【収録曲】
全曲作詞作曲 桑田佳祐
全曲編曲 桑田佳祐&片山敦夫
7.13.15.編曲 桑田佳祐
9.編曲 桑田佳祐,原由子&曽我淳一
2.弦編曲 片山敦夫
4.管編曲 片山敦夫
15.管編曲・弦編曲 島健
プロデュース 桑田佳祐

1.過ぎ去りし日々(ゴーイング・ダウン) ★★★★☆
2.若い広場 ★★★★☆
3.大河の一滴(Album Version) ★★★★★
4.簪/かんざし ★★★☆☆
5.愛のプレリュード(Album Version) ★★★★☆
6.愛のささくれ〜Nobody loves me ★★★★☆
7.君への手紙(Album Version) ★★★★☆
8.サイテーのワル ★★★★★
9.百万本の赤い薔薇(Album Version) ★★★★★
10.ほととぎす[杜鵑草] ★★★★★
11.オアシスと果樹園 ★★★★☆ 
12.ヨシ子さん(Album Version) ★★★★★
13.Yin&Yang(Album Version) ★★★☆☆
14.あなたの夢を見ています(Album Version) ★★★★★
15.春まだ遠く ★★★★☆

(初回生産限定盤A・Bのみ)DISC2
「この夏、大人の夜遊びライブ in 日本で一番垢抜けた場所!! at Billboard Live Tokyo」(2017.07.11)
1.百万本の赤い薔薇
2.大河の一滴
3.君への手紙
4.愛のささくれ~Nobody loves me
5.簪 / かんざし
6.若い広場
7.オアシスと果樹園
8.ヨシ子さん
MUSIC VIDEO
悪戯されて(New Arranged Version)

2017年8月23日発売
ビクター・タイシタレーベル
最高位1位 売上16.8万枚(執筆時点)

桑田佳祐の5thアルバム。先行シングル「Yin&Yang」「ヨシ子さん」「君への手紙」を収録。前作「MUSICMAN」からはベスト盤を挟んで6年6ヶ月振りのリリースとなった。初回生産限定盤A(CD+Blu-ray+特製歌詞ブックレット)、初回生産限定盤B(CD+DVD+特製歌詞ブックレット)、初回生産限定盤C(CD+特製歌詞ブックレット)、CDのみの通常盤、アナログ盤という5形態でリリースされた。

今作は桑田佳祐のソロデビュー30周年記念作である。桑田佳祐は1978年にサザンオールスターズでデビューしてからというもの、母体であるサザンとソロの両方で常に音楽界を牽引してきた存在というのは言うまでもない。しかし、この男は「どスケベ」なのである。音楽だけでなく、その三枚目的なキャラクターでもファンを楽しませてきた。
そんな「どスケベ」が少人数の仲間とのレコーディングの果てに築き上げた今作は「ポップスの臨界点を超えた究極のアルバム」である。発売前に上記のキャッチコピーを目にした管理人は、失礼ながらも「大言壮語なのでは…?」と思っていた。しかし、それは杞憂に終わった。15曲というかなりのボリュームでありながら、それぞれの曲にそれぞれのカラーがある、役者揃いのポップアルバムだったからだ。 


前作「MUSICMAN」は病気を克服してから制作されたこともあってか、どことなく重い雰囲気があったものの、今作は親しみやすい雰囲気が漂った作品である。それは桑田佳祐の狙い通り。「みんなに親しんでもらえる"小品"を目指した」とのこと。タイトルに関しては、ポール・マッカートニーの「junk」の影響を受けているようだ。その曲については「短い"意味なし歌"のようでいて、味わい深くもある」と語っている。「がらくた」と言われるとどうしてもマイナスイメージを持ってしまうのだが、中身は決してそうではない。安直な言い換えをするのなら「ざいほう」といった感じ。タイトルと中身のギャップが激しいのだが、それも桑田佳祐の狙いだったのかもしれない。

