RAZZ MA TAZZ
1997-08-21


【収録曲】
全曲作詞作曲 RAZZ MA TAZZ
全曲編曲        YU IMAI with RAZZ MA TAZZ
プロデュース RAZZ MA TAZZ・YU IMAI


1.You Are The Only Place ★★★☆☆
2.Regret(Album Mix) ★★★★★
3.LILAC ★★★★★

4.Moonlight Party ★★★★☆
5.あじさい ★★★★★
6.Wall ★★★☆☆
7.紙ヒコーキ ★★★★☆
8.郷愁 ★★★☆☆

9.結晶 ★★★★★
10.orion(Album Mix) ★★★★★

11.PURE-君が透明であるように- ★★★☆☆


1997年8月21日発売
フォーライフ
最高位15位 売上2.9万枚


RAZZ MA TAZZの4thアルバム。先行シングル「Orion」「あじさい」「Regret」を収録。前作「PRESENT」からは1年3ヶ月振りのリリースとなった。デジパック仕様。


RAZZ MA TAZZはボーカル担当の阿久延博、アコースティックギター担当でリーダーの横山達郎、ギター担当の三木拓次、ベース担当の入江昌哲、ドラムス担当の三村隆史からなるバンド。1989年に結成され、1994年にメジャーデビュー、1999年に解散した。独特なバンド名が印象的だが、これは横山達郎がジャズ雑誌から見つけた言葉。「輝かしい」「はつらつとした」というような意味があるようだ。作詞は阿久延博が、作曲は三木拓次が主に担当していた。
解散後は俳優としての活動を始めた入江昌哲以外は音楽活動を続けていた。しかし、2002年に三木拓次が膵臓癌で亡くなったため、5人での活動再開は叶わなくなってしまった。33歳というあまりにも早過ぎる死だった。


RAZZ MA TAZZの楽曲の魅力は爽やかさと切なさを併せ持ったポップなラブソングである。それは三木拓次が紡いだメロディーの功績が大きいと思う。阿久延博による「青春」をイメージさせるようなボーカルや詞世界も大きな魅力。


今作は前作と同様に今井裕が編曲及びプロデュースに参加した。何故かは分からないが、全曲の作詞作曲クレジットがバンドの名義となっているのが特徴。このような表記がされているのは他の作品には無い。次作では今まで通り阿久延博や三木拓次といったメンバーの名前で表記されている。


「You Are The Only Place」は今作のオープニング曲。アコギが主体となったフォークソング色の強い曲である。1番はアコギのみで、それ以降はドラムなども入るが、全体的に音の数は少なめでかなりシンプル。どこか暖かみを感じさせるメロディーはとても聴き心地が良い。サビではメンバーによるコーラスが入っており、少々危なかっしいながらも力強い声を聴かせてくれる。歌詞は冬を舞台にしたラブソング。彼女のことを「どこにいても そばにある 世界中でたったひとつだけの場所」と例えているのが特徴的。寒い冬でも乗り越えていけそうな暖かさがある。オープニングというには少し地味な印象だが、聴き手の気持ちを安らげてくれるような曲である。


「Regret(Album Mix)」は先行シングル曲。NHK-FMの音楽番組『ミュージック・スクエア』のオープニングテーマに起用された。これまでのシングル曲に比べると、ロック色が強くなったという印象のサウンドが展開されている。とはいえメロディー自体はポップで爽やかそのもの。どこかシリアスな雰囲気を持ったイントロのギターサウンドからこの曲に引き込まれることだろう。歌詞はネガティブなイメージのものとなっている。彼女のことを傷つけながら生きているのではないかと自分を疑っている。「自分らしく生きてゆくこと それが出来ないのさ 闇に照らされた Regret」というフレーズは特にネガティブだと感じる。曲調や歌詞の内容など、これまでのRAZZ MA TAZZのシングル曲とは違った雰囲気があるが、違和感無く聴けると思う。


