PEPPERLAND ORANGE
1998-09-25



【収録曲】
1.5.作詞作曲 田中一知
2.3.4.6.作詞作曲 佐久間誠
7.作詞作曲 佐久間誠・田中一知
全曲編曲 小室和幸
プロデュース 小室和幸

1.生きてる証拠 ★★★☆☆
2.夏の魔法 ★★★★★
3.Easy ★★★★☆

4.サイレンスモーニング ★★★☆☆
5.夏の終わりに ★★★★★
6.二人乗りの自転車 ★★★★★
7.ピカソ ★★★☆☆
↓ボーナストラック
8.夏の魔法 Bosom MIX ★★★★★
9.ピカソ Deux Femmef MIX ★★★☆☆


1998年9月25日発売
ファンハウス
最高位不明 売上不明


PEPPERLAND ORANGEの1stにしてラストアルバム。先行シングル「二人乗りの自転車」「夏の魔法」を収録。今作発売後に「夏の終わりに」がシングル「ビニールハウス」のC/W曲としてシングルバージョンでシングルカットされた。ブックレットにはセルフライナーノーツが付属している。


PEPPERLAND ORANGEはボーカル・ギター・の佐久間誠、ボーカル・ギターの田中一知の二人からなる「バンド」。略称は「ペパーランド」「ペパオレ」「PLO」など。1998年にデビューし、翌1999年に活動休止した。二人組なら基本的に「デュオ」や「ユニット」と言われるが、「バンド」という呼び方には彼らなりのこだわりがあったようだ。


佐久間誠はPEPPERLAND ORANGEの活動休止後、作曲家・編曲家・音楽プロデューサーとして活躍している。恐らくその仕事で最も有名なのはKinKi Kidsのシングル「夏模様」の編曲だろう。アイドルの楽曲を得意としているのか、渡り廊下走り隊7、Buono!、フェアリーズ、NEO from アイドリング!!!、palet、prediaなど様々なアイドルグループの楽曲を手がけている。田中一知は現在、西野カナのマネージャーを務めているとされている。西野カナのデビュー時からマネージャーを務めているのだとか。


PEPPERLAND ORANGEの楽曲の魅力は爽やかでどこか切ないメロディー、甘酸っぱさを感じさせる詞世界にある。佐久間誠、田中一知の二人のソングライターが手がける曲にはそれぞれ違うカラーがある。しかし、懐かしくて優しい雰囲気を持ったメロディーというのは共通している。


「生きてる証拠」は先行シングル「夏の魔法」のC/W曲。田中一知が作詞作曲を担当した。今作収録にあたって、コーラスなどをカットしてモノラル録音がされたアルバムバージョンとなっている。シングルバージョンはステレオ録音のようだ。歪んだギターサウンドが主体となっており、ロック色の強い曲となっている。それでもコーラスワークやキャッチーなサビのおかげでポップな仕上がりとなっている。透明感のあるハイトーンボイスの佐久間誠に比べると、田中一知の歌声は比較的力強い。歌詞はシニカルな雰囲気を感じさせるもの。「毎日がくだらなくて 無駄に過ごしてた時間が きっと大切だったって 今ならそう思えるんだ」という歌詞が好き。全体的に10代の少年少女を対象としたイメージの詞世界となっている。「悩んだり 迷ったり」しても、結局笑うしかない。何ともポジティブな歌詞である。A面曲とのギャップが凄いが、どちらも好きな曲。



