山下達郎
1999-06-02

【収録曲】
全曲作詞作曲編曲 山下達郎
3.作詞 ALAN O' DAY
4.作詞 竹内まりや
4.ストリングスアレンジ 服部克久
プロデュース       山下達郎

1.新・東京ラプソディー ★★★★★
2.ゲット・バック・イン・ラブ-Get Back In Love- ★★★★★
3.The Girl In White-ザ・ガール・イン・ホワイト ★★★☆☆
4.寒い夏 ★★★★☆
5.踊ろよ、フィッシュ ★★★★☆
6.ルミネッセンス-Luminescence- ★★★☆☆
7.マーマレイド・グッドバイ-Marmalade Goodbye- ★★★★★
8.蒼氓 ★★★★★
9.僕の中の少年 ★★★★★

1988年10月19日発売(CD,LP)
1989年9月10日発売(GOLD CD)
1991年11月10日再発(リマスター)
1999年6月2日再発
MOON/ALFA MOON
MOON/MMG(1991年盤)
MOON/WARNER MUSIC JAPAN(1999年盤)
最高位1位 売上54.5万枚(オリジナル盤)

山下達郎の9thアルバム。先行シングル「踊ろよ、フィッシュ」「ゲット・バック・イン・ラブ」を収録。今作発売後に「新・東京ラプソディー」がシングルカットされた。前作「POCKET MUSIC」からは約2年6ヶ月振りのリリースとなった。

今作は前作と同様に、アナログからデジタルへのレコーディング環境の変化と格闘した作品である。長年のアナログマスターテープへの録音を通して築き上げた方法論が全く通用しなくなってしまい、これからは山下自身が満足できる音楽が作れなくなるのではと思ってしまったほどだという。デジタル録音を捨ててアナログ録音に専念しようと考えたが、それもまた自らの主義に反してしまうので断念したようだ。しかし、そのような悪条件はマスタリング用のレコーダーが移行されて音質が向上したことで解消された。それを使ってアナログで録音していた曲を再録音して今作をリリースするに至ったという。

今作はコンセプトアルバムの趣を持った作品である。自分の中にいる子供と大人のせめぎ合いや、少年が大人になっていく過程を描いた作品と言える。タイトル曲は長女が誕生した頃に作られたという。山下にとって長女の誕生はプライベートな要素として非常に大きな意味を持っていたようだ。レコーディング機材や自らの体調面の問題で制作には苦労したものの、作品自体には何ら不満が無いという。


「新・東京ラプソディー」は今作発売後にシングルカットされた曲。TBSの「東京ハーフマラソン」の中継のテーマソングに起用された。「新」は「ネオ」と読む。昭和初期の文化への共鳴を現代を生きている山下自身と照らし合わせて表現しようと思って作られたという。コーダには「東京ラプソディー」の一節が組み込まれている。独特なシンセのリフが特徴的なポップナンバー。シンセとファンキーなベースラインやタイトなドラムとの絡みがとても心地良い。デジタルと生音とのバランスが取れたサウンドと言える。間奏のトランペットソロも印象的。歌詞は少年時代の思い出が描かれたもの。夏休みの終わりの時期を想起させる。とにかく蒸し暑く、気だるい夏の午後の光景が浮かんでくる。 聴き手をこのアルバムの世界に引き込むようなイメージの曲であり、オープニングにふさわしい存在と言える。


「ゲット・バック・イン・ラブ-Get Back In Love-」は先行シングル曲。TBS系ドラマ『海岸物語 昔みたいに…』の主題歌に起用された。実に「RIDE ON TIME」以来7年振りとなるシングルトップ10入りを果たした。元々鈴木雅之のアルバム用に書いたが、鈴木のディレクターから「この曲は自分でやった方がいい」と勧められたという経緯がある。山下のスタッフは当初、バラードをシングル化することに批判的だったが、山下は「もう34歳だからバラードでしかヒットは出せない」と主張していたところでドラマのタイアップの依頼が来た。そしてシングル化し、ヒットするに至った。山下は 今作の売上はこの曲のヒットによるものが大きいという旨の発言をしている。
曲は前述の通りのバラード。完成度については山下の自信作らしく、「自分の曲の中でも5本の指に入る出来」と語っている。ピアノが主体となった重厚なサウンドはメロディーの美しさをこれ以上無いほど引き立てている。歌詞は前の恋人との仲を取り戻そうとする男性が描かれている。真っ直ぐな想いが表現されている。じっくりと歌い込むようなボーカルも素晴らしい。山下達郎の代表曲というとあまり名前が挙がらない印象があるが、大好きな曲である。



「The Girl In White-ザ・ガール・イン・ホワイト-」は今作発売後にシングルカットされた「新・東京ラプソディー」のC/W曲。サントリーのウイスキー「サントリーホワイト」のCMソングのために、アメリカのア・カペラグループの14カラット・ソウルに書き下ろした曲のセルフカバー。14カラット・ソウル側でもシングル化されている。山下達郎の奥義と言える多重コーラスが効果的に使われたポップナンバー。サウンドは山下自身によるギターとサックスソロ以外は全て打ち込みによるもの。作詞はALAN O'DAYが担当したため、全編英語詞。「Girl In White」というフレーズはサントリー側からの指定だったようだ。歌詞とメロディーが一体となって進んでいく感じが心地良い。山下達郎の音楽のルーツをうかがい知れるような曲だと思う。


「寒い夏」はAOR色の強い曲。ミディアムテンポの落ち着いたバラードナンバー。ストリングス以外の全ての演奏はシンセを活用しつつ山下自ら行なっている。そのためか、他の曲とは違ったグルーヴ感がある。作詞は竹内まりやが担当した。作詞に苦労したためお願いしたようだ。恋人と別れた男性が主人公で、後悔の念が伝わってくるような繊細な描写がされている。恐らく、青春時代の恋を回想しているのだろう。そのためか、どことなく懐かしさも感じさせる。他の曲と比べると地味ではあるが引き込まれるバラードである。


