谷村有美
1987-11-21

【収録曲】
1.7.作詞 MASAGORO
2.4.6.8.9.作詞 山田ひろし
3.5.10.作詞 谷村有美
1.3.8.作曲 谷村有美
2.7.作曲 上田薫
4.10.作曲 井上ヨシマサ
5.6.作曲 大村雅朗
9.作曲 小森田実
全曲編曲 大村雅朗
プロデュース 春名源基

1.予感-I'm Ready to love- ★★★☆☆ 
2.未完成 ★★★★☆
3.Not For Sale ★★★★★
4.星のダンスを見においで ★★★☆☆
5.ためいき色のタペストリー ★★★★★
6.BIRTHDAY ★★★★★
7.Bye Bye Black Jack ★★★☆☆
8.恋街月夜 ★★★★★
9.Gentle Rainに意地悪 ★★★☆☆
10.Melody ★★☆☆☆

1987年11月21日発売
CBSソニー
最高位不明 売上不明

谷村有美の1st(デビュー)アルバム。デビューシングル「Not For Sale」と同日に発売された。

谷村有美は慶應義塾大学に在学していた1986年に、CBSソニーが主催したオーディション「ティーンズ・ポップ・コンテスト」で優勝した。それがデビューのきっかけとなった。

谷村有美はアイドルとシンガーソングライターの要素を併せ持った「B級アイドル」として親しまれた。高校生時代にはロックやフュージョン系のバンドのキーボードを担当していたことがあるようで、それがデビューしてからの音楽性に影響を与えている。フュージョン色の強い楽曲も多数ある。

谷村有美の魅力は透き通るような可愛らしい歌声である。後に「クリスタルボイス」と形容されることとなる。このフレーズが最初に使われるのは2ndアルバム「Face」の帯である。歌声の特徴を絶妙に捉えた素晴らしいキャッチコピーだと思う。

ちなみに、谷村有美は今で言うオタクな男性からの支持が多かった。お洒落なのかダサいのか、アイドルなのか本格派歌手なのか、いまいち判断ができない。それでいて他の括りに含めるのもできない。そのような存在のアーティストを好んで聴いていたのがパソコンやオーディオマニアの男性。彼らが集まる場所と言えば秋葉原。そこから秋葉原系(アキバ系)というジャンルが生まれた。谷村有美は秋葉原系アーティストの代表格とされているが、渋谷系やガールポップほど定着せずに終わってしまったジャンルなので何とも言えない。実際に谷村有美は古くからマッキントッシュを愛用し、ワープロ打ちの名手と自認するほど。しかも音響システムに関しての知識が豊富。確かに「アキバ系」と括るなら谷村有美が一番適していたように思う。


「予感-I'm Ready to love-」は今作のオープニング曲。作曲は谷村有美が担当した。涼しげなキーボードの音色から始まるしっとりとしたバラードナンバー。その音色はいかにも1980年代と言ったところ。サビのメロディーがとても美しい。歌詞は恋の始まりを描いたもの。思いがけない出会いから始まる恋。繊細な心理描写は不安や期待がよく伝わってくるようである。一聴するとかなり地味なバラードなのだが、デビューアルバムのオープニングには意外と合っているように感じる。不安や期待を表現した歌詞だからだろうか?


「未完成」は清涼感溢れるリゾートソング。サウンドだけ聴いていると杉山清貴や角松敏生の楽曲を彷彿とさせる。ラテンの要素も感じさせるサウンドが心地良い。キレの良いギターのカッティングの音色がたまらない。コーラスワークもかなり凝っており、それも聴きどころの一つ。歌詞は「キミ」へのメッセージのようになっている。タイトルのフレーズは一切登場しない。「キミ」は落ち込んでいる状態で描かれているので、それを未完成なものに例えているのだと解釈している。歌詞はさておき、サウンドだけでも引き込まれる。


「Not For Sale」は今作と同日にリリースされたデビューシングル曲。谷村有美本人も出演していたTBS系情報番組『ドーナツ6』のテーマソングに起用された。今作では唯一の谷村有美作詞作曲による曲。ミディアムテンポの曲。時代性を感じさせるシンセの音色やブラスが前面に出たサウンドが展開されている。タイトなバンドサウンドもサウンドを彩っている。歌詞はラブソングとも、メッセージソングとも取れるようなもの。そもそもデビュー曲のタイトルに非売品を意味する「Not For Sale」と付けるセンスに驚かされる。 簡単に消費されるような音楽をやりたくはないという決意表明なのだと解釈している。繊細さと力強さを持った谷村有美の歌声が何よりも曲の世界観を表現しているように感じる。デビュー曲ではあるが非常に高い完成度である。


