Mr.Children
2002-05-10

【収録曲】
全曲作詞作曲 桜井和寿
1.作曲             小林武史
全曲編曲       小林武史&Mr.Children
プロデュース  小林武史&Mr.Children

1.overture 省略
2.蘇生 ★★★★★
3.Dear wonderful world ★★★☆☆
4.one two three ★★★★☆
5.渇いたkiss ★★★★★
6.youthful days ★★★★★
7.ファスナー ★★★☆☆
8.Bird Cage ★★★☆☆
9.LOVE はじめました ★★★☆☆
10.UFO ★★★★★
11.Drawing ★★★★☆
12.君が好き ★★★★☆
13.いつでも微笑みを ★★★★☆
14.優しい歌 ★★★★★
15.It's a wonderful world ★★★☆☆

2002年5月10日発売
トイズファクトリー
最高位1位 売上122.8万枚

Mr.Childrenの10thアルバム。先行シングル「優しい歌」「youthful days」「君が好き」を収録。前作「Q」からはベスト盤2作を挟んで約1年半振りのリリースとなった。

今作はメジャーデビュー10周年記念作品である。今作の前にリリースされたベスト盤2作はメジャーデビュー10周年を手前に、これまでの活動の一区切りという意味が強かった。今作はメジャーデビュー記念日の5月10日にリリースされている。基本的に作品は水曜日にリリースされるものだが、今作はチャートで不利になる木曜日にリリースされた。それでも1位を獲得し、ミリオンを達成した。

今作は桜井和寿も語るように、明るい内容の作品である。ポジティブなイメージのタイトルではあるが、これに決定するまでには何度か変遷があったようだ。「この醜くも美しい世界」という皮肉交じりのタイトルが鈴木英哉の提案で「DEAR WONDERFUL WORLD」になり、最終的に今のタイトルで落ち着いたという。他にも複数のタイトル候補があったようだ。


「overture」は今作のオープニングを飾るインスト曲。小林武史が作曲を担当した。「ノイズからの再生」というテーマのもとで作られたという。重厚なストリングスやブラスの音色が前面に出たサウンドとなっている。「再生」というテーマにふさわしい、荘厳な雰囲気のあるインストである。


「蘇生」は実質的なオープニング曲。アサヒ飲料「WONDA」のCMソング、BBC EARTH製作映画『ライフ -いのちをつなぐ物語-』の主題歌、花王アタック30周年キャンペーン「30歳の挑戦者たち」のCMソングに起用された。アルバム曲ながらタイアップがかなり多い。前のインストからは繋がって始まる。これまでの作品に続いてきた重苦しい雰囲気を振り払うような、明るさに満ちた曲。力強いバンドサウンドと曲を彩る装飾音とのバランスも素晴らしい。歌詞は生きている喜びを実感するようなものになっている。「そう何度でも 何度でも 僕は生まれ変わって行ける」と高らかに歌い上げるサビは鳥肌が立つこと必至。長く続いた闇から抜け出し、みんなのMr.Childrenが帰ってきた。つまり、「蘇生」した。王道のポップス路線に戻ってきたMr.Childrenを祝福する曲と言える。


「Dear wonderful world」は2分と少しの短い曲。タイトル曲「It's a wonderful world」のサビが無いバージョンである。最後には様々な音が入っているが、これはメンバーが出かけて録音したものらしい。「カプチーノ」というフレーズが歌詞に登場するが、それにちなんでか「カプチーノお待たせしました」というようなウェイトレスの声も入っている。短い曲ながら色々と作り込まれている。アルバムのインタルードのような存在と言えるかもしれないが、飛ばすのはもったいない。


「one two three」は爽やかなポップナンバー。バンドサウンドだけでなく、ブラスも効果的に使われており、小林武史らしさ溢れる音作りがされている。そのためか、かなり賑やかな印象のサウンドである。歌詞は力強いメッセージが並んだものになっている。「もう後ろなんか見ないぜ」というラストの歌詞は特に勇気が湧いてくるようである。タイトルはアントニオ猪木がよく言うあのフレーズ。それにちなんでか、曲のラストにはアントニオ猪木が引退した際の挨拶が入っている。そこまでキャッチーなメロディーではないが、サウンドはかなり作り込まれている。ネタ路線のようでいてかなり真面目な曲だと思う。