「LILAC」はアコースティックなサウンドが心地良いバラードナンバー。今作発売後にリリースされたシングル「Room」のC/W曲にはこの曲の別アレンジバージョンが収録されている。清涼感溢れるアコギの音色が前面に出たサウンドは爽やかかつ心の暖まるようなものである。ポップなのに切なさを感じさせるメロディーが展開されているが、このようなメロディーはRAZZ MA TAZZの奥義と言っていいだろう。他の曲と比べるとファルセットが多用されたボーカルも特徴的。歌詞は彼女との別れを決めた男性の気持ちを描いたもの。二人で行く最後の旅は海だった。ライラックの花は二人の旅を優しく見守っているのだろう。「二人の写真を 小さなビンに詰めて 最後に波に返そう 永遠に漂え!」というフレーズが印象的。マンガや映画でもそうは無いようなキザな表現だが、このような歌詞も曲を鮮やかに彩る大切な要素となっている。 全編通して情景がはっきりと浮かんでくるような繊細な描写がされた歌詞となっており、聴いた人の誰もが主人公になったような感覚で聴けると思う。この曲はRAZZ MA TAZZの名バラードの一つだと思っている。


「Moonlight Party」は爽やかなポップロックナンバー。アコギとエレキギターとが絶妙なバランスで絡み合ったサウンドはRAZZ MA TAZZにしか作り出せない曲の世界を作り出している。透き通るような音色を聴かせてくれるエレキギターは彼らの楽曲の大きな魅力となっていると思う。ポップでキャッチーなメロディーは聴いていると思わず身体を動かしたくなってしまう。歌詞は始まろうとしているパーティーについて描かれたもの。彼女と二人で行われるパーティー。楽しそうなイメージなのだが、それでも歌詞はメッセージ性が強い。「正しいことも 嘘もない 名前も血も性もない 無駄も意味もない 過去も未来もない 自分らしく踊れ」という歌詞が好き。阿久延博の哲学的な世界を持った歌詞は聴いていると思わず圧倒されてしまう。ポップな曲にそのような歌詞を乗せるセンスも凄い。


「あじさい」は先行シングル曲。TBS系音楽番組『COUNT DOWN TV』のオープニングテーマに起用された。作詞作曲がバンド名義なのではっきりとは分からないが、シングルの中では唯一の横山達郎による曲とされている。シングルは梅雨時になる少し前にリリースされた。アコースティックなサウンドが心地良いポップナンバー。横山達郎が作曲したためか、他の曲よりも特にアコギが前面に出て聴こえる印象。作曲者は違えど、爽やかでどことなく切なさを持ったメロディーは共通している。歌詞は優しいラブソングとなっている。「愛を育て出した」二人が描かれている。「あじさい」というタイトルからは梅雨を想像してしまうが、梅雨から連想するようなじめじめとした雰囲気は一切無い。RAZZ MA TAZZの代表曲と言っていい存在だろう。三木拓次だけでなく、横山達郎も素晴らしいソングライターだということが分かるはず。


「Wall」はここまでの流れを落ち着けるような、ゆったりとしたロッカバラードナンバー。他の曲と比べると重厚なバンドサウンドで構成されている印象。聴き手の心に優しく沁み渡るようなメロディーがたまらなく心地良い。バンドサウンドはそのようなメロディーの良さを限りなく引き立てている。「Wall」とコーラスが入って始まるサビはかなりインパクトがある。歌詞は彼女との心の隔たりを描いたもの。それは二人にとっての「Wall」と言えるような存在になっている。「まだ 憎しみ合い別れたなら ずっと楽だよ」という歌詞は何とも切ない。聴いていると二人を応援したくなってしまうはず。 切なさ溢れる詞世界はRAZZ MA TAZZの楽曲を構成する大きな要素である。


「紙ヒコーキ」は青春の空気を感じさせるポップナンバー。透明感のあるギターサウンドと幻想的な雰囲気を持ったキーボードの音色とが絡み合ったサウンドは何とも言えない浮遊感を生み出している。力強いビートを叩き出すドラムも目立っている。繊細さ漂う爽やかなメロディーがたまらない。サビでは「大丈夫だよ」とコーラスが入るが、それは中々にインパクトが強い。そのフレーズは、聴き手それぞれに向かって語りかけてくれているかのような優しさがある。歌詞はメッセージ性の強いもの。悲しい気持ちは紙ヒコーキに乗せてどこかへ飛ばしてしまおう…というメッセージが込められている。青春時代特有のモヤモヤした気持ちを跳ね除けてくれるような感覚がある。サビでのコーラスをはじめ、聴き手に寄り添ってくれるような曲だと思う。