「がらくた」というフレーズは何となく可愛らしい響きがある。「ガラクタ」や「我楽多」といった表記ではなく、ひらがなで表記しているのも印象的。ひらがな特有の柔らかさや優しさがよく現れていると思う。それらは今作の収録曲全体からも溢れているように感じる。



「過ぎ去りし日々(ゴーイング・ダウン)」は今作のオープニング曲。若々しさや衝動を感じさせるロックンロールナンバー。桑田佳祐らしい瑞々しいポップ感はしっかりと残っており、無理やりジャンル分けするなら「ポップンロール」と言った感じだろうか。今作は多くの楽曲の編曲に片山敦夫が参加しているわけだが、その影響はオープニング曲であるこの曲から感じ取れる。バンドサウンドと同じくらいピアノが主張したサウンドである。しかしピアノがバンドサウンドを食ってしまうことはない。それはまるでエルトン・ジョンの楽曲のようである。若々しさを感じさせるメロディーやサウンドとは裏腹に、歌詞は「栄光のヒストリー」を振り返る内容となっている。「TOP OF THE POPS」と大ヒットした自らのベスト盤のタイトルを入れてみたり、今をときめく「ONE OK ROCK」の名前を入れてみたりと遊び心を忘れないところが魅力的。遊び心と哀愁とが共存した詞世界はまさに桑田佳祐の真骨頂。
そもそも、今も現役の第一線として大活躍している時点で「ヒストリー」だなんて言えるわけがないだろうというツッコミは野暮なのかもしれない。格好良くて、親しみやすい。TOP OF THE POPS・桑田佳祐そのものを表現したようなこの曲で「がらくた」の世界が始まる。



「若い広場」は温かみに溢れた歌謡曲。NHK連続テレビ小説『ひよっこ』の主題歌として作られた。管理人は歌謡曲に親しんだ世代ではないのだが、それでも何故か「懐かしい…」と感じてしまう。自分の世代とはあまりにもかけ離れているので逆に新鮮に感じたのだろうか?「懐かしくて新しい」という感覚を持った。J-POPの原点は歌謡曲にあるからだろう。これこそ「温故知新」の典型と言えるはず。一般的な楽器以外にも、マリンバ、マンドリン、ウッドベースといった楽器が使われているためか、どことなく優しくて温かみのある音になっている印象がある。メロディーや他の音を包み込むような、流麗なストリングスも絶妙。
歌詞については、桑田は「自然と自分の人生を今一度辿っていく感覚とともに、夢と希望に溢れた日本の未来に思いながら書いた」と語っている。大人の視点から、夢や希望に満ち溢れた青春時代を回想している歌詞。「あの娘今頃どうしてる?さなぎは今、蝶になってきっと誰かの腕の中」という歌詞が一番好き。切なさと清々しさを併せ持った素晴らしい歌詞である。
管理人は「青春」という言葉を懐かしく、眩しく感じた時が大人になる時だと思っている。その点で言うと管理人はまだ大人ではない。歳を重ねる度にこの曲の真の魅力が分かってくるのだろう。「大人」になるのが少し楽しみになった。



