【収録曲】
全曲作詞作曲 ASKA
8.作詞 松井五郎・ASKA
1.2.5.9.10.澤近泰輔
3.編曲 十川ともじ
6.7.編曲 ASKA・旭純
8.編曲 村田努・小笠原学
プロデュース  ASKA

1.UNI-VERSE(Album Mix) ​★★★★★
2.いろんな人が歌ってきたように ​★★★★☆
3.朝をありがとう ★★★★☆
4.L&R(Album Mix) ★★★★☆
5.どんなことがあっても ​★★★☆☆
6.SCRAMBLE ★★★★☆
7.歌の中には不自由がない ★★★★★
8.あなたが泣くことはない ​★★★★☆
9.水ゆるく流れ ★★★☆☆
10.僕の来た道 ★★★★☆

2012年10月17日発売
ユニバーサルミュージック(ROCKDOM ARTISTS)
最高位4位 売上2.9万枚

ASKAの7thアルバム。先行シングル「UNI-VERSE」「L&R」及び、配信限定シングル「歌の中には不自由がない」を収録。前作「SCENE Ⅲ」からは約7年振りのリリースとなった。Music Video収録のBlu-ray Discに加え、24ページのLYRICS BOOK(歌詞カード)と48ページのPICTURE BOOKが封入されたBOXケース入り仕様。

今作はCHAGE and ASKAの活動休止後にリリースされた最初にして、逮捕前にリリースされた最後のオリジナルアルバム。心身ともに調子の悪い状態で制作が続いていたようだが、何とか奮起して今作を作り上げたという。

今作のタイトルについて、ASKAは「スクランブルには様々な意味があるけど、“スクランブル交差点”のスクランブルに近いのかな。そこは混沌としてて、人々がすれ違うのは一瞬の出来事のようで、でも実は粒々のようにみえる人間それぞれに意志や意識があって、道の反対のちゃんと到達すべきところに到達するように出来ている。」などと語っている。
この時点でもタイトルに関してかなり深く考えられているが、ここからもさらに考えが膨らんでいくようだ。その考えの一部を、ポップミュージックとして成立するギリギリの部分に留めて表現してあるのが今作だという。


「UNI-VERSE(Album Mix)」は今作のオープニングを飾る先行シングル曲。テレビ東京系番組『ワールドビジネスサテライト』のエンディングテーマに起用された。今作収録にあたって、リミックスされている。壮大なミディアムバラードナンバー。力強いバンドサウンドに加え、流麗かつ迫力のあるストリングスで盛り上げている。美しいメロディーではあるが、サビはかなりキャッチーな仕上がり。職人的な凄みさえ感じられる。
「UNI」と「VERSE」で区切られたタイトルが印象的だが、それは歌詞にも現れている。単語の通りの「宇宙」「森羅万象」の意味に加え、「一つ」を意味する「UNI」と「詩」を表す「VERSE」の意味も組み込まれている。『朝のリレー』という谷川俊太郎の詩のタイトルも登場する。ASKAならではの遊び心のある詞世界だと思う。
ASKA自身気に入っている曲らしいが、それも頷ける。王道中の王道と言いたくなるほどに安定感に満ちているのだが、やはりハズレは無い。


「いろんな人が歌ってきたように」は美しいメロディーで聴かせるバラードナンバー。淀みなく流れていくような感覚がたまらない。ピアノとストリングスが主体となったサウンドと、情感のこもったASKAのボーカルも相まって、荘厳な雰囲気すら感じられる。
歌詞及びこの曲について、ASKAは「最も自身が反映された楽曲」と語っている。歌詞は、「君はどうだい」と聴き手に語りかけるような形式をとりながらも、自らにも問いかけているように感じられる。「そろそろね 認めてもいいだろう すべては 自分だってことを 真実(ほんとう)も嘘も光も闇も」という歌詞が好き。内省的な詞世界ながら、明るさを持った仕上がりなのが好印象。
ASKAの言葉通り、この曲を作った当時のASKAの心情がよくわかるような曲になっていると思う。