「渇いたkiss」はしっとりと聴かせるバラードナンバー。タイトルは本来「乾いた」が正しいが、「渇望している」という意味合いを込めて「渇いた」となったという。バンドサウンドは控えめに、エレピやブラスの音が前面に出たアレンジとなっている。その中でもバックをしっかりと飾るギターの音色が特徴的。歌詞は別れる間際の男女を描いたもの。二人の体温が感じられそうなくらい繊細な描写がされている。別れるという言葉が来ないように、キスをして彼女の口を塞いでしまいたい。それは男のわがままなのだろうか?聴いているだけで心を締め付けられるような曲である。 Mr.Childrenの楽曲の中でも屈指の名バラードだと思う。


「youthful days」は先行シングル曲。フジテレビ系ドラマ『アンティーク 〜西洋骨董洋菓子店〜』の主題歌、キリンビバレッジ『大人のキリンレモン』のCMソングに起用された。タイアップ相手のドラマは劇中音楽もミスチルの楽曲で構成されていたという。歌が入った曲がそのまま使われていたようだ。曲は疾走感があるポップな曲である。まさに青春の日々と言いたくなるような爽やかなサウンドやメロディーが素晴らしい。歌詞は散文的でよく分からないが、随所に桜井和寿の変態な姿が現れた詞世界となっている。歌詞全体としては、恋人と過ごしていれば苦しい時でも若い頃の心は取り戻せる…というような意味だと解釈している。ノリの良さだけでもハマれる。 2000年代のミスチルのシングル曲の中でも特に好きな曲。


「ファスナー」はスガシカオの作風を意識して作られた曲。後にスガシカオがカバーしている。打ち込みのようなリズムで構成されたサウンドなのであまりバンドらしさは感じられない。ポップなメロディーながらも歌詞は中々に濃厚。エロ路線の歌詞…と思いきやそれだけでなく、子供の頃によく見たものにあるファスナーの向こう側についても描かれている。歌詞の中に「ウルトラマン」「仮面ライダー」というフレーズが出てくるが、前述の件についてはそれで察していただきたい。「中の人なんていない」と信じたくなってしまうが、知らなければならない事実がある。人間の心理の本質を突くような詞世界に引き込まれる曲である。
 

「Bird Cage」は重厚なバラードナンバー。ゆったりとした曲調であり、今作の中では最も長尺な曲。基本的にバンドサウンド以外が主体となって進んでいくが、ところどころで激しいバンドサウンドが入るのが特徴。サビではシャウトしている。歌詞は中々上手くいかない関係の恋人たちを描いたもの。それを鳥のつがいに例えている。つがいとして結ばれて狭い鳥籠に入れられた恋人たちは、鳥籠から放たれることとなる。失恋ものバラードと言ってしまえばそれまでだが、聴き手の心を抉ってくるようなシニカルな詞世界になっていると思う。今作の中でも特に重苦しい曲である。


「LOVE はじめました」は打ち込みが多用された曲。今作発売時のCMに使われていたという。イントロが1分以上あるのが特徴。イントロは聴いているとワクワクするような、不安な気持ちにもなるような独特な音作りがされている。打ち込みサウンドを破るようにして入ってくるアコギの音色は鳥肌もの。歌詞は社会風刺的な内容となっている。車で売っているケバブ、殺人現場に群がる野次馬など様々なものを皮肉っている。誰かを愛することは本当に良いことなのか?と疑心暗鬼になってしまうような歌詞である。この曲に関してはこれまでの作風を想起させる感じがある。


