【収録曲】
全曲作詞 藤田千章
全曲作曲 佐藤竹善
1.作曲 西村智彦
3.5.11.作曲 藤田千章
全曲編曲 SING LIKE TALKING 
2.ホーンアレンジ 森俊之
5.ホーンアレンジ Juny-a(FIRE HORNS)
8.ストリングスアレンジ 柏木広樹
9.ストリングスアレンジ 岩城直也
12.オーケストラアレンジ 岩城直也
プロデュース SING LIKE TALKING

1.Prologue 省略
2.風が吹いた日 ​★★★★☆
3.Closer〜寒空のaurora〜 ​★★★☆☆
4.6月の青い空 ★★★★★
5.Be Nice To Me ★★★★★
6.闇に咲く花〜The Catastrophe~ feat.サラ・オレイン (Album Mix) ★★★★☆
7.Hysterical Parade ​★★★☆☆
8.Longing〜雨のRegret〜 ★★★★☆
9.Sweet Cat Home ★★★☆☆
10.The Ruins〜未来へ〜 ​★★★☆☆
11.Holy White Night ★★★★☆
12.闇に咲く花〜The Catastrophe~ feat.サラ・オレイン(Single Version) ★★★★☆

2018年1月17日発売(CD)
2018年2月21日発売(アナログ盤)
ユニバーサルミュージック
最高位14位 売上不明

SING LIKE TALKINGの14thアルバム。先行シングル「Longing〜雨のRegret〜」「風が吹いた日」「6月の青い空」「闇に咲く花〜The Catastrophe〜 feat.サラ・オレイン」を収録。前作「Befriend」からは4年半振りのリリースとなった。初回盤は2017年8月12日に行われたスペシャルライブの映像が収録されたDVDが付属。

今作はSLTのデビュー30周年記念作である。とはいえ30周年に合わせて制作されたわけではないようで、「シングルが溜まってきたからそろそろアルバムにまとめよう」という旨の提案をスタッフにされてから制作を始めたようだ。「最初にアルバム、次にアルバムの中からシングル」というような制作をしてきたSLTにとっては、先行シングル曲ありきでアルバムを制作していくことは異色だったと言える。

タイトルは「純粋で濁りのない心の優しさ」「純粋で優しい心の持ち主」というような意味があるという。
内省的な作風だった前々作「Empowerment」や前作「Befriend」と比べ、肩の力を抜いた印象の作品となっている。佐藤竹善は「主人公が優しい曲が多い」と語っているが、これまでよりも日常に寄り添った曲が増えた感覚がある。


「Prologue」は今作のオープニングを飾るインスト曲。アコギやパーカッション、佐藤竹善の「Heart of Gold」という声で構成されており、今作の始まりを明るく告げてくれる。


「風が吹いた日」は先行シングル曲。TBS系番組『噂の東京マガジン』のエンディングテーマに起用された。ホーンがフィーチャーされた、温かみのあるミディアムナンバー。美しく流れていくメロディーとサウンドの絡みが心地良い。ギターやベースを始めとした重厚なバンドサウンドは曲に確かな風格を与えている。
歌詞は恋人への想いをストレートに綴ったもの。「言葉になんてならない想いの果てに キミとボクの標(しるし)を残そう」というサビの歌詞は、二人の親密さが伝わってくるような表現である。言葉が無くたって想いは通じるのだろう。
SLTとホーンの繋がりというと、ついついファンクナンバーを想像してしまうが、良い意味で期待を裏切られた。ホーンを駆使して、優しさの中に骨太な要素も持ったラブソングに仕上げたことには驚きである。


「Closer〜寒空のaurora〜」はしっとりとした曲調で聴かせるバラードナンバー。藤田千章が作曲を担当している。シンプルなバンドサウンドに加え、イントロや間奏ではハーモニカがフィーチャーされているのが特徴。この曲最大の特徴は、石塚裕美という女性歌手がゲストボーカルとして参加していること。佐藤竹善との掛け合いで曲に彩りを加えている。
歌詞は恋人と過ごす日々がずっと続くようにと願う「欲張り」な男性を描いたもの。そして、「寒空のaurora」をいつの日にか見に行こうと誘う。例え恋人と一緒にいられたとしても、何か共通の目標が無ければつまらなくなってしまうと思う。こうして二人は仲良く暮らすのだろう。何とも微笑ましい詞世界。
決して派手さはないのだが、曲全体から伝わる優しさに引き込まれる曲である。