「夏の魔法」は先行シングル曲。大塚製薬「ポカリスエット」の98年夏のCMソングに起用された。そのCMには後藤理沙が出演していた。恐らく30代の方ならタイトルやアーティスト名こそ知らなくても聴き覚えがあるはず。PEPPERLAND ORANGEにとっての代表曲であり、今作のタイトル曲。爽やかなポップナンバー。ポップ過ぎてアレンジに苦戦したというほど。サウンドはシンプルなバンドサウンドで構成されている。そのようなメロディーやサウンドはどこまでも澄み渡る夏の空や輝く太陽を想像させる。それでもどことなく切なさも感じさせる。透明感溢れる佐久間誠のボーカルと田中一知のコーラスはこの曲の爽やかさを演出している。
歌詞は青春時代の恋模様を描いたもの。「胸キュン」というフレーズはこの曲の歌詞のためにあるのではないか。そう言っても過言ではないほどにピュアで甘酸っぱい詞世界である。
「愛してるなんて 簡単には言えないけれど 照れた笑顔も 可愛いから 改めて 君を愛してる」「 あの日の魔法は 永遠に消えないからね 出会った頃のような気持ちで 改めて 君を愛してる」という歌詞は聴いているこちらまで恥ずかしくなるくらいストレートな心が描かれている。メロディー、アレンジ、歌詞、ボーカル…どれを取っても圧倒的な完成度を誇る。この曲を聴けばいつでも青春時代の世界を味わうことができると思う。まさに「魔法」のかかった名曲。


「Easy」は爽快なポップロックナンバー。ロック黎明期のようにシンプルで勢いに溢れたバンドサウンドとハーモニカの音色との相性はとても良い。ハーモニカが使われているのはイントロとアウトロだけなのだが、それでも強いインパクトがある。ビートルズやビーチ・ボーイズからの影響を感じさせるサウンドやコーラスワークである。一回聴いたら口ずさめそうなほどにキャッチーなサビがたまらない。歌詞は彼女のことを大切にしようという極めてシンプルなメッセージが語られたもの。「許し合える心の広さを 忘れずに 大事に大事に大事にしようね」というサビの歌詞が印象的。 彼女のことを大切にする。それはとても「Easy」なことのようでいて、かなり難しいことのように感じる。だからこそお互いの心の繋がりを大事にしたいものである。彼女を大切にしなければならないような経験の無い管理人が言っても説得力は全く無いのだが。大切にできる自信はそこそこあるのだが、相手がいなければ何の意味も無い。


「サイレンスモーニング」はここまでの流れを落ち着けるようなバラードナンバー。アコギが主体となったアコースティックなアレンジとなっている。元々はエレピを主体としたアレンジだったようだ。シンプルなサウンドはゆったりとした曲調とよく合っている。そのような曲調ではあるが、サビはしっかりとキャッチーな仕上がり。歌詞は失恋した次の日の朝をテーマにしたもの。「夢じゃなかったんだね 昨日のサヨナラは」「夢だったらいいのにね 昨日の君の涙」という歌詞は聴き手の心を抉るような切なさがある。「グラスの氷」「写真」「指輪」「ドライヤー」「時計」「ハブラシ」といった小道具が多用されているが、それは聴き手にその光景を想像させるような役割を果たしていると思う。ラストでは自分たちの交際を「一年半のままごと」と切り捨てている。このフレーズが何よりも主人公の虚無感を感じさせる。 この曲は作詞家としての佐久間誠の実力が遺憾無く発揮された曲だと思う。


「夏の終わりに」は今作発売後に「ビニールハウス」のC/W曲としてシングルカットされた曲。作詞作曲及びボーカルは田中一知が担当した。そちらはシングルバージョンとなっているようだ。爽やかなポップナンバー。シンプルなバンドサウンドで構成された力強いサウンドが展開されている。スライドギターが比較的前面に出ており、その音色は曲をひっそりと彩っている。歌詞は「夏の魔法」と負けず劣らずのピュアで甘酸っぱい恋模様が描かれたものとなっている。元々は女性目線の歌詞だったようだが、それを男性が歌うとゲイっぽいと指摘されたので歌詞を変えたようだ。幼馴染の男女が主人公となっている。もはやそのシチュエーションから心に響くものがある。 いつもは幼馴染として接しているのに、ある時ふざけてキスをしたら恋心が芽生えた…。こちらもかなりの胸キュンモノな詞世界である。「ずっと隣に居たいよ 神様お願い せめてどっちかに 勇気を与えてよ」という歌詞が印象的。シングルカットされたのも頷けるほどの良曲。田中一知も優れたソングライターであることがよく分かるはず。


