【収録曲】
全曲作詞 吉田美奈子
4.6.9.作詞 山下達郎
全曲作曲編曲 山下達郎
プロデュース  山下達郎

1.いつか(SOMEDAY) ​★★★★★
2.DAYDREAM ​★★★★☆ 
3.SILENT SCREAMER ★★★★★
4.RIDE ON TIME(アルバム・ヴァージョン) ★★★★★
5.夏への扉(THE DOOR INTO SUMMER) ​★★★★☆
6.MY SUGAR BABE ★★★☆☆
7.RAINY DAY ★★★★☆
8.雲のゆくえに(CLOUDS) ★★★★☆
9.おやすみ(KISSING GOODNIGHT) ★★★☆☆
↓2002年盤収録のボーナストラック
10.RIDE ON TIME(シングル・ヴァージョン) ​★★★★★
11.INTERLUDE I(未発表) 省略
12.INTERLUDE Ⅱ(未発表) 省略
13.MY SUGAR BABE(TV用インスト・ヴァージョン未発表) 省略

1980年9月19日発売(LP・CT)
1984年11月21日(初CD化)
1986年8月15日
1987年3月15日
1990年9月21日
1997年6月4日
1999年5月21日(紙ジャケ再発)
2002年2月14日(リマスター盤・現行盤)
AIR/RVC
AIR/BMGファンハウス(2002年盤)
最高位1位 売上16.8万枚(LP)
最高位4位 売上5.7万本(CT)
最高位20位 売上4.2万枚(2002年盤)

山下達郎の5thアルバム。先行シングル「RIDE ON TIME」を収録。今作発売後に「MY SUGAR BABE」がシングルカットされたほか、2003年には「RIDE ON TIME」がマキシシングルで再発された。前作「MOONGLOW」からは1年1ヶ月振りのリリースとなった。

今作はセールスの面で大きな飛躍を遂げた作品となった。前作「MOONGLOW」がロングヒットを続けていた中、先行シングルでありタイトル曲である「RIDE ON TIME」が初のチャートトップ3を獲得し、一躍人気アーティストとなった。今作は初のチャート1位を獲得し、アルバムのセールスは常に安定するようになった。
それによって、予算を気にせずにレコーディングできるようになったことは大きかったようだ。練習スタジオでパターンを練り上げ、スタジオに持って行ってレコーディングを行うという作業過程もこの頃に定着したという。以前はスタジオ代の不安があって中々できなかったようだ。

今作はレコーディングやライブに於いて、長年に渡るパートナーとなるミュージシャンとの出逢いを果たした作品でもある。元々は前作「MOONGLOW」のレコーディング中だった1979年の夏に出逢っていたようだが、演奏に参加したのは今作が初。
そのミュージシャンとは、ドラムの青山純とベースの伊藤広規。「どんなスタイルでも満足のいく演奏ができる」二人のおかげで、ライブでのサポートメンバーが固定され、ライブのレパートリーも格段に増えたという。


「いつか(SOMEDAY)」は今作のオープニング曲。重厚でファンキーなサウンドが展開されたミディアムナンバー。イントロのベースやドラムから聴き手に高揚感を与えてくる。グロッケンやホーンとの絡みも絶品。淀みなく流れていくような美しさとポップさを両立させたメロディーは出色の出来である。吉田美奈子によるコーラスワークも曲を効果的に盛り上げている。
歌詞は都市に生きる者の孤独と、そうした人々へのメッセージが綴られている。
「いつかきっと」何かが変わって良くなる…そう信じて生きていく姿が描かれている。歌詞の全編を紹介したいくらいだが、「時々人の心の中が 信じられない出来事がある 皆 自分だけ 逃げてしまおうと 愛を傷つけて通り抜ける」という1番の歌詞が特に好きだ。この曲の歌詞は、山下達郎のどの曲の歌詞を通じても特に好きな方に入ってくると思う。
山下達郎自身も気に入っている曲だというが、管理人も大好きな曲。ライブで聴いた時に、イントロから感動して泣いてしまったことを覚えている。