「朝をありがとう」は打ち込みが多用された異色のポップナンバー。数々のヒット曲を世に送り出してきたASKAだが、この曲ほどわかりやすくポップなメロディーを持った曲もそうは無いのではと思う。ギターやベースは生音だが、それらよりも打ち込みサウンドやドラムの方が前面に出ている。スコーンスコーンと抜けていくような打ち込みドラムの音は、この曲の軽快さを演出している。
歌詞はどんな時にもやってくる「朝」に感謝したもの。「朝にありがとう」ではないのがポイント。歌詞全体としては明るさを感じさせるのだが、ところどころで皮肉めいている印象。「なんだかんだ言ったって 毎日朝をありがとう」というサビの歌詞は、特にそれが現れている。朝を迎えるのは、憂鬱な時の方が多いと思う。明るく爽やかに朝を迎えられることの方が少ないはず。その悲しい現状を、ユーモアを交えて描き出すASKAには脱帽。


「L&R(Album Mix)」は先行シングル「あなたが泣くことはない」のC/W曲。今作収録にあたって、リミックスされている。力強い曲調やバンドサウンドで聴かせるロックナンバー。聴き手の心をグイグイと引っ張るようなメロディーが展開されている。珍しく、ASKAが単独で編曲を行なっている。メロディーと一緒に駆け抜けるようなギターサウンドがたまらない。
歌詞はCHAGE and ASKAが無期限活動休止した際のASKAの心情が綴られたもの。「L」と「R」は反対の方向を向くもののの象徴なのだろうか。「オマエはLを行く オレはRを行く いつかまた並んだら…」という歌詞は、相棒のChageに捧げた言葉のように感じる。
この曲が世に出て9年。未だにチャゲアスは再始動していない。その件について、残念ながら…とも、当然のことながら…とも思えてしまうのが何とも複雑。


「どんなことがあっても」はアコースティックなサウンドが心地良いバラードナンバー。温かみのある、聴き手を落ち着かせるようなメロディーが展開されている。サウンド面は、シンプルなバンドサウンドとピアノで聴かせる。要所では、シンセによるものと思われるストリングスが入って、メロディーや他の音を包み込む。
歌詞はASKA曰く、「自分に向けて作ったもの」とのこと。「いつか本当の歌を作ってみたい どんなことがあっても そばに居てくれるような」という歌詞は、当時のASKAの心境がよく現れているように感じる。
聴き手からしたら、ASKAはこの曲で描かれている「本当の歌」と言えるような曲たちを沢山生み出してきた存在だと思うのだが…今になって聴くと、中々に意味深な曲である。


「SCRAMBLE」は今作のタイトル曲。今作の中でも特に異彩を放つ、グループサウンズ色の強いポップロックナンバー。この頃のASKAは、洋邦問わず過去の名曲をカバーすることが多かったので、その影響がオリジナル作品にも現れた…と言うべきか。過去の音楽をリアルタイムで聴いていなくても、どこか懐かしいと感じるようなバンドサウンドがインパクト抜群。メロディー自体は、かなり勢いがあってポップなもの。そのバランス感覚が絶妙。
この曲の作詞には苦労したようで、女性目線や男性目線を行ったり来たりしたという。結局、メッセージ性の強いものとなっていて、どちらの目線なのかわかりにくいものとなった。「孤独より寂しいだけの ひとりの今がいい」というフレーズは、何度聴いても考え込みたくなる。ASKA独特の複雑な歌詞が冴え渡っている。歌詞やサウンドにかなりのインパクトがあり、タイトル曲にふさわしい存在感を放っている。


「歌の中には不自由がない」は配信限定の先行シングル曲。ダークな雰囲気に満ちたロックナンバー。メロディーも陰のある感じなのだが、サビでは聴き手の心をグッと掴んで離さない。サウンド面では、恵美直也による重厚なベースがイントロから主張している。どことなく不穏なイメージがある音色が、この曲の世界観を表現している。サビになって激しいバンドサウンドが入って、派手に盛り上がる。その変貌振りには圧倒されるばかり。
歌詞はタイトル通り「歌の中には不自由がない」と主張するもの。世の中の出来事は、表面しか知らないことの方が多い。それなのに、裏では事が動いている。しかし、歌にはそのような「不自由」は存在しない…という考えが語られている。歌詞もメロディーもサウンドも、決して明るくはないのだが、何故か引き込まれている。不思議な魅力のある曲だ。
薬物事件で逮捕された直後、この曲の歌詞について色々と憶測が流れていたことを覚えている。後になってこの曲を聴くと、確かにそのような繋がりを疑われても仕方のないような曲ではあると思う。槇原敬之で言う「Hungry Spider」のような立ち位置だろうか。


