From My Heart
米光美保
1994-12-12


【収録曲】
1.10.作詞 前田たかひろ
2.3.6.7.8.12.作詞 門屋祐美
4.11.作詞 井上秋緒
5.作詞 加藤健
9.作詞 米光美保・井上秋緒
全曲作曲編曲 角松敏生
1.10.作曲 ボブ佐久間
4.作曲編曲 浅野祥之
1.編曲 ボブ佐久間
10.編曲 ボブ佐久間・角松敏生
プロデュース 角松敏生

1.Overture SUNDAY 6:00PM 省略
2.あなただけ感じて ★★★★★
3.海になりたい ​★★★★☆
4.Sleepless Dreamer ​★★★☆☆
5.瞳の中の永遠 ★★★★☆
6.MOONLIT MERCY ★★★★☆
7.Reanimation ★★★☆☆
8.Into the good time(EXTENDED REMIX TOKYO SPECIAL!!) ​★★★★☆
9.風のPAVEMENT ​★★★★★
10.SUNDAY 6:00PM(Album Version) ★★★★☆
11.Bless Myself ★★★☆☆
12.あなただけ感じて(EXTENDED FULL POWER DIGITAL MIX!!) 省略

1994年12月12日発売
Epic/Sony Records
最高位49位 売上不明

米光美保の1stアルバム。先行シングル「あなただけ感じて」「Into the good time」「風のPAVEMENT」を収録。

米光美保は1990年に東京パフォーマンスドール(TPD)のメンバーとしてデビューした。フロントメンバーとして活躍し、その透明感溢れる歌声のためか、グループの歌唱力担当と言うべき存在だった。1994年の9月にTPDを脱退し、ソロ活動に専念するようになった。TPD在籍時にも、他のメンバーと同時にソロアルバムがリリースされているものの、そちらはソロアルバムとしてカウントしていない。
その後、1998年に活動を休止し、2004年にインディーズで復帰するも、2009年に再び活動を休止。現在は地元に帰って農業をしているようだ。

今作のリリース当時、歌手活動を「凍結」して、作家やプロデューサーに専念していた状態だった角松敏生が今作のプロデュースを手掛けた。シティポップ・AORの色を強く出しながらも、米光美保の歌声を生かしたプロデュースとなっている。打ち込みを多用しつつ、しっかりと聴きごたえのあるサウンド面に仕上げられた。


「Overture SUNDAY 6:00PM」は今作のオープニングを飾る曲。「Overture」とある通り、「SUNDAY 6:00PM」の一部を切り取って、短めにアレンジしたもの。しっとりした始まり方になるが、今作への期待を高めてくれる。


「あなただけ感じて」は先行シングル曲。力強いリズムが印象的なポップナンバー。シンセドラムの音色や使い方は少々時代性を感じさせるが、曲を盛り上げる要素の一つとなっている。間奏のサックスのソロは、この曲の力強さを効果的に演出している。全体を通して、ギラギラした雰囲気を持った音作りである。メロディー自体はかなりキャッチーな仕上がりで、シングル曲ならではの訴求力を持っている。
歌詞は彼女がいる男性に恋した女性の心情が描かれたもの。「いつかは 失うこととわかってるわ それでも この想いは誰も止められない」という歌詞は、主人公の想いが強く現れている。その部分は力の入った歌い方になっているのも聴きどころ。本格的にソロ活動を始めた作品としては、文句無しの曲だと思う。


「海になりたい」は爽快感溢れるポップナンバー。イントロの時点で、かなり軽快なサウンドが展開されている。シンセと共に駆け抜けるようなギターサウンドが心地良い。ギタリストとしての角松敏生の実力がよくわかるような演奏になっていると思う。サビまでは淡々とした感じのメロディーだが、サビは開放感に満ちたメロディーになる。その変貌ぶりが見事。
歌詞は幸せな雰囲気を感じさせるもの。遠距離恋愛をしているカップルが描かれているのだが、うまくいっていることがよくわかる。「離れることで わかるなんて 大切なもの いつでもそばにあること教えてくれたの」という歌詞からは、主人公の満たされた心が伝わってくる。アルバム曲ながら、シングル曲にも匹敵するほどのポップ性を持った曲である。


