SMILE
1996-07-21



【収録曲】
全曲作詞作曲 浅田信一
1.11.編曲 SMILE With 白井良明
2.4.6.8.編曲 SMILE With 朝本浩文
3.5.7.9.10.編曲 SMILE
1.11.プロデュース 白井良明
2.4.6.8.プロデュース 朝本浩文
3.5.7.9.10.プロデュース SMILE

1.UNKNOWN WORLD ★★★★☆

2.クロームのプライド ★★★☆☆
3.知人 ★★★☆☆

4.月曜日の雨 ★★★★☆
5.STEREO TYPE ★★★★☆
6.ジグソーパズル ★★★★★

7.風車 ★★★☆☆
8.待ちぼうけ〜追いつけないメリーゴーランドあるいは雨降りのローラーコースター〜 ★★★★★
9.夢見たものは… ★★★★★
10.かげろう〜終わりなきレース〜 ★★★★☆

11.謝りたい事があるから ★★★☆☆


1996年7月21日発売
Sony Records
最高位不明 売上不明


SMILEの2ndアルバム。先行シングル「夢見たものは…」を収録。今作と同日にシングル「ジグソーパズル」がリリースされた。前作「SMILE-GO-ROUND」からは10ヶ月振りのリリースとなった。初回盤はオレンジ色のカラーケース仕様。

SMILEは1995年にデビューした5人組のバンド。ボーカル・ギターでほぼ全ての楽曲の作詞作曲を担当する浅田信一、ギターの鈴木達也、ベースの池沼克己、キーボードの牧田一平、ドラムの長里和徳からなる。繊細かつポップでキャッチーなメロディーや、力強く骨太なギターサウンド、浅田信一による文学的な歌詞、桑田佳祐を彷彿とさせる浅田信一の色気のある低い歌声などが魅力。

SMILEはデビューした年のせいか、「ポストミスチル」「ポストスピッツ」として語られることが多かった。その二者がヒット曲を次々に飛ばしていた頃だったのに「ポスト」として挙げられていたというのは少々難があるが…


SMILEは12作のシングルと4作のオリジナルアルバムをリリースした後、2000年末に活動を休止した。2004年に一夜限りの再結成ライブを行ったものの、そこで事実上の解散が発表された。その後、2014年8月には活動を再開したようだが、頻繁に活動しているわけではないと思われる。


浅田信一は現在、シンガーソングライターとしてだけでなく、作詞・作曲・編曲家、音楽プロデューサーとしても活躍している。KinKi Kids、CHEMISTRY、関ジャニ∞に歌詞の提供を行ったほか、V6や飯塚雅弓に楽曲の提供を行っている。音楽プロデューサーとしては古市コータロー、HY、高橋優、クリープハイプ、 ふくろうずなどの作品を手がけている。


今作は前作よりもセルフプロデュースによる曲が増えているのが特徴。白井良明と朝本浩文は前作から続投している。作風としては、前作と同じような感じだが、骨太なバンドサウンドを聴かせる曲が多め。



「UNKNOWN WORLD」は今作のオープニングを飾るタイトル曲。力強くタイトなバンドサウンドが展開されたポップロックナンバー。骨太なギターサウンドと爽快なギターサウンドの両方を楽しめる。開放感のあるサビのメロディーはキャッチーであり、聴いていて心地良い。サビは浅田信一自らによるコーラスワークも冴え渡っており、ポップ性を引き立てている。
歌詞はメッセージ性の強いもの。「まだ見ぬ世界へと 飛び込もう」というフレーズは今作のテーマそのものを表現しているかのように感じる。「ひとつ嘘をつくと 真実も チグハグなバランスで 傾いて倒れてゆく」という歌詞を始め、内省的なメッセージが込められた部分も多い。だからこそ新しい、まだ見ぬ世界を求めるのだろう。オープニング曲・タイトル曲にふさわしく、聴き手を今作の世界に引き込む役割を果たしている。


「クロームのプライド」は激しいバンドサウンドが展開されたロックナンバー。イントロから歪んだギターサウンドが登場し、最後まで曲を盛り上げ続ける。曲の要所では朝本浩文によるテルミンが使われており、その浮遊感のある独特な音色でサウンド面の幅を広げている。サビは「ラララ…」のスキャットという構成だが、それがキャッチーさを演出している。

