【収録曲】
全曲作詞作曲 岡田純
全曲編曲       白井良明とアップル&ペアーズ
プロデュース  白井良明

1.木曜の9時に逢いましょう ★★★★☆
2.風に失くした言葉 ★★★★★

3."いつか"の予感 ★★★★☆ 
4.スクリーン〈mono/stereo〉 ★★★★★
5.君のきもちと僕のきもち ★★★★☆
6.ラムネの月 ★★★★★
7.煙草の花束 ★★★☆☆
8.グッバイ ★★★★☆

9.ヤム・ヤム・バブルガム ★★★☆☆
10.ときには空 ★★★★★


1997年6月25日発売
ポリスター
最高位不明 売上不明


アップル&ペアーズの1stアルバム。先行シングル「ときには空」「風に失くした言葉」「ラムネの月」を収録。


アップル&ペアーズは1993年に結成され、1996年にデビューしたバンド。ボーカル・ギターの岡田純、ギターの磯山淳一、ベースの永井"ノリスケ"博幸、ドラムの英智央の4人で構成されている。ライブを中心とした精力的な音楽活動の他にも、岡田純のラジオパーソナリティとしての活動があった。2000年8月に解散を発表するも、2012年には期間限定で再結成していた。


アップル&ペアーズは初期のビートルズや1950〜60年代のアメリカやイギリスのポップスに影響を受けた楽曲が特徴。どこか懐かしく暖かみのあるメロディーが魅力。そしてそのメロディーはバンド名や今作のタイトルである、りんごとなしのような甘酸っぱさも感じさせる。



「木曜の9時に逢いましょう」は今作のオープニング曲。オープニングにふさわしい軽快なポップナンバー。コーラスで相田翔子が参加している。岡田純の爽やかな歌声と相田翔子の可愛らしい歌声は相性抜群。思わず口ずさんだり体を動かしたくなったりするようなメロディーが展開されており、とても心地良い。歌詞は音楽への想いや愛が描かれたようなイメージ。「歌」に好きな理由なんていらないというメッセージは音楽を愛する人なら誰もが共感できるようなものだと思う。音楽番組を思わせるようなフレーズが登場するが、『ザ・ベストテン』のことを指していると思っている。この曲のタイトルと同じく木曜の午後9時に放送されていたようなので。


「風に失くした言葉」は先行シングル曲。爽やかで暖かみのあるメロディーが展開されたポップナンバー。シンプルなバンドサウンドはメロディーの良さを限りなく引き立てている。特にサビのメロディーは初めて聴いても体が動いてしまうような心地良さを持っている。聴き手の心をグッと掴むような魅力がある。歌詞はメッセージ性の強いもの。「だから 誰もがね 誰かを必要なんだね つまらないことも そう 分け合いたくなって」という歌詞が好き。小さな子供でも理解できるような簡単な言葉で哲学的な世界を表現する。岡田純の作詞家としての力がよく分かると思う。何よりも、 この曲はメロディーと歌詞の絡み方が素晴らしい。そのため、何度でも聴きたくなるような感覚がある。


「"いつか"の予感」はしっとりと聴かせるバラードナンバー。モータウンのテイストを持ったバンドサウンドが展開されている。特にベースはその要素を強く感じられる。様々な思い出が脳裏をよぎってくるような、どこか懐かしく切ないメロディーはこの曲の聴きどころ。Aメロでの淡々とした心理描写はこの曲の主人公になったかのような感覚にさせてくれる。歌詞はピュアな恋心が描かれたもの。「夢の中で 見てるだけじゃ 足りないから いつもそばで ながめていたい と思うのかも 見つめてても それだけしゃ 足りないから 少し 何か形が欲しい と思うのかも」というサビの歌詞が好き。男女を意識し始める10代の頃を想起させるようなピュアな歌詞だと思う。この曲ほど「甘酸っぱい」というフレーズが似合う曲はそうはないだろう。


「スクリーン」は壮大なサウンドが展開されたバラードナンバー。音響については詳しく分からないので何とも言えないが、他の曲とは音の聴こえ方が違う印象がある。サウンドは分厚いストリングスや何重にも重ねられたバンドサウンドで構成されており、ウォール・オブ・サウンドを彷彿とさせる感じ。大滝詠一の曲でも聴いているかのよう。歌詞は恋人たちが別れる瞬間を切り取ったもの。タイトル通り、その光景をスクリーンで観ているかのような情景描写がされている。「君と映ってる 過ぎた日のフィルムを廻し切ってしまおう これできっと 僕ら離れるんだよね」という歌詞は切なさに溢れている。美しいメロディーも相まって、聴いていると胸を締め付けられるような切なさがある。


