松任谷由実
1990-11-23


【収録曲】
全曲作詞作曲 松任谷由実
全曲編曲        松任谷正隆
3.6.ホーンアレンジ Jerry Hey
プロデュース  松任谷正隆

1.Miss BROADCAST ★★★★☆
2.時はかげろう ★★★★☆
3.A(エース)はここにある ★★★☆☆
4.満月のフォーチュン ★★★★☆
5.Glory Birdland ★★★★★
6.ホタルと流れ星 ★★★★★
7.Man In the Moon ★★★★☆
8.残暑 ★★★★★
9.天国のドア ★★★★☆
10.SAVE OUR SHIP ★★★★★

1990年11月23日発売(CD,CT)
2013年10月2日再発
東芝EMI/EXPRESS(オリジナル盤)
EMI RECORDS(2013年盤)
最高位1位 売上197.5万枚

松任谷由実の22ndアルバム。先行シングルは無し。前作「LOVE WARS」からは1年振りのリリースとなった。初回盤はマルチスクリーン仕様となっており、ジャケットが3Dに見えるようなレンズシートが封入されている。サブタイトルは「THE GATES OF HEAVEN」である。

前々作、前作とアルバムでミリオンを達成してきたユーミンだが、今作では遂にほぼ200万枚というメガセールスを記録した。東芝EMIサイドは出荷枚数を基準として200万枚達成!と騒ぎ立てたが、実際の売上ではCDとカセットを合算した197.5万枚となっている。とはいえ大ヒット作が多数生み出された90年代の音楽業界を盛り上げるきっかけとなった作品だというのには変わりはない。 

ユーミンは今作の売上だけで第5回日本ゴールドディスク大賞のアーティスト・オブ・ザ・イヤーを受賞している。その年に最も作品を売り上げたアーティストに贈られる賞である。今でも1作品のみでそれを受賞したのはユーミンだけ。当時のユーミンが音楽業界のトップを独走していたことがよく分かる。
ちなみに、ユーミンは受賞時のコメントで才能は、いつも言うんですけど、母乳と一緒で出さないと体に悪いって言うし、一度も出したこと無いんでわかんないんですけど(笑)どんどんやっぱり走り続けて出していかないとなと、バチがあたるなと思っています」という名言を残している。 ユーミンは今もその才能を出し続け、音楽の世界を走り続けている。


「Miss BROADCAST」は今作のオープニング曲。1991年にテレビ朝日系報道番組の番組スポットに起用されたほか、同年にTBS系ドラマ『ルージュの伝言』でドラマ化された。このドラマは一話完結で、ユーミンの楽曲を元に作られていたようだ。シンセが多用されたポップナンバー。当時の超高級楽器であるシンクラヴィアが全面的に取り入れられている。歌声が加工された部分があるのが特徴。タイトルからも分かるかもしれないが、女性キャスターが主人公となった歌詞である。時間に追われる忙しい日々を過ごすキャスターの姿が浮かんでくるよう。「この世に真実はないの けれども幻じゃないの いちばん確かな時間を私に運んで来てすぐに」という歌詞が好き。音の高低が激しい独特なメロディーが特徴的。ユーミンはサラッと歌っているが、相当にリズム感が良くないと難しいと思う。


「時はかげろう」は1990年にカルロス・トシキ&オメガトライブに提供した曲のセルフカバー。2000年テレビ朝日系単発ドラマ『手塚治虫劇場』のテーマソングに起用された。カルロス・トシキ&オメガトライブにとっては最後のシングル曲だった。壮大なバラードナンバー。様々な音が表現されたシンセサウンドで聴かせる。その脇を固めるタイトなバンドサウンドには一切の隙がない。この曲はサビのメロディーがたまらない。伸びのある歌声と流麗なメロディーとの相性は抜群。歌詞は「砂漠」「この星のエナジー」「滅びゆく種族のうた」など、曲調と同じく壮大なイメージのものとなっている。この曲の歌詞は一人称が登場せず、主人公を男性とも女性とも捉えられるのが特徴。 一聴した時には地味な曲と感じてしまったが、何度か聴くと作り込まれたサウンドや曲に自然とハマっていた。


「A(エース)はここにある」はここまでの流れを変えるようなポップナンバー。ホーンが効果的に使われており、曲を盛り上げている。サウンドは比較的生音が前面に出ている。キレの良いギターのカッティングやパワフルなドラムは迫力に満ちている。間奏でのサックスソロはこの曲の一番の聴きどころと言っていいだろう。歌詞はトランプゲームと恋の駆け引きを重ねて描いたもの。「あなたの心は 揺れる避雷針 嵐になれ 嵐になれ 稲妻みたいに落ちてゆくわ」という歌詞を始めとして、可愛らしいながらも複雑な女心が綴られている印象がある。この曲は歌詞やメロディーよりもサウンドに魅かれた。ホーンの音色が好きな管理人にはたまらない。


「満月のフォーチュン」は爽やかなポップナンバー。1990年〜91年に三菱自動車の「新型ミラージュ」のCMソングに起用された。どことなく異国情緒の漂うメロディーやサウンドが展開されている。特にシンセ。どう表現したら良いのか難しいが、アジアっぽい雰囲気がある。どうやらこの曲はチャイナドレス姿のユーミンが歌うというPVが制作されていたようだ。それを考えると管理人の見立てはそこまで間違っていないのかもしれない。歌詞は満月の夜を舞台に、男女の恋模様が描かれている。友達が恋人になる瞬間。何とも言えない、ドキドキする感覚が伝わってくるような詞世界となっている。 聴いているだけで情景がありありと浮かんでくる。これぞユーミン!と言いたくなるような歌詞だと思う。