「Sleepless Dreamer」は先行シングル「Into the good time」のC/W曲。角松敏生作品の常連だった、ギタリストの浅野祥之が作曲・編曲を担当した。ここまでの流れを落ち着けるようなバラードナンバー。打ち込みが多用されたサウンドではあるが、メロウな曲調が心地良い。今作の中でも、比較的AOR色の強い曲と言える。コーラスワークがこの曲を効果的に盛り上げている。
歌詞は恋人と別れた時の女性の心情が描かれているもの。繊細な情景描写がこの曲の詞世界の特徴。「紅茶一口 ふせた写真一つ 窓越しに 行き過ぎるライトがにじむ」という歌詞が特に好き。米光美保のボーカルやコーラスワークが、その情景をさらに鮮やかなものにしてくれる。バラードシンガーとしての才能を発揮した曲である。


「瞳の中の永遠」は先行シングル「あなただけ感じて」のC/W曲。前の曲に引き続いての、バラードナンバー。どことなく温かみのあるシンセの音色が前面に出た、静謐なサウンドで聴かせる。その雰囲気を保ったまま、しっかりとキャッチーに仕上げるサビのメロディーが魅力的。サックスソロ、ギターソロとどちらも曲の切なさを引き出しており、曲の聴きどころとなっている。
歌詞は別れを決めた女性の想いが綴られたもの。「たった一つのあやまちなのに それが消せないから」という歌詞は、ただならぬ出来事が起こったことを想起させる。別れる恋人との間に、何があったのだろうか。色々と想像を掻き立てられる。それでも、愛し続けることも表明する。相手のことを忘れはしないのが、逆に切なさを煽る。「隠れた名曲」と称されるにふさわしい、良い意味での「地味さ」を持った曲だと思う。


「MOONLIT MERCY」はこれまでの流れを変えるようなポップナンバー。1分半ほどの長めなイントロが印象的。この曲もまた、シンセが主体となったサウンドなのだが、不思議とグルーヴ感がある。他の曲と異なり、ホーンがフィーチャーされたサウンドだからだろうか。メロディー自体は派手に盛り上がるようなものではないのだが、キャッチーな仕上がりである。
歌詞は別れた恋人に再会した女性の想いが綴られている。しかも、その恋人は別の女性と一緒にドライブしていた。主人公の複雑に揺れる心情や、夜の都会の光景が的確に表現されているのが見事。このような難しそうな詞世界に対し、自らで色をつけていくようなボーカルも絶妙である。


「Reanimation」は曲の世界に浸れるようなスローバラードナンバー。シンセ主体のサウンドながら、全体的な音の数は少なめ。メロディーはかなりAOR色が強く、聴いていると思わず聴き惚れてしまうような美しさがある。とはいえ、後半では少し盛り上がる。少ない音の数のおかげか、余計な物を一切取り払ったような、厳かな雰囲気すら漂うほどの曲になった印象。
歌詞は恋心を抱いた女性の心情が描かれたもの。「ときめきが私を変えるの」「これからはきっと信じてゆけるわ」といった歌詞からは、女性の強い想いがよく伝わってくる。タイトルは「新しい私に生まれ変わる」というような意味合いなのだろうか?
曲調やこのような詞世界も相まって、短めの曲ながらもかなりの大曲を聴いたような錯覚に陥る。


「Into the good time(EXTENDED REMIX TOKYO SPECIAL!!)」は先行シングル曲。タイトルからもわかるように、今作収録にあたってリミックスされている。他の曲と比べても、ダンスミュージックの色濃いポップナンバー。青木智仁によるベースや、ギターが使われているため、打ち込み主体ながらもファンクのテイストを強く感じさせるサウンド面となっている。聴き手の心をがっちりと掴んでしまうような力を持ったサビが素晴らしい。
歌詞は傷心から立ち直ろうとする女性の想いが語られたもの。忙しい日常の光景も同じように描かれており、忙しない都会の光景も想像できる。「ショーウィンドウの中に 幸せなんてないから 心の目を開いて 見えるものだけを信じて」という歌詞は、今でも通じるメッセージ性があると思う。シングル曲にふさわしい、確かな力強さを持った曲である。


