CHAGE&ASKA
1990-08-29


CHAGE&ASKA
2001-06-20



【収録曲】
1.2.6.8.9.11.作詞 飛鳥涼
3.4.作詞 青木せい子
5.作詞 CHAGE
7.10.作詞 澤地隆
1.2.6.8.9.11.作曲 飛鳥涼
3.4.5.7.10.作曲  CHAGE
1.2.8.9.11.編曲 飛鳥涼・Jess Bailey
3.4.5.10.編曲 村上啓介
6.編曲 Jess Bailey
7.編曲 十川知司
プロデュース CHAGE&ASKA・山里剛


1.DO YA DO ★★★★★
2.水の部屋 ★★★★☆

3.すごくこまるんだ ★★☆☆☆
4.ROLLING DAYS ★★★☆☆
5.Primrose Hill ★★★☆☆

6.僕は僕なりの ★★★★☆
7.Reason ★★★★★
8.モナリザの背中よりも ★★★★☆

9.ゼロの向こうの GOOD LUCK ★★★★☆
10.YELLOW MEN ★★★☆☆
11.太陽と埃の中で ★★★★★


1990年8月29日発売
1993年12月17日発売(APO CD)
1998年3月11日再発
2001年6月20日再発
2009年10月21日再発(SHM-CD・リマスター)
ポニーキャニオン(オリジナル盤、1993年盤)
東芝EMI(1998年盤)
ヤマハミュージックコミュニケーションズ(2001年盤、2009年盤)
最高位4位 売上52.0万枚(オリジナル盤)
最高位300位 売上0.04万枚(2009年盤)


CHAGE&ASKAの13thアルバム。先行シングル「DO YA DO」を収録。今作発売後に「太陽と埃の中で」がシングルカットされた。前作「PRIDE」からはバラードベストを挟んで1年振りのリリースとなった。オリジナル盤の初回盤はスリーブケース入りでブックレットが封入。「CHAGE&ASKA」の名義になってから初のオリジナルアルバムである。


今作はロンドンでのレコーディングがされた初の作品。これまでは予定が合わず、ロンドンのミュージシャンを日本に招く形でレコーディングされたこともあった。ASKAは1989年の秋に生活の拠点をロンドンに移し、翌年の春からCHAGEが合流して制作された。ASKAは現地でミュージシャンやアレンジャー、スタジオを手配するなどの準備を一人で行った。


前作「PRIDE」でも感じたことではあるが、ASKAとCHAGEで作る曲の雰囲気がかなり変わっている。「CHAGE曲=マニアック」というイメージが定着したのも今作辺りからだろう。今作では、ASKAの曲はロンドンでレコーディングされ、ミュージシャンやエンジニアによって演奏や録音がされている。CHAGEの曲は日本のミュージシャンやエンジニアによって演奏や録音がされている。それらがほぼ半々の割合で混ざり合っている構成となっている。


「DO YA DO」は今作のオープニングを飾る先行シングル曲。トヨタの「スプリンターカリブ」のCMソングに起用されたほか、1995年にはスバルの「VIVIO」のCMソングに起用された。ベスト盤「VERY BEST ROLL OVER 20th」ではDISC2のオープニングを飾っているのでライトリスナーにも馴染み深いかもしれない。タイトルは英語のスラングで「どうするつもり?」という意味があるようだ。シリアスな雰囲気を持ったシンセの音色がやたら耳に残るポップナンバー。起伏の激しいメロディーが展開されており、ASKAのメロディーメーカー振りがよくわかる。特にサビは独特な転調がされている。捻りがあるのにポップなメロディーという見事なバランス感覚である。

歌詞は恋人への切ない想いが語られたもの。主人公の男性は既に恋人がいる女性を好きになったのだろう。サビでは本当の恋人である「あいつ」が女性に花を渡してプロポーズしている。「恋人用の鼓動 いつも鳴らしてた」主人公はそれを見て、途方に暮れる。まさに「どうするつもり?」な詞世界である。
後にも先にも似たような雰囲気の曲は少ないのでインパクトが強い曲という立ち位置にある。中毒性のある曲である。


「水の部屋」はしっとりと聴かせるバラードナンバー。国内信販「KCカード」のCMソングに起用された。ASKAならではの叙情的で美しいメロディーが展開されている。メロディーや聴き手を包み込むような、優しいキーボードの音色が主体となっている。どことなく懐かしさを感じさせる音作りである。ロンドンでレコーディングされた曲なのだが、曲全体から和の雰囲気が漂っているのが特徴的。

歌詞はASKAが小学生の頃の入学式の記憶を辿っていって描かれたもの。タイトルは「羊水」を意味しているようだ。「ああ 桜散る門をぬけて 母の手を引く 走る」という歌詞はまさに入学式の光景そのものと言ったところ。この曲の歌詞はそのような思い出だけでなく、ASKAの死生観もうかがい知れる。「やがて君と この部屋に 帰って行く」という歌詞はそれが顕著に現れている。聴く度に味わい深さが増して行くような歌詞である。
ASKA=バラードというイメージがあったようだが、そのイメージに沿った美しい曲である。ソロで歌っていても違和感が無い。隠れた名バラードと言ったところ。


