L-R
1997-04-16


L⇔R
2017-02-08

【収録曲】
1.6.8.作詞 木下裕晴
2.3.5.9.作詞 黒澤健一
4.7.11.作詞 黒沢秀樹
10.12.作詞 黒澤健一・黒沢秀樹
全曲作曲 黒澤健一
1.6.8.作曲 木下裕晴
7.11.作曲 黒沢秀樹
全曲編曲 L⇔R&遠山裕
プロデュース L⇔R&岡井大二

1.STRANDED ★★★☆☆
2.NICE TO MEET YOU ★★★★★
3.アイネ・クライネ・ナハト・ミュージック ★★★★★
4.First step ★★★★★
5.COUCH ★★★★☆
6.雲 ★★★★★
7.FLYING ★★★★☆
8.僕は君から離れてくだけ ★★★☆☆
9.ブルーを撃ち抜いて ★★★★★
10.直線サイクリング ★★★★★
11.そんな気分じゃない ★★★☆☆
12.STAND ★★★★★

1997年4月16日発売
2017年2月8日再発(リマスター・UHQCD仕様)
ポニーキャニオン
最高位9位 売上6.4万枚(オリジナル盤)
最高位129位 売上0.04万枚(2017年盤)

L⇔Rの7thアルバム。先行シングル「NICE TO MEET YOU」「アイネ・クライネ・ナハト・ミュージック」「STAND」を収録。前作「Let me Roll it!」からは1年4ヶ月振りのリリースとなった。初回盤は紙ケース入り仕様。CDのリリースから1ヶ月後にはレコードでもリリースされた。

今作はL⇔Rにとっては現時点で最後のオリジナルアルバムである。今作をリリースした後、今作に連動したライブ「Doubt」を行ない、活動休止を発表した。1997年6月29日に行われた東京・NHKホールでのラストライブの模様は「L⇔R Doubt tour at NHK hall~last live 1997~」と題してDVD化されている。

今作はこれまで続いてきたLから始まり、Rで繋ぐタイトルの法則を破っている。それにしても、「疑う」を意味するタイトルが実に意味深である。なお、裏ジャケットには「Doubt」とは逆の意味である「Believe」という文字が書かれている。後に黒沢秀樹がリリースした1stアルバムのタイトルは「Believe」である。何かしらの繋がりがあるのだろうか?

今作を制作していた当時の黒沢健一は精神的に苦しんでいたようで、それにまつわるエピソードがある。プレッシャーのあまり、レコーディング中に一時スタジオから逃げ出した…というもの。そのような背景があったためか、今までの作品よりも黒沢秀樹や木下裕晴が作詞作曲に関わった曲が多い印象がある。当時のことを黒沢秀樹は「メインのソングライターは兄の健一で、彼がエンジンのようなものだった。エンジンがぶっ壊れちゃったんですよ」と語っている。このような事情は実験的な要素が強く、どこか重苦しい雰囲気が漂っている今作の作風にも影響しているのかもしれない。


「STRANDED」は先行シングル「STAND」のC/W曲。作詞作曲は木下裕晴が担当した。曲の最初と最後にSEが追加されており、アルバムバージョンとなっている。これまでのL⇔Rには無かった、激しい衝動を感じさせるようなロックナンバー。この曲ほど歪んだイメージの曲は珍しい。疾走感と重厚感とを併せ持ったメロディーやバンドサウンドに圧倒される。歪んだギターサウンドや雷のような迫力を感じさせるドラムは聴き手の耳をつんざくようである。聴き手に向かって言葉を吐き捨てるような黒沢健一のボーカルも曲の世界観を構成している。歌詞はシニカルな雰囲気を持ったもの。タイトルは「立ち往生した」というような意味がある。モヤモヤした日々を抜け出したいという想いが語られた詞世界にぴったり合ったタイトルだと感じた。 これほどの激しいロックナンバーをアルバムの1曲目に据えたところに「L⇔R=ポップ」というイメージを壊す目的があったのではと勘ぐってしまう。従来のL⇔Rの曲とは大きく離れているものの、不思議とクセになる曲。


