われ唄う故にわれ在り
rough laugh
1999-10-06


【収録曲】
全曲作詞作曲 西沢サトシ
全曲編曲       rough laugh 
1.5.7.8.10.ブラス・ストリングスアレンジ 吉田潔
プロデュース  rough laugh 

1.刹那主義 ​★★★★☆
2.アタシハタチノネ。 ​★★★☆☆
3.BAD COMPANY ★★★★★
4.誰がために鐘は鳴る ★★★★★
5.神様!僕達は走っていく ​★★★☆☆
6.my routine life ★★★☆☆
7.Cradle to Grave〜揺りかごから墓場まで〜 ★★★★☆
8.かしこ ★★★★★
9.デジタル・ローカスト ★★★★☆
10.sometime somewhere ​★★★★★+1

1999年10月6日発売
ポニーキャニオン
最高位47位 売上不明

rough laughの2ndアルバム。先行シングル「sometime somewhere」「誰がために鐘は鳴る」を収録。上記2作のシングルの間にリリースされたシングル「First step」は未収録。今作発売後に「BAD COMPANY」がシングルカットされた。前作「routine life」からは1年10ヶ月振りのリリースとなった。

rough laughは1997年にデビューした男女混合ユニット。ボーカル・ギターの西沢サトシ、バイオリン・ピアノ・コーラスの南都(なつ)の2人から成る。元々、キーボードのかとうまさあきも在籍していたが、前述したシングル「First step」を最後に脱退した。
KSSレコードからデビューしてシングル3作とアルバム1作をリリースしたものの、レコード会社が事業停止の憂き目に遭ってしまった。そのためか、KSSレコード時代の作品はインディーズ扱いされることが多い。

1999年に今作の先行シングル「sometime somewhere」でポニーキャニオンから再デビューして一部から熱心な支持を集めたものの、誰もが知るようなヒット曲を出せないまま2001年4月に活動休止することとなる。

rough laughの楽曲の魅力は、西沢サトシの卓越したメロディーメーカーとしての実力にある。ジャズやブラックミュージックの要素を取り入れつつも、お洒落かつ親しみやすいポップスに仕上げる能力は素晴らしいものがある。キザな雰囲気を持った、西沢サトシの甘い歌声も魅力的。


「刹那主義」は先行シングル「誰がために鐘は鳴る」のC/W曲。ジャズやソウルのテイストを取り入れたポップナンバー。渋さを感じさせるバンドサウンドと、ピアノやホーンで聴かせる。ハネたメロディーは思わず身体を動かしたくなるようなノリの良さがある。お洒落な雰囲気を前面に出しつつも、サビはしっかりと王道なポップスに持っていく。西沢サトシの能力が冴え渡っている。
歌詞はタイトル通り、刹那的な快楽を楽しむ男性が描かれている。バーやクラブで活躍する、日雇いのミュージシャンやダンサーをイメージさせる。「心と心つなぎ やがて来る明日に背を向ける この夢は儚な過ぎて 痛みを伴う」という歌詞は主人公の苦しみが伝わって来る。
オープニングから、rough laughの王道と言える要素がふんだんに使われた曲をぶつけてきた。ここからはrough laughの世界に引き込まれていくのみ。


「アタシハタチノネ。」はジャズ色の強いバラードナンバー。歌っているかのように美しく、楽しげな音色のピアノと重厚なベースが前面に出ている。後半からは激しいバンドサウンドが入って、どこかサイケな雰囲気の漂うサウンドになるが、最後は元に戻る。不思議な構成である。西沢サトシのボーカルは他の曲よりも抑えた感じで、サウンドを聴かせるイメージとなっている。
かなりインパクトの強いタイトルだが、歌詞は二十歳の誕生日を迎えた女性が描かれている。しかし、その喜びが綴られているわけではなく、全体的にシニカルな詞世界。「見事に咲いた華を 静かに散らすだけよ」というサビの歌詞が顕著。冷めた視点で世の中を見ているような詞世界はrough laugh独特のものと言える。


