【収録曲】
全曲作詞作曲 安岡孝章
4.9.作詞 堀麻夫・安岡孝章
7.8.作詞 堀麻夫
全曲編曲 アイリーン・フォーリーン、武部聡志
プロデュース 村木敬史・恒川光昭

1.スローなDanceは踊れない ★★★★★
2.ミスティ・アイズ ★★★★☆
3.プラスティック・ジェネレイション ​★★★☆☆
4.タッチ・ミー・ホールド・オン・タイト ​★★★★☆
5.追想〜ミッシング・ユー〜 ★★★★☆
6.モダン・タイム ​★★★★☆
7.スロー・タイム ★★★★☆
8.詩人 ​★★★★★
9.ミステリー・ガール ★★★★★
10.アース ★★★★☆

1985年10月21日発売(CD・CT・LP)
2017年3月22日発売(MEG-CD)
ビクター・Invitation
最高位不明 売上不明

アイリーン・フォーリーンの1st(デビュー)アルバム。今作と同日にシングル「スローなDanceは踊れない」がリリースされた。

アイリーン・フォーリーンは1984年に高知県で結成された5人組バンド。呪文のようなバンド名が印象的だが、バンド名を英語表記すると「I Re'in For Re'in」となり、それを直訳すると「私は生まれ変わるために生まれ変わる」となる。とある大物バンドのマネージャーにつけられたという。
ボーカル・キーボードの安岡孝章、ギター・ボーカルの堀麻夫、ギターの有澤由明、ベースの桑本勲、ドラムの中越五雄から成る。1985年に拠点を東京に移し、ビクターからデビュー。
1987年には安岡孝章・堀麻夫以外の3人が脱退し、新たにギターの小倉博和が参加した。1988年に3rdアルバムをリリースして全国ツアーを行なった後、活動休止を発表した。
2008年にデビュー当初のメンバーで再結成してアルバムをリリース。現在はアイリーン・フォーリーンNextと銘打ち、高知県を拠点に活動しているようだ。安岡孝章と中越五雄以外は、新たにミュージシャンを2人迎えて4人組となっている。

アイリーン・フォーリーンはシンセを駆使したシティポップを得意としたバンドである。徹底的に作り込まれたサウンドや、安岡孝章の卓越したメロディーセンスが魅力的。また、安岡孝章と堀麻夫の透明感のあるツインボーカルも大きな特徴である。その聴き心地の良い音楽性のためか、楽曲が番組のテーマソングやCMソングに起用されることが多かったようだ。


「スローなDanceは踊れない」は今作と同日にリリースされたデビューシングル曲。TBS系ドラマ『'85年型家族あわせ』の主題歌に起用された。歌謡曲になる一歩手前という感じがするポップナンバー。それでも、都会的で洗練された雰囲気がある。全編通して隙の無いサウンドが展開されている。イントロでの異国情緒の漂うシンセの音色や、力強いギターサウンドは聴き手を曲の世界に引き込む。
歌詞は失恋した男性の心情を描いたもの。電車の発車を告げるベルと共に、恋人に別れを告げられたようだ。ドラマの主題歌に起用された影響なのか、歌詞もまたトレンディーな世界観がある。いかにも80年代!という印象のある曲だが、デビュー曲と言うには完成され過ぎているような感覚がある。それだけの実力を持った新人だったということだろう。


「ミスティ・アイズ」はデビューシングル「スローなDanceは踊れない」のB面曲。どこか陰を感じさせるサウンドが印象的なミディアムナンバー。サビはかなりキャッチーな仕上がりとなっており、Bメロからの繋がりが絶妙。無駄のないメロディーの構成が素晴らしい。サウンドはシンセが主体となっており、生音がその脇を固める形である。特に、ギターサウンドは職人的な佇まいがある。
歌詞は一夜限りの愛を楽しむ男女を描いたものだと解釈している。眠ることのない、都会の夜をイメージさせる。失恋を描いたA面の曲とはまた違った、儚さのある詞世界だと思う。
B面曲ではあるが、手を抜いたという印象は全く無い。


「プラスティック・ジェネレイション」は今作のタイトル曲。丁寧に作り込まれた、ヘビーなサウンドが展開されたミディアムナンバー。シンセか生音かわかりにくい、バシバシと響くドラムの音が耳に残る。重厚な音色でありながら、歌うようなベースラインも魅力的。全体を通して派手に盛り上がるようなメロディーではないが、そのサウンドに引き込まれる。
歌詞は未来の子供を嘆いたものだと思っている。「泣く事も知らない」「愛なんて知らない」「優しさは知らない」「光が見えない」などと、かなり辛辣なフレーズが並ぶ。全体的に退廃的な世界観があり、反核を思わせるメッセージもある。曲調、歌詞共に重い曲ではあるが、他の曲には無い雰囲気がある。その点はやはりタイトル曲ならではと言える。


「タッチ・ミー・ホールド・オン・タイト」はシティポップ色の強いミディアムナンバー。浮遊感のあるシンセの音色や、メロディーに寄り添ったベースラインが印象的なサウンドで聴かせる。比較的淡々と進んでいくが、サビはキャッチーなメロディーで聴き手の心を掴む安岡孝章の清涼感のある歌声はこのような曲調にぴったり合っている。
歌詞は情景の浮かんでくるような、幸せなラブソング。月明かりに照らされた海沿いに車を止めて、恋人たちは愛し合う。二人の息遣いも聞こえてきそうな、リアルな詞世界である。
都会的で甘い雰囲気のある曲だが、このような曲こそがアイリーン・フォーリーンの王道と言える。