「6月の青い空」は先行シングル曲。読売テレビ・日本テレビ系番組『情報ライブ ミヤネ屋』のエンディングテーマ及び、SLTファンの実話を基にしたストーリーでSLTの楽曲がフィーチャーされた映画『Music of My Life』の主題歌に起用された。
浮遊感のある打ち込みサウンドと、キレの良いギターのカッティングが主体になったサウンドが展開されたポップナンバー。「80年代」をテーマにしているようだが、飾りのないストレートなサウンドやメロディーはまさにその当時の音楽を彷彿とさせる。タイトル通り、青空のように爽やかなメロディーやボーカルが心地良い。
歌詞はどんな時でも恋人と寄り添って生きていくことを誓う男性を描いたもの。「最期までボクらは道半ばだから 長雨の季節も寄り添って歩こう」という歌詞が好き。詞世界もまた、晴れ渡る空のように陰りがなく美しい。今作収録のシングル曲の中では一番好き。


「Be Nice To Me」は藤田千章作曲によるファンクナンバー。SLTのファンクナンバーは数多くあれど、Pファンクを彷彿とさせるものはあまり無かったように感じる。サビはしっかりとキャッチーな仕上がりなのはSLTらしさがある。力強いドラムに分厚いベースやギターのカッティングが絡み、最後にホーンが高らかに曲を盛り立てる。「熱を帯びている」というよりは「暑苦しい」と言いたくなるサウンドである。佐藤竹善のボーカルはいつもに増して粘っこい印象。それもまたこの曲の「暑苦しさ」を演出している。
歌詞は恋人同士の激しい愛情が綴られたもの。「打ちのめされたような衝撃が走ったら もう止まらない 思考回路など役立たず 反射だけで動いている」という歌詞は理性が吹き飛んでしまった恋人たちの姿が浮かぶ。
今作の中では曲調や詞世界共に異彩を放っている印象があるが、好きな曲である。


「闇に咲く花〜The Catastrophe〜 feat.サラ・オレイン〜(album mix)」は先行シングル曲。日本テレビ系ドラマ『ブラックリベンジ』の主題歌に起用された。こちらはアルバムバージョン。正直なところ違いはあまりわからないのだが、こちらの方が尺が短くなっている。
どことなく陰を感じさせる曲調が特徴的。聴き手をこの曲の世界に引き込むようである。この曲一番の聴きどころは佐藤竹善とサラ・オレインの掛け合い。サラ・オレインの歌唱力に圧倒される。天界から声を届けているかのような、美しく伸びのある高音が素晴らしい。
歌詞は恋人への深い愛を捧げる者を描いている。一人称は特定されていないため、男女どちらも主人公として想定できるだろう。「キミに捧げるって幸せが毎日の希望になった たったひとつ」というラストの歌詞はもはや狂気染みているように感じてしまう。
「美しさと狂気は紙一重」とでも言いたくなるような曲であり、SLTの新境地を開拓した曲だろう。


「Hysterical Parade」は先行シングル「風が吹いた日」のC/W曲。打ち込み主体のサウンドが展開されたポップナンバー。全体を通して派手に盛り上がるようなメロディーではないのだが、うねうねしたシンセベースや、ギターのカッティングは曲にノリの良さを与えている。アウトロでの、ジャムセッションのような演奏部分がこの曲の聴きどころ。
歌詞は人間の心について痛烈に皮肉ったもの。「やるせないのは人間の性だって 切ないほどに快楽主義なんだ」という歌詞は身につまされる。その上で「だから気になんかしない おかしなヤツで構わない 僕は僕でいい 君が君でいいから」と決意表明をする。タイトルは複雑かつ醜くこんがらがっている人間関係を揶揄したものなのかもしれない。


「Longing〜雨のRegret〜」は先行シングル曲。今作の中では最も初出が古い。サブタイトルは稲垣潤一へのオマージュだという。メンバーは稲垣潤一のファンで、作品を聴いていたのだろうか。
ピアノとストリングスがフィーチャーされた、しっとりしたバラードナンバー。流麗なストリングスが曲を厳かに盛り上げる。表情豊かな音色が素晴らしい。落ち着いた曲調はストリングスの魅力を最大限に引き立てている。
歌詞は別れた恋人と再会したいと願う男性が描かれている。「堪らなく会いたくなる 昔の番号を捜す 何度も押そうとして そのうち止めてしまうボクさ」という歌詞はその光景が浮かんでくる。自分は、この手のバラードナンバーは相手に会えないからこそ美しいと感じる。そのため、古典的とも言えるこの曲の詞世界に魅かれた。