「すごくこまるんだ」はノリの良いポップナンバー。CHAGEの作曲によるもので、歌詞は青木せい子によるもの。歌詞が先に作られたようだ。淡々としたメロディーに言葉が詰め込まれている。シンセが主体となったサウンドが展開されている。左右から二人の歌声が聴こえてくるような、独特な音作りがされているのが特徴。イヤホンやヘッドホンで聴くとそれがよくわかる。コーラスというにはあまりにも主張しているようなASKAの歌声もインパクトがある。CHAGEはふざけて歌っている感じ。CHAGE=三枚目的なキャラという印象を持たれることが多いが、そのイメージ通りな曲となっている。
歌詞は女性の誘惑に負けてしまう男性を描いたもの。女性による作詞ではあるが男の心をしっかり理解して描かれた歌詞であり、青木せい子の作詞家としての実力が発揮されている。「ひとりきりになれる場所の鍵 なぜかいつも壊したがるんだ 女はだれだって」という歌詞が好き。ユーモアのある曲なのだが、これまでの2曲からの落差が凄い。CHAGE曲はマニアックと言われてしまうのも納得である。



「ROLLING DAYS」はCHAGEならではのノリの良さがあるポップロックナンバー。同じ曲に澤地隆が違う歌詞をつけた「月夜に機関銃」という曲を西田ひかるに提供している。「ロマンシングヤード」ほどの勢いは無いものの、それでもその路線を彷彿とさせる曲である。この曲も青木せい子の詞が先に作られているようだ。CHAGE曰く「冒頭の2行を見た瞬間にASKAとのコーラスが浮かんだ」とのこと。そのせいかはわからないが、かなり凝ったコーラスワークが展開されている。
歌詞はハードな雰囲気があるもの。「死んだ魚みたいな飛行船が街を泳いでた」「破壊された地球儀プラスティック破片が燃えていた」といった歌詞はそれがよくわかる。何があったんだよと言いたくなるような詞世界となっている。曲全体を通して「うねり」が感じられるので、タイトルも頷ける。凝ったサウンドやコーラスは印象に残るものの、やはり王道を外した感じ。



「Primrose Hill」はCHAGEのソロによる曲。CHAGEによる前2曲と比べると格段に落ち着いた曲となっている。タイトルはロンドンに滞在中、使用したスタジオの近くにあったという公園の名前から取られた。シンプルかつ美しく温かみのあるメロディーが心地良い。ASKAだけでなく、CHAGEもまた優れたメロディーメーカーであることを実感させてくれる。音の数は少なめで、メロディーやボーカルの美しさを演出している感じ。
歌詞は今作では唯一のCHAGE自身によるもの。「ロンドンに滞在した事実を曲だけじゃなく言葉としても残したかった」とのこと。公園を舞台に、そこにいる人々の様子を描いているような感じ。「見知らぬ人が 行き過ぎる 見知らぬ声が 駆けめぐる」という歌詞が好き。プリムローズ・ヒルに行ったことがなくても行ったような感覚にさせられる詞世界。派手さは決して無いものの、聴いていて安心感のある曲である。


「僕は僕なりの」はASKAソロによるバラードナンバー。この頃のASKAの曲に多く見られる、叙情的なスローバラード。今作の収録曲の中で、ASKAが最後に仕上げた曲とのこと。身を委ねたくなるような美しく心地良いメロディーが展開されている。サウンドもピアノやシンセが主体となった優しいもの。曲の雰囲気に合わせてしっとりと歌うASKAの歌声には聴き惚れてしまうような力がある。
歌詞は香港のホテルに閉じこもってじっくり書かれたというエピソードがある。恋人への優しいメッセージと取れるような内容。「君が僕の生き方 愛す度に 少しずつ自分を 好きになれた」という歌詞が好き。そして、「僕は僕なりの愛を 与えて行くから」と宣言している。恋人と出逢ったことによる心の変化を描いた歌詞に弱い管理人にはたまらない歌詞である。ソロの作風をそのまま引き継いだような、繊細さや愛に溢れたバラードであり、まず外れは無い。



「Reason」はCHAGEによる美しいバラードナンバー。今作では唯一、編曲は十川知司が担当した。そのためか、チャゲアスの王道と言えるサウンドとなっている印象がある。シンプルなバンドサウンドをバックに、シンセが主張しているサウンド。繊細で流麗なメロディーはASKAのそれにも負けない心地良さがある。伸びのあるCHAGEの歌声と、広がりのあるメロディーとの相性は最高である。後半で入ってくるASKAのコーラスも曲を効果的に盛り上げ、彩っている。
作詞は澤地隆が担当した。切ない恋心を描いたもの。恐らく、主人公は既に恋人がいる女性に恋してしまったのだろう。「なぜ ため息ついて もっと 早く出逢えなかったと ほほえんだ君が 眩しい」という歌詞からは二人の感情がよく伝わってくる。この曲は各アルバムに1曲くらいの頻度で入っている、CHAGEによる名バラードというポジションだと思う。CHAGEにしか作れない世界観がある。「マニアック」というフレーズもこのような曲を前にしたら通用しない。


