Moon Child
1996-11-21


【収録曲】
全曲作詞作曲 佐々木収
9.作曲 樫山圭、佐々木収
全曲編曲       Moon Child,浦清英
プロデュース  Moon Child

1.タンバリン ★★★☆☆
2.ラヴソング ★★★★☆
3.Brandnew Gear ★★★★☆
4.Over the rainbow ★★★★★
5.記念日 ★★★☆☆
6.Everything to love,Everything to lose ★★★★☆
7.PiPi ★★★☆☆
8.Just Made Love ★★★★★
9.Sweet R&R Music ★★★★☆
10.瞳とじれば ★★★★☆
11.ある朝 ★★★☆☆
12.Blue Suede Shooting Star ★★★★★
13.グッド・バイ・デイ ★★★★☆

1996年11月21日発売
エイベックス
最高位65位 売上0.5万枚

Moon Childの1stアルバム。先行シングル「Brandnew Gear」「Over the rainbow」「Blue Suede Shooting Star」を収録。

Moon Childはボーカル・ギターの佐々木収、ベースの渡辺崇尉、ドラムの樫山圭の3人で結成された。結成当初は「タンバリンズ」という名前で、それが今作のタイトルの由来である。ファンクラブの名前も「タンバリン」だった。ギターの秋山浩徳は今作の先行シングル「Blue Suede Shooting Star」から加入した。

結成当初は下北沢を拠点に活動していたロックバンドだったものの、当時はダンスポップを主体としていたエイベックスからスカウトされた。エイベックスにとっては初のロックバンドだった。PVを見るとわかるが、佐々木収はかなり独特なダンスを得意としている。クネクネした動きなので見る人によって「格好良い」「面白い」「気持ち悪い」など感想はそれぞれだと思われる。それを見た人間にスカウトされた…のかもしれない。


「タンバリン」は今作のオープニングを飾るタイトル曲。渋さを感じさせるロックナンバー。勢いの良いバンドサウンドがとても爽快。1分半ほどの非常に短い曲の中に歌詞や音が詰め込まれている。歌詞はMoon Childが聴き手に自己紹介をしているようなイメージ。「Say!Hello,people お初にお目にかかります」という歌い出しからそれが顕著に現れている。オープニングから早速、佐々木収が独特なボーカルを披露している。癖が凄いのに不思議と格好良いと思ってしまう。短い曲ながら聴き手にMoon Childの魅力を知らしめているかのような存在感がある。


「ラヴソング」はノリの良いポップロックナンバー。4thシングル「微熱」のC/W曲としてこの曲の別バージョンが収録されている。跳ね上がるようなバンドサウンドとオルガンの軽やかで楽しげな音色との絡みが心地良い。要所ではホーンも登場し、より軽やかな音を作り出している。速いテンポながらも流れるような美しさも持っているメロディーが魅力的。
歌詞は世の中のラブソングを皮肉ったもの。『もう休ませてくれよ 「愛してる」なんて口ずさむなよ』という歌詞はそれが顕著に感じられる。ノリの良いメロディーやサウンドが展開されているため、集中して聴いていないと気づきにくいが、歌詞はかなり耽美的な世界観を持ったもの。それをサラッと歌い上げてしまう辺りにMoon Childの凄さがある。


「Brandnew Gear」は先行シングル曲。「Victoria」のCMソングに起用された。Moon Childにとってのデビュー曲。爽やかなポップナンバー。イントロやアウトロでの佐々木収の独特なスキャットは存在感を放っており、ただ爽やかなだけでは終わらないという姿勢を見せている。軽やかなバンドサウンドが主体となっているが、要所ではホーンが登場して曲を盛り上げている。聴き手の心をグッと掴むような訴求力のあるサビのメロディーは絶品。
歌詞はメッセージ性の強いもの。恋人と車に乗って何処かへ行こうとしている様子が描かれている。「Gearを入れかえて 風に乗る すべてが今から始まるように」というラストの歌詞はデビューしたてだったMoon Childの姿を象徴するような歌詞である。後追いで聴くと、本当にデビュー曲なのか?と思うほどに完成度が高い。それだけの実力を持ったバンドだったということだろう。


