COVER GIRL
山口由子
1996-04-19


【収録曲】
全曲作詞作曲 山口由子
5.作詞 森本夜子
10.作詞 秋元康
1.9.編曲 十川知司
2.4.7.8.10.編曲 武部聡志
3.5.編曲 葉山たけし
6.編曲 松本晃彦
1.3.コーラスアレンジ 武部聡志
プロデュース  武部聡志

1.太陽がいっぱい ★★★★☆
2.悲しいほど好きにさせておきながら… ​★★★★☆
3.Smile Again ​★★★★★
4.いつまでもそばにいたいから ★★★★★
5.この悲しみの行方 ★★★★★
6.ジェラシー ​★★★☆☆
7.あなた… ★★★☆☆
8.September Rain​ ★★★★☆
9.未来の扉 ​★★★★★
10.今ならもう一度話したい ★★★★★

1996年4月19日発売
ポニーキャニオン
最高位不明 売上不明

山口由子の2ndアルバム。先行シングル「悲しいほど好きにさせておきながら…」「未来の扉」「Smile Again」を収録。「ジェラシー」が今作発売後にシングル「太陽と月に背いて」のC/W曲としてシングルカットされた。前作「しあわせのみつけかた」からは1年7ヶ月振りのリリースとなった。

山口由子は1987年に3人組アイドルグループA-Chaの1人としてデビューし、1988年にソロデビューを果たした。アイドル歌手として3作のシングルと2作のアルバムをリリースし、活動を休止。
そして、1994年にシンガーソングライターとして再デビューした。このような事情から、実質的には今作は4thアルバムである。ただ、山口由子としてはアイドル時代は黒歴史に近い扱いのようだ。
1997年にはマーキュリー・ミュージックエンタテインメント(現在のユニバーサルミュージック)に移籍し、1999年には「Believe」がヒットした。なお、現在のディスコグラフィーではポニーキャニオン時代の作品は掲載されていない。契約の事情なのか、本人がポニーキャニオン時代も黒歴史扱いしているのか。真相はわからない。

山口由子はアイドル時代、ポニーキャニオン時代、マーキュリー時代と作風がコロコロ変わる。全て紹介すると長くなるので、今作がリリースされたポニーキャニオン時代の作風を紹介させていただく。一言で表すなら「一歩間違えたらビーイング系な、超王道ガールポップ」​である。それは今作で顕著に現れており、聴いていると「ZARDでもやっているの?」と突っ込みたくなってしまうだろう。

山口由子は非常に透明感のある、可愛らしい歌声の持ち主なのだが、その歌声とぴったり合っている。山口由子の全ての時期の楽曲を聴いてそれぞれに良さを見出したが、管理人としては、ポニーキャニオン時代が山口由子の歌声の魅力が最も活かされていると感じた。


「太陽がいっぱい」は先行シングル「SMILE AGAIN」のC/W曲。全国図書普及協会のCMソングに起用された。聴き心地の良いポップナンバー。温かみや懐かしさを感じさせるメロディーがたまらない。サビは一度聴けば、しばらくは忘れられないようなわかりやすさがある。シンプルなバンドサウンドは、メロディーの強さを引き立てている。
歌詞は親友に再会した女性を描いたもの。その親友はもう結婚してしまったようだが、それでも会えばすぐに昔の仲に戻る。そのような関係の親友に、何となく憧れを抱いてしまう。大人になったということを実感する時だと思う。
オープニングを飾るだけの確かなポップ性を持っているのだが、突出しているわけでもない。その独特な存在感はC/W曲というポジションならではと言ったところか。


「悲しいほど好きにさせておきながら…」は先行シングル曲。フジテレビ系番組『ROOMS』のエンディングテーマに起用された。ハードなギターサウンドが確かな存在感を放つ、ポップナンバー。ギターサウンドやシンセのせいか、いつになくロック色が強めな印象。メロディーはシリアスさを感じさせつつも、キャッチーな仕上がりである。
歌詞は、社内恋愛をしていた恋人に裏切られた女性の心情が描かれている。相手の好きにさせた結果、浮気をされてしまったのだろうか?怒りや悔しさを懸命に堪えて、大人の女性としての面子を保とうとする詞世界が印象的である。
この曲での山口由子のボーカルは力強さに溢れている。大人らしさに加え、可愛らしさも感じられるのは何故だろうか。


