崎谷健次郎
1989-04-21

↑ジャケ写が掲載されていなかったので。それにしてもアクの強いジャケ写である。脂ぎったような雰囲気がある。

【収録曲】
全曲作詞 有木林子
7.作詞 柴山俊之
全曲作曲編曲 崎谷健次郎
9.編曲 崎谷健次郎・武部聡志
10.編曲 崎谷健次郎・鳥山雄司
プロデュース 崎谷健次郎

1.千の扉 ★★★★☆
2.JewelryよりMemory ★★★★★
3.I Wanna Dance ★★★★☆
4.毒のように甘く ★★☆☆☆
5.Till The End Of Time(Remix) ★★★★☆
6.Black Star ★★★☆☆
7.SATELLITE OF LOVE ★★★★☆
8.Close To Me ★★★☆☆
9.風を抱きしめて(Remix) ★★★★★
10.KISS OF LIFE ★★★★☆
11.I Wanna Dance(Step Step Let's Dance Mix) ★★☆☆☆

1989年4月21日発売
ポニーキャニオン
最高位21位 売上約2.7万枚

崎谷健次郎の3rdアルバム。先行シングル「風を抱きしめて」を収録。今作と同日にシングル「I Wanna Dance」がリリースされた。前作「Realism」からは11ヶ月振りのリリースとなった。

崎谷健次郎は1983年にキーボーディスト、1985年に作曲家、1987年にシンガーソングライターとしてデビューし、現在も活動している。プロデューサーとしても活動している。透明感のあるハイトーンボイスが特徴的で、その歌声は崎谷の楽曲の魅力の一つ。崎谷は都会的な雰囲気に溢れたポップスを得意としており、AORに関しては国内での先駆者と言える存在である。他にもファンクやロックの要素を持った曲も得意とする。ハウスミュージックに関しても他のアーティストに先んじて取り入れている。ハウスミュージックを取り入れた日本における最初のヒット曲とされる 斉藤由貴バージョンの「夢の中へ」の編曲及びプロデュースも手がけている。

崎谷がハウスミュージックと出逢ったのは1988年の6月にニューヨークに渡った時だという。当時の崎谷は様々なメディアで「新しい時代のロックのようなもの」と語っていた。それらの影響は12インチシングルとして前作アルバム「Realism」からシングルカットされた「THIS TIME」今作の先行シングル「風を抱きしめて」で顕著に表現されていた。

今作は前述したハウスミュージックやクラブサウンドを全面的に取り入れた作品である。全曲の作編曲、プロデュースを手がけた斉藤由貴の「âge」(アージュ)と同日にリリースされている。斉藤由貴バージョンの「夢の中へ」のシングルとも同日にリリースされている。「âge」もハウスミュージックを前面に出した作品となっているが、セールス的には「âge」の勝利となった。


「千の扉」は今作のオープニング曲。いつもの崎谷健次郎の曲と言った感じのポップな曲なのだが、ハウスミュージックの要素を取り入れたサウンドが展開されている。全面的にシンセが使われ、少し割れたような音のピアノやキレのあるギターのカッティングがその脇を固めている。サビでの崎谷のハイトーンな歌声がこの曲の爽やかさを演出していると言える。歌詞は恋人への想いをストレートに打ち明けているもの。大体普通のラブソングだと捉えられそうなのだが、「許されない恋だとわかっていても」というフレーズが何とも意味深。 曲としては今作の作風を象徴するようなサウンドだと思う。オープニングにふさわしい存在の曲だろう。


「JewelryよりMemory」は跳ね上がるようなメロディーが心地良いポップナンバー。キラキラと輝くようなシンセの音色や、うねうねとしたシンセベースが前面に出ている。シンセに関しては独特なリフが冴え渡っている。ノリの良い曲調やサウンドがたまらない。サビもキャッチーそのもの。歌詞は多幸感溢れるラブソングと言える。歌詞は彼女の誕生日というシチュエーションで展開されている。きらめく宝石よりも輝かしい思い出を大切にしたいという心が描かれており、幸せな雰囲気に満ちている。後追いで聴くとこの曲がシングルではないかと思ってしまうほどである。今作のアルバム曲の中では一番好きな曲。


「I Wanna Dance」は今作と同日にリリースされたシングル曲。サウンドは全編打ち込みによるもので、とてもダンサブルな曲調。今では古臭く感じる程に派手なシンセがサウンドを牽引している。当時の日本の空気すら伝わってきそうなくらい。EVEによる女性コーラスもかなり目立っており、曲のノリの良さを引き立てている。歌詞はタイトル通り、ダンスパーティーを描いたものとなっている。当時のディスコの雰囲気が何となくわかるような歌詞である。サウンドの派手さは今のクラブシーンでも通用すると思う。ハウスミュージック路線の崎谷健次郎を代表するような曲だろう。


「毒のように甘く」は派手なハウスナンバー。シンセと浮遊感のあるエレピが絡むサウンドには独特な中毒性がある。バックではフルートも使われており、曲の中毒性を演出している。サビでも平坦なメロディーであり、終始淡々とした曲調である。歌詞はバーのカウンターを舞台に、そこにいる男女の恋模様を描き出したもの。身体目当ての恋なのだろう。男と女が引き寄せられては、すれ違って別れていく。どことなく生々しい詞世界となっている。タイトル通りの甘ったるさと、毒々しさを兼ね備えた曲である。


