渡辺美里
1991-07-01


【収録曲】
全曲作詞 渡辺美里
6.作詞 戸沢暢美
1.7.作曲 佐橋佳幸
2.9.作曲 伊秩弘将
3.作曲 木根尚登
4.10.作曲 小室哲哉
5.6.作曲 岡村靖幸
8.作曲 渡辺美里
11.作曲 大江千里
1.6.7.編曲 佐橋佳幸
2.3.8.9.編曲 清水信之
4.編曲 大村雅朗
5.編曲 佐橋佳幸・西平彰
10.編曲 小室哲哉
11.編曲 有賀啓雄
1.ホーンアレンジ 清水信之
6.ホーンアレンジ 清岡太郎
プロデュース 小坂洋二・misato

1.センチメンタル カンガルー ★★★★★
2.恋したっていいじゃない ★★★★☆
3.さくらの花の咲くころに ★★★★★
4.Believe(Remix Version) ★★★★★
5.シャララ ★★★★☆
6.19才の秘かな欲望(The Lover Soul Version) ★★★☆☆
7.彼女の彼 ★★★★☆
8.ぼくでなくっちゃ ★★★☆☆
9.Tokyo Calling ★★★☆☆
10.悲しいね(Remix Version) ★★★★☆
11.10 years ★★★★★

1988年5月28日発売
1991年7月1日再発
EPIC/SONY RECORDS 
最高位1位 売上74.8万枚

渡辺美里の4thアルバム。先行シングル「BELIEVE」「悲しいね」「恋したっていいじゃない」を収録。今作発売後に「センチメンタル カンガルー」「10 years」がシングルカットされた。「10 years」は「君の弱さ」との両A面シングルだった。前作「BREATH」からは約10ヶ月振りのリリースとなった。初回盤は紙箱ケース入り仕様。

今作は当初、ベスト盤として企画が上げられていたという。結果的にそうはならなかったものの、全編通してポップな作風はベスト盤も同然と言ったところ。そのような背景もあってか、キャッチコピーは「戦後最大のポップアルバム」という何ともスケールの大きなものとなった。

これまでの作品と同じく、作曲家陣がとにかく豪華なのが特徴。当時のレーベルメイトだった大江千里、TM NETWORKの小室哲哉と木根尚登、岡村靖幸に加え、日本を代表するギタリストの一人である佐橋佳幸、後に名プロデューサーとなる伊秩弘将…80年代〜90年代のJ-POPを語る上では欠かせない存在が多数参加した。それぞれの個性がよく表れた曲が展開されているが、その全てを渡辺美里は自分の色に染め上げている。

今作は前々作「Lovin' You」、前作「BREATH」に引き続きチャート1位を獲得した。そして、当時としてはかなり高い74.8万枚という売上を記録した。恐らく、時代が時代ならミリオンだったと思われる。当時の市場規模ならミリオンに相当していたはず。


「センチメンタル カンガルー」は今作発売後にシングルカットされた曲。渡辺美里本人も出演したUCC CAN COFFEEのキャンペーンCMソングに起用された。オープニングを飾るにふさわしい、突き抜けるような爽快感を持ったポップロックナンバー。鋭く力強いギターサウンドと聴き手の高揚感を煽るようなホーンとが絡み合うサウンドが展開されている。タイトルのフレーズが歌われるサビはインパクト抜群。タイトルは渡辺美里の造語のようだ。どのような意味なのかは分からない。歌詞は夏を舞台にした多幸感溢れるラブソング。「あなた」の家まで車を走らせて向かう様子を描いた歌詞となっている。「リボンが風にゆれるサマーデイズ」という歌い出しは「ribbon」と名付けられた今作にぴったり合っている。 幸せさに満ちた歌詞と高揚感溢れるサウンドとの相性は抜群。夏をテーマにした名曲が多い印象の渡辺美里だが、その中でも管理人が特に好きな夏ソングがこの曲。


「恋したっていいじゃない」は先行シングル曲。渡辺美里本人も出演したUCC CAN COFFEEのキャンペーンCMソングに起用された。ノリの良いポップロックナンバー。跳ね上がるようなバンドサウンドとシンセとが一体となったサウンドは聴いているとつい身体が動いてしまう。コーラス及び手拍子で岡村靖幸が参加しており、コーラスとは思えないような独特な存在感を放っている。「D・A・T・E 恋したっていいじゃない」と歌い上げるサビはキャッチーそのもの。同年にリリースされた岡村靖幸の2ndアルバム「DATE」との関係性を疑いたくなってしまう。歌詞はタイトル通り「恋したっていいじゃない」と主張する内容。一聴しただけだと軽い歌詞に感じてしまうが、「ルーズな街のインチキにうちのめされても 流行のスタイルに流されないよ 急がなくちゃ」と骨太な考え方も描かれている。今になって聴くと少し時代性を感じさせる部分もあるが、その印象すら吹き飛ばすほどに勢いに溢れている。渡辺美里の代表曲の一つと言って良いだろう。


