【収録曲】
全曲作詞 谷口實希
6.作詞 日比野信午
全曲作曲 日比野信午
1.2.5.編曲 岡本洋・日比野信午
3.4.8.9.11.編曲 岡本洋
6.7.10.編曲 日比野信午
プロデュース 多田勉

1.会いに行くよ ★★★★★
2.恋人はもうつくらない ​★★★★☆
3.もう少しだけ(Do-Be-Do) ★★★★☆
4.あなたとふたり ★★★★★
5.夏のゆうべ ​★★★★★
6.電話しても ★★★★☆
7.たったひとつのサヨナラ ​★★★☆☆
8.理想のタイプじゃないのに ★★★☆☆
9.帰らない日々 ★★★☆☆
10.ちょっと誰か聞いて下さい ★★★★★
11.最高のプレゼント ​★★★☆☆

1994年5月21日発売
BMGビクター
最高位不明 売上不明

Paris Blueの3rdアルバム。先行シングル「会いに行くよ」を収録。前作「a groovy kind of Love 恋はごきげん」からはミニアルバムを挟んで10ヶ月振りのリリースとなった。初回盤はスリーブケース入り仕様…と思われる。

Paris Blueは1992年にデビューし、1996年に活動を休止した2人組ユニット。ボーカル・作詞の谷口實希、コーラス・作曲・編曲の日比野信午から成る。日比野信午はたまにサックスも演奏する。ユニット名の表記に関しては「PARIS BLUE」「paris blue」「パリスブルー」と様々な表記があるが、当ブログでは「Paris Blue」で統一する。
Paris Blueの活動休止後、谷口實希は谷口美紀名義でソロデビューしてシングルを1枚リリースしたが、その後は行方知れず。日比野信午は作曲家や編曲家として活動しているが、体調のせいか精力的な活動ができているとは言えない状態。

Paris Blueは「新時代のアコースティックサウンド」を標榜し、フレンチポップやシティポップ・AORを取り入れたお洒落なポップスを得意としたユニットである。谷口實希の甘く可愛らしい歌声と、日比野信午のハイトーンボイスを生かした透明感のあるコーラスワークが魅力的。

Paris Blueのアルバムは曲名から取られていることが多いが、今作はスモーキー・ロビンソン&ザ・ミラクルズのアルバム名及び曲名から取られている。タイトル通りの明るく開放的な作風となっている。


「会いに行くよ」は今作のオープニングを飾る先行シングル曲。NACK5『Japanese Dream』の1994年4月のグランプリ受賞曲。アニメ映画『リカちゃんとヤマネコ 星の旅』とタイアップがされるはずだったが、お蔵入りになってしまったという。結局、その作品は1997年にOVAとしてソフト化されており、この曲はオープニングテーマに起用されている。
楽しげな雰囲気漂うポップナンバー。弾むようなメロディーは聴き手の心まで高鳴らせる。ちなみに、この曲は日比野信午が大学生の時に作られたという。シンセ主体のサウンドは曲のポップさを演出している。
歌詞はタイトル通り、恋人に会いに行く女性の心情が描かれている。嬉しいことがあったら、それを真っ先に伝えたい人がいる。それはとても幸せなことだと思う。そうした喜びに満ちた詞世界や、ボーカル・コーラスワークが素晴らしい。開放的で明るい今作のオープニングを飾るのに最適な曲だと思う。


「恋人はもうつくらない」は日比野信午のコーラスワークが冴え渡るポップナンバー。思わず口ずさみたくなるような、跳ねるようなメロディーがたまらない。全体を通してかなりキャッチーなメロディーが印象的。タイトなバンドサウンドと、その脇を固めるシンセによるストリングスの絡みが心地良い。
歌詞はタイトル通り「恋人はもうつくらない」と決めた女性の心情が描かれている。元の恋人以上の男性には出逢えないと確信し、「あなたを忘れられない 今でも好きだから」と想いを打ち明ける。これほどの想いを抱かせる「あなた」とはどのような人なのか気になる。しかし、元カノにそれくらいのことを想わせることができるのは、男にとって幸せなことだと思う。無責任だろうか。曲調と歌詞の落差が大きいが、不思議と違和感無く聴けてしまう。