「追想〜ミッシング・ユー〜」はしっとりとした曲調で聴かせるバラードナンバー。AOR色の強い、美しいメロディーが聴いていて心地良い。必要最小限に抑えたような少ない音の数はメロディーの美しさを引き立てている。充実したコーラスワークもこの曲を静かに盛り上げている。
歌詞は大切な人との別れが描かれている。「はるか遠い海原へ 旅立つ」人のようだ。この曲の歌詞の「君」は友人とも恋人とも解釈できると思う。なぜ電車や飛行機ではなく船?と思ってしまったのだが、アイリーン・フォーリーンのメンバーは高知県出身。それを考えると、船でどこかへ旅立つというのも何となく納得できた。映画のような情景が浮かんでくるバラードであり、ずっと聴いていたいと感じさせてくれる。


「モダン・タイム」はここまでの流れを変えるようなロックナンバー。疾走感のあるメロディーが展開されている。そのようなメロディーと共に駆け抜けるようなシンセの音色やバンドサウンドを聴いていると、思わず身体を動かしてしまうこと請け合い。Bメロでは、 安岡孝章と堀麻夫のツインボーカルが曲に彩りを加えている。どちらも美声の持ち主である。
歌詞は散文的で意味はあまりわからない。ただ、メロディーと歌詞がぴったり合っているので、実際に口ずさんでみるとかなり気持ち良いのがわかる。
この曲までは割と落ち着いた曲が並んでいたので、かなり異色な感じがする。アイリーン・フォーリーンの音楽性の幅広さがよくわかる曲である。


「スロー・タイム」は再びのスローバラードナンバー。「追想〜ミッシング・ユー〜」よりもゆったりとした曲調で聴かせる。ピアノが主体となったサウンドは思わず身を委ねたくなるような心地良さがある。シンセによるストリングスも曲を流麗なものにしている。この曲最大の聴きどころはツインボーカル。安岡孝章と堀麻夫のそれぞれにソロパートがあるので、歌声の違いがよくわかる。
歌詞は恋人への想いをストレートに打ち明けたもの。「息も止まるほど 愛してるから」と衒いなく歌い上げる。誠実な男性の姿が想像できる詞世界は、後の男性シンガーソングライターのそれを先取りしたかのようだ。
短めな曲なので「もっと聴きたい!」と感じる。そう感じられるスローバラードナンバーは少ないと思う。


「詩人」はシリアスな世界観を持ったポップロックナンバー。ポップな中にどことなく儚げな雰囲気もあるメロディーが特徴。バンドとしてのまとまりを感じさせるバンドサウンドと、徹底的に計算されたシンセとが両立したサウンドは聴きごたえがある。今になって聴いても迫力のあるサウンドは今作の中でも圧巻。
歌詞はタイトル通り、詩人が主人公となったストーリー性のあるもの。「詩人」はアイリーン・フォーリーンのことではと勘ぐってしまう。「そっと耳を かたむけて 聞いてごらん 優しく 哀しい メロディ 奏でてる」というサビの歌詞が印象的である。「優しく 哀しい メロディ」はこの曲を表現するのにこれ以上無いほど適したフレーズだと思う。
メロディー、サウンド共に冴え渡っている印象があり、個人的には今作の収録曲の中で一番好きな曲。


「ミステリー・ガール」は洗練された雰囲気を持ったポップナンバー。「詩人」から繋がって始まるのだが、その繋がり方が絶妙。
今作の中でもかなりシティポップ色の強い曲だと思う。一切の無駄なく流れていくメロディーが心地良い。サビは一回聴けば口ずさめるほどにキャッチーである。シンセはタイトル通りの謎めいたイメージの音色。そのシンセを包み込むような、タイトなバンドサウンドは絶品。間奏やアウトロで登場する、シンセによるものと思われるホーンも聴きどころの一つ。
歌詞は真夏の都会を舞台に、魅力的な女性に出逢った男性の心情が描かれている。「真夏のまぼろしなら 消えないで」というフレーズからは男性の想いがよく伝わってくる。
今作のアルバム曲の中でもかなり好きな方に入ってくる曲。シングルにしていても違和感の無い曲だと思う。


「アース」は今作のラストを飾る曲。壮大なバラードナンバー。厳かな雰囲気に包まれた曲だが、バンドサウンドが入って段々と盛り上がっていく。神秘的なイメージを持ったシンセの音色が前面に出ており、この曲の厳かさを引き立てている。派手さは無いものの、やはりサビは聴き手の心をぐっと掴むような訴求力を持っている。安岡孝章のメロディーセンスの凄さを実感できる。
歌詞は社会派なメッセージが並んだもの。全体としては、世界平和を願うような感じ。「いつからだろうか 争いという 悲しい物語 歌うのは」という歌詞が顕著。比較的ラブソングが多い今作のラストにこの曲を配置したことで、今作に確かな風格が出ているように思う。


あまり売れた作品ではない上に、CDが出始めた頃の作品なので中古屋では滅多に見かけない。プレミアがついていることがほとんどなので、LPで入手した方が安いかもしれない。また、オリジナル盤と同じ音質ではあるがMEG-CD化されているので、そちらで入手するのも一つの手である。
全編通して、徹底的に作り込まれたサウンドに彩られたポップスを楽しめる作品である。生音とシンセのバランスが取れており、それも今作の聴き心地の良さの理由。シンセの音色は今になって聴くと流石に古いと感じてしまうが、その印象を打ち消すほどに丁寧な音作りがされている上に、何より安岡孝章によるメロディーが素晴らしい。メロディーに関しては今でも通用する。
王道なポップスに寄りつつも、都会的かつ実験性のある今作の作風は今こそ再評価されるべきものだと思う。実現は難しいことは承知しているが、いつかはリマスターされた音で今作を楽しみたい。

★★★★★