しあわせのみつけかた
山口由子
1994-09-21


【収録曲】
全曲作詞作曲 山口由子
4.作詞 小倉めぐみ
4.作曲 都志見隆
全曲編曲 武部聡志
プロデュース 武部聡志・鈴木淳

1.「一緒に暮らそう」 ​★★★★☆
2.グラスが飛んだ日 ​★★★☆☆
3.わたしを「ヨロシク」 ★★★★☆
4.そして毎日あなたを思った ★★★★★ 
5.小包 ★★★★★
6.Rain3 ​★★★★☆
7.めぐり逢う朝 ★★★★★
8.青春の宝物 ★★★☆☆
9.恋する女達 ★★★★☆
10.夏の終わり ​★★★★★

1994年9月21日発売
ポニーキャニオン
最高位不明 売上不明

山口由子の1stアルバム。先行シングル「恋する女達」「そして毎日あなたを思った」を収録。

山口由子は1987年に3人組アイドルグループA-Chaの1人としてデビューし、1988年にソロデビューを果たした。アイドル歌手として3作のシングルと2作のアルバムをリリースし、活動を休止。
そして、1994年にシンガーソングライターとして再デビューした。このような事情から、実質的には今作は3rdアルバムである。ただ、山口由子としてはアイドル時代は黒歴史に近い扱いのようだ。
1997年にはマーキュリー・ミュージックエンタテインメント(現在のユニバーサルミュージック)に移籍し、1999年には「Believe」がヒットした。なお、現在のディスコグラフィーではポニーキャニオン時代の作品は掲載されていない。契約の事情なのか、本人がポニーキャニオン時代も黒歴史扱いしているのか。真相はわからない。

山口由子はアイドル時代、ポニーキャニオン時代、マーキュリー時代と作風がコロコロ変わる。全て紹介すると長くなるので、今作がリリースされたポニーキャニオン時代の作風を紹介させていただく。一言で表すなら「一歩間違えたらビーイング系な、超王道ガールポップ」である。
山口由子は非常に透明感のある、可愛らしい歌声の持ち主なのだが、その歌声とぴったり合っている。山口由子の全ての時期の楽曲を聴いてそれぞれに良さを見出したが、管理人としてはポニーキャニオン時代が最も山口由子の歌声の魅力が活かされていると感じた。


『「一緒に暮らそう」』は今作のオープニング曲。爽やかなメロディーが心地良いポップナンバー。サビはかなりキャッチーな仕上がりになっている。それでいて、流れるような美しさがあるのは絶妙。サウンドは全編打ち込みによるもの。中華風の音が前面に出ており、曲にオリエンタルな雰囲気を与えている。
歌詞はタイトル通り、恋人に「二人で暮らそう」と提案するもの。二人は久し振りに再会して、仲が深まったようだ。「紙コップを二つ 並べながら 小さな幸せを感じた」というサビの歌詞が好き。とてもありふれた日常の描写なのだが、そのような部分から「幸せ」を見出すところがたまらない。
オープニングから完成度が非常に高い。聴き手にこの後の曲への期待を抱かせてくれる。


「グラスが飛んだ日」は前の曲に続いてのポップナンバー。全体を通して、どことなく楽しげな雰囲気の漂うメロディーが展開されている。派手に盛り上がるような曲ではないものの、聴いていて安心感がある。ギター以外は全てシンセによるサウンド。南国風な音が使われている部分もあり、多彩なアレンジが施されていることがわかる。
歌詞は昔の恋人の結婚式に参加した女性の心情が描かれている。タイトルは「乾杯」を意味すると解釈している。昔の恋人をグラスで殴ったことだと解釈してしまったが、流石にそれは無いと信じたい。新郎に「"やっぱり君が良かったよ"」と言わせたがったり、新婦の文句を言ってみたりと人間味に溢れた詞世界が印象的。この曲ほど複雑な女心を隠すことなくリアルに描いた曲も中々無いと思う。


『わたしを「ヨロシク」』は清涼感のあるポップナンバー。サビになってもそれほど盛り上がるようなメロディーではないが、それでも不思議と耳に残る。この曲は生のバンドサウンド、シンセ共に両立したサウンドで聴かせる。ワンフレーズで曲を輝かせるようなシンセの使い方が素晴らしい。シンセだけでなく、丁寧なコーラスワークもこの曲を美しく彩っている。
歌詞は「三度目のお見合い」に向けて神頼みする女性を描いたもの。そのため、タイトルは神様に向けて言っているものである。「慎ましく淑やかに 鏡の前 涙ぐましい努力を 重ねてる」という歌詞は中々にインパクトがある。自分でそう言ってしまうか!と感じるのだが、何故か不快感はない。
冒頭の3曲を聴いただけでも、今作は1曲1曲にそれぞれのストーリーがあることがわかるはず。


「そして毎日あなたを思った」は先行シングル曲。今作の中では唯一の、作詞作曲共に外部提供による曲。しっとりとした曲調で聴かせるバラードナンバー。サビ前まではキーボードやアコギが主体になって静かに進行していくが、サビでバンドサウンドが入って盛り上がる。メロディーに関しても、サビで一気に広がりのあるメロディーになる。その変貌振りが見事。武部聡志のアレンジの手腕が遺憾無く発揮されていると思う。
歌詞は昔の恋人との幸せな思い出を淡々と並べたもの。当たり前だが、全ての幸せな描写は過去形。メロディーも相まって、非常に切ない詞世界である。「ずっと好きだと思った あなたも同じと思った ずっと続くと思った たやすいことに思えた」という歌詞が特に心にズシンと響いた。山口由子の歌声の「訴求力」が冴え渡る名バラードだと思う。