「Till The End Of Time(Remix)」は先行シングル「風を抱きしめて」のC/W曲。ここまで派手な曲やダンサブルな曲が並んできたが、この曲はぐっと落ち着かせるようなスローバラードナンバー。温かみのある優しいシンセの音色やシンセによるストリングスが前面に出ている。今では古臭く感じてしまうようなシンセドラムも曲に良い味を出している。歌詞は彼女を励ましている感じのもの。傷ついた心を隠して生きてきた彼女を優しく慰めている。このような誠実な男性像が描かれた曲こそ崎谷健次郎のラブソングの王道だろう。


「Black Star」はシングル「I Wanna Dance」のC/W曲。ブラックコンテンポラリーとハウスミュージックの要素を含んだ曲。サウンドは、浮遊感のあるシンセや力強いビートを刻むシンセドラムが前面に出ている。2番からはギターのカッティングがサウンドを牽引する。崎谷本人による多重コーラスが曲を効果的に盛り上げている。歌詞はメッセージ性の強いもの。「Black Star」は「磨かれてないDiamond」のことらしい。恐らく歌詞の中の「君」を例えているフレーズなのだろう。この曲のようなブラックミュージックを取り込んだ曲も崎谷は得意としている。音楽性の幅広さを実感させるような曲である。


「SATELLITE OF LOVE」はノリの良いポップナンバー。上田浩恵とデュエットしている。今作の中では数少ない、生音が主体となったサウンドが展開されている。キレの良いギターのカッティングやブラスが前面に出たサウンドはファンキーそのもの。上田浩恵のソウルフルな歌声はこの曲の魅力を引き立てている。歌詞は男女の恋の始まりが描かれている。この曲もまた、生々しさを感じさせる詞世界となっている。二人の夜は中々終わらないのだろう。 男女で歌うことにより、歌詞の生々しさや官能性がより強められている印象がある。


「Close To Me」は淡々とした曲調のバラードナンバー。独特なシンセのリフが特徴的なサウンドが展開されている。その後ろをギターが飾っている。崎谷の透明感のあるボーカルがこの曲では特に冴え渡っている印象。音の数が少ないためだろうか?歌詞は甘ったるさすら感じさせるほどに幸せな雰囲気のあるラブソング。「生まれた星の数よりも出会いはあるのに なぜだろうひとつだけ 君が輝いているのさ」という歌詞が顕著。聴いていると恥ずかしくなってしまうような歌詞だが、これくらい突き抜けていた方が潔い。


「風を抱きしめて(Remix)」は先行シングル曲。1992年制作のVシネマ『ファーストラン〜風を抱きしめて〜』の挿入歌に起用された。淡々としているがそれでいて流麗なメロディーが展開されており、とにかく心地良い。柔らかいシンセの音と澄み渡るような美しいピアノの音色の絡みがたまらない。間奏のサックスソロも曲を彩っている。思わずサウンドやメロディーに身を委ねてしまう。歌詞は恋人との別れがテーマになっている。恋人と過ごした日々を振り返りつつ、喪失感や虚無感も感じさせるような歌詞である。 「上質」という言葉を体現したバラードだと思う。数々の名バラードがある崎谷健次郎だが、その中でも特に好きな曲。


「KISS OF LOVE」は今作のタイトル曲。この曲も生音が主体となっている。編曲は崎谷と鳥山雄司との共同で行われた。ギターのカッティングやベース、力強いドラムが前面に出ている。そのような力強いバンドサウンドや崎谷の美しいボーカルが曲に荘厳な雰囲気を与えていると言える。歌詞は恋人と過ごす僅かな時間を描いたもの。遠距離恋愛をしている二人なのだろうか?例え離れていても二人の気持ちは何も変わらない。繊細な心理描写がされた詞世界である。歌詞や曲、アレンジと完成度が高く、実質的なラストを飾るタイトル曲にふさわしい風格がある。


「I Wanna Dance(Step Step Let's Dance Mix)」は「I Wanna Dance」のリミックスバージョン。ボーナストラックのような扱いだろう。元のバージョンもかなりハウスミュージックの要素が強い曲だったが、このバージョンではさらにそれを突き詰めた印象のサウンドとなっている。この曲最大の聴きどころは冒頭に入っている崎谷のセリフ。「ステップステップ、チャチャチャ」というものなのだが、やたらインパクトが強い。この場所以外に置けなかったのだろうが、 「KISS OF LIFE」で終わっていた方が良かったように思えてならない。


あまり売れた作品ではないので中古屋ではたまに見かける程度。ハウスミュージックを突き詰めたような作品となっており、他の作品とは一線を画したような雰囲気がある。後にも先にも同じような作風を持ったアルバムは無い。本格的なハウスミュージックを上手い具合にポップスの範疇としてまとめているので、その手のジャンルに詳しくなくても聴きやすいのが魅力だろう。崎谷健次郎の卓越したメロディーセンスのお陰で聴きやすくなっているというのが正解か。好きな曲はあるのだが、管理人はこの作品には中々馴染めなかった。やはりAORをやっている崎谷健次郎が一番好きである。

★★★★☆