歌詞は少々難解で意味はよく分からない。SMILEの楽曲の歌詞は分かりやすくメッセージ性が強いものが多いが、この曲は散文的な歌詞である。それは演奏やメロディーを聴かせるためだと思っている。スキャットが多用されているのも同じような理由なのだろう。その影響か、ロックバンドとしてのSMILEの姿がよく分かる曲となっている。



「知人」は暖かみのあるロックバラードナンバー。終始ギターサウンドが前面に出て主張している。バンドサウンドの影響で壮大な曲のように錯覚してしまうが、メロディーそのものは比較的ポップなものである。どこがサビなのか分かりにくいものの、全体を通して親しみやすいメロディーとなっている。
歌詞は恋をした瞬間を切り取ったようなイメージのもの。相手に初めて逢ったのに、「以前 何処かであなたとお逢いしてる様な気がする」ようだ。そして、「ひとつの夢を 掲げましょう それだけで今よりは少しだけあたたかくなるよ」と提案している。
「運命の出逢い」というものをしたことが無いので何とも言えないが、もししているならこの曲のような想いに至るのだろう。


「月曜日の雨」はここまでの流れを落ち着けるようなミディアムバラードナンバー。珍しくベースが前面に出て聴こえるのが特徴。サウンドはベースとアコギが主体となっているが、サンプラーによる音も使用されている。なお、この曲ではドラムは使用されていない。どこか繊細さを感じさせるメロディーが心地良い。浅田信一の渋く色気のある歌声がそのような曲調とぴったり合っている。
切なさを感じさせる詞世界が広がっている。この曲の歌詞で好きなのは「笑いあいながら 若すぎたあの頃を想い出せればいいね」という歌詞。今作をリリースした頃の浅田信一は26歳だが、その年齢で書いたとは思えないほどに老成した歌詞だと思う。作詞家として優れた実力の持ち主であることの証明と言える。曲全体を通して決して派手ではないが、聴いていると心に沁みるバラードである。


「STEREO TYPE」は爽やかなポップロックナンバー。透明感と芯の強さを併せ持ったギターサウンドと抜けの良いドラムの音が曲の爽やかさを演出している。所々でハモンドオルガンも使われており、サウンドにアクセントをつけている。サビまでのメロディーはシンプルだが、サビはかなりキャッチーな仕上がり。そこは浅田信一のメロディーメーカーとしての力が現れている。
歌詞はメロディーやサウンドに反してどこか投げやりな雰囲気を持ったもので、強烈な自己卑下も含まれている。「いつからか平気で 俺もすぐ嘘をついてた ニセモノの自分で 満足してた だったら今日からは 本音で生きてきゃいい 諦めてしまうのを 諦めりゃいい」という歌詞が好き。「大人」になることの虚しさを感じさせる詞世界のためか、これまでの自分を見直したくなる曲である。



「ジグソーパズル」は今作と同日にリリースされたシングル曲。TBS系ドラマ『ふたりのシーソーゲーム』の主題歌に起用された。フォークロックのテイストも感じさせる、爽やかなポップナンバー。ポップでありながらどこか切なさや懐かしさを持ったメロディーがたまらない。そのようなメロディーに寄り添うシンプルなバンドサウンドは曲に暖かみを与えている。
歌詞は少年時代の記憶を呼び戻してくれるようなもの。「虫カゴ」「すべり台」「夜空の天の川」「麦わら帽子」「机の上の落書き」「柱時計」と小学生の頃や夏休みを想起させるフレーズが多く登場する。一つ一つの思い出を噛み締めるような浅田信一のボーカルが曲から溢れる懐かしさを何よりも引き出している。3分と少しというシングル曲としては短めな曲ながら、SMILEの楽曲の魅力を凝縮したような良さがある。



「風車」は先行シングル「夢見たものは…」のC/W曲。しっとりとした曲調で聴かせるバラードナンバー。哀愁の漂うメロディーが心地良い。アコギやスティールギターが主体となったバンドサウンドが展開されており、フォークロック色の濃いサウンドとなっている。スティールギターの名手と言える駒沢裕城が参加しているため、その音色はこの曲の聴きどころ。
歌詞はタイトル通り風車について描かれている。「あの日の約束 まだ覚えてるけど いつからか 僕は風車」という歌詞が印象的。この曲もまた、少年時代の思い出が蘇ってくるような詞世界である。何故か夕暮れの光景を想像してしまう。それだけ哀愁を帯びた曲ということだろう。この手のバラードと浅田信一のボーカルの相性はこれ以上無いほどに良い。