「小包」は先行シングル「恋する女達」のC/W曲。聴き心地の良いバラードナンバー。サビで聴き手の心を思い切り掴むような感覚がある。決して派手さは無いものの、それでも確かなキャッチーさがある。サウンドはバンドサウンドとシンセのバランスが取れている。今作ではこの曲のみドラムは江口信夫なのだが、江口信夫特有の力強いドラミングが曲に貫禄をつけている印象。
歌詞は故郷を離れて一人暮らしをする女性の、親への想いが描かれている。親からの小包には、実家に忘れた春物の服とお金と手紙。「心配しなくてもいいよ 自分で選んだ道を 笑顔で話せる時が 何よりも一番の贈り物だね」というサビの歌詞が好き。このような詞世界のため、温かみ溢れるバラードナンバーとなっている。地元を出て進学したり、働いたりしている方は共感できる曲だと思う。


「Rain3」は切なさの漂うミディアムナンバー。ちなみに、正しいタイトルは指数と同じ表記である。(下の画像を参照)
サウンドはギター以外は全てシンセによるもの。シンセ主体ならではの、様々な色を見せるサウンドとなっている。間奏のギターソロはこの曲の聴きどころ。淡々とした曲調ではあるが、サビはかなりポップな仕上がりとなっている。山口由子が優れたメロディーメーカーであることの証左である。
歌詞は恋人に別れを告げられ、親友に電話で慰めてもらう女性が描かれている。最終的に女性は立ち直っている。タイトルからも察しがつくように、雨の日が舞台。雨が降っている時特有の匂いさえ伝わってきそうな、繊細な描写がされている。比較的明るい曲調やサウンドは「雨のち晴れ」ということだろうか。
​↓タイトルの正式な表記。こんな感じ。
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「めぐり逢う朝」はしっとりとした曲調で聞かせるバラードナンバー。思わず聴き惚れてしまうような美しいメロディーがたまらない。曲の世界に段々と引き込まれていくような感覚がある。サウンドは生音とシンセが融合したもの。ひんやりしたキーボードの音色と、隙のないバンドサウンドとの相性は抜群。
歌詞は恋人と別れる瞬間を切り取って描いたもの。女性の切なさがよく伝わってくるような、丁寧な心理描写が圧巻。「ねえ運命なの 生まれた瞬間(とき)から 出会いも別れも すべて 愛する度に人は 何故苦しみを 繰り返すの」というサビの歌詞は聴いていて辛くなるほど。
この曲もまた、山口由子の訴求力溢れる歌声が曲の切なさを演出している。「そして毎日あなたを思った」と負けず劣らずの名バラードである。


「青春の宝物」はフォークソングのテイストを感じさせるポップナンバー。繊細さ漂うアコギの音色が前面に出ているが、それと同じくらいシンセも主張している。間奏でのハーモニカのソロはこの曲の温かみを限りなく演出している。牧歌的な雰囲気を持ったメロディーも心地良い。サビはどことなく懐かしさがある。
歌詞はタイトル通り、青春時代の思い出を振り返ったもの。「もうすぐ私 嫁いで行く」という状態の女性が主人公。青春時代の叶わなかった恋愛の思い出が今でも主人公を支えているようだ。眩しいくらいに輝きに満ちた詞世界である。
聴き手それぞれが青春時代のことを思い出せる詞世界を持っているため、聴き手が主人公になれるような曲だと思う。


「恋する女達」は先行シングル曲。シンガーソングライター・山口由子としてのデビュー曲。力強い曲調で聴き手を引き込むポップロックナンバー。シンセが主体となったサウンドが展開されている。ホーンがフィーチャーされており、曲を高らかな音色で盛り立てている。曲調に合わせたのか、山口由子の少々力んでしまったような歌声が実に可愛らしい。
歌詞はタイトルからも想像できるように、結婚するために奮闘する女性への応援歌と取れるもの。この手の分野を引っ提げて、群雄割拠のガールポップ界隈に殴り込みをかけようとしたのだろう。松任谷由実や岡村孝子のような「OLの教祖」的なイメージのある詞世界である。自分は男なので、この曲の歌詞を心底理解して共感することはまずできない。とはいえメロディーやサウンドだけでも高揚感に満ちているので、男性はそちらの方で楽しめる。


「夏の終わり」は今作のラストを飾る曲。しっとりとした曲調で聴かせるバラードナンバー。90年代ならではのひんやりとしたキーボードの音色が前面に出ている。それでも、どことなく温かみが感じられるのがそのキーボードの音色の凄さである。曲の世界に浸れるような美しいメロディーが展開されている。グッと聴き手の心を掴んで離さないサビは出色の出来。透明感と訴求力に溢れた山口由子の歌声も相まって、聴いていてとても心地良い。
歌詞は昔の恋人のことを振り返ったもの。「今年の夏は 短かったと思うのは あなたがいないせいだから だけど これでいいの」という歌詞は主人公の女性の強がる姿が浮かんできて、微笑ましい。
管理人にとっては、山口由子にハマるきっかけになった曲なので思い出深い。2017年の夏はこの曲ばかり聴いていた記憶がある。


あまり売れた作品ではないので中古屋では滅多に見かけない。比較的ミディアムナンバーが多めなのだが、それでも飽きずに聴けてしまえるのは武部聡志によるアレンジの功績が大きいと言える。生音とシンセを柔軟に使い分けるアレンジ技術によって、全体を通してカラフルなサウンドが展開された作品となった。
当時活躍していた他のアーティストで言うと、宇徳敬子のそれに似た雰囲気がある作品だと思う。歌声の透明感は甲乙つけがたい。ミディアムナンバーが多めな構成は、山口由子の歌声の魅力を最大限に引き出しているように感じる。管理人は一気にポップ性の強くなった次作「COVER GIRL」の方が好きなのだが、こちらも大好き。

★★★★★