宮本浩次
1996-04-21


【収録曲】
全曲作詞作曲 宮本浩次
全曲編曲        佐久間正英&宮本浩次
7.9.10.編曲    宮本浩次
10.ストリングスアレンジ 重実徹&宮本浩次
プロデュース  佐久間正英&宮本浩次
7.9.10.プロデュース 宮本浩次

1.だんだん ★★★★☆
2.タイトでキュートなヒップがシュールなジョークとムードでテレフォンナンバー ★★★★★
3.Pon Pon Pon ★★★★★
4.九月の雨 ★★★★★
5.A〜ha under the moon ★★★★☆
6.冷たいアイスティー ★★★☆☆
7.ポルサリーノ ★★★☆☆ 
8.いつも二人で ★★★★☆
9.キレイになりたい ★★★★☆
10.八日続きのロカビリー ★★★★☆

1996年4月21日発売
エピックソニー
最高位不明 売上不明

宮本浩次の1stアルバム。先行シングル(デビューシングル)「タイトでキュートなヒップがシュールなジョークとムードでテレフォンナンバー」を収録。今作と同日にシングル「九月の雨」がリリースされた。今作発売後に「A〜ha under the moon」がシングルカットされた。

宮本浩次は1994年に作曲家としてデビューし、1996年にシンガーソングライターとしてデビューした。名前は「みやもとこうじ」と読み、エレファントカシマシのボーカル・宮本浩次(みやもとひろじ)とは別人である。宮本浩次とエレファントカシマシは当時所属していたレコード会社も同じだったので密かに話題になったようだ。博多華丸・大吉の博多大吉が宮本浩次の大ファンということでも知られる。
作曲家としては渡辺美里や宇都宮隆に楽曲提供を行なっている。楽曲提供をする時のクレジットはひらがな表記となっていた。

宮本浩次が提供した曲は1994年にリリースされた渡辺美里の9thアルバム「Baby Faith」に3曲、1996年にリリースされた渡辺美里の10thアルバム「Spirits」に1曲収録されている。全て曲のみの提供だった。宇都宮隆に提供した曲は2001年リリースの6thアルバム「LOVE-iCE」に1曲(作詞作曲)、2003年リリースの8thアルバム「wantok」に1曲(作詞のみ)収録されている。

宮本浩次は卓越したポップセンスを持ったシンガーソングライターである。優しく耳に入ってきて離れなくなってしまうようなポップでキャッチーなメロディーや、独特な言語センスが展開された捻った歌詞が魅力。切なさも感じさせる甘い歌声も魅力の一つ。


「だんだん」は今作のオープニング曲。アコースティックなサウンドが心地良いラブソング。温かみのあるメロディーやサウンドが展開されている。ゆったりとした曲調なのに、サビはキャッチーで耳に残るようなメロディーに仕上がっている。サビ終わりのファルセットは何とも言えない哀愁を感じさせる。歌詞は自己陶酔に浸っているようなイメージのものとなっている。この夏一番の海に二人で行ったのに、何もかもがすれ違ってしまっていることに気付く…という切ないストーリーが繰り広げられている。それだけならただのバラードなのだが、「暮れる九月の空に鳥も君も僕も泣いてる」というサビ終わりの歌詞を始めとして、自己陶酔に耽っているようなフレーズが登場する。 ナルシシズムに溢れた詞世界は宮本浩次の歌詞の王道と言える。オープニングから中々にアクの強い曲だが、とても好きな曲。


「タイトでキュートなヒップがシュールなジョークとムードでテレフォンナンバー」はデビューシングル曲。とても長いタイトルがインパクト抜群だが、リリース当時は日本で一番タイトルが長い曲だったようだ。アコギを掻き鳴らしながら早口で歌われるポップナンバー。賑やかな女性コーラスやシンセによるホーンも曲を楽しげに彩っている。縦横無尽に駆け回るようなメロディーが聴いていて気持ち良い。とにかく早口なボーカルであり、この曲の歌い方に関しては桑田佳祐や岡村靖幸を想起させる。一度も噛まずに歌い切るには中々の苦労を必要とするだろう。歌詞は語感重視な感じで意味が分かりにくいものの、「この娘とやりたい」というような男の欲望を忠実に描いた印象のものとなっている。 この曲を一言で表現するなら「言葉の洪水」と言ったところか。宮本浩次の代表曲と言って良いかもしれないが、この曲は宮本浩次の幅広い音楽性のほんの一部に過ぎない。


「Pon Pon Pon」はフォークソングのテイストを感じさせるバラードナンバー。一切の無駄を削いだようなシンプルなバンドサウンドで聴かせる。繊細かつ透き通るようなアコギの音色が曲を上質なものにしている。しっとりとした曲調なのだが、サビはキャッチーなものとなっている。この曲のようなバラードにこそ宮本浩次の卓越したポップセンスが現れているように感じる。歌詞は高校生時代の恋を振り返ったもの。タイトルのフレーズは歌詞の中に何度も登場するものの、意味は分からない。高校生活の終わりや、夕暮れ時の街の光景をイメージさせるような歌詞は何とも切ない。思い出を愛おしむように、一言一言を丁寧に歌う宮本浩次のボーカルがこの曲の美しさを何よりも演出していると言える。