「モナリザの背中よりも」はここまでの流れを変えるような勢いの良さがあるポップロックナンバー。国内信販「KCカード」のCMソングに起用された。90年代でのライブでは定番曲としてよく演奏されていたという。シンセが主体となりつつもバンドサウンドもしっかりと主張するサウンドが展開されている。爽やかさが漂うメロディーは思わず身体が動いてしまう。確かにライブ映えするサウンドやメロディーだと思う。中々にインパクトがあるタイトルだが、これは「モナリザの背中って誰も見たことがない」というところから発想を広げていったという。歌詞はどことなくアダルトな世界観が感じられるもの。「待ち合わせは唇」「モナリザの背中よりも遠い気がしてた」といったフレーズはASKAの卓越した言葉の感覚がうかがい知れる。 誰も思い浮かばないような比喩なのに、的確かつすぐに想像できる。ただ脱帽するのみである。ポップな路線のASKA曲の王道と言った感じの存在感がある曲。 



「ゼロの向こうの GOOD LUCK」はデジタルロックテイストの強い曲。ロック色の強い力強いメロディーが展開されているものの、シンセが前面に出たサウンドは今になって聴くと古臭さを感じてしまう。シンセの後ろでサウンドを盛り上げているギターは職人的な渋い存在感を放っている。バンドサウンドを主体にしたり、シンセを今に合うような音にしたりすれば格好良さが増してさらに良い曲だと感じられそう。AメロやBメロよりもサビの方が地味な感じがある。その違和感が不思議とクセになる。
歌詞はモデルになった人がいるらしく、その人を題材にして描かれているようだ。しかし、それ以上に印象に残るのはASKA特有の言語センス。「金で覚えたエクスタシー 地中海です今夜は 今夜は」「流れ星用の 網を貸しましょうか」「幼い頃から 磨いた刃が 満月の満月の顔して暴れ出す」…どんな発想で思いついたのか問い詰めたくなるようなフレーズばかりである。格好良さがありつつも、ミステリアスな雰囲気もある曲。ASKAという人物そのものを象徴しているかのよう。



「YELLOW MEN」は先行シングル「DO YA DO」のC/W曲。CHAGEによる曲。「ROLLING DAYS」よりも勢いが増したポップロックナンバー。「ひとつのコードをマイナーとメジャーに変換しながら作った」という独特なメロディーが展開されている。一筋縄ではいかないクセのあるメロディーは中毒性がある。激しいギターサウンドとシンセとが絡み合うサウンドは時代を少し先取りしていたような感覚がある。
歌詞は「大きな意味で日本人を捉えたもの」とのこと。タイトルは外国人から見た日本人の姿を意味したものだろう。歌詞全体としてはバブル時代ならではの感覚がある。「黄色い顔して痩せてるロボットのオレ ヒューズを切らして世界に捨てられる」という歌詞は闇を感じさせる。歌詞を始めとして少々時代性が強いという印象が否めないものの、今聴いてもある程度の格好良さがある。ライブで演奏されていたら、さらに格好良いと感じられたかもしれない。


「太陽と埃の中で」は今作発売後にシングルカットされた曲。日清食品「カップヌードル」のCMソング、フジテレビ系情報番組『TIME3』のエンディングテーマに起用されたほか、1993年にはヤマハ発動機オートバイ「TT250R」CMソングに起用された。シングルカットながら50万枚ほど売れ、次作シングル「SAY YES」で大ヒットする礎となった。ファンのみならず、ベスト盤を聴いたくらいのリスナーや世代の一般リスナーからの支持も厚い曲。

「青春賛歌を作りたい」という想いから作られたという、壮大で力強いロックバラードナンバー。イントロから何かのエンディングのようなストーリー性がある。大きな優しさや愛を想起させる、どこまでも広がっていくようなサビのメロディーは絶品。ラストのコーラスは曲の力強さを象徴している。
歌詞は挫折した夢について描かれている。昔から描いていた夢を実現できた方は少ないだろう。必ず叶うという保証がないものだからこそ「夢」というフレーズに眩しさがあるのかもしれない。「追い駆けて 追い駆けても つかめない ものばかりさ 愛して 愛しても 近づく程 見えない」というサビの歌詞は切なさに溢れている。
管理人の中ではチャゲアス屈指の名曲というポジションにある。何度聴いても鳥肌が立ってしまう。アルバムのラストという形で聴くと、さらにストーリー性や力強さが増しているように感じられる。


そこそこ売れた作品なので中古屋ではよく見かける。主にJess Baileyが手がけたASKAの曲、MULTI MAXの村上啓介が手がけたCHAGEの曲とでかなり作風が異なっている。そのため、アルバム全体としてはバラエティ豊かな作風になっている。悪く言えばまとまりが無いという印象もある。しかし、そのまとまりの無さこそが今作の魅力であるとも言える。そのため、後追いリスナーの場合、人気曲「太陽と埃の中で」が収録されているアルバムという認識で聴くと失敗する可能性が高い。ある程度チャゲアスの魅力を知ってから聴くと楽しめるだろう。


★★★★☆