崎谷健次郎
1990-04-21


【収録曲】
1.2.6.7.10.作詞 松井五郎
3.8.9.作詞 崎谷健次郎
4.作詞 田口俊
5.作詞 斉藤由貴
全曲作曲編曲 崎谷健次郎
2.編曲 武部聡志・崎谷健次郎
6.編曲 鳥山雄司・崎谷健次郎
7.編曲 倉田信雄
4.8.ストリングスアレンジ 倉田信雄
プロデュース 崎谷健次郎

1.Melody ★★★★☆
2.さよならも言わずに ★★★★★
3.太陽の傍で ★★★☆☆
4.Because Of Love(Remix) ★★★★★
5.アクリル色の微笑 ★★★★☆
6.Parallel Line ★★★★☆
7.ただ一度だけの永遠 ★★★★☆
8.冬の時計台 ★★★☆☆
9.In My Rainy Garden ★★★★★
10.ためいきの青空(Remix) ★★★★☆

1990年4月21日発売
ポニーキャニオン
最高位33位 売上2.4万枚

崎谷健次郎の4thアルバム。先行シングル「Because Of Love」を収録。今作と同日にシングル「さよならも言わずに」がリリースされた。前作「KISS OF LIFE」からは丁度1年振りのリリースとなった。

崎谷健次郎は1983年にキーボーディスト、1985年に作曲家、1987年にシンガーソングライターとしてデビューし、現在も活動している。プロデューサーとしても活動している。
透明感のあるハイトーンボイスが特徴的で、その歌声は崎谷の楽曲の魅力の一つ。崎谷は都会的な雰囲気に溢れたポップスを得意としており、AORに関しては国内での先駆者と言える存在である。他にもファンクやロックの要素を持った曲も得意とする。ハウスミュージックに関しても他のアーティストに先んじて取り入れている。ハウスミュージックを取り入れた日本における最初のヒット曲とされる、斉藤由貴バージョンの「夢の中へ」の編曲及びプロデュースも手がけている。

今作は東京でレコーディングされた曲とロンドンでレコーディングされた曲とが混ざっている。ロンドンを拠点とし、イングランドを代表するオーケストラの一つであるロイヤル・フィルハーモニー・管弦楽団(オーケストラ)によるストリングスがフィーチャーされている。収録曲の半分で彼らによるストリングスが使われている。


「Melody」は今作のオープニング曲。都会的な雰囲気を感じさせるミディアムナンバー。バンドサウンドを主体にしつつも、聴かせるべきところで効果的にストリングスが起用されており、使い方が絶妙。バックを彩るギターのカッティングは職人的な存在感を放っている。聴き手の心に沁み渡るような美しいメロディーが展開されているが、サビはキャッチーな仕上がりとなっている。
歌詞は別れた恋人のことを思い出しているもの。昔は二人でレコードを聴いたり、ピアノを弾いたりしていたのだろう。その頃の二人を包んでいたメロディーが今も流れる。しかし、恋人はもう戻らない。何とも切ない詞世界である。オープニング曲ながら耽美的な世界観を持った曲であり、聴き手を今作の世界に引き込む役割を果たしている。


「さよならも言わずに」は今作と同日にリリースされたシングル曲。特に記載は無いものの、リミックスバージョンでの収録になっているようだ。爽やかなメロディーが心地良いポップナンバー。それでも、流れていくような美しさとキャッチーさを併せ持っている。それは崎谷健次郎ならではと言ったところ。タイトなバンドサウンドとキーボードが絡み合ったサウンドはメロディーの良さを引き立てている。
歌詞は明るい曲調やサウンドとは裏腹に、恋人との別れを描いたもの。就職を果たした女性が相手なのだろうか。女性は「夢がかなった」とはしゃいでいるが、主人公の男性との恋よりも重要なものを見つけたように感じた。「さよならも言わずに 瞳をそらすだけ ただ傷つくほうが きっとよかった」という歌詞からは主人公の男性の感情がよく伝わってくる。
曲調やサウンドと歌詞のギャップが印象的だが、それは歌詞をより切ないものに感じさせてくれる。


「太陽の傍で」はシリアスな雰囲気を持ったバラードナンバー。尋常ではない力強さを感じさせるピアノやギターサウンドが展開されている。終始流れているキレの良いカッティングは格好良いものの、それ以外は鬼気迫るような迫力があるサウンドである。メロディーも重厚なものとなっている。それはサビでも変わらない。そこには親しみやすさは無い。
歌詞は崎谷健次郎自らによるもの。激しい情熱をイメージさせる詞世界となっている。「焦げ付く愛の奴隷 それもいい 危険のないマンネリ それも悪くない」「会いたい本当の君に 抱きしめても砂のよう」…極め付けはラストの「I'LL BE YOUR SLAVE OF LOVE」というフレーズ。愛の奴隷になる…狂気じみた雰囲気すら感じさせる。サウンドは好きなのだが、どうにも詞世界が恐ろしい。管理人は松井五郎による歌詞の方が好きなのかもしれない。


「Because Of Love(Remix)」は先行シングル曲。オービックのCMソングに起用された。前の曲とは異なり、崎谷健次郎のパブリックイメージに沿ったような王道のバラードナンバー。終始展開されている美しいメロディーは聴き手を包み込むようである。2番まではキーボードが主体となっており、ボーカルを聴かせるイメージ。そこからバンドサウンドやストリングスが流れ込む。
今作では唯一の田口俊による作詞がされている。秋の終わり〜冬の始まりを舞台に、恋火への想いをストレートに語ったもの。繊細な情景描写からは肌寒い空気が伝わってくるようである。「何げないこの夜が とてもいとしい」「君の事なくしたくない どんな時も」と言った歌詞は主人公の心情が真っ向から描かれている。メロディーも歌詞もサウンドも管理人の好み。優れたバラードナンバーが多い崎谷健次郎だが、その中でも上位に入ってくるくらい好きなバラードである。


