★☆