the pillows
1997-01-22


【収録曲】
全曲作詞作曲 山中さわお
プロデュース 吉田仁

1.STALKER ★★★★☆
2.TRIP DANCER ★★★★★
3.Moon is mine ★★★★☆
4.ICE PICK ★★★★★
5.彼女は今日, ★★★★★ 
6.ストレンジ カメレオン -ORIGINAL STORY- ★★★★★+1
7.Swanky Street ★★★★★
8.SUICIDE DIVING ★★★★☆
9.GIRLS DON'T CRY ★★★☆☆
10.Please Mr.Lostman ★★★★★

1997年1月22日発売
キングレコード
最高位59位 売上不明

the pillowsの5thアルバム。先行シングル「ストレンジ カメレオン」「Swanky Street」「TRIP DANCER」を収録。今作発売後に「彼女は今日,」がシングルカットされた。前作「LIVING FIELD」からは約1年10ヶ月振りのリリースとなった。初回盤はスリーブケース入り仕様。

今作のタイトルはマーヴェレッツが1961年に発表した曲「Please Mr.Postman」をもじったもの。この曲は1963年にビートルズがカバーし、1974年にはカーペンターズがカバーしている。その他にも数多くのアーティストによってカバーされており、音楽のスタンダードと言える存在の曲である。

今作までのピロウズは売上の不振や、ベーシストでありリーダーだった上田ケンジが脱退したことなど様々な問題を抱えていた。その上に音楽性を模索していた。管理人は前作「LIVING FIELD」を聴いたことがないので何とも言えないものの、ジャズやボサノバなどの様々な要素を取り入れ、売れ線に沿った作品になっていたようだ。当時のピロウズが音楽性にかなり迷っていたことがよく分かる。

今作は多彩なジャンルを取り入れた前作とは打って変わり、シンプルなバンドサウンドによるロック色の強い曲が並んでいる。それでも山中さわおが持つ卓越したポップセンスは失われておらず、骨太なバンドサウンドと共存している。
その結果、売上は今までとあまり変わらなかったものの、ピロウズの音楽性が固まった。今作によって今に至るまでのピロウズの音楽性が確立されたと言って良いだろう。


「STALKER」は今作のオープニング曲。2分半ほどの短めな曲。グランジ色の強いサウンドが展開されており、どことなく不穏な雰囲気が漂っている。グランジ色の強い曲は今作の中ではこの曲くらいなので異質な感じ。ヘビーなベースの音から始まるイントロが印象的。歪みのあるギターサウンドと山中さわおの叫ぶような歌声との絡みは鬼気迫るものがある。タイトルからして中々にアクが強いが、それ以上に歌詞の闇が深い。自らを「汚れた」「気取った」「怯える」「最後の」ストーカーに例えている。世の中を冷めた目で見つめる男の姿が浮かんでくる。どんどん深い闇に染まっていきそうなサウンドも相まって、かなり不気味な印象の曲である。しかし、 今作に至るまでのピロウズの背景を考えてこの曲を聴くと、新たな出来事が始まる瞬間の迷いや不安を絶妙に上手く切り取った曲のように感じられる。


「TRIP DANCER」は先行シングル曲。TBS系番組『TICOS』のテーマソング、NHK-FMの『645・大化の改新 青春記』のエンディングテーマに起用された。前の曲からは繋がって始まるのだが、その流れが素晴らしい。不穏な雰囲気の「STALKER」が終わった瞬間、爽やかかつ力強いギターサウンドが聴こえてくる。この上手い演出には聴く度に鳥肌が立ってしまう。瑞々しさを持ったギターサウンドと、思わず身を委ねたくなるような心地良いメロディーとの相性は抜群。歌詞は社会への皮肉を込めつつも、ポジティブな言葉が語られている。「来るべき時が来たら キミの立つ足元も頂上なんだ それは間違いない」という歌詞が好き。一番でのネガティブな詞世界と、二番以降のポジティブな詞世界とのギャップに引き込まれる。誰もが社会の中で「TRIP DANCER」になって日々を過ごしているのかもしれない。


「Moon is mine」はこれまでのピロウズの作風を彷彿とさせる曲。メロディアスでお洒落な曲を作っていた頃。跳ね上がるようにポップなメロディーが展開されている。楽しげなドラムの音や遠くで鳴っている鈴のような音が、曲全体から漂っている可愛らしい雰囲気を演出している。間奏のギターソロは聴き手に語りかけているかのような雄弁さがある。歌詞は少年のようにピュアな心が感じられるものとなっている。ファンタジックでロマンチックな詞世界はピロウズの魅力の一つでもある。「‘夜’ってだけで楽しい」「二人の時を増やせるなら ボクはドラキュラに噛まれたっていいぜ」といった歌詞は何とも可愛らしい。少年と少女の夢物語といった感じの詞世界だろうか。 小さい頃に読み聞かせてもらった物語のように、聴いているとワクワクしてくる曲である。