「NICE TO MEET YOU」は先行シングル曲。キリンラガービールのCMソングに起用された。特に表記は無いものの、今作収録にあたってミックス変更が行われているようだ。突き抜けるような爽快感に溢れたポップロックナンバー。それでもただのポップでキャッチーな曲に仕上がらないのはL⇔Rならでは。「GAME」でも一部で取り入れられていたシタールを全面的に使用し、エスニックな音作りをしている。どこまでもストレートでありながら、どことなくひねくれている。L⇔Rにしかできない芸当と言って良いだろう。圧倒的な解放感を感じさせるサビがたまらない。 「覚醒」というフレーズが良く合っている。「突然奇跡が 傍に近づいて 答 教えてくれた」ような感覚を味わえる。
歌詞は難解で意味はよく分からないものの、今までの自分とは違う、新しい自分との出逢いを果たす物語だと解釈している。何となく神懸かり的な詞世界である。何かに迷った時にこの曲を聴いたら、答が見えてきそうな気がしてしまう。それくらいの全能感を持った曲だと思う。


「アイネ・クライネ・ナハト・ミュージック」は先行シングル曲。タイトルはモーツァルトの「アイネ・クライネ・ナハト・ムジーク」をもじっただけであり、特に意味は無い。今までのL⇔Rの楽曲像をぶっ壊すような、緻密な実験性と荒々しい衝動に満ちた攻撃的なロックナンバー。この曲を初めて聴こうものなら、L⇔Rがどのようなバンドなのか分からなくなってしまうことだろう。イントロでの木琴のような音、重厚なキーボード、唸るようなベース、鋭角的なギターサウンド、投げやりにまくし立てるようなボーカル…それぞれが激しく主張しているのに一つの曲としてまとまっている。そして、サビは一回聴けばすぐに覚えられそうなほどにキャッチー。
歌詞は散文的でよく意味が分からないものの、全編通してネガティブな言葉が並んでいることははっきりと分かる。この曲を作った当時の黒沢健一の苦悩が伝わってくるような詞世界となっている。
聴き手を選ぶようなマニアックかつ実験的な要素と、従来のL⇔Rが持つポップ性とが両立している奇跡的な一曲。異様にクセになってハマってしまうのもこの曲の凄いところ。意味不明、実験的、攻撃的、格好良い、病んでいる、ポップ…この曲を表す言葉はいくらでも思いつくが、そのどれも正解だろう。


「First step」は爽やかなポップロックナンバー。作詞を黒沢秀樹、作曲を黒沢健一が担当した。兄弟による連携プレーで作られた。跳ね上がるような軽快さがあるメロディーが心地良い。それでもどことなく哀愁が漂っている。そのような雰囲気を味わえるのはギターサウンドの貢献が大きいだろう。力強く、大胆に響かせたと思えば、不安や焦りを感じさせる音になる。曲に表情をつけるようなギターサウンドである。
歌詞はポジティブなメッセージとネガティブなメッセージの両方が並んだもの。タイトルも相まってか、新生活を始めた頃の期待や不安が描かれているというイメージが強い。その中でも「僕ははしゃいでて 君は悩んでた そして夢は叶わない」という歌詞の虚無感には思わず引き込まれてしまう。L⇔Rの王道と言える爽やかなメロディーに乗せてこのような言葉を浴びせてしまう。作詞家としての黒沢秀樹の実力を見せつけられているかのようである。メロディー、アレンジ、歌詞のどれも大好き。L⇔Rの全ての曲の中でも特に好きな方に入ってくる。 
管理人が新生活を迎えた時、この曲を聴きながら何とか切り抜けていきたい。


「COUCH」はしっとりとした曲調やサウンドが心地良いミディアムナンバー。サウンドは打ち込みが主体となっているが、サビ前からはギターが前面に出始め、サビではギターが主体となる。黒沢健一の呟くような歌声が曲の心地良さを演出している。Bメロからサビに入る瞬間は異様な高揚感がある。サビは広がりのあるメロディーとなっており、思わず聴き惚れてしまう。夢見心地になる感覚を味わえる。タイトルは「寝椅子」というような意味があるが、歌詞の中には一言も登場しない。
歌詞は迷いや苦悩を想起させるような重苦しいもの。「完成させてく物事の初めの一歩は単純に 決めつけて明日ものぞめば 変わらないままに 消えるだろう」という歌詞からはそれが顕著に感じられる。
曲全体を通して、眠りに入る寸前の現実なのかそうではないのか分からなくなる瞬間を彷彿とさせる雰囲気が溢れている。そう考えると「COUCH」というタイトルも何となく頷ける。