「待ちぼうけ〜追いつけないメリーゴーランドあるいは雨降りのローラーコースター〜」は爽快なポップロックナンバー。イントロから激しいギターサウンドが展開されており、そのまま最後まで曲を牽引する。淀みなく流れていくメロディーが曲の爽快さを実感させる。英語詞から始まるサビはキャッチーそのものである。
歌詞は学生時代の帰り道を想起させるもの。具体的にそれと断言できるようなフレーズは無いのだが、何故かそれを想像してしまう。曲調やサウンドに反して、「毎日 少しずつ 君の顔 忘れて行くよ」というネガティブなフレーズが登場するのがインパクト抜群。この曲については、メロディーやバンドサウンドが自分の好みなのでアルバム曲ながら評価が高め。何かしらタイアップがあれば、シングルになっていてもおかしくなかったような曲だと思う。



「夢見たものは…」は先行シングル曲。テレビ朝日系番組『上岡龍太郎の金印』のエンディングテーマに起用された。どことなく懐かしい雰囲気を持ったポップナンバー。爽やかかつどこか切ないメロディーは思わず聴き惚れてしまうような魅力がある。サビは一回聴けば口ずさめるほどにキャッチーなメロディーとなっている。シンプルなバンドサウンドに加え、ピアノのリフが曲のポップ性を引き立てている。
歌詞は友達や恋人に語りかけているようなイメージのもの。「夢見たものは 手に入れられたかい…」という歌い出しからこの曲の世界に引き込まれる。「僕は そんなに いい奴じゃないけど 明日に向かって歩こう」という歌詞が特に好き。管理人には、今は中々会えなくてもたまに思い出す友人がいるが、そのような存在を思い浮かべながら聴くとこの曲が沁みると思う。



「かげろう〜終わりなきレース〜」は清涼感のあるギターポップナンバー。透き通るようなギターサウンドが終始曲を彩っている。それを始めとしたバンドサウンドはポップでありながら美しく流れていくメロディーの魅力を限りなく引き出している。開放感に満ちたサビのメロディーは絶品である。
歌詞はポジティブなメッセージが並んだもの。青春時代の思い出を振り返ったような詞世界となっており、好きな子に想いを伝えに行く姿が描かれているイメージ。「勇気が無くならぬ前に 君に胸の内を 伝えよう」という歌詞が顕著。この曲に限らず、今作は少年時代や青春時代の思い出を蘇らせてくれるような詞世界が展開された曲が多い。



「謝りたい事があるから」は今作のラストを飾る曲。ラストという位置にふさわしい、壮大なバラードナンバー。ゆったりとした曲調に加え、ストリングスがフィーチャーされているので尚更重厚な曲だと感じられる。バンドサウンドの中ではピアノが前面に出ている。
歌詞は「あなた」への想いを伝えたもの。主人公にはタイトル通り何か謝りたい事があるようだ。謝りたいのに謝れない時は何とも言えない焦りや不安を感じてしまいがちだが、その感情が絶妙に描かれている。『「明日はきっと…」と 言ってるうちに 少しずつ嘘つきに 変わってく』という歌詞はそれがよく現れている。ポップな曲が多い今作は重厚なバラードで締められる。それによって、今作に確かな風格が感じられる印象がある。



あまり売れた作品ではないが中古屋ではそこそこ見かける。スピッツ、Mr.Children、L⇔R、FIELD OF VIEW、DEEN、RAZZ MA TAZZを始めとして数多くの爽やかなポップスを得意としたバンドが存在した90年代だが、その中でも「渋さ」という面で存在感を放っていたのがSMILEだと思う。それはやはり浅田信一のボーカルによるものが大きかったと感じる。
今作は前作よりもロック色の強い作風となったが、ポップ性もさらに高まっている。代表曲「夢見たものは…」「ジグソーパズル」が収録されているため、初めて聴く場合にも適していると思う。他のバンドにもありそうでない、SMILE独自の音楽性が確立された作品と言える。

★★★★☆