「大河の一滴(Album Version)」は先行シングル「ヨシ子さん」のC/W曲。桑田自身も出演したUCC「BLACK無糖」のCMソングに起用された。打ち込みが多用された四つ打ちのリズムは思わず身体が動いてしまう。しかし、曲調は歌謡曲そのもの。その全く合わないように感じてしまう組み合わせは意外にもよく合っている。ドラマのオープニングのような、何かが始まる予感に満ちたスリリングなイメージのイントロからこの曲の世界に引き込まれる。
歌詞は昔の恋人との思い出を振り返っているもの。「砂に煙る 渋谷の駅」「バスのロータリー」「山手線」「ラケルの横道」「宮益坂」「御嶽神社」とリスナーの想像力を掻き立てるような固有名詞が使われている。「ラケル」について調べてみると、オムライスやパンをメインにしたレストランのようだ。ラケルの宮益坂店は桑田が通っていた青山学院大学の近くにあるようだ。桑田自身思い入れがあるのだろう。
もう一つのこの曲の歌詞の特徴は、ボブ・ディランからの影響を思わせるフレーズが使われていること。「Dylan(かみ)」と名前が出てきている。「時代は変わり 答えは風に吹かれている」というフレーズはボブ・ディランの名曲「時代は変わる」「風に吹かれて」を思わせる。「転がる石は女の如く」というフレーズは同じく名曲「ライク・ア・ローリング・ストーン」「ジャスト・ライク・ア・ウーマン」を思わせる。
歌詞だけでなく、メロディーやアレンジからも哀愁が漂っており、「桑田佳祐版ルビーの指環」と言いたくなる。コーヒーのような深みを感じさせる詞世界、円熟味溢れる歌声…何度でも味わいたくなる魅力がある。



「簪/かんざし」はジャズのテイストを感じさせるバラードナンバー。タイトルからはまさに和の香りが漂っているのだが、サウンドは洋風そのもの。繊細でありながらも、どことなく耽美的な味わいを持ったピアノが主体となっている。要所で存在感を発揮するフリューゲルホーンも、色気のある音色で曲の世界観を構成している。ピアノは片山敦夫が演奏しているわけだが、桑田佳祐による歌詞で伝えきれない部分を演奏で表現しているかのように感じられる。歌詞は極めて内省的な内容。共に生きることが叶わなくなってしまった男女の虚無感や喪失感が描かれている。二人でどこまでも堕ちていきたかったのだろう。しかし、それはもうできない。 「甘くジャズなど歌わずに 粋なブルースで踊らせて」という歌詞は鋭利な刃物のような切れ味がある。甘いどころか甘ったるいほどのメロディーや音に乗せてこの言葉を放つ。桑田佳祐自らこの曲を皮肉っているかのような雰囲気がある。和風な世界観、洋風な音作り、情感のこもった桑田の歌…それらの組み合わせは曲に淫靡な印象をもたらしている。これぞ桑田佳祐の新境地。



「愛のプレリュード(Album Version)」は先行シングル「ヨシ子さん」のC/W曲。桑田自身も出演したJTB「JTB夏旅2016」のCMソングに起用された。今作のレコーディングはこの曲から始まったようだ。ここまでの流れを変えるような爽やかさを持ったポップナンバー。桑田曰く「60年代ビートポップ」。ハワイにちなんだタイアップの影響か、ウクレレが全面的に使用されている。晴れ渡る空や輝く海をイメージさせてくれるような音色である。キラキラした音色のシンセも曲をより爽やかに彩っている。
歌詞は友達として接していた女性に恋心を抱いた男性の心情が描かれたもの。 そして、その恋心を打ち明けられないまま「恋人未満の僕でいい 嗚呼 二人の絆は永遠(とわ)に」と友達のエリアを越えるのを諦めてしまう。これほど切なくて胸を抉られるようなフレーズもそうは無い。きっと管理人がこの曲の主人公の男性だったら同じようなことを言って諦めているだろう。それも相まってか、ポップな曲にも関わらず「悲しい気持ち」にさせられる。それにしても、還暦を迎えたにも関わらず、中高生のような甘酸っぱい恋模様を描けてしまう桑田佳祐には脱帽するばかりである。しかも、無理して若作りしているような感じもしない。