「Sweet Cat Home」はクラシックのテイストを取り入れた短めの曲。今作のアルバム曲の中では唯一、佐藤竹善が作曲を担当した。ゆったりとした温かみのある曲。アコギとストリングスが前面に出たサウンドで聴かせる。思わず身を委ねたくなるような心地良さがある。
歌詞はタイトルからも想像できるかもしれないが、猫を可愛がる男性が描かれている。「機嫌がいいと ボクも笑顔」という歌詞がなんとも微笑ましい。佐藤竹善や藤田千章は猫が好きなようだが、今までこのような「猫ソング」が無かったのが不思議。今作について佐藤竹善は「主人公が優しい曲が多い」と語っていたが、その言葉を何よりも裏付ける曲だと思う。


「The Ruins〜未来へ〜」は先行シングル「Longing〜雨のRegret〜」のC/W曲。壮大な曲調で聴かせるメッセージソング。最初はエレピが主体の穏やかなサウンドが展開されているが、途中から激しいギターサウンドが入って力強い曲調に変わる。3分と少しの短めの曲だが、様々な姿を見せてくれる。
歌詞はより良い未来を目指すために必要な考えが綴られている。タイトルの英語は歌詞にも登場する「廃墟」を意味していると思われる。「思い通りになんないって 他人を傷つけていたら 愛するってことさえも 行方を失うだろう」という歌詞が特に印象的。SLTのメッセージソングはこれまでにもあったが、より鋭く核心を突き、より優しく言葉を届ける曲になっていると思う。


「Holy White Night」は今作のラストを飾る曲。この曲も藤田千章が作曲を担当した。ピアノが主体の、厳かな雰囲気が漂うサウンドで聴かせるバラードナンバー。イントロやアウトロではハープが使われており、そのような雰囲気を効果的に演出している。キャッチーさはそれ程無いものの、曲の世界に浸れるようなメロディーが展開されている。
歌詞は失恋した後の男性の心情が描かれたもの。タイトル通り、雪の降る夜が舞台。「華やいだ街が見えなくなるくらいに降り続けて 真っ白に そのままボクごと覆い尽くせ」という歌詞はその心情が痛いほどに伝わってくる。
切なく寂しいこの曲の世界に浸ったまま、今作は終わりを告げる。


「闇に咲く花〜The Catastrophe〜 feat.サラ・オレイン〜(Single Version)」は先行シングル曲。こちらはボーナストラック扱いで収録されている。バッハの「ロ短調ミサ」の「主よ 憐れみたまえ」をイントロに引用しており、曲に壮麗さを与えている。アルバムバージョンよりもさらに迫力が増しているように感じるのは、その部分が入っているからだろう。詳細な感想はアルバムバージョンの方で書いたので、ここまでにさせていただく。


デビュー30周年を迎えてもなお、新鮮さを失わない良質なポップスを生み出し続けるSING LIKE TALKING。前作から4年半が経って放たれた今作は王道なポップス、AOR、ファンク、ロック、エレクトロなど「なんでもあり」と言っていいほどに多彩な曲調を取り入れた作品となっている。マンネリ化を防ぐような新鮮さと、ベテランとしての貫禄とを併せ持っている点には脱帽である。
多少新しい曲調を取り入れたとはいえ、やはりシングル曲が多めの盤石な構成なので安定感に溢れている。
佐藤竹善は「ここ3、4年はポップスを書くのが楽しいんですよ。音楽的チャレンジ云々よりも、歌っていて気持ちがよくて、サウンドがスッと入ってくるようなものを、自分でも書きたい感じなんです」と語っているが、作品に溢れている「安定感」は佐藤竹善の狙い通りなのかもしれない。

今作は集中して聴いていても、何かのついでに聴き流していても、全く違和感無く楽しめるところが魅力的な作品である。聴けば聴くほど、聴き手の心に沁み込んでいく。それはまさに、聴き手の生活に溶け込む音楽。気軽に聴けるコンパクトな長さや、季節の移り変わりをイメージさせる曲順もその魅力を引き出している。
これからも日常の何気ない光景を美しく彩ってくれるであろう作品だ。

★★★★☆