「アクリル色の微笑」は1986年に斉藤由貴に提供した曲のセルフカバー。しっとりとした曲調で聴かせるバラードナンバー。サウンドは打ち込みが主体となっているが、その中でも生音による12弦ギターやマンドリンが存在感を放っている。落ち着いたメロディーながら、どことなく温かみがある印象。それでもサビは比較的キャッチーな仕上がりである。
歌詞は男性目線で描かれているものの、作詞は斉藤由貴。色々と迷いがあるが、それを乗り越えて恋人のことを愛していこう…という姿勢が描かれている。この曲を聴いていて一番驚いたのは、作詞家としての斉藤由貴の実力。管理人は斉藤由貴の作品は著名なヒット曲しか知らなかったからだ。繊細な情景描写も魅力的で、心理描写も絶妙。崎谷健次郎がセルフカバーしたのも頷ける完成度がある。


「Parallel Line」はAOR色の強いポップナンバー。ホーンがフィーチャーされたサウンドとなっており、その音色は曲に洗練された雰囲気と高揚感を与えている。ホーンとギター以外は全て打ち込みによるものとなっており、キレの良いギターサウンドも曲を盛り上げている。軽快でありながら流れるような美しさを持ったメロディーは絶品。
歌詞は耽美的な世界観を持ったもの。「きみがまだごまかす ぬくもりにふれるまで このさきの 微笑みに 愛を隠すのもいい」という歌詞はそれが顕著に現れている。恋人同士が熱い夜を過ごしている光景が浮かんでくるようである。それでもお下劣なものになっていないのは、崎谷健次郎のボーカルや洗練されたメロディー、サウンドによるものが大きいだろう。


「ただ一度だけの永遠」は今作のタイトル曲。深遠な世界観すら感じられるバラードナンバー。自ら編曲を手がけることが多い崎谷健次郎だが、この曲はピアニストの倉田信雄が単独で編曲している。ピアノとストリングスのみで構成されたサウンドや、それに彩られたメロディーは儚いほどに美しい。崎谷健次郎のボーカルも曲の壮大さを何よりも演出している。
歌詞は恋火への想いを直球な形で語ったもの。「つらいときも この胸が きみを守る ためにだけ あればいい」という歌詞は清々しいほどにストレート。「永遠」というのは存在しないのだが、この曲を聴いているとあるのかもしれないという感覚に襲われる。あまりにも壮大で迫力があるので、一度聴くとしばらく聴く気が起きない。それくらいの力の入ったバラードナンバーということだろう。 


「冬の時計台」は今作と同日にリリースされたシングル「さよならも言わずに」のC/W曲。しっとりとした曲調で聴かせるミディアムバラードナンバー。シンプルなバンドサウンドが主体となっているが、サビや間奏ではストリングスが使用されている。実力派ミュージシャンが揃っているので演奏には聴きごたえがある。曲の世界に浸れるようなメロディーが素晴らしい。
歌詞は崎谷健次郎本人によるもの。別れた恋人との思い出を振り返っている。「なぜ君にあんな事をここで言ったのだろう 今僕はあの頃の僕に話しかける」という歌詞は少々女々しさを感じてしまうが、それも悪くない。この手の情けなさや女々しさを感じさせるバラードも崎谷健次郎の楽曲の魅力の一つ。むしろそれが受け入れられない場合は深く聴き込むのは厳しいだろう。


「In My Rainy Garden」はソウルのテイストが強いポップナンバー。思わず身体が動いてしまうようなノリの良いメロディーではあるが、どことなく気品が漂っている。うねうねしたベースラインやギターのカッティングなどファンクを彷彿とさせる要素も持っているのだが、壮麗なストリングスやピアノも主張している。役者揃いで聴きごたえに溢れたサウンドである。ピアノは三柴理が演奏している。ドビュッシーを思わせる演奏には圧倒されてしまう。
歌詞は別れ際の恋人たちを描いたもの。別れた後の話とも解釈できるだろう。歌詞全体を通して丁寧な情景描写がされている。一日中肌寒く、雨が降る街の光景を想像できる。この曲はメロディーや演奏に魅かれた。かなり評価が高めになっているのはそのためである。


「ためいきの青空(Remix)」は先行シングル「Because Of Love」のC/W曲。「青空」は「そら」と読む。打ち込みが主体になったサウンドで聴かせるミディアムナンバー。生音はピアノとアコギのみなのだが、その清涼感のある音色は曲に爽やかさと上質な雰囲気を与えている。割と落ち着いた曲調なのだが、打ち込みが多用されているためかポップなように聴こえるのが特徴。
歌詞はこれまた恋人と別れた後の男性の心情を描いたもの。「逢えないことより つよくなれたら ふたりの遠い物語 胸に 消えない」という歌詞を始めとして、他の失恋ものバラードに比べると歌詞がポジティブな印象。この曲がラストに置かれていることで、これまでの暗い雰囲気が少し明るくなっているように感じられる。


あまり売れた作品ではないので中古屋ではたまに見かける程度。前作「KISS OF LIFE」はハウスミュージックに傾倒した異色作だったが、今作はバラードを中心とした王道な作風となっている。ここまで来ると安定感に溢れている。全編通して都会的で洗練されたポップスばかりである。メロディーだけでなく、サウンド面にも耳を傾けて聴くとさらにハマれるはず。管理人にとっては「DIFFERENCE」と並んで好きな作品。

★★★★★