「ICE PICK」はメロウな雰囲気のあるポップナンバー。パワフルなドラムの連打から始まるが、その後は繊細さ溢れるギターサウンドが主体となる。スピッツやRAZZ MA TAZZの曲を彷彿とさせるギターサウンド。つまりは爽やかで、どこか懐かしさや切なさも感じられるもの。その手のギターサウンドが好きな管理人にはたまらない。メロディーも哀愁を帯びている感じ。歌詞は虚無感とポジティブなメッセージが同居したもの。「また ひとつ空から星が消えた あっけなく吸い込まれた」という歌い出しから儚く切ないイメージ。何の感動もなく、淡々と語っている感じがそのイメージを高めている。タイトルのアイスピックは「プラスチックの涙」を砕くためのものとして描かれている。このアイスピックは前半で描かれていた虚無感を打ち砕くためのものなのだろう。そう考えると、とてもポジティブで爽快な曲のように感じられる。この曲はメロディーもサウンドも歌詞も管理人好み。ベスト盤に収録されなかったのが不思議なくらい。


「彼女は今日,」は今作発売後にシングルカットされた曲。NHK-BS2『WEEKEND JOY』やNHK-FM『ミュージックスクエア』のエンディングテーマに起用された。力強く爽やかなギターサウンドが心地良いポップナンバー。美しくポップなメロディーが素晴らしい。山中さわおの細くて優しい歌声が、この曲では特に魅力的なものとして聴こえる。
歌詞はタイトルからもわかるように、主人公と「彼女」との様子を描いたもの。ピロウズはいわゆる「ヘタレ」な男を主人公としたラブソングが多い印象がある。この曲も例に漏れずヘタレな男性が描かれている。「どこかで見憶えのある外国製の人形に似た瞳が素敵さ」という歌い出しから吹き出しそうになってしまう。あまりにも回りくどい褒め方だからだ。「ジョークなんて通じるかな 想像しても しくじるのは怖いから言わないよ」「何度も確かめたけど やっぱりちゃんと 隣りに存在してた 夢じゃないよ」といった歌詞はまさにヘタレそのもの。管理人は強烈なシンパシーを抱いた。
この曲で語られているのは、「彼女」が「僕とさっきまで そばにいたんだ」というだけ。様々な妄想をしたり、話しかけようと考えたりした挙句、結局何もできないまま「彼女」はいなくなってしまったということ。ピロウズのラブソングの中でも特に好き。管理人と重なるところが多過ぎて、まるで自分が主人公となった感覚に襲われる。叶わなかった恋や片想いに苦しめられた経験がある方には是非とも聴いていただきたい。


「ストレンジ カメレオン -ORIGINAL STORY-」は先行シングル曲。アルバムバージョンでの収録となっている。シングルバージョンと比べると2分近く長くなっている。後にMr.ChildrenやBank Bandでカバーされ、ピロウズの代表曲と言える存在。 これまでのシングル曲とは全く違う路線の曲となっている。そのためか、山中さわおを始めとしたメンバーの独断に近い形でリリースされたようだ。しかし、このシングルをリリースしたことによりピロウズの音楽性は固まった。
骨太なバンドサウンドが主体となった重厚なバラードナンバー。力強いギターサウンドがたまらなく格好良い。管理人はこの曲のイントロを聴くといつも鳥肌が立ってしまう。思わず目を閉じて聴きたくなるような美しいメロディーも素晴らしい。身を委ねたくなる曲である。
歌詞は山中さわおが自らを「ストレンジ カメレオン」に例えた自虐的なもの。「君といるのが好きで あとは ほとんど嫌いで まわりの色に馴染まない 出来損ないのカメレオン」という歌詞は強烈な自己否定や疎外感が描かれている。
しかし、「優しい歌を歌いたい 拍手は一人分でいいのさ それは君の事だよ」
「歴史には価値のない 化石の一つになるのさ 君と出会えて良かったな」という歌詞を始めとした、ファンへの感謝と取れるような歌詞もある。当時の彼らの複雑な心情を全て詰め込んだような詞世界となっていると思う。
管理人は自分に自信が持てない上に内向的な性格で、自分で日陰者だと思っている(他人からもそう思われているはず)が、この曲はそのようなネガティブな面を肯定してくれる感覚がある。自分では意識していなくても、救いを求めるような感覚でこの曲を聴いているのかもしれない。そして、聴いた後にはいつもこんなことを考える。「誰かにとっての"gentleman"になりたい」と。ネガティブな自分を肯定しつつ前向きな気持ちにもさせてくれるこの曲は管理人にとって最高の応援歌となっている。