「愛のささくれ〜Nobody loves me」はブラックミュージックのテイストを感じさせる曲。桑田自身も出演したWOWOWのCMソングに起用された。ソウルやファンク、ブルースを行き来しているようなメロディーやサウンドが展開されている。ドロドロとした怪しげな雰囲気と、単純に身体を動かしたくなるような心地良さや格好良さとが同居したサウンドには圧倒される。浮遊感のあるシンセやエレピ、メロディーに絡みつくようなピアノ…このようなサウンドは片山敦夫がいなければできなかったと言って良いだろう。歌詞は「どスケベ」としての桑田の姿を遺憾無く見せつけたもの。すれ違った女性に声をかけてヤろうとする男性が描かれている。結局フラれてしまう。そして、「Nobody loves me モテないんだもの」「マブい娘(こ)はもう誰かのもの 呪うよ幸せを」を自虐する。 幸せを「祝う」わけではなく、「呪う」なのである。この上なくみっともないのだが、何故か憎めない。前の曲との繋がりを考えてこの曲を聴くと、主人公は同一人物なのではと思ってしまう。声をかけることができたという点では成長しているが、それでも失敗を繰り返してしまうところは何とも情けない。きっと管理人もこうなるのだろう。未来の姿を見ているようで、笑いながら聴けない。



「君への手紙(Album Version)」は先行シングル曲。映画『金メダル男』の主題歌、桑田自身も出演したWOWOW「開局25周年」のCMソングに起用された。アルバムバージョンでの違いは「エンヤートット…」の掛け声が賑やかになっていること。壮大ではあるが爽やかさも感じさせるロッカバラード。焦燥感を煽るようなアコギのストロークから始まるイントロは物語の終わりを想起させる。そこから打ち込みのサウンドが流れ込んでくる。 アコギの力強い音色と浮遊感のある打ち込みサウンドの絡みは意外にも合っている。
歌詞は夢を追う者を応援し、挫折を経験した者に寄り添うようなものになっている。年長者から下の世代へのメッセージとも取れるかもしれない。それを暖かみのあるメロディーに乗せて歌っている。「波音に消えた恋 悔やむことも人生さ 立ち止まることもいい 振り向けば道がある」という歌詞が好き。挫折を味わった者にしか分からない境地があるのだろう。この曲は聴いた誰もが自分と重ね合わせて聴ける曲だと思う。それを考えると、この曲の主人公は聴き手と言えるだろう。
シングル曲としては少々地味だった印象が否めないが、「がらくた」を構成するピースの一つとしてこの曲を聴くと、より心に沁みてきた。シングル曲をアルバムに収録することの意味はこうしたところにあるのかもしれない。



「サイテーのワル」はここまでの流れを壊すようなハードロックナンバー。激しく唸りを上げるギターサウンドを始めとしたバンドサウンドとシンセとが両立したサウンドが展開されている。どちらかにバランスが偏るということはない。そのバランス感覚が素晴らしい。一部はオートチューンでボーカルが加工されている。山下達郎にもボーカルを加工して怒りを表現したファンクロックナンバーがあったが、それを彷彿とさせる。歌詞は情報にまみれた現代社会を痛烈に風刺したもの。「不倫」や「文春砲」が対象になっている。小さな出来事として終わるはずだったのに、いつの間にか炎上してしまった。気付けばあらゆる情報が特定され、有る事無い事をばら撒かれる。桑田佳祐自身もとある騒動で「炎上」したことがあるので、情報社会の恐ろしさは人一倍知っているはず。それだからこそ一つ一つの言葉に圧倒的なキレと説得力がある。
情報社会だけでなく、人間の心の恐ろしさまで教えてくれる。「便利なネットやSNSも使い方を間違えれば凶器と化す」このような警告はあまりにも言われ過ぎて、最早陳腐な言葉のように感じてしまうのだが、その警告の大切さを再確認させてくれる曲である。