「郷愁」はフォークソングのテイストを感じさせる曲。イントロからアコギが掻き鳴らされており、懐かしい雰囲気に溢れている。ミディアムテンポの落ち着いたメロディーはサウンドの爽快感をこれ以上無いほど演出している。淡々としたメロディーだが、それが逆に曲に浸るのにちょうど良い。歌詞は遠くへ旅立ってしまった恋人への想いを語ったもの。もはやただの別れとは思えないくらいに切ない描写がされている。死別してしまったのではと勘ぐってしまう。「失った大きさに気づいたのは ずっと 君が消え去ったあとから… ただ安らかに眠れ」という歌詞が顕著。サウンド面や歌詞を始めとして、今までにありそうでなかった曲調の曲という印象がある。


「結晶」はRAZZ MA TAZZの王道と言える爽やかなポップナンバー。イントロから清涼感に溢れたギターの音色を楽しめる。聴くと心が晴れ渡るかのような感覚になれる。軽快でありながら懐かしさや切なさを持ったメロディーは言うまでもなく素晴らしい。後追いで聴いたので、シングル曲かと思ってしまった。どことなく「Season Train」と似た感じがしたからだ。歌詞は内省的な雰囲気を持ったものとなっている。タイトルのフレーズは曲中に一切登場しない。自分の心や何かに対しての想いを「結晶」に例えたものだと解釈しているが、実際にはよくわからない。 この曲はメロディーやサウンドに魅かれた。


「orion(Album Mix)」は先行シングル曲。フェニックス「クオリティー編」のCMソングに起用された。ミディアムテンポの落ち着いた曲。この曲もまた、これまでのシングル曲と比べると骨太なバンドサウンドを響かせている印象がある。力強さと爽やかさを併せ持ったギターサウンドは思わず聴き惚れてしまう。もはや安定感すら感じさせるようなメロディーやサウンドに乗せられる歌詞は、これまでには無いシリアスさを持ったもの。ケンカしたカップルが土砂降りの街で話している…という光景が描かれている。しかも「こんなに知ってたはずの君の頬を祈るように 僕はなぐった」。しかし、最後には「抱かれ続けたのは僕の方だった」とキラーフレーズを浴びせて仲直りに成功している。歌詞を見る限りだと主人公の浮気が原因でケンカしているのに、何とも身勝手な主人公である。 歌詞の面ではあまり共感できないものの、どこか鬼気迫るような感じが漂っているメロディーやバンドサウンドがたまらなく好き。RAZZ MA TAZZの一つの到達点と言えるような存在の曲だと思っている。


「Pure-君が透明であるように-」は今作のラストを飾る曲。しっとりとした曲調で聴かせるバラードナンバー。バンドサウンドはアコギが主体となっている。他にもストリングスが使用されており、厳かな雰囲気漂うサウンドが展開されている。歌詞はタイトル通りピュアなイメージのメッセージが並んだものとなっている。恋人へのメッセージや願いととれるような歌詞である。「君が大勢に愛されますように 君が運命に涙 流さぬように 君が純粋に人を愛すように 君が君自身の中で滲まぬように」という歌詞は聴くと思わず鳥肌が立ってしまう。 全身から声を絞り出すようなボーカルであり、その歌声も圧巻。主人公もそうだが、その彼女もピュアだと思う。ラストにふさわしい壮大な曲である。



あまり売れた作品ではないが中古屋ではそこそこ見かける。全編通して爽やかなポップスを楽しめる作品である。しかし、シングル曲を始めとして前作よりもロック色が強くなっている印象もある。とはいえRAZZ MA TAZZの楽曲のイメージを大きく崩すほど変わってはいない。
RAZZ MA TAZZは現在となってはマイナーなバンドという印象が否めないが、楽曲の良さはどのメジャーなバンドにも劣らないと思っている。スピッツやMr.Children、L⇔R、FIELD OF VIEWといったバンドが好きなら是非とも聴いてほしい。ポップでどこか切ない曲の数々はJ-POPが好きな方なら誰もが好きになれるはず。RAZZ MA TAZZの曲は今でも色褪せずに輝き続けている。今回の記事を読んで興味を持っていただいた方は是非とも作品を入手して聴いてみてほしい。出費以上の満足感があるはず。

★★★★☆