「Over the rainbow」は先行シングル曲。日本テレビ系ドラマ『八月のラブソング』の挿入歌に起用された。最高位は99位だったものの、初めてのチャート入りを果たしたシングル。AORのテイストを感じさせるミディアムナンバー。それでもサビはかなりキャッチーな仕上がり。サウンド面ではキレの良いギターサウンドが前面に出ている。佐々木収の渋く色気のある歌声はところどころ田島貴男に似ているように感じる。
歌詞は恋人と別れた男性の心情を描いたもの。「振り向かない 焦らない 迷ったりしない 数えきれない 誰かの哀しみ抱いて 歩いてく」というサビの歌詞は男性の強い想いがうかがい知れる。このような歌詞を畳み掛けるようなメロディーに乗せているため、より哀愁を帯びた曲になっていると思う。余談だが、PVで佐々木収が独特なダンスを披露しているのはこの曲から。異様にクセになる動きである。


「記念日」はここまでの流れを落ち着けるようなバラードナンバー。ボサノバのテイストを取り入れた曲調やサウンドとなっている。間奏のサックスソロが印象的。今作の「お洒落」というイメージを象徴するようなサウンドと言える。Moon Childの音楽性の幅広さには驚くばかりである。とてもゆったりとした曲調は聴き手の心をリラックスさせてくれる。そのような曲調のおかげで、艶のある佐々木収の歌声の魅力がより出ているように感じられる。
歌詞はタイトル通り、記念日を迎えた恋人たちを描いたもの。「微笑みに花束を」「悲しみに花束を」のフレーズはこれまでの二人が経験した全てを受け止めるような包容力がある。この曲の歌詞は女性目線で描かれているのが特徴的。女性の口調でも全く違和感の無いボーカルは不思議。


「Everything to love,Everything to lose」は再びの爽やかなポップロックナンバー。バンドサウンドと同じくらいピアノが主張しているのが特徴だが、良いバランスで鳴り響いている。その辺りは浦清英のプロデューサーとしての実力が発揮されているように感じる。バンドサウンドの中でもベースが前面に出ている印象があり、グルーヴ感のあるサウンドとなっている。落ち着いたメロディーではあるがサビはかなりキャッチーな仕上がりである。
歌詞は恋心をストレートに表現したもの。「今 燃え尽きてゆく 今 生まれ変わる愛を 散りばめたこの星空に 君を探して 走り出そう」という歌詞はロマンチックかつナルシシズムに溢れている。ラブソングはこれくらいストーリー性に満ちていてロマンチックであるのが良いと思う。


「PiPi」はしっとりとした聴かせるバラードナンバー。余計な物を全て取り払ったようなアコースティックなバンドサウンドが落ち着いた曲調によく合っている。曲の世界に違和感無く入っていけるような、美しいメロディーが展開されている。
歌詞は少々難解だが、恋人への想いを伝えたものだと解釈している。「この街角で 君を一人ぼっちにさせたりしないよ」という歌詞はそれがよく現れている部分だと思う。しかし、この曲の歌詞で一番印象に残るのは「Pi Pi」と繰り返す部分。このフレーズはどのような意味なのだろう。本当の意味を知りたいと思うが、わからないままでいたいという思いも強い。語感が良いだけで特に意味はないのだろうか。曲自体はかなりシンプルなバラードだが、そのフレーズのおかげでかなりインパクトのある曲になったように感じる。


「Just Made Love」は先行シングル「Brandnew Gear」のC/W曲。カントリーのテイストを感じさせるポップロックナンバー。イントロでの鍵盤ハーモニカの音色やキレの良いギターサウンドからこの曲の世界に引き込まれてしまう。弾むようなメロディーとバンドサウンドの相性はぴったりである。Aメロとサビが似ていて区別がつきにくいが、全編通してポップなメロディーであるのは事実。
歌詞は日常を描きつつ、恋の始まりも描かれている。「いつもの路地で いつもの生活 何も変わっちゃいないぜ けど気分次第で変わってゆくみたい 変わるはずもない君も路地も」という歌詞が好き。変化を求めたいし、変わらない物も求めたい。ポップな曲の中に内省的な詞世界が詰め込まれている感じがたまらない。


