横山輝一
1993-10-01
(再発盤)




【収録曲】
1.4.5.7.8.10.作詞 横山輝一
2.3.9.作詞 神沢礼江
6.作詞 許瑛子
11.作詞 竹花いち子
全曲作曲 横山輝一
全曲編曲 松浦晃久
2.6.編曲 笹岡知之
プロデュース 五十嵐弘之


1.Freedom ★★★★☆
2.Rainy Day ★★★★★

3.恋をしようぜ ★★★★☆
4.Husky Heart ★★★★☆
5.Just Moonlight ★★★☆☆

6.Space of Love ★★★☆☆
7.Girl ★★★★☆

8.Get It On ★★★☆☆
9.想い出のDown Town Stardust Band ★★★★☆
10.My Love ★★★★☆
11.Falling In Love ★★★★★


1987年5月1日発売
1993年10月1日再発
ファンハウス
最高位不明 売上不明


横山輝一の2ndアルバム。先行シングル「Husky Heart」「Rainy Day」を収録。今作発売後に「Freedom」がシングル「Lullaby In Blue」のC/W曲としてシングルカットされた。前作「I LIKE IT」からは11ヶ月振りのリリースとなった。


横山輝一は1986年にファンハウスからデビューしたシンガーソングライターである。デビュー前の1981年にCBSソニーの「SDオーディション」で最優秀アーティスト賞を受賞しているが、何故その直後にデビューできなかったかは不明。もしそこでデビューしていれば同じオーディションで最優秀アーティスト賞を受賞した大江千里と同期だったと思われる。


横山輝一は1989年に一旦活動を休止して渡米し、音楽を学んだ。1991年にポリスターに移籍して活動を再開した。そして14thシングル「Lovin' You」が最大ヒットを記録した。その後はシンガーソングライターのみならず、作曲家やプロデューサーとしても活動している。恐らく提供した中で一番著名なのはMAXの「Ride on time」だろう。現在ではファンクラブを中心にライブ活動や作品のリリースを行なっている。


横山輝一は圧倒的な歌唱力や高い作詞作曲編曲の能力を持つアーティストである。180cmという長身を生かしたダンスにも定評があった。ブラックミュージックからの影響を強く感じさせるポップスを得意としている。ファンハウス所属時代(1986年〜1989年)はブラックミュージック色がそこまで強くはなく、王道なポップスがメインだった。ポリスター移籍後は自らで編曲やプロデュースも手掛けるようになり、それに伴ってブラックミュージック色の強い曲が増えた。中でも一番得意としていたのはニュージャックスウィング(NJS)だろう。ファンクにヒップホップやソウル、ゴスペルを混ぜたジャンルである。


「Freedom」は今作発売後に「Lullaby In Blue」のC/W曲としてシングルカットされた曲。シンセが多用されたポップナンバー。独特なビートを刻むシンセドラムはいかにも80年代という雰囲気を感じさせる。しかし、そのパワフルなシンセドラムが曲に勢いの良さを与えている。歌詞は「二番目」の男というポジションを脱却したいと願う男性の心情を描いたもの。歌詞全体から主人公の男性の誠実さが伝わってくる。「二番目じゃ悲しいね ダミーではいたくないんだ」というフレーズには男性の心情がよく込められているように感じる。 曲全体としては力強さとポップでキャッチーな要素を併せ持ったものとなっており、オープニングにふさわしいイメージの曲だと思う。


「Rainy Day」は先行シングル曲。フュージョンの要素を取り入れたポップナンバー。イントロでの豪華なサックスからこの曲に引き込まれることだろう。シンセベースのうねうねしたベースラインや曲を華やかに彩る女性コーラスなど、どことなく角松敏生の楽曲を彷彿とさせる。「Rainy Day」というタイトルながら、曲調やサウンドだけなら海岸線や晴れ渡る空を想像してしまうくらい。歌詞はポップな曲調とは裏腹に、かなり切ないものとなっている。彼女と別れた男性の心情が描かれている。作詞は横山輝一本人ではなく女性作詞家の神沢礼江が担当したのだが、男らしい哀愁に満ちた詞世界を作り上げている。 どの要素を取っても管理人の好きな曲で、ファンハウス時代の横山輝一を代表する名曲だと思っている。むしろ横山輝一のキャリアを通してもかなり好きな曲に入ってくる。



「恋をしようぜ」はここまでの流れを落ち着けるようなバラードナンバー。都会的でクールな雰囲気を持ったメロディーやサウンドが展開されている。力強いベースラインやシリアスな雰囲気を持ったシンセの音色が特徴的で、曲のクールなイメージを演出している。とはいえサビはかなりキャッチーなものとなっている。歌詞はタイトル通り「恋をしようぜ」と提案するもの。微妙な関係の男女が恋愛関係に発展するまでを切り取ったような歌詞である。この曲の聴きどころはやはり横山輝一のボーカル。爽やかで伸びのある歌声はとても格好良く、曲の都会的な世界観を上手く表現している印象。


「Husky Heart」は先行シングル曲。これまでのポップな曲というイメージを覆すようなロック色の強い曲。イントロから歪んだギターサウンドが炸裂しており、その時点で今までの楽曲との違いを打ち出しているかのよう。そのようなギターサウンドとシンセの無機質な音色との対比が面白いサウンドとなっている。ところどころで聴けるキレの良いギターのカッティングも心地良い。このようなサウンドでもやはりサビはすぐに耳に残るようなものである。歌詞はどことなくアダルトな雰囲気を感じさせるもの。彼女を襲おうとしたら未遂に終わった…というような光景を描いたものだと解釈している。サウンドや歌詞共に、これまでの曲との違いが前面に押し出されていると思う。


