岡村靖幸
2012-02-15

【収録曲】
全曲作詞作曲編曲 岡村靖幸
プロデュース         岡村靖幸

1.Vegetable ★★★★☆
2.ラブ タンバリン ★★★★☆
3.どんなことをして欲しいの僕に ★★★☆☆
4.友人のふり ★★★★★
5.聖書(バイブル) ★★★★★
6.だいすき ★★★★★
7.Có mon ★★★☆☆
8.Boys ★★★☆☆
9.愛してくれない ★★★☆☆
10.Punch↗ ★★★★☆
11.バスケットボール ★★★★☆

1989年7月11日発売
1991年9月30日再発
2012年2月15日再発(Blu-Spec CD、リマスター)
EPICソニー
最高位4位 売上約3.2万枚

岡村靖幸の3rdアルバム。先行シングル「聖書(バイブル)」「だいすき」「ラブ タンバリン」を収録。今作発売後に「友人のふり」がシングルカットされた。前作「DATE」からは約1年4ヶ月振りのリリースとなった。

今作は全曲の作詞作曲編曲プロデュースに加え、ほぼ全ての演奏に至るまでを岡村靖幸自ら手がけた作品。堂々のセルフタイトルにしたのも頷ける。タイトルは全曲のミックスが終わった後に決めたという。本人は「これしか思いつかなかった」とのこと。「川本真琴」「曽我部恵一」のようなフルネームのセルフタイトルによる作品はよくあるが、下の名前だけのセルフタイトルはそうは無いと思う。岡村靖幸のナルシストな姿がうかがい知れるようなタイトルである。

今作は岡村靖幸特有の詞世界が確立された作品でもある。岡村靖幸の詞世界に対してよく使われる表現。変態、ナルシスト、意味不明、気持ち悪い…これらのフレーズは間違いなくマイナスイメージなのだが、岡村靖幸にとっては最高の褒め言葉である。爽やかな青春を想起させる歌詞と、思春期の男子中高生の妄想を具現化したような変態な歌詞…これらは岡村靖幸の詞世界の大きな魅力である。

楽曲の面でも大きな変化を遂げた。前作「DATE」で片鱗を見せていたが、プリンスからの影響を強く感じさせる濃厚なファンクが前面に出るようになった。殆どの楽器を自ら演奏するようになったためか、独特なグルーヴ感が出ている。演奏の上手さならもっと上を行くミュージシャンはいるのだが、誰も岡村靖幸のような演奏をすることができない。あまり楽曲を聴きこんでいなくても、演奏を聴くだけで「あ、岡村靖幸だ」と思ってしまいそうなくらい自己主張の強い演奏が特徴的である。

岡村靖幸のトレードマークとも言える存在のピーチマークが初めて使われた作品でもある。ジャケ写にばっちり写っている。このマークは岡村靖幸自らデザインしたもの。ちなみに、岡村靖幸が強い影響を受けたアーティストであるプリンスも後にシンボルマーク(ラブ・シンボル)を使っている。しかもそれをアーティスト名にしてしまった。2人はやはり似たものがあるようだ。

↑ピーチマーク


「Vegetable」は今作のオープニング曲。アコギを弾き散らかしているかのようなでサウンドで聴かせる曲。所々入ってくるサックスがカラフルなサウンドに仕上げている。曲の随所にエルヴィス・プレスリーやジョージ・マイケルからの影響を感じさせる。犬の真似をしているかのような呼吸で始まるイントロから異様なテンションの高さに包まれている。歌詞は極めて散文的で意味が分からない。野菜の名前が連ねられている部分はインパクト抜群。とりあえず「青春しなくちゃまずいだろう はい はい はい」というフレーズはよく伝わってくる。青春時代ならではの焦燥感を絶妙に表現した曲だと思う。


