【収録曲】
全曲作詞作曲編曲 槇原敬之
1.6.8.9.ストリングスアレンジ Tomi Yo
プロデュース        槇原敬之


1.introduction 省略
2.祈りの歌が聞こえてくる ★★★★☆
3.Dance with me. ★★★★★
4.GREEN DAYS ★★★★★
5.カイト ★★★★☆

6.Love was sleeping. ★★★☆☆
7.lose no time ★★★☆☆

8.赤いマフラー ★★★★☆
9.Anywhere ★★★★☆
10.Circle of Rainbow ★★★☆☆
11.五つの文字 ★★★☆☆


2007年11月7日発売
J-more(エイベックス)
最高位2位 売上9.7万枚


槇原敬之の15thアルバム。先行シングル「GREEN DAYS」を収録。今作発売後に「赤いマフラー」が新曲「お元気で!」との両A面でシングルカットされた。前作「LIFE IN DOWNTOWN」からは約1年8ヶ月振りのリリースとなった。


今作はエイベックスに移籍してから最初のアルバム。ワーナー→ソニー→ワーナー→東芝EMI→エイベックスと延べ5社目となっている。「五つの文字」は移籍前の2006年にシングル化される予定だったものの、移籍に伴って延期となってしまった。結局この曲がシングル化されることは無かった。


少し長めなタイトルが印象的だが、これは槇原が飼っていた愛犬の1匹が亡くなってしまったことに影響を受けているという。アルバムのクレジットのスペシャルサンクス欄でも一番最後に亡くなってしまった愛犬の名前が記載されている。どことなく昭和な雰囲気漂うジャケ写の通り、全体的に明るい作風となっている。



「introduction」は今作のオープニングを飾るインスト。後の「Dawn Over The Clover Field」を彷彿とさせる、ケルトの要素を取り入れたサウンドが展開されている。ストリングスも使われ、とても上質な音作りがされている印象。アルバムのオープニングをインストで飾るのは実に1999年リリースの「Cicada」以来。このような始まり方はアルバムの世界に聴き手を引き込むようで、ワクワクする。


「祈りの歌が聞こえてくる」は実質的なオープニング曲。温かみのあるポップナンバー。アコギやカスタネットのような音が前面に出ており、フラメンコのようなテイストを感じさせるサウンドが特徴。歌詞はタイトル通り歌うことについて語られている。「歌は誰の唇にも止まる」というフレーズが何度も登場するのが印象的。そこから発展して、何気なく言った一言で相手を傷つけてしまうことの恐ろしさについても語られている。様々なメッセージが詰め込まれている感じの歌詞となっている。とはいえ美しいメロディーのお陰でスッと入ってくる。 この頃の槇原敬之の「歌」への姿勢を表現した曲だと思う。


「Dance with me.」は槇原敬之らしい爽やかなポップナンバー。テレビ東京系「世界卓球2008」のテーマソングに起用された。打ち込みによるホーンが効果的に使われており、キラキラと輝くような派手な音作りがされている。マリンバやヴィブラフォンも使われている。歌詞はタイトル通りダンスについて描かれている。年を取っても恋人と手を取り合って踊っていたい…という願いや、いつでも自分を支えてくれる恋人への感謝も語られており、槇原にとっては久し振りのラブソングと言える。後追いで聴くとシングル曲では?と思ってしまったほどポップでキャッチー。サビでは槇原の美しい高音を味わえる。それも曲のポップさを演出していると思う。



「GREEN DAYS」は先行シングル曲。フジテレビ系ドラマ『牛に願いを Love&Farm』の主題歌に起用された。実に1994年リリースの「2つの願い」以来となるシングルトップ3入りを果たした。タイトルは「青春」を意味する。槇原敬之が青春をテーマにして描いたこの曲は、ど王道と言いたくなるような爽やかなポップナンバー。槇原らしいキャッチーなメロディーも冴え渡っている印象。歌詞は前述した通り青春をテーマにしている。大人となった人間の視点で、青春を見つめて描かれている印象がある。サビでは「わからない事だらけでもホントの事だけ探していこう」と高らかに歌い上げている。大人が若者に語りかけているようなイメージの曲。「ホントの事」とは何?と思ってしまうが、それは聴き手の解釈に委ねるということだろうか。近年の曲の中ではかなりヒット性の高い曲だと思う。
管理人にとっては「もう恋なんてしない」の次に聴いた槇原敬之の曲がこの曲なので思い入れが深い。タイアップ相手のドラマの内容は全く覚えていなかったのにこの曲だけはしっかり覚えていた。


「カイト」は軽やかなメロディーが心地良いポップナンバー。紳士服のAOKIのCMソングに起用された。ギターや打ち込みによるベースが前面に出ており、今作の中では比較的重厚な、ロック色の強いサウンドとなっている。開放感のあるサビのメロディーは絶品。どこまでも伸びていくような槇原の歌声も素晴らしい。歌詞は「君」への応援歌と解釈できるようなもの。新たな挑戦をしようとする人への応援歌ともとれると思う。そのような人たちを高く高くあがっていくカイトに例えている。カイトが違う方に行かないように自分は糸を持っていよう…と語りかけている。 この曲のような聴き手に寄り添う音楽は槇原敬之ならではと言ったところ。