「九月の雨」は今作と同日にリリースされたシングル曲。ラテンのテイストを感じさせるポップナンバー。フラメンコ風のアコギやハーモニカが前面に出たサウンドをバックに、滑るように歌うボーカルが特徴的。一般的なバンドサウンド以外にもピアニカ、ブズーキ、バイオリンと様々な楽器が使われており、とても賑やかなサウンドとなっている。歌詞はカップルの倦怠期を描いたもの。「風になびく髪の行方など気にならないのです」「待ち合わせの度にどちらかが間に合わないのです」という倦怠期の表現の仕方が絶妙。二人の感情を直接描かないところに驚かされる。そして、「次のクリスマスなんてきっと逢えないだろう」というフレーズで畳みかける。 賑やかで明るいサウンドや曲調にもかかわらず、それに乗せられる歌詞は切なさ溢れるもの。このギャップが魅力的。この曲は特に歌詞が冴え渡っている印象がある。


「A〜ha under the moon」は今作発売後にシングルカットされた曲。爽やかながらも切なさも感じさせるメロディーが心地良いポップナンバー。バンドサウンドが主体となっているが、ところどころでカズーがサウンドにアクセントをつけている。歌詞はクリスマスが近づいた金曜日の夜を舞台に、彼女と夜を過ごす光景を描いたもの。恋人同士幸せな光景が描かれている部分が多々あるが、実際は「〜したい」が最後についている。つまりは全て願望であり、妄想。まるで岡村靖幸の楽曲の歌詞のようなのだが、この情けない歌詞がたまらない。突き抜けるような明るさを持った曲なので、今作の収録曲の中からシングルカットするなら確かにこの曲が適任だったと思う。


「冷たいアイスティー」は今作と同日にリリースされたシングル「九月の雨」のC/W曲。ピアノが主体となった美しいバラードナンバー。ピアノは宮本浩次自ら演奏している。アコギやハーモニカだけでなく、ピアノも演奏できるようだ。ピアノはメロディーに表情をつけるような音色であり、曲の美しさを限りなく引き立てている。歌詞は女性目線で展開されている。朝が舞台となっているが、恋人はおはようとも言わずに、無口。今までのような明るさが戻らないなら、ひとりでいる方がいいのかもしれない…という女性の揺れる心が語られている。意味が重複しているのではと思うようなタイトルが特徴的だが、歌詞の中にも登場している。長尺になってしまった印象が否めないものの、心に沁みるような繊細なバラードだと思う。


「ポルサリーノ」はカントリーテイストのポップナンバー。「ボルサリーノ」とタイトルを間違われることがあるが、「ポ」が正解である。ピアノ、バイオリン、アコギなど様々な楽器が使われた楽しげなサウンドが展開されている。跳ね上がるようなメロディーは聴いていると心が晴れるような感覚がある。サビでのコーラスとの掛け合いもこの曲の聴きどころの一つ。歌詞はポルサリーノとの心の交流が描かれている。「ポルサリーノは異国の踊り子」らしい。ポルサリーノの踊りは街を明るく彩っている。見たこともないポルサリーノや異国の街並みに想いを馳せてしまうような曲である。


「いつも二人で」はデビューシングル「タイトでキュートなヒップがシュールなジョークとムードでテレフォンナンバー」のC/W曲。シャッフルビートのポップナンバー。ここまででも多彩な音楽性を披露してきたが、この曲はジャズやR&Bといったブラックミュージックのテイストを感じさせる。宮本浩次の音楽性の幅広さには圧倒されるばかり。歌詞は彼女への想いが語られたもの。秋の日の夜を舞台にしている。気ままな二人のままで、これからもうまくやっていきたい…という主人公の「最後の願い」が描かれている。歌詞や曲調などA面曲からの落差が半端ではないが、この曲はこの曲で好き。


「キレイになりたい」は今作のタイトル曲。「タイトでキュートなヒップがシュールなジョークとムードでテレフォンナンバー」を彷彿とさせる、早口で歌われたポップナンバー。むしろこの曲の方が早口である。聴いていると「よく舌が回るなあ…」と圧倒されること間違いなし。この曲をまともに歌える人はあまりいないと思う。どこから声を出しているのか?と思ってしまうような独特なコーラスもインパクト抜群。歌詞はタイトル通り「キレイになりたい」という人の想いが語られたもの。歌詞の中には沢山の言葉遊びが張り巡らされており、それも楽しみの一つ。タイトル曲にふさわしい存在感とインパクトを持った曲だと思う。


「八日続きのロカビリー」は今作のラストを飾る曲。ラストはシンプルなポップナンバー。バンドサウンドが主体となったサウンドには隙がない。ところどころでピアノやストリングスが使われており、曲を効果的に盛り上げている。歌詞は夏の終わりを舞台に、過ぎ去った恋を振り返っているもの。まるでサザンのようなテーマだが、そちらとはまた違った趣がある。ビーチの光景が浮かんでくるような繊細な情景描写が展開されている。曲調やサウンドの爽やかさと切ない歌詞とのギャップに引き込まれる。中々にとっ散らかったアルバムではあるが、この曲がラストに据えられたことでまとまりができたように感じる。「終わり良ければ全て良し」とはこのことか。


あまり売れた作品ではないので中古屋ではたまに見かける程度。宮本浩次の多彩な音楽性をまざまざと思い知らされるような作品となっている。歌詞やメロディーに於いても優れた才能が遺憾無く発揮されており、「七色のポップアルバム」という言葉が似合うような作品である。王道なポップスから一筋縄ではいかないような捻くれたポップスまで幅広く対応しており、何度聴いても新鮮な感覚で聴けるのは今作の大きな魅力。今作を聴くと、宮本浩次はもっと評価されても良いのではないかと思うこと間違い無し。知る人ぞ知る存在として扱われるのは心底残念。 このまま中古屋の片隅に埋もれてしまうのはあまりにも勿体無い。この記事を読んで興味を持っていただいたら是非とも今作を救い出して聴いてほしい。出費や手間以上の満足があるはず。

★★★★★