「Smile Again」は先行シングル曲。三井不動産販売の「三井のリハウス」のCMソングに起用された。爽やかなメロディーが心地良いポップナンバー。歌詞とメロディーがぴったり合ったサビが素晴らしい。編曲はビーイング関連のアーティストの楽曲を数多く手がけてきた、葉山たけしが担当した。アコースティックなバンドサウンドが主体。楠瀬誠志郎による、卓越したコーラスワークが曲の爽やかさを演出している。どこまでも晴れ渡る青空をイメージさせるメロディーやサウンド面である。
歌詞は傷ついた心から立ち直ろうとする女性を描いたもの。過去の回想をしつつも、聴き手に寄り添った詞世界が魅力的である。
メロディー、アレンジ、歌声などあらゆる面がとにかく自分好み。初めてこの曲を聴いた時、あっという間に山口由子の楽曲に魅かれたことを思い出す。山口由子の曲の中で一番好き。


「いつまでもそばにいたいから」は突き抜けるような清涼感を持ったポップナンバー。阪神高速道路公団の復旧開通情報ラジオのCMソングに起用された。編曲は武部聡志が行なっているのだが、そのシンセの使い方はZARDの楽曲を想起させる。意識していたのだろうか。キラキラしたシンセの音色は、ただでさえポップなメロディーをさらに明るいものにしてくれる。
歌詞は恋人といつまでもそばにいるために「本当の気持ち」を探そうとする女性が描かれている。全体的に内省的なメッセージが並んでいるのが特徴。「おさえきれない思いに 心閉ざしてばかり 自分を傷つけたくないからと避けてばかり」「建て前の社会の中 人に流されてる そんなふうにして今日もまた 悔やんだりしてる」といった歌詞が顕著。
初めてこの曲を聴いたときは、シングル曲かと思ってしまったほど。今作の完成度の高さを実感させてくれる。


「この悲しみの行方」はここまでの流れを落ち着けるミディアムナンバー。アレンジやサビはポップな仕上がりなのだが、この曲までが相当に明るくポップな曲揃いなので相対的に落ち着いているように感じる。この曲も葉山たけしが編曲を担当した。シンセと、力強いギターサウンドを組み合わせたアレンジはビーイング系を彷彿とさせる。間奏のサックスソロは聴きどころ。キャッチーかつ聴き惚れるような美しさを持ったサビのメロディーは絶品。
歌詞は恋人に別れを告げようとする女性が描かれたもの。「忘れられるより 憎まれても 記憶の中に残っていたい」という歌詞は、主人公の女性の想いが凝縮されているように感じる。
メロディーやボーカルの訴求力が群を抜いており、山口由子のバラードの中でも特に好きな方に入ってくる。


「ジェラシー」は今作発売後に「太陽と月に背いて」のC/W曲としてシングルカットされた曲。打ち込みを多用したサウンドが展開されたダンスナンバー。派手なシンセの音色や、ドタドタとしたシンセドラムの音が力強い。サビまではしっとりとしているが、サビで一気にポップなメロディーへと変貌を遂げる。山口由子の歌声はシリアスな雰囲気が漂っており、曲の世界観を構成している。
歌詞は道ならぬ恋に溺れる女性を描いたもの。「あなただけの 私と思わないで ただ今だけ あなたが欲しいの」「さめない鼓動をひそめて あなたに落ちてゆきたい」…聴いているだけでもドキっとするようなフレーズが詰め込まれている。
サウンド面や歌詞共に異色なのだが、これはこれで良いと思えるだけの曲である。