「さくらの花の咲くころに」はここまでの流れを落ち着けるようなバラードナンバー。作曲は木根尚登が担当した。サウンドは哀愁を帯びた音色のアコギと温かみのある音色のシンセが前面に出ている。音の数が少ない上に終始しっとりとした曲調なので、前の2曲からの落差が大きい。心に沁みるような優しく切ないメロディーは木根尚登ならでは。小室哲哉にも劣らない素晴らしいメロディーメーカーであることを再認識させられる。歌詞は学生時代の友人や彼氏へのメッセージと取れるような内容。夕焼けに染まった放課後の教室でクラスメイトと雑談したり、勉強したりしている光景が浮かんでくる。「覚えていてね 想いだしてね さくらの花が咲くころに」と語りかけるサビは何とも切ない。春という季節が持つ切なさをこれ以上無いほど美しく描き出した曲であり、渡辺美里の隠れた名バラードだと思っている。


「Believe(Remix Version)」は先行シングル曲。TBS系ドラマ『痛快!OL通り』の主題歌に起用された。シングルがリリースされた時期を考慮すると前作に収録されるのが妥当だったものの、前作には未収録。今作収録にあたってリミックス(リマスターしたのをリミックスと表記しているだけ?)されているほか、全て大文字だったタイトルが変更されている。流麗なメロディーが展開された力強いバラードナンバー。他の曲と比べると骨太なバンドサウンドが主体となっている印象。暗さを感じさせるピアノやギターの音色がたまらない。歌詞はメッセージ性の強いもの。「平凡すぎる毎日と今をなげくよりも 追いつく自分の弱さを追いこしてゆきたい」という2番のサビの歌詞が好き。曲全体から漂う張り詰めた雰囲気に不思議と引き込まれる。同じタイアップ相手だった「My Revolution」と比べるとかなり地味な印象が否めないものの、この曲も大好き。


「シャララ」は爽やかなポップナンバー。作曲は岡村靖幸が担当した。岡村靖幸にしては珍しくあまりひねくれていない、ストレートなメロディーが展開されている。涼しげな音色のピアノと隙のないバンドサウンドとが合わさったサウンドはとても聴き心地が良い。曲の要所ではシンセも登場し、どこまでも広がっていくような美しい音色で曲を盛り上げている。歌詞は新しく何かを始める人への応援歌と取れるようなもの。「一番速いランナー勝つとは限らないよ」というフレーズが好き。この曲最大の聴きどころはコーラスワーク。渡辺美里本人だけでなく、「荒川少年少女合唱隊」や「"shalala"のおじさんたち」というメンバーが参加しており、かなり分厚いコーラスとなっている。シングル曲と言っても違和感の無いようなポップな曲調やポジティブな歌詞が好印象。力強さと優しさに満ちた応援歌だと思う。


「19才の秘かな欲望(The Lover Soul Version)」は2ndアルバム「Lovin' You」に収録された曲のリメイク。作曲は岡村靖幸が担当し、セルフカバーバージョンは「DATE」に収録されている。「Lovin' You」に収録されたバージョンよりも派手なアレンジがされている。前のバージョンは大村雅朗がアレンジを行い、今作に収録されたバージョンは佐橋佳幸が担当した。ホーンや派手なシンセが取り入れられており、サウンドだけ聴いていると原曲からはかなりかけ離れているのが分かる。作詞は今作では唯一の本人以外が行なった。タイトル通り若さに溢れた詞世界となっている。「夢をつかむために あわてなくていいね 来週も十年先もただの tomorrow」という歌詞が好き。岡村靖幸バージョンも岡村靖幸のカラーがよく表れたものとなっていて面白いので、聴き比べてみることをおすすめする。


「彼女の彼」はロック色の強いバラードナンバー。イントロでシンセによるストリングスが入ってしっとりした感じで始まったかと思えば、キレの良いギターサウンドが登場してそのままロック色の強いサウンドが展開される。それでもサビはポップでキャッチーであり、曲全体を通して爽やかな雰囲気は保たれている。このバランスがとても良い。歌詞は片想いしていた相手が自分の友達の彼氏になってしまった…というような虚しい状況を描いたもの。「恋人のふりをして 今日だけは歩いてね 去年より背の高い 私だけみつめていて」という歌い出しの歌詞が何とも切ない。「恋人のふり」というフレーズが特に胸を締め付けられる。 同年代の男女に寄り添ったような詞世界は渡辺美里ならではの魅力だと思う。今聴いても古臭さをあまり感じない。


