SMILE
1995-09-21



【収録曲】
全曲作詞作曲 浅田信一
8.作曲 浅田信一&牧田一平
1.編曲 SMILE&朝本浩文
2.編曲 SMILE&R.J.W.
3.4.7.10.編曲 SMILE
5.編曲 SMILE&桜井秀俊
6.編曲 SMILE&佐橋佳幸
8.9.編曲 SMILE&白井良明
10.ストリングス編曲 溝口肇
1.プロデュース 朝本浩文
2.プロデュース R.J.W.
3.9.10.プロデュース 白井良明
4.7.プロデュース SMILE
5.プロデュース 桜井秀俊
6.プロデュース 佐橋佳幸
8.プロデュース SMILE&白井良明


1.AND ON WE GO ★★★☆☆
2.LOSER ★★★☆☆
3.明日の行方 ★★★★★

4.風の中で ★★☆☆☆
5.HARD RAIN ★★★☆☆
6.昨日の少年 ★★★★★
7.EMPTY GLASS ★★★★☆

8.午後の空 浮かぶ月のように ★★★★☆
9.PLEASE GOD!! ★★★★☆

10.流れ星と月の石-LIGHT AND DARKNESS- ★★★★☆


1995年9月21日発売
Sony Records
最高位不明 売上不明


SMILEの1stアルバム。先行シングル「明日の行方」を収録。今作発売後に「昨日の少年」がシングルカットされた。

SMILEは1995年にデビューした5人組のバンド。ボーカル・ギターでほぼ全ての楽曲の作詞作曲を担当する浅田信一、ギターの鈴木達也、ベースの池沼克己、キーボードの牧田一平、ドラムの長里和徳からなる。繊細かつポップでキャッチーなメロディーや、力強く骨太なギターサウンド、浅田信一による文学的な歌詞、桑田佳祐を彷彿とさせる浅田信一の色気のある低い歌声などが魅力。


SMILEはデビューした年のせいか、「ポストミスチル」「ポストスピッツ」として語られることが多かった。その二者がヒット曲を次々に飛ばしていた頃だったのに「ポスト」として挙げられていたというのは少々難だが…


SMILEは12作のシングルと4作のオリジナルアルバムをリリースした後、2000年末に活動を休止した。2004年に一夜限りの再結成ライブを行ったものの、そこで事実上の解散が発表された。その後、2014年8月には活動を再開したようだが、頻繁に活動しているわけではないと思われる。


浅田信一は現在、シンガーソングライターとしてだけでなく、作詞・作曲・編曲家、音楽プロデューサーとしても活躍している。KinKi Kids、CHEMISTRY、関ジャニ∞に歌詞の提供を行ったほか、V6や飯塚雅弓に楽曲の提供を行っている。音楽プロデューサーとしては古市コータロー、HY、高橋優、クリープハイプ、 ふくろうずなどの作品を手がけている。



「AND ON WE GO」は今作のオープニング曲。オープニングにふさわしい力強いロックナンバー。開始1分までは「AND ON WE GO」と繰り返し歌われ、そこからバンドサウンドが流れ込んで盛り上がる構成。不安定なようでいて芯の通ったメロディーが展開されている。そして、サビのメロディーはかなりキャッチーなもの。ハネたビートのドラムや歪んだギターサウンドが聴いていてとても心地良い。
歌詞はメッセージ性の強いもの。「さあ行こう!」という感じの意味があるタイトルからもそれが想像できる。「地下鉄を乗り換えて西側へ下ろう 青い鳥の翼は役にたたないから」というサビの歌詞は思わずどこかへ旅立ちたくなるような力がある。浅田信一の歌声が歌詞に説得力を持たせている。曲全体としては、爽快ながらもどことなく緊張感の漂うものとなっている。



「LOSER」はダウナーな雰囲気漂うロックナンバー。編曲やプロデュースに記載されている「R.J.W.」というのは正式にはRED JAMAICAN WARRIORSといい、朝本浩文が在籍していたユニットのようだ。そのためか、打ち込みが多く使われている。バンドサウンドを覆ってしまわない程度の味付けになっているのは好印象。終始落ち着いたメロディーなのだが、サビは比較的キャッチーな仕上がりとなっている。
歌詞はタイトルや曲調からも想像できるように、ネガティブな雰囲気のあるもの。サビでは「I'M A LOSER」と堂々歌い上げている。歌詞全体としてはラブソングと解釈できる余地があるのだが、それ以上に自分の弱さを打ち明けているという印象が強い。
しかし、2曲目というポジションは合わないのではと思うほどに暗い。「明日の行方」とは物語が繋がっていると解釈して聴いている。