「雲」は爽やかなメロディーが心地良いミディアムナンバー。作詞作曲は木下裕晴が担当した。いきなりサビから始まるキャッチーな構成が印象的。「STRANDED」の作者とこの曲の作者が同一人物であるとはとても信じられないような、ポップかつ美しいメロディーが展開されている。タイトル通り、雲のように優しく流れていくメロディーである。シンプルなバンドサウンドで構成されたサウンドは曲の良さを引き立てている。
歌詞はメッセージ性の強いもの。空に浮かぶ雲を眺めるように、ゆったりと過ごすのもたまにはいいだろうと思わせてくれる。
「決めないでいいさ 悩んでも 分からないことだから 回り道もいいさ 分かるだろう それが 君らしいことさ」「人の目なんて 構う事はない」…歌詞の全てを紹介したくなるほどに優しいメッセージが並んでいる。「聴き手に寄り添う歌詞」の模範と言える。メロディーもアレンジも歌詞も素晴らしい完成度を誇っている。この曲はL⇔Rで木下裕晴が残した曲の最高傑作だと思う。L⇔Rの全ての楽曲の中でも上位に入ってくるくらい好きな曲。


「FLYING」は黒沢秀樹が作詞作曲及びメインボーカルを担当した曲。ゆったりとした曲調が心地良いミディアムナンバー。黒沢健一や木下裕晴とははっきりと違ったカラーを持った曲であるが、それでも今作の作風やL⇔Rらしさに沿っている。サビまではピアノが主体となって進んでいくが、サビ前からはバンドサウンドが入って段々と盛り上がる。弱々しさすら感じさせる黒沢秀樹のハイトーンな歌声は曲の浮遊感を演出している。「FLYING」というタイトルから想像できるような、飛んでいるような爽快感や疾走感は全く無く、辺りをあてもなくふわふわと漂っているという感覚がある。
歌詞は虚無感や喪失感を感じさせるもの。繰り返し歌われる「きっと僕は何も知らない」というフレーズが好き。黒沢秀樹にしか作り出せない世界観を持った歌詞だと思う。黒沢健一が歌ったとしてもこちらほどの雰囲気は無いだろう。3人のメンバーが作り出す曲の幅広さを改めて実感した。


「僕は君から離れてくだけ」は木下裕晴作詞作曲によるロックナンバー。浮遊感のある打ち込み音や歪みのある鋭角的なギターサウンド、パワフルなドラムなどが絡み合ったサウンドは聴きごたえ抜群。余談ではあるが、イントロの打ち込み音がWANDSの「世界が終わるまでは…」のイントロに似ている印象がある。
「STRANDED」にも言えることだが、木下裕晴にしか作れないアグレッシブな曲となっている。サウンド面ではロックな方面に攻めたL⇔Rを楽しめるが、それでもキャッチーなメロディーに変わりはない。やはりそこは一貫している。
歌詞はタイトルからも察しがつくように、投げやりな言葉が並んでいる。黒沢健一の突き放すようなボーカルが言葉の切れ味を強めている。「誰を 憎んでいたって 誰を 笑っていたって 僕には どうだっていいさ」という歌詞は鋭さを感じさせる。人の悪口を聞いている時にこの歌詞が頭をよぎることがある。
この曲は今作の作風とぴったり合っており、今作は木下裕晴が主導となって作られたのではと勘ぐりたくなる。


「ブルーを撃ち抜いて」は荘厳な雰囲気溢れるロックバラードナンバー。ストリングスから始まるイントロは物語の終わりをイメージさせるような力強さがある。サビ前からはバンドサウンドが入ってさらに盛り上がる。サビは一度聴けば口ずさめそうなほどのポップ性と儚いほどの美しさとを併せ持った絶品なメロディーであり、黒沢健一のメロディーメーカーとしての圧倒的な実力を知ることができる。この曲の魅力は黒沢健一のボーカルにあるとも言える。どの部分も鬼気迫る勢いを感じられるが、特にサビ終わりの「ブルーを撃ち抜いて」の部分では全身から絞り出したような絶唱を味わえる。そこは聴く度に鳥肌が立ってしまう。
歌詞は内省的な味わいを持ったもの。いなくなった恋人への想いを喪失感に耐えるようにして淡々と語りつつ、「ふとした瞬間に 君のことを想うだろう」と告げる。メロディーやサウンド、歌詞、さらにはボーカルに至るまで一切の隙がない圧巻の完成度を誇っている。L⇔R屈指の名バラードという位置は揺るがないだろう。