「Just Moonlight」はAORテイストの強いバラードナンバー。哀愁漂うメロディーやサウンドが展開されている。サウンドはシンセやピアノが主体となっており、音の数は他の曲と比べると少なめ。間奏の流麗なピアノソロは曲に厳かな雰囲気を与えている。歌詞は彼女にフラれてしまった男性の心情が描かれたもの。「夢のため愛を失くして 愛のため夢を失くした 口癖で呼んだ名前 虚しく響くだけ」というラストの歌詞は聴いていて胸が締め付けられそうになる。作詞家・横山輝一の実力を思い知らされる。横山輝一の一言一言を丁寧に歌い上げるボーカルも曲の切なさを限りなく引き出している。どこまでも伸びるような歌声は思わず聴き惚れてしまうことだろう。


「Space of Love」は爽やかなポップナンバー。シンセが多用されたサウンドは少々時代性を感じさせるが、それが良い。ポップなメロディーをキラキラと輝かせるようなシンセの音色である。流れていくようなメロディーは聴いていてとても心地良い。歌詞はタイトル通り宇宙をイメージさせるようなフレーズが並んだものとなっている。「宇宙」「無重力」「土星(ほし)」「流星」「星屑」「銀河の海」といったフレーズが顕著。そのようなフレーズをちりばめたラブソングとなっている。作詞は許瑛子という作詞家が担当したが、ユニークな詞世界になっていて面白いと思う。



「Girl」は先行シングル「Husky Heart」のC/W曲。壮大なバラードナンバー。AOR色の強いサウンドやメロディーなのだが、サビではドラマチックな展開を見せる。サウンドは打ち込みとギターが主体となっているのだが、とても力強い。パワフルなシンセドラムやギターのせいだろう。歌詞は彼女と別れた男性の心を描いたもの。後悔や虚無感に溢れた詞世界となっており、何とも切ない。「そう悪いのは僕の方さ」というフレーズが印象的。この曲ほど壮大なバラードは横山輝一のキャリアを通じても少ない印象。後にリリースされたベスト盤ではライブ音源が収録されているが、そちらも素晴らしい。気に入ったら是非そちらも聴いていただきたい。


「Get It On」は今作の中では数少ない、ダンサブルなポップナンバー。今聴くと古臭さを感じてしまうようなシンセドラムが前面に出ている。力強いギターサウンドも前面に出ており、サウンドは比較的ロック色の強いものとなっている。伸びのある横山輝一のボーカルが冴え渡っており、曲の解放感を演出している。歌詞は英語詞が多用されており、どこかスカしたイメージがある。数少ない日本語詞である「本気で賭けてみる 心は嘘じゃない」というフレーズが好き。この曲に関しては、ブラックミュージックを突き詰めていく後の横山輝一の姿を暗示しているかのよう。


「想い出のDown Town Stardust Band」は爽やかなポップロックナンバー。タイトル通りバンドサウンドが主体となったサウンドになっている。シンセによるブラスも曲を賑やかなものにしている。しかし、ドラムはやはりシンセによるもの。この曲くらいは全て生音でも良いと思うのだが…力強い女性コーラスがこの曲の爽やかさを引き立てている。歌詞は学生時代の女友達に再会する様子を描いたもの。今作の中では数少ない、恋愛の色が薄い歌詞となっている。愛情というよりは友情の方が前面に出ている印象がある。タイトルの「Down Town Stardust Band」というのは主人公の男性が参加しているバンドのことだと思われる。この曲のような爽やかなポップスはファンハウス時代の楽曲の王道と言えるだろう。


「My Love」はしっとりと聴かせるバラードナンバー。イントロ無しでいきなり始まる。アコギの弾き語りが主体となったシンプルなサウンドで聴かせる。あとはところどころでシンセが使われているくらい。そのようなシンプルなサウンドは横山輝一の歌声の魅力を限りなく引き出している。歌詞は恋人への想いをストレートに語ったもの。今作は失恋ものが多い印象だが、この曲は幸せなラブソングである。「今はまだ約束も出来ないこの僕だけど 信じてる明日こそ 二人のために きっと夢はひとつになるさ」という歌詞が印象的。誠実な男性像を描いたラブソングは80〜90年代の男性シンガーソングライターの王道と言えるかもしれない。


「Falling In Love」は先行シングル「Rainy Day」のC/W曲。AOR色の強いミディアムバラードナンバー。哀愁の漂うメロディーは聴きごたえがある。冷たい雰囲気を持ったキーボードの音色がたまらない。間奏でのサックスソロは絶品。女性コーラスも曲の美しさを引き立てている。歌詞は英語詞が多め。作詞は竹花いち子が担当した。タイトル通り、ある女性に恋に落ちた瞬間を描いたような詞世界である。「火のついた心なら見せればいいのに」という歌い出しのフレーズが印象的。この曲はとにかくメロディーやサウンドに魅かれる。評価が高めだが、それらが管理人の好みなので。



あまり売れた作品ではないので中古屋ではたまに見かける程度。横山輝一=ブラックミュージックというイメージが強いが、今作は全編通してポップな曲が並んでいる。どちらかというとシティポップ色の強い曲が多め。この頃はまだ音楽性を模索していた時期だったのかもしれない。次作では若干ブラックミュージック色が強くなる。一曲一曲のカラーが強いため、全体的にとっ散らかっている印象があるが、それでも完成度の高いポップアルバムというのは事実。ファンハウス時代の王道な作風である。


★★★★☆