「もう少しだけ(Do-Be-Do)」はここまでの流れを落ち着けるようなバラードナンバー。6分近くある曲で、今作の中では最長。繊細さを感じさせるメロディーやサウンドで聴かせる。シンセを駆使したサウンドのためか、落ち着いた曲調ではあるがポップな味付けとなっている。そのバランス感覚はParis Blueならではと言ったところか。前の曲では可愛らしさを見せた谷口實希のボーカルも、この曲では艶のある歌声を披露している。
歌詞は恋人と夜を明かそうとする女性の想いを描いたもの。「ねえ このまま夜が明けるまで居たい 体ごと時間ごと もう すべてをさらってほしい」という歌詞はあらゆる妄想をかきたてる。色気はあっても、下品な感じはしないのは谷口實希のボーカルのおかげだろうか。


「あなたとふたり」は先行シングル「会いに行くよ」のC/W曲。優しいメロディーが心地良いミディアムナンバー。どこがサビなのかわかりにくいメロディーだが、それすら気にならないほどに美しいメロディーである。力強い生音と、キラキラしたシンセの音色が両立したサウンドで聴かせる。明るいフレーズでありながら、どこか哀愁の漂うギターサウンドはこの曲の世界観を構成している。
歌詞は恋人と共に生きていくことを誓う女性が描かれたもの。恋人に「不器用な性格だけど 正直でやさしくて 上手に生きてるひとよりも 素敵だと思えるよ」と想いを打ち明けている。決して器用ではない男である管理人にはこれほど心強い言葉も無い。
C/W曲ながら、サウンドや歌詞が自分の好みのどストライク。A面と同じくらい好きな曲。


「夏のゆうべ」はしっとりとした曲調で聴き手を引き込むバラードナンバー。「会いに行くよ」と同じく、アニメ映画『リカちゃんとヤマネコ 星の旅』とタイアップされるはずだったが、お蔵入りになってしまった。前述したように1997年にOVAとしてソフト化されるわけだが、この曲はエンディングテーマに起用されている。
Paris Blueにしては珍しく、和風な雰囲気を前面に出したサウンドとなっている。祭り囃子が使われているほか、メロディー自体も懐かしさの漂うもの。民謡を聴いているような感覚になれるはず。
歌詞は花火大会に行った、友達以上恋人未満な関係の二人を主人公にしたもの。女性は男性に片想いしているが、想いを伝えられない。「溢れだす想いは もう 止められず 流れそうで 祭り囃子が遠去かって聞こえます」という歌詞はそのもどかしさが伝わってくる。
和風な曲調や音作りと詞世界がぴったり合っている。異色な作風だが、出色の出来だと思う。


「電話しても」はピアノが多用されたポップナンバー。全体を通してかなりキャッチーなメロディーが展開されている。サウンドはピアノやシンセが前面に出ているが、それ以外にも流麗なストリングスがフィーチャーされており、ポップな曲に美しさを与えている。
今作の中では唯一、日比野信午が作詞を担当した曲である。歌詞は「わからない」男性に振り回される女性の想いが描かれたもの。電話しても、女性の話を聞いているフリをしたり、何を訊いても答えてくれなかったり…この曲を聴いていると、女性のモヤモヤした心を実際に体験しているかのような感覚に襲われる。それは、感情のこもった谷口實希のボーカルによるものも大きいだろう。


「たったひとつのサヨナラ」は温かみのあるミディアムナンバー。思わず聴き惚れてしまうような美しいメロディーがたまらなく心地良い。そのような曲にもかかわらず、サビはしっかりと耳に残る仕上がり。日比野信午の職人的な技術がよくわかる。サウンドはバンドサウンドが主体になりつつ、シンセも主張したもの。バックで渋い佇まいを見せるギターサウンドが曲の哀愁を引き立てている。
歌詞は失恋した人を励ましたもの。「たったひとつのサヨナラに 怖がらないでいてね 忘れることができなくてもいいじゃない」というサビの歌詞はとても力強い。聴き手に寄り添うような谷口實希のボーカルも相まって、優しい雰囲気に包まれた曲となっている。この曲のような、等身大なメッセージを綴った詞世界は谷口實希の得意技である。