「明日の行方」は先行シングル曲。TBS系音楽番組『COUNT DOWN TV』のエンディングテーマに起用された。SMILEにとってのデビュー曲である。最高位こそ39位だったものの、粘り強くロングヒットを続けた。
爽やかなメロディーが心地良いポップロックナンバー。アコギが前面に出たシンプルなバンドサウンドはメロディーの爽やかさを演出している。歌詞にも登場する「雲」のように流れていく美しいメロディーである。そして、サビはすぐに口ずさめるようなキャッチーなもの。浅田信一のメロディーメーカーとしての実力がよくわかる。
歌詞は「LOSER」に引き続きかなりネガティブなもの。明るい曲調とのギャップが凄い。「取り返しのつかない過ちをひとつ犯して」「ホチキスで止められたぼくの笑顔はどう見ても 許されない」「行き場のない今日」といった歌詞はそれが顕著に現れている。しかし、ネガティブと分かっていても引き込まれる確かな表現力や訴求力がある。それは浅田信一の歌声も影響しているのかもしれない。曲全体を通して、青空を見ながら自分のこれからを想像している時のような雰囲気がある。どこか青臭くて、懐かしくて、不安になって…青春時代の光景の一ページを丁寧に描き出した名曲である。それは今でも一切色褪せずに輝きを放っている。



「風の中で」はアコースティックなサウンドが展開されたミディアムナンバー。今作では数少ない、完全なセルフプロデュースによる曲。ジャンルとしてはフォークロックと言った方が良いだろうか。力強く重厚なギターサウンドやベースが前面に出ている。アコギとエレキギターの使い分けが絶妙であり、サウンドにメリハリをつけている。メロディーは終始平坦な印象があり、サビでもそこまでキャッチーさはない。
歌詞はやはりネガティブなメッセージが語られたもの。当時の浅田信一に何があったのだろうか。「時計じかけの人たちは 休む事も知らず 自分には嘘をつき やがて他人(ひと)をだます」という歌詞が印象的。この歌詞は今でも説得力があって切れ味の鋭いメッセージになっていると思う。しかし曲の重苦しさが凄いので、聴いているとこちらまで心が暗くなってしまう印象がある。


「HARD RAIN」はここまでの流れを変えるようなハードロックナンバー。編曲及びプロデュースには真心ブラザーズの桜井秀俊が参加した。イントロから歪んだギターサウンドが展開されており、終始前面に出ている。他の楽器も激しい音色で主張している。SMILEにはこういう一面もあるのだと宣言しているようなバンドサウンドである。
歌詞は別れた恋人へのメッセージだと解釈している。「この声を何処に向けて放てば正しいの」「この想い誰に向けて問いかければいいの」という歌詞は聴いていて痛々しいほど。思い切り情感を込めて歌う浅田信一のボーカルや激しいバンドサウンドも相まって、中々にヘビーである。


「昨日の少年」は今作発売後にシングルカットされた曲。TBS系音楽番組『COUNT DOWN TV』のエンディングテーマに起用された。温かみのあるメロディーが心地良いミディアムナンバー。透き通るような美しいギターサウンドと、エレピやオルガンとの絡みがたまらない。温かみだけでなく、どこか懐かしい雰囲気も感じさせるメロディーとなっている。そのようなメロディーながらサビはキャッチーである。この仕上がりが絶妙。

歌詞は少年時代の思い出を振り返ったような内容。「背よりも高い向日葵」「空が赤く染まる」「銀杏の樹」「北風」…様々な季節を想起させるようなフレーズが並んでおり、聴いているとその光景が浮かんでくる。管理人はこの曲を聴くと、小学生の頃の夏休みの思い出が浮かぶ。そのようなことができるのは一つ一つの思い出を慈しむようなボーカルのお陰だろう。
今作のアルバム曲の中だと突出して印象に残る曲だけに、シングルカットされたのも頷ける。シングルカットするとしたらこの曲以外に思いつかない。