「BAD COMPANY」は今作発売後にシングルカットされた曲。BS-2系番組『新・真夜中の王国』のオープニングテーマに起用された。爽快なロックナンバー。激しいギターサウンドだけでなく、野生的な音色のパーカッションや太いベースも主張しており、ファンキーなノリも強く感じられる。心地良く聴き流せるような、一切の無駄がないメロディーが展開されている。この曲での西沢サトシのボーカルは男が聴いても格好良いと思ってしまう。
歌詞はメッセージ性の強いもの。「野望も欲もなく 生きるのか?」「“名残惜しく過去に止まる その前に 急がなきゃ”」といった歌詞はそれがよく現れている。慌ただしい世の中を切り抜けていくためのヒントをくれるような曲である。格好良さや演奏の聴きごたえ、ポップ性など様々な要素を持った曲なので、シングルカットされたのも頷ける。


「誰がために鐘は鳴る」は先行シングル曲。フジテレビ系ドラマ『らせん』の主題歌に起用された。rough laughにとっては最大ヒット曲だと思われる。重厚なバンドサウンドに飾られたロックバラードナンバー。伸びのあるボーカルと、サウンドとは裏腹の繊細さを持ったメロディーで聴かせる。
歌詞は前の曲と同じく、メッセージ性の強いもの。英語詞が多めなためか、どことなくスカした雰囲気が感じられるものの、メロディーやボーカルのおかげで全く気にならない。歌詞全体としては「ありのままでいよう」というメッセージが綴られている。それは、実現するのは簡単なようでいて難しいくせに、生きていくためにはとても重要なこと。
何となくGRAPEVINEの作風を彷彿とさせる曲なのだが、それはrough laughの音楽性の幅広さの証左になっているように思う。


「神様!僕達は走っていく」は1stアルバム「routine life」に収録された曲の再録版。「僕達」は「ぼくら」と読む。今作収録にあたって、ホーンが追加されている。リズムパターンはそれほど変わっていない。ストレートなポップナンバー。かなりキャッチーなメロディーが特徴的。バンドサウンドが主体になりつつも、ホーンやパーカッションも主張して曲を盛り上げている。
歌詞は多幸感のあるラブソング。仕事を放り出して恋人とドライブに出かける内容。「楽しけりゃいいんじゃない? それが若者」というフレーズはその頃にしかない、全能感が溢れている。曲全体から漂う、楽観的な雰囲気は詞世界に最も強く感じられる。
ここまで聴いていくと、この曲だけ少し作風が違うのがわかる。ひねくれた感じがあまり無いためだろう。


「my routine life」は1stアルバム「routine life」に収録された曲の再録版。1stよりも曲が少し短くなっているほか、ジャズの要素が強くなっている。1stはボサノヴァの要素が強いアレンジだった。ゆったりとした曲調で聴かせるバラードナンバー。ピアノとフルートが主体となった、聴き心地の良いサウンドは思わずまどろみたくなる。
歌詞は一日の終わりを描いたもの。「お喋りは 止めにして おやすみね」というフレーズが印象に残る。優しく語りかけるような西沢サトシのボーカルも相まって、実際に目の前で言われているような感覚になる。
小品ではあるが、しっかりと聴き手の心を掴んでくれる曲。1stアルバムに収録されているバージョンも聴いていただきたい。


「Cradle to Grave〜揺りかごから墓場まで〜」はジャズの要素を取り入れたポップナンバー。サウンド面は渋さを感じさせるバンドサウンドと、透き通るような音色のピアノが中心になっている。その後ろを、ホーンが高らかな音色で盛り立てている。この曲では南都のコーラスワークも目立っており、曲に彩りを加えている。
歌詞は女性関係でやらかした男性の心情が描かれている。消極的な姿勢の女性と行為をした後に、自己弁護をする姿は何とも滑稽。「あの裸の不始末も 覚えていなけりゃ それまでさ 身も無く 蓋も無いよ それが男なのだ!」という歌詞は相当なインパクトがある。わがままな男の心の心情を描き出すのが本当に上手い。rough laughならではの詞世界を楽しめる曲。