「Glory Birdland」はAORのテイストを感じさせるラブソング。上質なバンドサウンド、スリリングな雰囲気を持ったキーボードの音色、曲を鮮やかに彩るフルート…これらが絶妙なバランスで共存したサウンドは聴いていると思わず身を委ねたくなるような心地良さがある。ユーミン曰く、この曲は1988年に運行を終了した青函連絡船を眺めながら青森のホテルで作詞したという。ファンタジックな世界観を持った歌詞となっている。タイトルは恋人たちが目指す場所なのだろう。聴いているとその主人公になったかのような感覚に襲われる。そして、どこかに旅に出たくなる。この曲はメロディーやサウンドがとにかく管理人の好みのど真ん中。評価がかなり高いのはそのため。


「ホタルと流れ星」はしっとりと聴かせるバラードナンバー。サウンドはシンセが主体となっているが、無機質なようでいてどことなく温かみのある音色である。それは80年代後半のJ-POPの王道と言えるような音だと思う。その脇を固める、哀愁を帯びたギターサウンドやホーンは絶品。美しいのに切ない。歌詞は「最後のデート」をしている恋人たちを描いたもの。しかも雨の日にしているようだ。「優しい日々が無口にする こんなふうになるなんて」という歌詞が何とも切ない。これほど男女の感情の機微を描くのが上手いのはユーミンくらいしかいない。歌詞、メロディー、サウンドとどれを取っても好きな曲。ユーミンの隠れた名バラードではないかと思う。


「Man In the Moon」は速いテンポが特徴的なポップナンバー。1990年の「苗場プリンスホテル」のCMソングに起用された。タイトルはイギリスで古くから「月には薪を背負った男が住んでいる」という言い伝えが元になっているようだ。イントロ無しでいきなり早口なボーカルから始まる。全体的にテンポが速い。メロディーが歌詞に追いつかないようなイメージの曲はユーミンにしては異色である。ユーミンのボーカルに引っ張られているようなバンドサウンドもパワフルそのもの。人力ならではの強さを感じさせる。歌詞は「彼」を客観的な視点で語ったもの。全体的にフレーズが繰り返されるのがインパクト抜群。「まわりまわるステップでふわりふわり無重力さ 昇り昇る昇れれば 世界中が脈打ってる」というフレーズは聴くと耳を離れたくなる。不思議な中毒性を持った曲だと思う。


「残暑」は1984年に麗美に提供した曲のセルフカバー。同年にはナンシー・ウィルソンにこの曲に英語詞をつけた「君に捧げる心の歌〜I Believe in You〜」という曲を提供している。1991年のTBS系ドラマ『ルージュの伝言』でドラマ化された。しっとりと聴かせるバラードナンバー。メロディーの良さに浸れるようなゆったりとした曲調が心地良い。いぶし銀と言いたくなるような渋い音色のギターが素晴らしい。歌詞は熊本の有明海の干潟を舞台にしているという。一緒に土手を歩いている時、恋人の姿を見て去年のことを思い出す…という内容。 歌詞やメロディーは気だるい夏から秋へと移り変わる時期をこれ以上無いほど美しく描き出している。心から感傷に浸れるような曲はあまり無いと思うが、この曲はそれができる曲だと思う。


「天国のドア」は今作のタイトル曲。1991年のTBS系ドラマ『ルージュの伝言』でドラマ化された。タイトル曲にふさわしい、勢いに溢れたポップロックナンバー。疾走感とスリルを併せ持ったメロディーが展開されている。力強いギターサウンドとシンセの絡みは非常に格好良い。歌詞は恋とジェットコースターを重ねて描いたもの。ジェットコースターというのは主人公の気持ちの昂りも表現していると思う。「もっと私を変えて もっとあなただけのやり方で そうよ今まで帰れた世界を断ち切るくらい」という歌詞が何とも意味深。性的な意味の絶頂、快楽についても語られているのではないか。そう考えると、 「天国」 というフレーズもそのような意味なのではと勘繰りたくなる。


「SAVE OUR SHIP」は今作のラストを飾る曲。TBSの宇宙プロジェクト『日本人初!宇宙へ』のテーマソングに起用された。当時は日本人初の宇宙飛行士としてTBS記者だった秋山豊寛が話題になっていた。ラストにふさわしい落ち着いた曲調なのだが、高低の激しいメロディーが展開されている。間奏やラストは宇宙を想起させるような、趣向を凝らした音作りがされている。それは聴きどころ。歌詞は自分と恋人の「魂」について描かれた、非常にスケールの大きなもの。「限りある命の日々 燃やし合えたのがあなただからここまで来た」という歌詞が顕著。今聴いても度肝を抜かれるような壮大な曲である。この曲を聴くと、遠い遠い宇宙に想いを馳せたくなることだろう。


大ヒット作なので中古屋ではよく見かける。発売から今に至るまで未だにリマスターされていない(2013年に再発された際もそのまま)ということもあって、少々音質には難があるが、それでも優れたポップス揃い。どうしてなのかは分からないが、今作に収録されている曲は一曲単位で聴くとあまり良いと感じられない。アルバムで通して聴くと気に入るような曲ばかりである。今作の収録曲があまりベスト盤に収録されないのも頷ける。その点で言うと、 コンセプトアルバムの要素を含んだ作品とも言えるだろう。サウンド面で時代性を感じるところもあるが、バブル時代の象徴というような扱いで済ますのは勿体無く感じられる。

★★★★☆