「ラブ タンバリン」は先行シングル曲。キラキラと輝いているようなサウンドに彩られたポップな曲。この曲の魅力は何と言っても歌詞。好きな人に告白しようとする男の子を励ます内容。これぞ岡村靖幸!と言いたくなるような歌詞のテーマである。もうその時点でこの曲に引き込まれる。男にとっては毎日がバレンタインのようなものだから、好きな人には告白しようぜ!というような感じの歌詞。「心に住んでる修学旅行が育つんだ」と意味が分からないが、不思議と意味が掴めそうなフレーズも登場する。岡村靖幸の詞世界が冴え渡っている名曲。


「どんなことをして欲しいの僕に」はサビや語り以外全てファルセットで歌われている曲。このボーカルスタイルはプリンスからの影響を強く感じさせる。しかも所々に岡村靖幸本人の喘ぎ声が入っている。曲自体はジメジメした雰囲気に溢れた密室的なファンクになっている。要所を飾るサックスの音色が何ともいやらしい。歌詞は女の子に言いよるもの。どうやら2人は行為をし始めるようだ。全編通して極めて変態な歌詞なのだが、特に凄いのはラストの語りの部分。 「ねえ 君のパンツの中で泳がせてよ」というフレーズは思わずゾッとしてしまう。気持ち悪いのに不思議と格好良い。岡村靖幸の王道と言える曲。


「友人のふり」は今作発売後にシングルカットされた曲。懐かしさと切なさを感じさせるメロディーが展開されたバラードナンバー。優しい音色のシンセのリフによるイントロがたまらない。この曲も歌詞が冴え渡っている。最早タイトルだけで大体の内容が想像できるかもしれないが、切なさに溢れている。失恋した女の子の彼氏になりたい男の子の気持ちが描かれている。「あんまりもてなかった方だし 臆病で正直じゃないから あいつの代わりになれやしないけど」という歌詞は聴いているだけで泣きそうになる。そのような弱気な心を素直に打ち明けられるだけでも相当に素直な人ではないかと思ってしまう。 岡村靖幸にしては珍しく一般受けしそうな曲。岡村靖幸屈指の名バラードだと思う。


「聖書(バイブル)」は先行シングル曲。シングルバージョンからは大幅に変更されている。曲の長さは倍近くになっている。不穏な鐘の音から始まり、ねっとりとした岡村靖幸の語りが入る。「背が高いから?曲を作るから?」等と相手に質問しながら自分を褒めるという形式を用いている。聴いていると笑ってしまうくらい変態な語りである。語りが終わった後にファンキーなスラップベースが入る。ここからは熱苦しい密室ファンクの始まり。歌詞は35の中年と恋している女の子に対して、僕に恋してくれと呼びかける内容。 「Crazy×12-3=me」という意味不明なフレーズも登場する。歌詞、ボーカル、サウンド、全てが一体となって濃厚なファンクを作り上げている。この曲を聴いて馴染めないならまず岡村靖幸は聴けない。
しかし、疾走感のあるファンクであるシングルバージョンも素晴らしい。管理人としては尺を伸ばし過ぎている印象があるこのバージョンよりもシングルバージョンの方が好き。


「だいすき」は先行シングル曲。HONDAの「NEW today」のCMソングに起用された。キャッチーでポップを極めたような曲になっている。岡村靖幸にしてはアクが少な過ぎる。「君が大好き」と堂々歌い上げるサビはキャッチーそのもの。多幸感に溢れたラブソングである。歌詞も幸せそのもの。彼女に対して「あの海辺よりも」「甘いチョコよりも」「あの星空より」「赤いワインより」大好きだと宣言している。このスカしたような比較対象が実に岡村靖幸らしさを感じさせる。この曲一番の聴きどころは最後の「へぽたいや〜」というコーラス。子供の声も使われてとても賑やか。意味が分からないのに口ずさむだけで何となく楽しいフレーズである。岡村靖幸の楽曲の中ではよく知られているだけに、ファンからの人気は低い…と思いきや、とても人気がある。本人も何度もリミックスを行なっているので気に入っているのだろう。管理人もこの曲が「だいすき」である。