「星のダンスを見においで」はボサノバのテイストを感じさせる曲。作曲はAKB48の楽曲を多数提供していることで知られる井上ヨシマサが担当した。ゆったりとした曲調で聴かせる曲。終始前面に出ているアコギの音色や随所で登場するコーラスは曲に清涼感を与えている。歌詞はロマンチックな雰囲気漂うものになっている。タイトルからしてそのような感じだが。恐らく天体観測のことだろう。谷村有美の透き通るような歌声だと、詞世界の美しさがより高められているように思う。


「ためいき色のタペストリー」はデビューシングル「Not For Sale」のC/W曲。編曲だけでなく、作曲も大村雅朗が手がけた。しっとりと聴かせるバラードナンバー。少ない音の数が逆に曲の美しさを強調している。作詞は谷村有美が担当した。片想いをしている女性の切ない感情が描かれている。弱々しさすら感じさせるような谷村有美のボーカルがこの曲の世界観を構成している。聴いているだけで胸を抉られるような切なさがある。初期の名曲にして、谷村有美を代表する名バラードだと思う。


「BIRTHDAY」はシティポップ色の強い曲。この曲も大村雅朗が作曲を担当した。サウンドだけ聴いていると初期の角松敏生や山下達郎を彷彿とさせる。バンドサウンドとシンセやブラスとの絡みも素晴らしい。特に勢い溢れるギターのカッティングは心地良い。歌詞は誕生日を迎えた女性を描いたもの。恋人に優しく祝ってもらいたいという心情が伝わってくるような歌詞となっている。微笑ましさすら感じさせるような詞世界である。サウンドが管理人の好みのどストライクなので評価がかなり高くなっている。


「Bye Bye Black Jack」はフュージョン色の強い曲。シンセやホーンといった装飾音とタイトなバンドサウンドが絡み合うサウンドは絶品。終始前面に出ているキレの良いギターのカッティングは聴きどころ。歌詞はストーリー性のあるものとなっている。好きな人に浮気された女性の心情が描かれている。ディスコのフロアにトランプのカードをばらまこうとしている。その光景を想像するととてもシュールである。この曲もまた、サウンドが聴きごたえ抜群な曲である。


「恋街月夜」は都会的な雰囲気を感じさせるバラードナンバー。作曲は谷村有美が担当した。サウンドはAOR色が強い。イントロの哀愁漂うギターのカッティングからこの曲の世界に引き込まれてしまう。力強いベースの音色もサウンドを彩っている。サビのギリギリな高音は中々にインパクトがある。歌詞は好きな人ができた女性の感情を描いたもの。作詞家は男性のようだが、女性の心をよく捉えた歌詞になっているように感じる。この曲もサウンドが管理人の好みそのものなので評価が高くなっている。


「Gentle Rainに意地悪」はラテンのテイストを感じさせる曲調で聴かせる曲。作曲はコモリタミノル名義になる前の小森田実が担当した。ストリングスやギターが前面に出ており、全体的に涼しげなサウンドで彩られている。歌詞は恋人のことを静かな雨に例えたもの。素直に気持ちを示さない男性に戸惑っている女性の様子が浮かんでくるようである。この曲の作詞も男性によるものだが、とても繊細な描写がされている。アイドルとしての谷村有美の姿を象徴するような曲だと思う。


「Melody」は今作のラストを飾る曲。この曲の作曲も井上ヨシマサが担当した。少ない音の数でしっかりと聴かせるバラードナンバー。シンセが主体となったサウンドが展開されている。作詞は谷村有美が担当した。歌詞はいつも優しくしてくれる恋人への複雑な感情が描かれた内容。幸せなようでいて、切なさも感じさせる。ラスト以外に置き場所が無いような重厚なバラードである。正直に言ってかなり地味なのだが、その雰囲気に引き込まれる。


あまり売れた作品ではないが中古屋ではそこそこ見かける。1970年代後半〜1980年代の邦楽シーンを語る上で欠かせない名アレンジャー・大村雅朗が全曲の編曲を担当しただけあって、全編通して洗練されたポップスが展開されている。シティポップやフュージョンのテイストを持った曲もあり、その手の音楽のファンも楽しめる作品だと思う。今作以降もフュージョンのテイストを持った曲があるが、その色が前面に出ているのは今作以外には少ない。とてもデビュー作とは思えないようなクオリティである。デビュー作らしさを感じさせるのは谷村有美のボーカルの拙さくらい。
谷村有美はアイドル的な存在で括られることが多く、音楽の面で評価されることが少ない印象が否めないが、とても良質な楽曲ばかりであることを知っていただきたいと思う。

★★★★☆