「ぼくでなくっちゃ」は今作発売後にシングルカットされた「センチメンタル カンガルー」のC/W曲。渡辺美里本人が作曲を行なった、今作の中では唯一の曲。ここまでの流れをゆったりと落ち着けるようなバラードナンバー。サウンドはシンセとピアノのみとかなり少ない。優しいシンセの音色は童謡のような親しみやすさや可愛らしさを感じさせる。いつもは力強い渡辺美里の歌声もどこか柔らかい印象。歌詞は男目線で描かれており、彼女に対して「ぼくでなくっちゃ」と語りかけている内容。歌詞全体としては情景描写が多めである。深夜〜夜明けくらいの時間帯を描いていると思う。今作の中では地味な印象が否めないものの、それでもキャッチーなサビは耳に残る。


「Tokyo Calling」は壮大なメッセージソング。全編打ち込みによるサウンドが展開されており、イントロではサイレンや空襲警報を模したような、凝ったサウンドエフェクトが使われている。そのようなイントロなのだが、メロディー自体はかなりポップで聴きやすい。バシンバシンと響くシンセドラムの音は時代性を感じさせるが、それはご愛嬌。歌詞は高速道路を建設するために破壊されていく山の自然のことをテーマにしているという。今でも説得力のある歌詞なのだが、そのような歌詞よりも好きな歌詞がある。「あの頃 きみはぼくにれんげ草をつんでくれた」というもの。懐かしさや優しさに溢れたフレーズだと感じ、それが一番印象深い歌詞である。今となってはこの曲のような社会派なテーマの曲は減ってしまったので貴重である。


「悲しいね(Remix Version)」は先行シングル曲。小室哲哉が作曲と編曲を担当した。これまでのシングル曲は大村雅朗が編曲を行なってきたが、今回は小室哲哉が単独で編曲も担当した。タイトルからも察しがつくかもしれないが、しっとりと聴かせるバラードナンバー。どことなく陰を感じさせるギターやドラムの音がたまらない。ラストに入ってくるサックスも圧巻。歌詞は冬を舞台に、恋人と別れる様子を描いたもの。「悲しいね さよならはいつだって 悲しいね ひとりきりいつだって」というラストの歌詞は、聴いているこちらまで「悲しいね」と言いたくなってしまう。 前向きなフレーズは全く無く、とにかく落ち込むばかりの歌詞である。希望が何も無い。この曲ほどバラードらしいバラードは渡辺美里にとっては珍しいと思う。


「10 years」は今作発売後にシングルカットされた曲。「君の弱さ」との両A面シングルだった。渡辺美里本人も出演したUCC CAN COFFEEのキャンペーンCMソングに起用された。流麗なメロディーが展開されたバラードナンバー。作曲は大江千里が担当した。大江千里ならではの心に沁み渡るようなメロディーがたまらない。イントロのピアノの音色だけでもう鳥肌が立って止まらなくなる。ピアノだけでなく、力強くタイトなバンドサウンドにも聴きどころが数多くある。歌詞はタイトル通り、10年という時の流れをテーマにしたもの。 これまでの10年と、これからの10年。過去を振り返ってばかりでは生きていけない。しかし、10年後がどうなるかといくら考えても結論は出やしないのに、それでも悩んでしまう。多くの人に共通するもどかしさが描かれた歌詞だと思う。作詞家としての渡辺美里の到達点と言えるような詞世界だと思っている。これから歳を取るにつれてこの曲の歌詞が身に沁みてくるはず。渡辺美里のバラードにおける最高傑作と言っても過言ではない存在の曲だろう。


ヒット作なので中古屋ではよく見かける。前述した「戦後最大のポップアルバム」というキャッチコピーに恥じないような、全編通してポップな作品となっている。アルバム曲もシングル曲かと思ってしまうほどに完成度が高い。青春時代を過ごしている方なら誰もが共感できるような詞世界も素晴らしい。曲順もこれ以外は無いだろうなと思うほどよく練られている印象がある。ポップスなのかロックなのか、アイドルなのかアーティストなのか…どうにもパッとしない存在に見えてしまうためか、渡辺美里の作品が語られる機会はあまり無い印象。 しかし、今作は80年代後半の日本のポップスやロックシーンを代表する作品だと思っている。もう少し評価されても良いのではないかと感じてならない。

★★★★★