「直線サイクリング」は爽快なポップロックナンバー。前の曲から一転して、勢いに溢れたメロディーやサウンドを楽しめる。寸分の狂いも許されないような張り詰めた空気と、心の底から演奏を楽しんでいるような空気。その両方が感じられるサウンドとなっている。時間に追われて全速力で自転車を飛ばしている時のような疾走感や焦燥感にも満ちている。メロディーは跳ね上がるような勢いを持ったものであり、全編通してサビではないかと言いたくなるほどにキャッチー。荒々しさのあるボーカルもこの曲の爽快感を演出している。
歌詞はモヤモヤした複雑な人間関係とサイクリングとを重ねて描いたようなものとなっている。「決して口にしちゃいけないことで 人を怒らす時もある 直線サイクリング すぐに近道を探してる」というサビの歌詞が好き。いつでも楽な方に行きたくなるのは人間の性とでも言うべきか。自転車に乗っている時に聴きたくなる曲というよりは、人間関係に悩んだ時に聴きたくなる曲という印象がある。「いつでもオーライな気持ち」のままで生きていきたいものだ。


「そんな気分じゃない」は先行シングル「アイネ・クライネ・ナハト・ミュージック」のC/W曲。黒沢秀樹が作詞作曲及びメインボーカルを担当した曲。C/W曲の方は「"JAM TASTE version"」と銘打たれ、こちらとは別アレンジとなっている。こちらのバージョンは打ち込みが主体となっているほか、ボーカルのパートが多いのが特徴。どことなく重苦しい雰囲気のある音作りがされている。モヤモヤした心の様子を具現化したような打ち込みサウンドやヘビーなギターサウンドの影響だろう。ゆったりとした曲調がその印象を強めている。 それでも不快感は無く、心地良さすら感じてしまうのが不思議なところ。
歌詞はタイトルからも想像できるかもしれないが、気だるさに溢れた言葉が並んだもの。「何をしても無駄なような気がする」という歌い出しから実に無気力である。黒沢秀樹の吐き捨てるような歌い方が曲の気だるさを引き立てている。一日中ダラダラして過ごす時にはこの曲のような感情になってしまいがちである。


「STAND」は先行シングル曲。東京三菱銀行のCMソングに起用された。現時点ではL⇔Rにとって最後のシングル曲である。シングル曲としても、アルバムの中でも最後となるこの曲はL⇔Rの王道中の王道なポップナンバー。どこまでもキャッチーなメロディーには圧倒される。骨太かつ勢いに溢れたバンドサウンドはメロディーの良さを限りなく引き立てている。曲全体を通して聴こえる、マーチングバンドのような雰囲気を感じさせるドラムの音が印象的。
歌詞はこれまでの迷いを経て、それに対しての答えを見つけ出したようなイメージを持ったもの。「いつも通りに ここで待ってみよう あわてなくても 変わらない日々」「無駄使いの夜と もう 切り詰めてる朝」「熱狂はさめる 戦いは終わる」…全体的に悟りを開いたような、達観したメッセージが並んでいるが、人生訓のようにも取れる詞世界である。この曲を聴く度に「これでL⇔Rが終わってしまったのか…」という想いと「この曲で終わるのは必然だっただろうなあ…」という想いの両方が頭をよぎる。そのような存在の曲だからこそ歌詞のメッセージに説得力が増しているように感じられる。


あまり売れた作品ではないので中古屋ではたまに見かける程度。突然の大ヒットや、その後の失速による迷いを経て生み出された作品のためか、全編通してどことなく重苦しい雰囲気が漂っている。しかし、一曲一曲の完成度は極めて高い。そして、これが最後のアルバムだと思えないような感覚もある。管理人は後追いリスナーなので、初めて聴き終えた後に「えっ?これで終わりなの?」と呆気にとられたことを覚えている。今作を聴くといつも「もし大ヒットしていなかったらどうだっただろう…?」というようなことを考えてしまう。突出した大ヒット曲が無い状態でマイペースに活動し続けていた方が良かったのかもしれない。
サウンド面ではこれまでの作品よりも実験性やロック色が強くなっている印象があるが、それでもL⇔Rならではの卓越したポップ性は残っている。このバランス感覚が今作最大の魅力と言っていいだろう。
最後まで自分たちの音楽性を貫き、駆け抜けたL⇔Rが放った最後のアルバムは今でも燦然と輝き続けている。「究極の問題作にして傑作」とでも言うべきだろうか。

★★★★★