「UFO」はここまでの流れを変えるようなポップナンバー。ドラムとストリングスが絡み合うイントロからこの曲に引き込まれてしまう。このイントロの高揚感は凄い。その後も爽やかなメロディーとバンドサウンドが展開される。歌詞は現実逃避をしようとしている男の心が描かれている。「迷いも苦しみもない世界」を目指してUFOが飛んでくるのを待つ。極めてSF的な世界観の歌詞だが、誰しもそのようなことを考えることがあるのではないかと思う。桜井和寿本人は「この曲の主人公は嫌い」という旨の発言をしているが、少なくとも管理人は共感できる。メロディー、サウンド、歌詞全てを含めて今作のアルバム曲の中で一番好きな曲である。


「Drawing」は先行シングル「youthful days」のC/W曲。シングルリリースの2年後に日本テレビ系ドラマ『幸福の王子』の主題歌な起用された。ミスチルのシングルのC/W曲はあまりオリジナルアルバムに収録されない印象がある。後にベスト盤「Mr.Children 2001-2005<micro>」に収録されているため、C/W曲ながらも待遇が良い。曲は切なさ漂うバラードナンバー。サウンドもメロディーも淡々としている感じ。2番までは打ち込みのドラムが使われているが、間奏から生のドラムが入るのが特徴。歌詞は直球なラブソング。タイトル通り絵を描く行為が登場する。素晴らしい瞬間を記録するために絵を描く。地味ながらも何度か聴くと自然に心に沁みてくる印象がある。


「君が好き」は先行シングル曲。フジテレビ系ドラマ『アンティーク 〜西洋骨董洋菓子店〜』の挿入歌に起用された。温かみのあるバラードナンバー。どことなく気だるさも漂っている。バンドサウンドよりもピアノが前面に出ている。歌詞はタイトル通りのストレートなラブソング。「アパートの脇」「自販機」「缶コーヒー」など、生活感のあるフレーズが多用されているのが特徴。一曲単位ではそこそこ好きなのだが、シングルというには少々地味だったという印象が否めない。C/W曲やアルバム曲だったらもっと好きな曲になっていたかもしれない。


「いつでも微笑みを」はほんわかした雰囲気が特徴的な曲。2007年に損保ジャパンのCMソングに起用されて有名になった。タイトルは「いつでもえみを」と読む。曲中流れている鈴の音はどことなく年末のせわしない空気を想起させる。口笛の音も曲の温かみを演出している。歌詞は死をイメージさせるものになっている。悲しみに直面した時にこそ「いつでも微笑みを」意識して生きていこうというメッセージが込められているように思う。楽しげな曲調だからこそ歌詞に力があるように感じる。


「優しい歌」は先行シングル曲。アサヒ飲料「WONDA」のCMソングに起用された。これまでは長くなりがちだった曲の尺は、今でもシングル曲の中で最短である3分半にまで縮められた。その時点でも変化を感じさせるが、曲は吹っ切れたような明るさを持ったものになった。皆が求める楽曲像に応えたようなイメージ。歌詞は「救い」を想起させるようなポジティブなものである。聴いた人の心に静かな火を灯すような詞世界だと思う。静かながらも力強く燃えるよう。まさに「優しい歌」である。ミスチル復活のテーマソングと言える。Mr.Childrenのバンド史を通じても重要な位置にある曲だと思う。


「It's a wonderful world」は今作のラストを飾るタイトル曲。「Dear wonderful world」の続編のようになっている。重厚なストリングスから入るサウンドはどこか重苦しい印象がある。歌詞はメッセージ性の強いものになっている。「無駄なものなど きっと何一つとしてないさ」という歌詞は顕著。この醜くも美しい世界を生きていくためには、やれることを探して諦めずに取り組んでいかなければならない。ラストにふさわしく、今作の収録曲で語られてきたことをまとめるような詞世界である。


大ヒット作なので中古屋ではよく見かける。これまでの作品はどこか迷走したような作風だったものの、今作では一般リスナーが望むMr.Childrenの楽曲像に応えたような作風となった。それはつまり、王道なポップス。「深海」から続いてきた、本当の音楽性を探す旅は今作で終わったのである。サウンド面ではホーンやストリングスで彩られた曲が増えた。その分バンドサウンドの主張が減ってしまった印象が否めないが、今作ではまだバランスが良い。Mr.Childrenと小林武史のパワーバランスが絶妙に合っていた最後の作品だと思っている。

★★★★☆