「風のPAVEMENT」は先行シングル曲。清涼感溢れるミディアムナンバー。奈良テレビ系番組『ざっくばらん』のエンディングテーマに起用された。打ち込みを多用した淡々としたサウンドが展開されているが、そのようなサウンドがメロディーの美しさを引き立てているようにも感じる。サビの開放感に満ちたメロディーは、聴く度に鳥肌が立ってしまう。米光美保の透き通るような歌声が、この曲では特に冴え渡っている。
共作という形で、米光美保も作詞に参加している。ちなみに、タイトルのフレーズは一切登場しない。歌詞は純粋な恋心が綴られたもの。「ふたり出逢えたことを いつも感じていたい」「あなたと過ごす時が 私を変えてゆくの」といった歌詞が顕著。聴いていて、ふと「可愛い」と思ってしまうような詞世界である。
曲全体に感じられる爽やかさがたまらない。米光美保の楽曲の中でも一番好き。


「SUNDAY 6:00PM(Album Version)は先行シングル曲「風のPAVEMENT」のC/W曲。ANB系番組『料理バンザイ!』のテーマソングに起用された。この曲は「あなただけ感じて」の後にシングルとしてもリリースされているものの、シングルバージョンは未収録となった。
しっとりとした曲調で聴かせるバラードナンバー。繊細さ漂うメロディーは、身を委ねたくなるような心地良さがある。サウンド面では、今作の中でも特に生音が多いため、聴きごたえのあるサウンドとなった。この曲での米光美保のボーカルは、透明感に加えて艶も出ている。
タイトルはタイアップ相手に寄り添ったもの。日曜の夕方6時から放送されていたため。歌詞については、幸せなラブソング…と解釈しているが、不倫の歌とも解釈できそう。恋人のために尽くそうとする姿が、そのように受け取れるからだろう。ただ、どちらを描いた曲だとしても、米光美保のボーカルの魅力を堪能できる曲というのは変わらない。


「Bless Myself」は実質的なラストと言える曲。「Reanimation」と同じくらいか、それ以上にゆったりした曲調で聴かせるバラードナンバー。角松敏生ならではの美しいメロディーが絶品。ひんやりした音色のキーボードとストリングスが主体となっている。後半ではトロンボーンのソロもあり、その音色で曲の美しさを演出している。
歌詞は別れた恋人へのメッセージのようになっている。「失くしたものは何も ないつもりだから あなたも もう私のことは想い出さないでね」「私のことならもう 大丈夫だから」といった歌詞は、聴いているこちらまで胸の締め付けられるような気持ちになる。円満な別れ方だったのだろうか?自分及び、相手の幸運を祈る形で、今作は実質的な終わりを告げる。


「あなただけ感じて(EXTENDED FULL POWER DIGITAL MIX!!)」は先行シングル曲のリミックスバージョン。元のバージョンでさえ、かなりの迫力を持ったサウンド面なのだが、このバージョンはさらにそれが増している。ボーナストラック扱いだと思われるが、聴きごたえのある音作りが素晴らしい。原曲の味わいを保ちつつも、新たな魅力を生み出したリミックスになっていると思う。


近年は再評価が進んでいるのか、中古屋で見かけてもそこそこの値段で売られていることが多い。シティポップ・AORが再興していること、その中心的存在である角松敏生がプロデュースを手掛けたから…という理由だろうか。しかし、プロデューサーのネームバリューを抜きにしても良いと思えるだけの作品である。
米光美保のボーカリストとしての魅力を限りなく引き出した、角松敏生によるプロデュースワークが見事。透明感、力強さ、可愛らしさ、色気…様々な要素を併せ持った歌声であり、個人的には「理想の女性ボーカル」である。
同じく角松敏生がプロデュースを手掛け、シティポップ・AORの色がさらに強くなった「FOREVER」も名盤。セットで聴いていただきたいと思う。

★★★★★