「Sweet R&R Music」は今作の中でも特にロック色の強い曲。佐々木収との共作ではあるが、Moon Childの全ての曲を振り返っても数少ない、樫山圭が作曲に参加した曲。重厚でありながら爽快なバンドサウンドが展開されており、聴いていてとても心地良い。いつもに増してポップかつ捻くれた印象のあるメロディーは樫山圭のおかげだろうか。
歌詞は英語のフレーズが多めで、ノリが良いという印象がある。どことなく官能的な世界観を持ったラブソングであるが、あまり気にならない。伸びのある佐々木収のボーカルがこの曲では特別冴え渡っていると思う。この曲の持つ圧倒的な高揚感はメロディーやサウンドだけでなく、ボーカルの影響も大きいと言える。


「瞳とじれば」は爽やかなミディアムナンバー。アコースティックなバンドサウンドが展開されているが、どことなくアダルトな雰囲気が漂っているのが印象的。力強くキレのあるギターサウンドがサウンドを効果的に盛り上げている。佐々木収の色気に溢れた歌声がこの曲のアダルトな雰囲気を演出している。サビはそこまでキャッチーではないが、それでもしっかり耳に残る。
歌詞は別れた恋人への想いを語ったもの。そのようなテーマと「サイドシート」「街のクラクション」「波」「潮風」といった具体的なフレーズはAORを想起させる。全体的に決して派手な曲ではないものの、Moon Childにとっての隠れた名バラードと言える存在感がある曲だと思う。


「ある朝」はここまでの流れをぐっと落ち着けるようなバラードナンバー。サウンドはほぼアコギ一本となっている。間奏ではハーモニカのソロがあり、どこか懐かしい音色で曲を盛り上げている。シンプルを極めたようなサウンドは美しいメロディーの魅力を引き立てている。引き算の美学と言ったところ。
歌詞は恋人へのメッセージと言えるもの。「ちょっとの不安ないことないけど 二人で抱きしめよう 明日のことは明日考えりゃいい 今を暖めよう」という歌詞はまさに温かみに満ちている。Moon Childの全ての楽曲の中でもこの曲ほど「歌」が前面に出た曲は無いと思う。ボーカリストとしての佐々木収の実力がよく分かる曲である。


「Blue Suede Shooting Star」は先行シングル曲。ギターの秋山浩徳が加入し、4人体制となったシングル曲。イントロから力強くも透明感のあるギターサウンドがフィーチャーされており、4人となったバンドとしての息遣いが感じられる。親しみやすいメロディーと爽やかなバンドサウンドとの絡みがとても心地良い。サビのメロディーはキャッチーそのもの。間奏のハーモニカも曲から溢れている高揚感を引き立てている。
歌詞は恋人への想いをストレートに述べたもの。そして、恋人と出かけようとしている。「お気に入りのシャツを着て 君を街へ連れ出そう」「さぁ出かけようぜ」といった歌詞は聴いているだけで晴れやかな気分になれる。今作の中では特に売れ線寄りな曲という印象があるが、売れなかったのが不思議。今作に収録されているシングル3作の中では一番好きな曲。


「グッド・バイ・デイ」は今作のラストを飾る曲。カントリーの要素を取り入れたポップナンバー。タイトルに反してメロディーやサウンドはかなり明るい。楽しげなハーモニカの音色や跳ね上がるようなバンドサウンドがメロディーのポップ性を演出している。
歌詞は恋人と別れて旅に出る男性を描いたもの。「君を忘れないさ」「いつの日も キレイでいてね」「いつの日も 君の味方だぜ」といった歌詞から想像する限りだと、円満な別れ方であったのだろう。この曲ほど幸せな別れを描いた曲もそうは無い。この曲がラストに配置されていることで、またもう一周聴きたくなるような作品になっていると思う。この曲をラストに据えたのは名采配。


あまり売れた作品ではないので中古屋ではたまに見かける程度。以降のMoon Childはマニアックな曲が多くなるが、今作はそこまでマニアックな要素は強くない。お洒落でポップなイメージのサウンドがほぼ全編に渡って展開されているため、「ESCAPE」の印象で聴くと面食らってしまうことだろう。Moon Childは3作しかオリジナルアルバムをリリースしていないものの、その3作がそれぞれ全く違う個性を持っており、別のバンドかと思ってしまう程。1作だけ聴いて作風やバンドそのものに関して語るのは中々に難しいと思う。聴く度に良さを味わえるような、味わい深いお洒落さが今作の魅力。

★★★★☆