「百万本の赤い薔薇(Album Version)」は先行シングル「ヨシ子さん」のC/W曲。フジテレビ系情報番組『ユアタイム』『ユアタイム クイック』のテーマソングに起用された。多幸感溢れるポップナンバー。ポップかつ聴き惚れてしまうような美しさを持ったメロディーが展開されている。特にどこまでも広がっていくようなサビのメロディーは絶品。イントロから流麗なストリングスが使われ、曲を華やかに盛り上げているのだが、ストリングスアレンジを手がけたのは原由子。しかも、聴き手の心を晴れやかにしてくれるようなピアノの演奏も手がけている。 この曲から溢れ出る多幸感や温かみを演出しているのは原由子と言って良いだろう。「がらくたノート」での桑田のように原由子のことを絶賛してしまったが、それくらいこの曲での原由子は大きな役割を果たしている。
歌詞はタイアップ相手のことを考え、一日の終わりに明日への希望を与えてくれるようなものになっている。しかし、ラブソングや社会派なメッセージソングとしての要素も持ったバラエティ豊かな詞世界である。
その中でも管理人が特に好きなのはこの歌詞。「「愛と平和」なんてのは 遠い昔の夢か」「強くあれと言う前に己の弱さを知れ」これぞ名言。シングルレビューを書いた当初は「紗椰」が気になって色々と書いてしまったものの、それなりに時間が経ったので全く気にならなくなった。シングルのC/W曲として埋もれるには勿体無いと感じるくらい好きな曲なので、今作で救済されて良かったと思う。



「ほととぎす[杜鵑草]」は前の曲とは打って変わって、聴かせるバラードナンバー。前作の「月光の聖者達(ミスター・ムーン・ライト)」を彷彿とさせる、ピアノが主体となったサウンドが展開されている。決して派手に盛り上がるメロディーでもないし、音の数も決して多くはない。それでも何故か壮大な曲のように感じてしまう。繊細で美しいメロディーや情感のこもったボーカルの影響だろうか?余計なものを一切取り払った、必要最低限のサウンドだからこそ心に響くものがあるのかもしれない。 引き算の美学とでも言うべきか。
歌詞は恋人と別れることになった人の心情を描いたもの。主人公は男性とも女性とも解釈できると思う。添い遂げたいとまで願うほど愛していた人なのに、別れることになってしまった。しかし、別れるという運命を受け止めて「寂しがり屋の誰かを励ますように こぼさぬように 涙を あなたがいつも笑顔でありますように」と相手の幸せを祈る。あまりにも儚く、美しい感情が綴られている。ちなみに、ホトトギスには「永遠にあなたのもの」「秘めた意志」というような花言葉がある。それを知った上で聴くとこの曲の歌詞の世界をより深くまで考えることができるだろう。メロディー、アレンジ、歌詞、ボーカル…どれを取っても叙情的。サザン、桑田ソロの両方の歴史に残るような新たな名バラードが誕生したと言える。



「オアシスと果樹園」は爽快なポップロックナンバー。桑田自身も出演したJTB「オアフ島」「ハワイ島」篇のCMソングに起用された。リリース前から度々披露されており、今作のリード曲の一つと言って良いだろう。シンセとピアノが前面に出たサウンドは清涼感と浮遊感を生み出している。サビでは手拍子が使われ、曲の明るさをより引き立てている。間奏のギターソロも曲を効果的に盛り上げている。流れるようにポップなメロディーが展開されているが、それでもどことなく歌謡曲のような雰囲気が感じられるのは近年の傾向だろうか。
歌詞は桑田佳祐にしては珍しく、歌詞から作る「詞先」によって作られた。「遥か旅路へ国際航路は上へ上へと雲を掻き分けて 光一閃 空に虹を架けた」という歌い出しから、聴き手は「オアシス」行きの飛行機に乗っているかのような感覚にさせられる。管理人が好きなのは「人生ずっと どれほど悔やんだって 旅は続くのだろう」という歌詞。これほど爽やかで明るい曲にこのような内省的な歌詞を乗せてしまうセンスに圧倒される。考えさせられるような歌詞も登場させつつ、最終的には「新しい朝が来る 旅は続くのだろう」と希望を持てるような詞世界に仕上げる。 作詞家・桑田佳祐の実力を見せつけられた。いったい、何度桑田佳祐の才能に惚れ、圧倒されてしまったことだろう。これからも同じようなことを繰り替えてしまうはずだ。