「Love was sleeping.」はここまでの流れをグッと落ち着けるようなバラードナンバー。NTTドコモ東北のCMソングに起用された。ピアノとアコギが主体となったシンプルなサウンドで聴かせる。ストリングスも効果的に使われており、曲に荘厳な印象を与えている。歌詞は相手の優しさに気づけなかった男性の後悔が語られたもの。自分が必要だと思わなかったものを必要だと思った時は愛が悲しみに変わる時…というメッセージが込められている。「全ては儚い」というフレーズはこの曲の世界観を象徴するようなものだと感じる。誰もがこの曲の主人公と同じような後悔を繰り返すと思う。少し重苦しく感じてしまう曲だが、メロディーや歌声の美しさに救われる感じがある。


「lose no time」はテクノポップ色の強い曲。槇原敬之はYMOの影響を強く受けたことでも知られているが、それからの影響を前面に出したようなサウンドとなっている。中田ヤスタカの曲のようにも感じられる。ボーカルも全編加工されている。歌詞は21世紀について描かれている。人類が迎えた21世紀は「愛の未来そのもの」ではなく、そのような未来を築くために与えられた時間である…という主張が語られている。そこから発展して世界平和についても語られている。かなりスケールの大きな歌詞である。スケールが大き過ぎて中々共感しにくい。しかし、サウンドについてはかなり中毒性がある。槇原敬之は長らく打ち込み主体で曲作りをしてきただけあって、このような曲をやっても全く違和感が無い。それは流石。


「赤いマフラー」は今作発売後にシングルカットされた曲。テレビ東京系バラエティ番組『お茶の間の真実・もしかして私だけ!?』のエンディングテーマに起用された。しっとりとした、聴かせるバラードナンバー。切なくも温もりのあるメロディーやサウンドとなっている。歌詞は銀座四丁目の交差点が舞台となっている。赤いマフラーを恋人にあげようと思ったのに、渡せなかった。結局そのマフラーは自分で巻いた…という切ない詞世界が特徴的。かつての「涙のクリスマス」のようだ。恋人たちの光景を想像するが、実は亡くなってしまった愛犬への想いを綴ったものである。その話を聞かないと気づかないほどに緻密に描写されている。槇原敬之の作詞の能力の高さを実感させられる。


「Anywhere」は落ち着いた雰囲気のあるバラードナンバー。この曲でもストリングスが導入されており、曲を美しく彩っている。落ち着いた曲調ではあるが、サビはしっかりとキャッチーなものに仕上げられている。ポップス職人・槇原敬之の実力を感じられる。歌詞は「君のいるこの場所が僕の生きていく場所だ」と語る内容。見慣れた街なのに、一人取り残されてしまったような感覚になってしまっても横には恋人がいる。君がいるならどこだろうと構わない…力強いメッセージが語られている。特に好きな歌詞はラストの 「どんな辛さも幸せにかえながら生きてゆける」というもの。槇原の歌声も相まって、美しさと力強さを併せ持った曲になっていると思う。



「Circle of Rainbow」は壮大な曲調が印象的なバラードナンバー。アフリカの音楽のようなパーカッションやマリンバが使われたサウンドが特徴。今作収録曲の中ではかなり生音が目立っている曲だと思う。大人数によるコーラスも入っており、かなり力強い曲である。歌詞は愛犬への想いが語られている。タイトルはくしゃみをした犬の鼻先に現れた小さな丸い虹のこと。その例えから、「どこか遠くに行かなくても きれいなものや美しいものは この街中に きっと溢れている」と語っている。しかし、「神様 僕らのために素敵な奇跡をありがとう」と歌い上げているのが気になる。そこまで神様を持ち出さなくても良いだろうと思ってしまう。とはいえ、全体としては犬の可愛らしい姿が浮かんでくるような歌詞となっている。槇原敬之の愛犬家ぶりがよくわかる曲という印象。



「五つの文字」は今作のラストを飾る曲。フジテレビ系情報番組『めざにゅ〜』のテーマソングに起用された。作品解説でも書いたように、シングル化される予定だった曲である。朝の番組というタイアップ相手によく合った爽やかなポップナンバー。サビもキャッチーで親しみやすい。歌詞はタイトル通り「五つの文字」について描かれている。何事もなく終わる一日も実は奇跡なのでは?という考えも語られている。何も「あたりまえ」に見えるようなことは無いと歌い上げている。五つの文字とは「あたりまえ」ではなく「ありがとう」である。この曲でも「今日という日は神様からの素敵な贈り物」と神様を持ち出している。確かにそうかもしれないが、自分を支えてくれる身近な人への感謝を込めた方が良かったのでは?と思ってしまってならない。その点はどうしても違和感がある。


近年の作品の中ではそこそこ売れた方なので中古屋ではよく見かける。前述した通り、全体的に明るい雰囲気が漂っている作品である。この頃の槇原敬之の歌詞は人生についての教訓が語られているのが定番だったが、それは前作ほどではないが今作でも目立っている。今作では「神様」というフレーズがよく登場している印象。とはいえ明るい曲が多めなのでそこまで気にはならない。槇原敬之らしい優しく温かみのある曲が多く、その点では比較的取っつきやすいと思う。このアルバムは前半の流れがとても好き。


★★★★☆