「EMPTY GLASS」は爽やかなポップナンバー。今作では数少ない、完全なセルフプロデュースによる曲。清涼感のあるアコギの音色が前面に出ている。イントロではハーモニカが使われ、高揚感を演出している。終始シンプルなバンドサウンドが主体となっているのが好印象。サビは一回聴けば耳を離れなくなるようなわかりやすさがある。
歌詞は自らを「empty glass」に例えたもの。これまた後ろ向きな印象のフレーズが並んでいる。「ひび割れたまま」「何処にも納まりきる場所はない」「捨てられるだけ」「くもりを拭い取られることはない」「ぼくの声 君に届かない」…ガラスのような脆さを持った自らの心を描いているのだろうか。1stということから想像を膨らめると、音楽業界に入ることへの不安を描いた歌詞とも取れるかもしれない。この曲もまた、曲やサウンドと歌詞とのギャップが激しい。


「午後の空 浮かぶ月のように」は爽快なポップロックナンバー。作曲は浅田信一と牧田一平の共作によるもの。キーボーディストが作曲に関わったためか、バンドサウンドと同じくらいキーボードも目立っている。絶妙なバランスで調和しているのでお互いに潰し合っていることは無い。タイトル通り空のように流れていくメロディーが美しい。爽やかさと美しさを両立させたメロディーというのは中々無いだけに凄い。
歌詞はどこか悟ってしまったようなフレーズが並んだもの。「教えておくれよ 現在(いま)を生かされる意味を」「小鳥たちも猫も きっと いつかは 死ぬことを 知ってる」「水たまり映る ぼくは誰なのか分からない」…これまたメロディーやサウンドと歌詞との落差が凄い。もはや狂気じみた雰囲気すら感じてしまうのだが、それでも引き込まれてしまう。


「PLEASE GOD!!」は力強いロックナンバー。前の2曲よりも骨太なギターサウンドが前面に出ており、ロック色が強め。勢いの良いバンドサウンドは聴き手の気持ちを明るく盛り上げてくれるかのよう。サウンドはロック色が強いものの、メロディーは全体を通してかなりポップなもの。
歌詞はストレートな恋心が語られたもの。サビでは「GOD!!」と神頼みしているのが微笑ましいところ。それ以上に印象的なのが、全体的にポジティブな詞世界だということ。「丘の上の樹は今も枯れることなく 新しい芽をつけては風を呼ぶ」という歌詞はそれが顕著に感じられる。ネガティブなものばかりだったので、遂に明るいのが来た!という気分になってしまう。終わり際になってこのような曲を配置する采配はニクい。


「流れ星と月の石-LIGHT AND DARKNESS-」は今作のラストを飾る曲。重厚なロックバラードナンバー。それでもバンドサウンドが主体となっていて聴きやすい。この曲では流麗なストリングスが起用されており、それも聴きどころの一つ。それらの絡みによって、感情を揺さぶるような訴求力のあるサウンドとなっている。
歌詞は別れた恋人へのメッセージと取れるもの。それでも心の中ではまだその相手のことを忘れられないようだ。「昇りかけた階段さえ 諦められると言うのかい 大人になったの一言で 君は片付けられるのかい」という歌詞は主人公の心情が詰め込まれているよう。バンドサウンドやメロディーは聴き手の心を掴むだけの確かな強さがある。ラストを飾るにふさわしい存在感を持っている。


数多く売れた作品ではないが中古屋ではそこそこ見かける。スピッツ、Mr.Children、L⇔R、FIELD OF VIEW、DEEN、RAZZ MA TAZZを始めとして数多くの爽やかなポップスを得意としたバンドが存在した90年代だが、その中でも「渋さ」という面で存在感を放っていたのがSMILEだと思う。それはやはり浅田信一のボーカルによるものが大きかったと言える。
今作は1stだが、そうとは思えないような完成度と1stならではの未完成な要素とが入り混じっている。後半はポップな曲や爽快なロックナンバーが多いものの、前半はダウナーな曲やマニアックな曲が並んでいる。それが中々にバランスが悪い。曲はともかく、曲順を変えるだけでも大分印象が変わっていたように感じる。そこだけが勿体無い点。


★★★★☆