「ヨシ子さん(Album Version)」は先行シングル曲。桑田自身も出演したWOWOW「開局25周年」のCMソングに起用された。一言で言うと「怪曲」。初めて聴いた時の管理人の印象は「意味は分からないけど意味はありそうなポップス」というようなものだった。このような変な曲をシングルに、それもA面の表題曲にできるのはやはり桑田だからできる荒技である。
イントロから何とも不思議な印象のサウンドが展開されている。幻想的な打ち込みサウンドが展開され、聴いているとどこか遠い世界へ飛ばされてしまいそうになる。打ち込みサウンドの後ろで終始鳴り響くコンガの音は人力によるグルーヴの凄さを教えてくれる。ずっと聴いていたら頭が変になってしまいそうだが、何故か心地良いのである。覚醒剤のようなドラッグを使用したことなど決して無いのだが、もし使ったらそのような感覚があるのかもしれない。 「聴くドラッグ」 と形容すべきか。
歌詞については全くもって意味がわからない。とりあえず「真夏の太陽 スゲェ High!!」なのは伝わってくる。語感や言葉の面白さ以外はあまり考えていないように感じられる。しかし、演奏やメロディーだけでなく、言葉でグルーヴ感を出してきている。その圧倒的な言葉の数や情報量に聴き手は飲み込まれ、ねじ伏せられるのみである。言うなれば「言葉の洪水」。
この曲では中毒性抜群のフレーズの数々も楽しめる。
「チキドン」「エロ本」「フンガフンガ」「上鴨そば」「Everybody Say」(とても変な発音)… 初めて聴いた時から耳に残って仕方がない。ふとした時に頭の中で「チキドン ♪チキドン ♪」と流れてしまう。それだけでなく、意味不明なPV、狂気じみた女性コーラス、「老い」をイメージさせるフレーズの数々… 「EDM」が分からないのはまだ理解できるが、流石に「R&B」は分かるだろとツッコミたくなる。
曲の何もかもから狂気に満ち溢れているが、「がらくたノート」を読むと、桑田佳祐だけで作られたわけではないことがわかる。角谷仁宣、成田昭彦、片山敦夫、中山佳敬といったエンジニアやミュージシャンによってこの狂気に満ち溢れた世界が作られている。そう考えると、ただのふざけた曲と判断してしまうのは勿体無いように感じる。
このような曲を大真面目に作れてしまう桑田佳祐という男には脱帽するのみである。挑戦心と遊び心に驚かされる。日本の売れ線ポップスに真っ向から喧嘩を売ったこの曲は大名曲にして大迷曲だろう。


「Yin&Yang(Album Version)」は先行シングル曲。フジテレビ系ドラマ『最高の離婚』の主題歌に起用された。今作の中では最も初出が古い曲である。タイトルは「陰陽」の中国語読みである「イン・ヤン」を当て字にしたもの。歌謡曲やグループサウンズのテイストを持ったR&Bナンバー。夜の繁華街の喧騒を思わせるトランペットの音色や、木琴のような音が妖しげな魅力を放っている。タイトなバンドサウンドやピアノとの絡みも絶妙。メロディーやサウンドから官能的な雰囲気が感じられるのが凄い。
歌詞は下ネタ大好きな三枚目としての桑田佳祐の姿が全面的に出されたもの。女性に貢いだ挙句に捨てられてしまった男性の姿が描かれている。「"綺麗な薔薇にゃトゲだ"」という歌詞からは主人公の男性の感情が痛いほどに伝わってくる。曲全体からかつてのお色気深夜番組や風俗街のような空気を感じられる。テレビからすっかりエロが姿を消してしまった世代である管理人にとっては新鮮な印象がある。
今となっては聴き慣れてしまったが、当時では割と異色な曲として聴いていた。サザンが活動再開する前である4年半ほど前にリリースされた曲が今作に収録されているわけだが、不思議と違和感は全く無い。それは今も続いている歌謡曲路線の元祖のような曲だからなのかもしれない。そのような曲が今作に収録されたのも当然だろう。