「DAYDREAM」は今作発売後にシングルカットされた「MY SUGAR BABE」のB面曲。複雑なメロディーが展開されたポップナンバー。椎名和夫・山下達郎によるキレの良いギターのカッティングや、分厚いベースの音が心地良い。向井滋春による間奏のトロンボーンのソロはこの曲の大きな聴きどころ。ライブで映える曲のため、演奏されることが多い。
山下達郎はこの曲の歌詞を「吉田美奈子さんが私に書いてくれた詞の最高傑作だと思う」と称賛している。「スカーレット」「グラスグリーン」などとアクリルのカラーチャートから色を選んで並べている箇所があるが、そこが圧巻。聴いているだけでも日本語を乗せにくいメロディーだと感じるのだが、そこを色の名前で切り抜けて「白昼夢」を意味するタイトルにふさわしい、カラフルで幻想的な詞世界を築き上げたことには脱帽だ。


「SILENT SCREAMER」は豪快なポリリズムファンクナンバー。「BOMBER」や「FUNKY FLUSHIN'」の路線を続けた曲。イントロの稲妻のようなドラムや激しく唸りを上げるギター、迫ってくるようなベースから鳥肌が立ってしまうこと請け合い。椎名和夫による間奏や、山下達郎によるアウトロのギターソロも凄まじい熱量である。終始盛り上がりのあるメロディーは名演の数々を引き立てている。
歌詞は語感やノリを重視した感じで意味はよくわからない。「静かな」「叫ぶ者」と反対の意味の単語を並べたタイトルがとても印象に残る。この曲は歌詞ではなく、演奏や圧倒的なボーカルを楽しむ曲だと思う。近年はこの手の曲が少なくなってしまったのが惜しい。


「RIDE ON TIME(アルバム・ヴァージョン)」は先行シングル曲。山下達郎自身も出演した日立マクセル「UDカセットテープ」のCMソングに起用されてヒットしたほか、2003年にはTBS系日曜劇場『GOOD LUCK!!』の主題歌に起用されてリバイバルヒットした。「クリスマス・イブ」と並ぶ山下達郎の代表曲と言える。
アルバムバージョンはシングルバージョンにあった疾走感が薄れて、より重厚な演奏やコーラスワークを聴かせる曲に変わった。しかし、一聴しただけで聴き手の心を掴んで離さないようなサビのキャッチー性は健在。どちらのバージョンにも良さがあるのだが、管理人はやはりシングルバージョンの方が好きである。
歌詞は少々難解だが、ラブソングだと解釈している。タイトルは「時の流れに乗る」「乗り遅れるな」といった意味があるのだろう。
管理人はこの曲を『GOOD LUCK!!』の再放送で初めて聴いた記憶があるが、放映当時の時点で20年以上前の曲だとは思えなかったことを覚えている。今では40年近く前の曲になるのだが、それでも古臭さは一切無い。「音楽の職人」と称される山下達郎の真骨頂がこの曲にあると思う。


「夏への扉(THE DOOR INTO SUMMER)」は1979年に難波弘之に提供した曲のセルフカバー。AOR色の強いバラードナンバー。ステージで何度も演奏した後にレコーディングしたため「よく練れたグルーヴ」と山下達郎は称している。重いベースの音が前面に出ており、曲に力強さを与えている。詞先で作られた曲のためか、一切の無駄のないメロディーになっている印象がある。
作詞は吉田美奈子によるものだが、ロバート・A・ハインライン作の同タイトルのSF小説のストーリーを基にしたという。歌詞に登場する「ピート」は『夏への扉』の主人公の愛猫の名前。サビに出てくる「リッキー ティッキー タビー」は『ジャングルブック』に登場するマングースの名前から取られているようだ。『夏への扉』を読んでからこの曲を聴くと、さらに楽しめるのかもしれない。まだ読んだことがないので、いつかは読んでみたいと思う。