「かしこ」は温かみのあるミディアムナンバー。ピアノが前面に出た、軽快なサウンドで聴かせる。その脇でトロンボーンやフリューゲルホルンが存在感を放つ。今作は全体的にホーンが多用されているが、それでも聴き飽きないのは使い方が上手いからだろう。サウンド同様に優しく温もりのあるメロディーが展開されているが、サビは中々にキャッチーな仕上がり。
歌詞は昔の恋人に手紙を書く男性が描かれている。とは言っても相手に届けるわけではなく、自分の心を落ち着けるために書いている感じ。いつか会いたいという想いがよく伝わってくる。寂しさや喪失感を一生懸命堪えたような詞世界である。
初めて今作を聴いたとき、この曲をシングル曲だと思ってしまった。それくらいの完成度の高さを誇る曲だと思う。


「デジタル・ローカスト」は今作発売後にシングルカットされた「BAD COMPANY」のC/W曲。タイトルからも想像できるかもしれないが、デジタルロック色の強い曲。歪んだギターサウンドはシューゲイザーのようでもある。淡々としたメロディーの中で言葉をぶつけていくような感覚があり、それがとても格好良い。
歌詞は内省的なメッセージが並んだもの。タイトルの「ローカスト」は歌詞を見る限りだと「セミ」を指していると思われる。特に、抜け殻になった状態。それと自らの姿を重ね合わせているのだろう。
「本音以上に考えたり 些細な自由を追いかけたり 無意味に傷つけ合って 幸せは砂のようにモロくガッカリ しちゃったり」という歌詞が特に心に突き刺さった。作風の幅広さと同時に、西沢サトシの作詞家としての実力の高さを思い知らされた。


「sometime somewhere」は今作のラストを飾る先行シングル曲。NACK5の『Japanese Dream』の1998年12月のグランプリ受賞曲。今作収録にあたって、イントロのキーボードがカットされたアルバムバージョンとなっている。その音も絶品なので、シングルバージョンも聴いていただきたい。
上質なメロディーとサウンドで聴かせるミディアムバラードナンバー。タイトなバンドサウンドとホーンやストリングスの絡みはたまらなく心地良い。聴き流していても、思わず手を止めて聴き惚れてしまうようなメロディーは圧巻。
歌詞は恋人と別れた男性の心情が描かれている。一人になって気楽に感じる気持ちと、喪失感や後悔…その両方が混じったリアルな詞世界が印象的。「もう一人じゃない でも君はいない」というサビの歌詞は何とも切ない。言葉を噛みしめるような西沢サトシのボーカルも曲の切なさを演出している。
全ての要素に一切の隙が無い名曲。『2017年に出逢ったベストソング』でもこの曲を紹介したが、やはり大好きな曲。歌詞の感情を真に理解できないとしても、これからもこの曲を聴き続ける。


あまり売れた作品ではないが、中古屋ではそこそこ見かける。しかし、中古屋に埋もれたままにするのはあまりにも惜しい。
過小評価されているアーティストを紹介する時、よく「出てくるのが早過ぎた」というフレーズを使う。rough laughに関してはそれを痛感する。rough laughはジャズやブラックミュージックを消化した、お洒落かつ王道なポップスが大きな魅力である。それは今では大いに受け入れられる要素だが、当時はそこまで一般的ではなかっただろう。それを先駆けて展開した功績は大きい。
今作は前述したrough laughの魅力を存分に楽しめる作品である。お洒落、ポップ、格好良い、美しい、切ない…様々な表情を見せる彼らの音楽は、今聴いても全く古びていない。これからもずっと、時代性とは関係無く聴いていける音楽である。

​★★★★★