「あなたの夢を見ています(Album Version)」は先行シングル「君への手紙」のC/W曲。ミドルテンポのポップな曲。打ち込みが多用されたキラキラとしたサウンドは小林武史と手を組んでいた1980年代後半〜1990年代前半までのサザンや桑田佳祐ソロの楽曲を彷彿とさせる。シンセに絡むソプラノサックスの音色は曲を華やかなものにしている。疾走感のあるメロディーが展開されており、とても心地良い。思わず身体が動かしたくなる。
歌詞は冬を舞台に、振られてしまった男の感情を描いたもの。曲の終わり際では鐘の音が入っているので、クリスマスを前にして振られてしまったのではと勘繰りたくなる。サビでは桑田佳祐の卓越した言語センスが発揮されている。「悩んで 病んで 悔やんで うるる」「悶えて 泣いて 恨んで 負のループ」…意識して聴かないと、全て英語かと思ってしまうほどに語感が良い。切なさ溢れる歌詞を明るくキラキラしたメロディーやサウンドに乗せて歌っている。その点ではソロ1stシングル曲の「悲しい気持ち(JUST A MAN IN LOVE)」を想起させる。 明るい曲調だからこそ、歌詞の切なさがより高められている印象がある。A面曲と言っても違和感の無いような曲であり、今作に収録されて良かったと思った。


「春まだ遠く」は今作のラストを飾る曲。ラストというポジションにふさわしい、しっとりと聴かせるバラードナンバー。全編を通して、曲そのものや聴き手を包み込むようなストリングスやホーンが導入されている。ピアノやストリングス、ホーンからはまるでディズニー映画のような美しさや優しさを感じられる。男女の幸せなシーンを華やかに彩る曲のように思える。アコギやハープは曲に確かな風格や力強さを与えている。聴き手の心をぐっと掴むようなキャッチーなメロディーではないのに、壮大な曲のように感じてしまうのはサウンドの影響だろうか。
歌詞は季節の移ろいと共に、男女が愛し合い別れるまでを描いたもの。「自分の愚劣(バカ)さを悔やめど きっとあなたは出て行くんだろう」という歌詞からは、主人公の男性の哀愁や喪失感が特に伝わってくる。春は出逢いの季節として語られることが多い。どうか主人公にとっての「運命」と言えるような出逢いをしてほしい…と、勝手に感情移入してしまう。
こうして「がらくた」は幕が降ろされる。この曲は一曲単位で聴くよりもアルバムの流れを通して聴く方がより良い曲だと感じられるタイプの曲だと思う。聴き終えた後の余韻を味わうために何度だって「がらくた」を聴きたくなる。



「悲しい気持ち(JUST A MAN IN LOVE)」でソロデビューしてから30年、桑田佳祐の「ポップス」の愛や情熱は深まり続けている。桑田佳祐は「マンネリ」というフレーズから最も離れた位置にある存在と言って良いだろう。
ソロデビュー30年記念という意味合いも込めてリリースされた今作ではその愛や情熱、才能が全て放出されている。そのように聞くと高尚な作品のように思ってしまうかもしれないが、親しみやすさを感じるような曲ばかりが揃った作品となっている。
常に新たなる音楽を貪欲に求め続ける桑田佳祐はまさしく「TOP OF THE POPS」であり「MUSICMAN」である。そして、聴き手の心を明るく照らす「太陽」であり、「ヒーロー」である。
リリースされたばかりということでまだまだ冷静な判断ができていないのだが、新しい名盤に出逢えたというのは事実。

★★★★★