「MY SUGAR BABE」は今作発売後にシングルカットされた曲。日本テレビ系ドラマ『警視-K』の主題歌に起用された。そのドラマの監督・主演だった勝新太郎がこの曲を気に入り、山下達郎に直接電話して、ほぼ一方的な形で主題歌に決まったという。
ドラマの主題歌に起用されたとはいえ、シングルカットするには落ち着き過ぎていると感じるようなバラードナンバー。ピアノが前面に出たシンプルなサウンドがメロディーの美しさを演出している。
タイトルから想像できるかもしれないが、歌詞は山下達郎がソロになる前に活動していたバンドであるシュガー・ベイブへの想いをテーマにしたもの。以前からこのような曲を作ろうという想いがあったというが、今作の制作時がその時だと思って作ったようだ。「もう振り向きはしないから 僕を見てておくれ」という歌詞からは、特に山下達郎の想いが伝わってくるように感じる。リリース当時、山下達郎が今作の中で最も思い入れのあった曲というのも頷ける。


「RAINY DAY」は1980年に吉田美奈子に提供した曲のセルフカバー。この曲が収録された吉田美奈子のアルバムよりも、今作の方が先にリリースされた。しっとりとした曲調で聴かせるバラードナンバー。静かに盛り上がっていくような構成がたまらない。この曲の聴きどころは佐藤博による、透き通るような美しい音色のピアノ。街の灯に照らされた雨粒を想起させる音色だ。この手のバラードと佐藤博のピアノの相性は素晴らしいものがある。
歌詞は女性目線。雨の降る街を舞台に、かつての恋人との復縁を願う女性を描いたもの。かつての恋人と最初に出逢ったのも雨の日だった…という設定が上手い。この曲を聴くならやはり雨の日が良い。部屋にこもって、物思いに耽りながら聴きたい。


「雲のゆくえに(CLOUDS)」は1978年に吉田美奈子に提供した曲のセルフカバー。「1970年代シカゴのR&Bのスタイル」を取り入れた曲。青山純による、跳ねるような独特なドラムが心地良い。重厚なベースの音色との絡みは絶品。後半のサックスソロも名演である。全体を通して、派手に盛り上がるような曲ではないのだが、それが曲の世界観を上手く表現しているように感じる。
歌詞は失った大切な人への想いを語ったもの。ただの別れではないように感じる。「叫んでみたって届かず 消し去るすべもなく見上げる」という歌詞は主人公の虚無感が伝わってくる。流れていく雲をただ眺めているような雰囲気を持った曲である。


「おやすみ」は今作のラストを飾る曲。1分40秒ほどの短めな曲。山下達郎によるピアノとシンセが主体になったサウンド。ピアノと歌は一発録りだという。山下達郎の得意技と言える多重コーラスがこの曲では冴え渡っており、曲の厳かな雰囲気を引き立てている。
歌詞は聴いていて恥ずかしくなるほどに「甘い」恋人たちの時間を描いたもの。「帰りぎわ 車の中で そっとかわす 口づけ 秘密だよ」という歌い出しからストレートそのもの。今となっては、本人も歌いにくいのではと思ってしまうくらいの歌詞である。若かったからできた曲と言えばそれまでか。


ボーナストラックの感想は省略させていただく。


2002年リマスター盤の中では最も売れた作品なので、中古屋ではそこそこ見かけると思う。山下達郎のほぼ全ての作品に言えることだが、比較的高値で売られていることが多い。
「芸能メディアの醜悪さに驚いた」ことに対する反動で、玄人受けする内容にしようという意志を持って制作されたという。実際、周囲の人間からも「今作は地味」という旨のことを言われたようだ。
確かに、通して聴くとそのような印象を持ってしまう。前半はある程度ノリの良い曲が揃っているのだが、後半はしっとりとした曲が増える。同じ曲でも構成を変えていれば「地味」という印象は持たなかったかもしれないが…一曲一曲の完成度はかなり高いだけに、それだけが残念である。
余談だが、ジャケ写はもっとどうにかならなかったのかと思ってしまってならない。ナヨっとしたあのポーズは何なのか。親しみやすさをアピールしたかったのだろうか。謎が残る。

​★★★★☆