「あなたが泣くことはない」は先行シングル曲。木村祐一が初めて監督を務めた映画『ニセ札』の主題歌に起用された。壮大なロックバラードナンバー。荘厳な雰囲気を感じさせる、美しいメロディーが展開されているが、段々とロック色が強くなる。サビまではピアノのみのサウンドで、ASKAのボーカルを引き立てている。後半からは、どんどん激しいバンドサウンドが入って盛り上がっていく。
歌詞は優しいメッセージが並んだもの。ASKAが最も伝えたかったのは「冷たい雨も 降り注ぐ光も 見上げようとすれば 同じ顔になる」の歌詞だという。大きな悲しみを背負った人への深い共感と、励ましの言葉が綴られた詞世界が素晴らしい。ダークな雰囲気は漂っているものの、それでも優しさの方が強く感じられる。


「水ゆるく流れ」はしっとりとした曲調で聴かせるバラードナンバー。日本では放映されなかったものの、2008年にTOYOTA・プリウスのアジア圏向けCMに起用されていたという。松本晃彦が編曲を手がけたインストバージョンだったようだ。聴き手の心を包み込むようなメロディーが展開されている。
前述した、この曲に関する経緯を考慮して聴くと、環境音楽のような安らぎのある音作りがされていると感じられる。打ち込みを多用しつつも、思わず眠ってしまいたくなるような優しい音色である。
歌詞は「ひとつ向こうの存在」への感謝が綴られている。友人に感謝するのはもちろん、その友人を産んでくれた友人の両親、それに出逢えた縁に対する感謝…50代を迎えて、近しい人たちが亡くなることが増え、人生観が変わったのかもしれない。ASKAのパーソナルな部分がよく現れた曲である。


「僕の来た道」は今作のラストを飾る曲。ラストにふさわしい、美しく力強いロックバラードナンバー。温かみのあるメロディーは、思わず聴き惚れてしまうほど。オーソドックスなバンドサウンドが基礎を固めつつも、要所ではピアノやストリングスが締めている。訴求力溢れるメロディーを、より魅力的なものにしてくれるようなサウンドである。
歌詞は「どうあっても、堂々としていたい」というASKAの考えが語られたもの。ASKA独特の複雑な比喩を多用しつつも、その考えを「ハンサムな道」というフレーズで表現している。難解なようでいて、思いの外、イメージがよく浮かんでくるようなフレーズだと思う。
今作の中で、この曲以外にラストを務められるような曲は無いだろうと感じる。適材適所の曲順によって、今作を何度聴いても擦り減らないような「強さ」が生まれていると思う。


逮捕前最後の作品で、現時点では廃盤ということもあってか中古屋ではあまり見かけない。見かけても、それなりの値段で売られているはず。
10曲で46分ほどと比較的コンパクトな作品なのだが、かなり多彩な作風なので満足感がある。ASKA特有の美しいメロディーを堪能できるバラードナンバーや、親しみやすく爽快なポップナンバー、迫力のあるボーカルに圧倒されるロックナンバーはもちろんのこと、エレクトロの要素を取り入れた異色な曲まで幅広い。自らの精神的な不調と戦い、長い時間をかけて制作されただけあって、どの曲もかなり力が入っている。
「渾身の作品」「命を削って作った」というようなフレーズがまさにぴったりだと思う。後のASKAに起こる出来事を意識せずに聴いても、苦しみながら作られたのがわかる感じ。
それでも、聴き手にまでそれを背負わせるような重苦しさは無い。むしろ、希望を見出そうとする明るい雰囲気すら感じられる。
ASKAのオリジナルアルバムの中でも特に好きな部類に入ってくる作品。

★★★★★