「Swanky Street」は先行シングル曲。朝日放送系音楽番組『金之玉手箱』のエンディングテーマに起用された。重苦しい雰囲気があった「ストレンジ カメレオン」とは異なり、それまでの流れに沿ったパワフルなギターロックナンバー。イントロのギターとドラムの音が聴こえたその瞬間、聴き手はこの曲の世界観に引き込まれる。キャッチーかつ広がりのあるメロディーが展開されたサビは絶品。タイトルを直訳すると「お洒落な通り」「派手な通り」といった感じだろうか。この曲の歌詞では「僕らにふさわしい道」として描かれている。サビの「信号が何色でもブレーキなんて踏まない 壊れてもいいんだ」という歌詞からは当時のピロウズの熱い想いが伝わってくる。ちなみに「信号が何色でも」のフレーズは、歌詞カードでは道路交通法違反を促進するというような理由で「Swing god gun,I need it low demon」とかなり無理矢理な空耳で表記されている。よくわからない配慮だが、これはこれで面白い。「STALKER」ほどではないが、穏やかではない感じが漂っている。 しかし、それ以上に演奏や歌詞から溢れている熱に魅かれる。


「SUICIDE DIVING」は爽快なポップロックナンバー。タイトルは「飛び降り自殺」というような意味があると思う。不穏なタイトルではあるが、メロディーやバンドサウンドには何らそのような雰囲気が感じられないのが凄い。シンプルなバンドサウンドで構成された曲ばかりの今作では数少ない、ピアノが使われた曲でもある。テンポはローリング・ストーンズを彷彿とさせる。歌詞はタイトル通り飛び降り自殺をイメージさせるもの。「裸足の少年」「靴を脱いでサ」「夜明けの瞬間をそっと滑走路で待ちかまえた」といったフレーズはまさにそれを思わせる。しかし、 この曲の歌詞は新たなステージへと踏み出し、生まれ変わろうとしていた当時のピロウズのことを描いているとも解釈できると思う。もしそうだとしたら、飛び降り自殺に重ねて描くというのはあまりにもひねくれていると思うが…


「GIRLS DON'T CRY」はここまでの流れを落ち着けるようなラブソング。曲自体は2分半ほどと短め。「ICE PICK」のような、繊細でどこか切ないギターサウンドが主体となっている。サウンドだけ聴いていたらスピッツの曲かなと思ってしまう。メロディーもどことなく懐かしさがある。優しさや柔らかさを感じさせる山中さわおのボーカルがサウンドやメロディーによく合っている。歌詞は「誰に言わせても"悪名高き彼女"」という女性に恋した男性の心情が綴られたもの。「噂と歩いて仲間と離れて 独りぼっちで格好いいね」という歌詞が印象的。 この歌詞は山中さわおにとっての理想の女性像が描かれているようにも思える。小曲なのだが、様々な聴きどころがあるので飛ばしてしまうのは憚られる。


「Please Mr.Lostman」は今作のラストを飾るタイトル曲。ゆったりした曲調ながら圧倒的な力強さが感じられる。鋭さと繊細さを併せ持ったギターサウンドが展開されており、曲の力強さを演出している。歌詞は今作の世界観を象徴するようなものとなっている。「Lostman」は直訳すると「迷子」「迷い人」といった感じになるが、この曲及び今作では「世の中から忘れ去られた人」という意味があると思う。それは音楽業界から去ろうとしていた今作リリース当時のピロウズを表す言葉だろう。「年を取って 忘れられてく 痩せた枯木に 星が咲いていた」という歌詞は今作のジャケ写を彷彿とさせる。枯木はメンバーの老いた姿もイメージさせる。今作のラストという位置で聴くと、ピロウズが聴き手や音楽業界に込めたメッセージがよく伝わってくる。この作品で終わるという覚悟を持っていたピロウズは今も輝き続けている。後追い世代の管理人がこの曲を聴くと、不思議と背中を押されるような感覚になるのは、その事実があるからだと思う。


あまり売れた作品ではないので中古屋ではたまに見かける程度。人気のある作品なのでもし見かけてもそれなりの価格で出回っていると思う。
今作はメンバーが「音楽業界への遺書」と位置付けた作品である。そのような覚悟を持って制作された作品だけあって、全編通してかなり暗めな作風となっている。それでもポップでキャッチー、かつメロディアスな曲ばかりで不思議と親しみやすい。オルタナティブロックやブリットポップが好きなら聴いていただきたいと思う。今作は一曲一曲の完成度、曲順の良さ、迫力のある演奏…どれを取っても素晴らしい名盤だが、管理人が一番引き込まれたのはそれぞれの曲の歌詞。全ての鬱屈した感情をさらけ出しているだけでなく、それを肯定してくれるような感覚がある。管理人は他人と比べて卑屈になってしまいがちな性格だが、そのような時には決まって今作を聴きたくなる。
挫折したり、大切な物を失ってしまったりした時、この名盤は聴き手に寄り添う優しく頼もしい味方になってくれる。

★★★★★