「Có mon」はノリの良いファンクナンバー。曲は1分45秒ととても短いものの、その尺の中にサウンドや歌詞が詰め込まれている。ファンキーで格好良いベースラインは絶品。この曲の歌詞も女の子に言いよるもの。今にも行為を始めそうな雰囲気を感じる詞世界となっている。変態でありながら格好良い。今作の世界観をコンパクトにまとめたような印象の曲である。


「Boys」はメッセージ性の強い曲。岡村靖幸のアルバムにはほぼ必ずこのような曲が入ってくる。様々なボイスパーカッションで構成されたイントロがインパクト抜群。歌詞はタイトル通り少年に提案するようなものになっている。「大人になる前に まず立派なる子供になろうよ」と呼びかけている。この曲の聴きどころはラストの語り。今作収録曲に含まれる語りは全て変態なものばかりだったが、この曲での語りはとても真面目。今は色々と素晴らしい世の中だけど、自分は素晴らしいのか?僕たちは子供を育てられるような立派な大人になれるのかな?と語りかけている。まるで友人に話しているかのような口調。そのような優しい語り口調だからこそメッセージがよく伝わってくる。


「愛してくれない」はしっとりと聴かせるバラードナンバー。とても沢山の音が使われており、ウォール・オブ・サウンドを彷彿とさせるサウンドが展開されている。ジャジーなテイストを持ったホーンも曲を彩っている。歌詞は彼女に対して何故愛してくれないのかと問いかける内容になっている。男の後悔や未練がよく分かるような繊細な描写がされている。「今週 来週 再来週 して欲しいくちづけ」と畳み掛けるサビでは迫真のボーカルを披露している。今作の中では屈指のマニアックな曲だが、不思議とハマれる。


「Punch↗」は濃厚なファンクナンバー。冒頭のセリフやコーラスではPSY・Sのチャカや俳優の金山一彦が参加している。ノリの良いリズムや跳ねたサウンドはとても邦楽には思えない。歪んだギターサウンドやファンキーなベースとサックスが前面に出ており、かなり派手なサウンドに仕上がっている。岡村靖幸の太い歌声も本場のブラックミュージックへの敬愛を感じさせる。歌詞は彼氏がいる女の子に言いよる内容。「彼氏のほうがリッチかい?でもBedの中じゃ俺には勝てないぜ」と宣言する歌詞は聴いていると吹き出しそうになってしまう。アルバムの後半になってもキレッキレのファンクを聴かせる岡村靖幸には脱帽である。


「バスケットボール」は今作のラストを飾る曲。2分45秒程度の短めな曲。ギターとシンセが絡むサウンドが心地良い。いかにも1980年代のポップスと言った感じのサウンドだと思う。キラキラしているのに、どこか寂しげな感じ。歌詞は好きな子の彼氏になりたいと願う男の子の心情が描かれたもの。「僕はまるで誰もいない教室の机に書いてある意味のない落書きさ」という歌詞がとても切ない。ラストを飾る曲の割に今作の中では地味な印象が否めないものの、とても好きな曲。 


あまり売れた作品ではないが中古屋ではそこそこ見かける。しかし、リマスター盤が出回っているのでそちらを聴くことをおすすめする。岡村靖幸ならではの変態な世界観が確立されたと言える作品。そのうえ、「聖書(バイブル)」「だいすき」の代表曲が収録されている。そのため、岡村靖幸の入門として「早熟」と並んでおすすめできる。今作を聴いて「気持ち悪い」としか思えなかったら、もう他の作品は聴けないと断言する。
現在思春期という男の子には夜中に聴いてみてほしい。イカ臭く熱苦しいこのアルバムを楽しむには最高のシチュエーションだろう。必ずや「だいすき」な作品になるはず。

★★★★★