「二人乗りの自転車」は先行シングル曲。PEPPERLAND ORANGEにとってのデビュー曲である。今作収録にあたってボーカルとコーラスのピッチが変更されているという。ネオアコのテイストを感じさせる爽やかなギターポップナンバー。繊細で心地良いギターサウンドと骨太なバンドサウンドとの対比が印象的。田中一知によるコーラスも曲を効果的に盛り上げ、彩っている。歌詞は初恋の思い出と現在の気持ちが語られたもの。この曲もまた、幼馴染との恋模様が描かれている。ずっと遊んでいたのに、いつの頃からか恥ずかしくてまともに接することができなくなった。結局恋人同士にはならず、誰よりも大事な友達のまま。 どこまで聴き手の胸をつまらせればいいのかと思うほどに甘酸っぱく切ない詞世界である。管理人の中では、こんな夏休みを過ごせたらいいな…と妄想する時の題材になっている。それくらいには優れたストーリー性を持った歌詞。歌詞やメロディー共に、1990年代のJ-POPならではの爽やかさや切なさを併せ持った曲となっている。もっと評価されてもいいと思う名曲。


「ピカソ」は今作のラストを飾る曲。今作では唯一、作詞作曲を二人で手がけている。1コーラスまでは佐久間誠が曲をつけ、間奏からサビまでは田中一知がメロディーを作ったようだ。しっとりした曲調やサウンドで進んでいくが、サビでは一気に激しいバンドサウンドが流れ込んで盛り上がる。後半はかなり壮大なイメージの曲調となる。歌詞は大部分が田中一知が作詞したという。ピカソは田中一知が最も尊敬する人物なのだとか。歌詞は他の曲とは違って、どことなくナルシシズムを感じさせる詞世界となっている。海の見える部屋で彼女の似顔絵を描いているというそのシチュエーションから中々に凄い。自らのことを「忘れないで 僕はピカソ」と言い切るそのセンスに圧倒されるばかり。 壮大なバラードと言われればそうなのだが、ナルシシズムが前面に出すぎて少しとっつきにくい印象が否めない。そのような詞世界が嫌いかと言われたらそうではないが。


「夏の魔法-Bosom MIX」はボーナストラック。当時シンプリー・レッドのドラマーを務め、様々なアーティストの楽曲のアレンジやリミックスを手がけていた屋敷豪太(GOTA)によるリミックスバージョン。元のバージョンに比べるとバンドサウンドが少し控えめになっている印象。打ち込みが前面に出たサウンドとなっている。リミックスではあるが原曲に寄り添った仕上がりになっているのでそれほど違和感無く聴けると思う。


「ピカソ-Deux Femmef MIX」はボーナストラック。前の曲と同じく、ドラマー・音楽プロデューサーとして活躍する屋敷豪太(GOTA)によるリミックスバージョン。この選曲は屋敷豪太によるもので、「初めて聞いた時にリミックスのイメージが出来上がっていた」とのこと。サブタイトルはフランス語で「豪華な女性」を意味する。ピカソの著名な作品に、似たタイトルの物があるようだ。サウンドは打ち込み主体となった。元のバージョンにあった壮大さが薄れて終始淡々としたイメージの仕上がりとなっている。管理人はこちらのバージョンの方が聴きやすいと感じたので好き。



あまり売れた作品ではないので中古屋ではたまに見かける程度。実質的には7曲なのでミニアルバムと言った方がいいようなコンパクトな作品である。短い作品ではあるが1曲1曲の完成度が高く、内容はとても濃い。1990年代のJ-POPが好きな方ならまずハマるであろう、爽やかさと切なさを併せ持ったポップスを楽しめる。二人の歌声やコーラスワーク、青春時代の空気を詰め込んだような雰囲気を感じさせる詞世界も大きな魅力。佐久間誠、田中一知のどちらも優れたソングライターだっただけに、もう少し多くの作品を残して欲しかったと思う。それだけは惜しまれる。
このまま埋もれてしまうのが悔しいくらいの作品なので中古屋に行った時には是非とも探していただきたいと思う。「夏の魔法」を聴いて気に入ったならまず出費以上の満足があるだろう。


★★★★★