「踊ろよ、フィッシュ」は先行シングル曲。1987年の「全日空スカイホリデー・スポーツリゾート沖縄キャンペーン」のテーマソングに起用されたほか、2014年にはスバルの「インプレッサ」、2015年には同じくスバルの「インプレッサハイブリッド」のCMソングに起用された。「夏だ、海だ、タツローだ!」路線の最後と言えるサマーソング。「山下達郎の夏向けのヒット曲を再び出そう」というプロジェクトチームがスタッフで組まれて作られたという。相当に張り切って作られたが、売上はあまり良いと言えない結果に終わった。山下は「スタッフは何とかこの曲をヒットさせようとしていたんだけど、僕一人だけ妙にクールだった」と述懐している。
曲自体は跳ね上がるようなメロディーが心地良いポップな曲。アルバムバージョンで収録された。生音もそこそこに、シンセを派手に使ったサウンドが展開されている。あまりにも凝りすぎたためにライブでは再現できないらしい。歌詞は語感を重視したような印象のもの。意味はあまり分からないが、とりあえずノリが良くて楽しそうな感じ。しかし、制作時に山下達郎とスタッフの間に齟齬があったことを知ってしまってから、そのノリの良さもどこか虚しく感じるようになってしまった。何となく無理をしている印象が否めない。


「ルミネッセンス-Luminescence-」は重厚なファンクナンバー。LPだとこの曲がB面の1曲目である。サウンドはシンセが前面に出ている。ギター、ベース、ドラムといった基本的な楽器は生音で演奏されている。かなり音の数が多い印象がある。サウンドについてはジミー・ジャム&テリー・ルイスの影響を受けたようだ。歌詞は星座や宇宙がテーマとなった壮大なもの。早朝に犬を散歩させていた時に、夏なのにオリオン座が見えたという出来事に発想を得たという。「神々よ集まれ 讃えよこの愛を」という歌詞をはじめ、今の言葉だと「中二病」と表現したくなる詞世界である。アルバム全体を通して聴いていくと、 この曲の壮大さに飲み込まれるような感覚がある。


「マーマレイド・グッドバイ-Marmalade Goodbye-」はミディアムテンポのファンクナンバー。1988年のホンダ「インテグラ」のCMソングのために作られた。重いグルーヴのあるサウンドが展開されているが、それでもサビはとてもポップでキャッチー。サウンドはベースとシンセが前面に出ている。後半からはサックスソロが曲を彩っている。ライブだとこの曲のグルーヴを出すことができず、何度も挑戦したが結局断念したという。歌詞は山下曰く「一種のホーボー・ソング」とのこと。恋人に別れを告げて旅に出る少年が描かれている。少年が成長して大人になる過程も描かれているように感じる。聴いていると主人公の少年になったかのような感覚に襲われる。「走り出すのさ Baby 心のままに」と高らかに歌い上げるサビは聴く度に鳥肌が立ってしまう。サウンド、メロディー、歌詞、ボーカルのどれを取っても素晴らしく、管理人の中では山下達郎の楽曲単位での最高傑作に入ってくる。


「蒼氓」はゴスペルの影響を受けた厳かなバラードナンバー。JACCSカード『「由佳と和也」編』のCMソング、ゲーム『龍が如く6 命の詩。』の主題歌に起用された。後にベスト盤にも収録されているので、アルバム曲ながら比較的著名だと思われる。エンディングのコーラスは山下と竹内まりや、桑田佳祐と原由子が参加した。サウンドは独特なシンセのリフが特徴的。その後ろを固める盤石なバンドサウンドにも隙がない。歌詞は無名性、匿名性を賛美するような内容。これは山下自身の考えが強く現れたものである。歌詞全体としてはキリスト教的な思想が反映されていると言える。山下達郎は幼少期にカトリック系の幼稚園に通っていたのでキリスト教が身近にあったという。荘厳な雰囲気に包まれた曲ではあるが、優しさにも溢れている。 山下達郎の音楽への姿勢そのものを表現したような曲だと思う。


「僕の中の少年」は今作のラストを飾るタイトル曲。1986年のホンダ「インテグラ」のCMソングに起用された。ミディアムテンポのポップナンバー。全ての楽器をシンセを使いながら山下自ら演奏している。シンセとギターサウンドが前面に出たサウンドが展開されている。暖かみのある優しいサウンドである。歌詞は山下曰く「少年性との決別」がテーマだという。自分の中にある少年性が子供に受け継がれていく…という輪廻が描かれている。爽やかな曲調に乗せられる歌詞はどこか切ない感じ。「自分の中にいる、子供と大人のせめぎ合い」という今作のテーマを象徴するような詞世界となっている。この曲最大の聴きどころはコーダ。シンセとドラムロールが絡むサウンドなのだが、このアルバム中の物語全てを総括するような壮大さと美しさがある。


ヒット作なので中古屋ではそこそこ見かける。山下達郎の作品の中では比較的安価に入手できる方の作品だろう。コンセプトアルバムのような作風のため、全体的な統一感がある。そして、1曲1曲の完成度も素晴らしいものがある。「少年から大人への成長」「少年性の喪失」といったテーマの作風なので、現在青春時代を過ごしているという方にも、父親になったという方にも等しく感動できる要素がある作品だと思う。かなり内省的な作風だが、その雰囲気こそが今作最大の魅力。山下達郎のオリジナルアルバムは全て聴いたわけではないので何とも言えないが、自分が聴いた中だと一番好きなアルバム。

★★★★★