「理想のタイプじゃないのに」は清涼感のあるメロディーが展開されたミディアムナンバー。比較的淡々とした感じでサビでもそれほど大きく盛り上がらないが、不思議と耳に残るメロディーが印象的。メロディーメーカーの本質はこのような曲に現れるのかもしれない。サウンドはシンセが主体だが、バンドサウンドも主張している。手数の多いドラムや曲の清涼感を引き立てるようなアコギが顕著である。
歌詞はタイトル通り「理想のタイプじゃない」男性に恋をした女性が描かれている。どれほど考えても、人が誰かを好きになる論理はわからない。考え過ぎないほうが楽しめるのではないか。そう考えさせてくれるような、楽観的な詞世界である。聴く人によってはイラついてしまいそうな詞世界だが、それもまたParis Blueの楽曲の構成要素の一つ。それを含めて楽しむ姿勢が重要だろう。


「帰らない日々」はしっとりとした曲調で聴かせるバラードナンバー。曲の世界に浸れるような、落ち着いたメロディーが展開されている。どこかで聴いたことがありそうなのだが、中々それが思い出せないメロディーである。この手のメロディーはParis Blueの楽曲に多くある。サウンドはキーボードやシンセが主体。派手に主張しないサウンドによって、メロディーの魅力をより引き立てている。
歌詞は恋人に別れを告げられた女性の心情が描かれている。「抱き合うたび私は 永遠を信じてた ただひたすらあなたを 愛してた 帰らない日々」というサビの歌詞は心にグッと突き刺さる。今作には数少ないメロウな曲なので、アルバムの中の良いアクセントになっている印象がある。


「ちょっと誰か聞いて下さい」はここまでの流れを変えるような、爽快なポップナンバー。モータウン風の曲調が取り入れられており、心が弾むようなメロディーとなっている。思わず口ずさんだり、鼻歌を歌ったりしたくなる。曲に合わせて跳ね上がるようなシンセの音も聴き手の高揚感を与えている。
歌詞は異性との運命のような出逢いをした女性の喜びが描かれている。「ちょっと誰か聞いて下さい 好きなひと現れました 久し振りに トキメクような恋になる予感がします」というサビの歌詞は喜び全開。言葉の一つ一つでさえも、メロディーや曲調に合わせて踊っているかのような雰囲気がある。全ての要素が一体になって多幸感を作り出している印象。シングルにしていても違和感の無かったような曲だと思う。


「最高のプレゼント」は今作のラストを飾る曲。レゲエのテイストを取り入れたミディアムナンバー。これまた異色な作風なのだが、浮遊感のあるリズムとふんわりした感じのあるボーカルとの相性は抜群である。大幅に盛り上がるような部分はないものの、それでも飽きずに聴けてしまうメロディーが魅力的。
歌詞は遠距離恋愛をしているカップルを描いたもの。忙しくて中々会えず、電話だけでのやり取りが続く日々の中で、やっと会えた。「どんなプレゼントより 今日もまた会えたことが 私には最高の あなたからのプレゼント」というサビの歌詞は、主人公の女性の想いが詰まっているかのよう。こうして聴くと、オープニング曲の「会いに行くよ」とは繋がっているように感じる。構成の妙と言ったところか。


あまり売れた作品ではないが、中古屋ではそこそこ見かける。今作について日比野信午は「ポップなParis Blueを代表するアルバム」と称しているが、まさにその通りの作風となっている。ポップ、お洒落、可愛らしい…Paris Blueの魅力が集約されている印象がある。どこにでもいるようでいない、谷口實希の歌声が映える曲ばかりである。管理人にとっては「理想の女性ボーカル」なのだが、谷口實希ほど可愛らしい歌声の持ち主には中々出逢えていない。
つくづく、多くの人に知られないまま活動を終えてしまったことが惜しまれる。今作を含め、決して埋もれてはならない作品揃いである。中古屋で見かけたら是非とも救い出してほしいと思う。

​★★★★☆