「君のきもちと僕のきもち」はアコースティックなサウンドが心地良いバラードナンバー。もし今作をレコードで聴いているとしたら、この曲がA面の終わりだと思う。サウンドはアコギやパーカッションが前面に出ている。余計な物を一切取り払ったようなシンプルなサウンドが展開されており、それは美しいメロディーを際立たせている。歌詞は別れた恋人への想いが語られたもの。全体的に後悔の念が描かれている印象。「何も言わなくても いろんなことわかりあえるなんて 嘘だって思った」「今 思えば してあげられたこと 数え切れないくらい 見つかるのに」といった歌詞が顕著か。人間関係には後悔はつきものだと思うが、この曲を聴いていると人間関係での失敗を思い出して胸が痛む。


「ラムネの月」は先行シングル曲。ストリングスを派手に取り入れた爽やかなポップロックナンバー。オールディーズからの影響とロックバンドとしての骨太な要素とが混ざったサウンドとなっている。サビでのコーラスワークも曲を効果的に盛り上げている。コーラスグループとしてのアップル&ペアーズの魅力が分かるはず。歌詞は少年時代の思い出を描いたようなイメージのもの。タイトルはラムネの瓶の中のビー玉のことだと解釈している。あれを取ろうとして様々な努力をしたことを覚えている。あれが「ビー玉」ではなく「エー玉」だと知った時の衝撃も。 聴いていると小学生時代の夏休みの光景を思い出してしまう。この曲のように、何かしらの思い出を呼び起こすような曲はポップミュージックの理想形だと思う。


「煙草の花束」は力強いポップロックナンバー。ここまでの曲の中だと最も激しいバンドサウンドが展開された曲だろう。L⇔Rの1stアルバム「Lefty in the Right」の収録曲のように、音が左右で分離した独特な音作りがされている。パワフルなドラムと歪んだギターサウンドとが駆け抜けるような演奏は勢いに溢れている。歌詞は映画のようなストーリー性を持ったもの。主人公は「アフリカの旅」をしているようだが、これは熱帯夜の例えだと解釈している。歌詞全体としてはどのような光景を描いているのかよく分からないのだが、切迫感を感じさせるような描写がされていると思う。アップル&ペアーズはただの爽やかなポップスバンドではないということを主張するかのような曲である。


「グッバイ」は懐かしさ漂うポップナンバー。カントリーのテイストを取り入れたサウンドは 軽快そのもの。「懐かしい」という感想を持っても、「古臭い」という感想を持つことはない。アップル&ペアーズはこの辺りのバランス感覚が圧倒的に優れていると思う。英語詞から始まるサビはインパクト抜群。意外と英語詞が使われることが少ないのも彼らの特徴と言えるだろう。歌詞は恋人との別れを描いたもの。「二人でいると あたりまえのことでも こんな新しいものに感じたよ わかったよ でも つまらないよ」というフレーズは何とも切ない。歌詞は全編通して切なさに満ちているのに、曲やサウンドは軽快なもの。そのギャップに魅かれる。



「ヤム・ヤム・バブルガム」は爽快なロックナンバー。疾走感溢れるバンドサウンドが曲を終始引っ張っている。パンクを彷彿とさせるような衝動を感じさせつつも、洗練された雰囲気も持っている。そのような曲に反して、歌詞はですます口調で描かれている。まるではっぴいえんどの楽曲のようである。歌詞は若者のモヤモヤした感情が描かれている。「やりたいことが見つからないのは 何か いけないことみたいです」というフレーズが好き。あっという間に始まって、あっという間に終わってしまう。タイトル通りガムのような曲である。


「ときには空」は今作のラストを飾る先行シングル曲。讀賣テレビ・日本テレビ系番組『新テンベストSHOW』のエンディングテーマに起用された。アップル&ペアーズにとってのメジャーデビュー曲である。甘酸っぱさや暖かみを感じさせるメロディーが心地良いポップナンバー。メンバーによるコーラスワークは曲を華やかに彩っている。歌詞はメッセージ性の強いもの。「どこかに 針の正しい時計 落ちてはいませんか 時々 思うように 流れてはくれないから」という歌詞は、初めて聴いた時に鳥肌が止まらなかったことを覚えている。 岡田純のどこまでもストレートな歌声もこの曲のメッセージに説得力を与えている。ささくれ立った心をそっと解きほぐしてくれるような、包容力に満ちた曲だと思う。名曲。


あまり売れた作品ではないので中古屋ではたまに見かける程度。しかし、このまま埋もれてしまうにはあまりにも勿体無い作品である。隠れ過ぎたJ-POPの名盤と言っても過言ではない。暖かみに溢れた誰もが良いと思えるようなメロディーや、岡田純の卓越したポップセンス、シンプルでメッセージ性のある歌詞は今でも色褪せずに輝きを放っている。過小評価されてしまっているのが非常に歯がゆい。スピッツやL⇔Rが好きな方なら間違いなくハマれると思う。 中古屋でもし見かけたらすぐに入手してほしいし、店をハシゴしてでも探してほしい。それくらいの価値のある作品だと思う。自信を持っておすすめする。

最後に、この作品に出逢うきっかけを与えてくれた、ツイッターのフォロワーさんに心から感謝したいと思う。

★★★★★