「あなた…」は今作の中でも異彩を放つ、しっとり系バラードナンバー。曲の世界に浸れるような、美しいメロディーが展開されている。それでもサビは耳に残る仕上がり。サウンド面は、ピアノが主体となったシンプルかつ静謐なもので聴かせる。この曲での山口由子は、艶のある歌声で曲の世界観を構成している。
歌詞は復縁を果たした女性の心情を描いたもの…と解釈している。「あなたあなたがいいの もう何もいらないから」と力強く歌い上げるサビが印象的である。メロディーも相まって、心を思い切り掴まれてしまうこと請け合い。
一曲単位で聴けばかなり好きな曲なのだが、今作の中ではどうにも浮いてしまっている印象が否めない。アルバム未収録のC/W曲というような立場の曲だったら、「隠れた名曲」と称されていたのではないか。少々勿体ない曲だと思う。


「September Rain」は先行シングル「未来の扉」のC/W曲。どこか懐かしい雰囲気を感じさせるミディアムバラードナンバー。フォークのテイストを感じさせる、ポップかつ叙情的なメロディーが展開されている。アコギを主体にしたシンプルなサウンドは、透明感のある山口由子の歌声やメロディーの魅力を引き立てている。
歌詞は別れた恋人へのメッセージのようになっている。「あの頃の夢を 君は叶えていますか」「夢中になる癖 変わらずにいて欲しい」といった歌詞が印象的。相手の近況を気にかけて応援しつつ、二人で幸せだった頃を回想した詞世界だが、歌詞の中の二人は円満な別れ方だったのだろうか。派手さはあまり無いものの、キャッチー性と切なさとが両立されているのが好印象。今作の中では少々地味な印象だが、それでも好きな曲。


「未来の扉」は先行シングル曲。全国高等学校ラグビーフットボール大会のテーマソングに起用された。90年代特有のキラキラしたシンセの音色が前面に出た、爽快なポップナンバー。90年代のJ-POPを支えた名アレンジャーの一人である十川知司ならではのアレンジが冴え渡っている。聴き手の心をぐいぐい掴んで離さない、キャッチーを極めたようなサビは圧巻。一度聴けばしばらく耳を離れなくなってしまうことだろう。
歌詞は応援歌的な内容で、ポジティブなメッセージが並んでいる。「頑張れ溢れだした 涙今 勇気に変えて」というサビのフレーズが好き。ひねくれたことを言ってしまうと、あまりにもありふれた歌詞である。しかし、山口由子の歌声にかかれば、それすらもサラッと聴き手に届けてしまう。山口由子は自分にとっての「理想の女性ボーカル」の一人なのだが、その本領発揮と言ったところ。


「今ならもう一度話したい」は先行シングル「悲しいほど好きにさせておきながら…」のC/W曲。聴いていて安心感のあるメロディーが心地良いポップナンバー。サビは歌詞とメロディーがこれ以上無いほどぴったり合っていて、思わず身を委ねてしまいたくなる。シンプルなバンドサウンドは、職人的な佇まいでメロディーの魅力を演出している。
作詞は秋元康によるもの。『ROOMS』での縁がきっかけで実現したのだろうか?歌詞は、自然消滅した昔の恋人との再会を果たした女性の気持ちが描かれている。時の流れが、二人の心を癒してくれることもある。どことなくぎこちない二人の会話が聞こえてくるような、繊細な描写がされているのが特徴的。
この曲がラストを飾ったことで、最後までポップ性を忘れない構成になった。短めな収録時間も相まって、確かな中毒性が生まれている。


あまり売れた作品ではないので、中古屋では滅多に見かけない。若干のプレミアがついているのか、そこそこな値段で出回っていることが多い。
既発曲やタイアップが付いた曲が多く並んだ構成なので、半ベスト盤というような雰囲気がある。そのような作風だけあって、全編通してとにかくポップでキャッチー。山口由子のメロディーセンスが冴えに冴えている。「全曲がシングルカットできる」という例えはアルバムを語る上でよく使われるが、それを使ってもいいだけの確かなポップ性がある。そのようなポップナンバーと山口由子の歌声はとても相性が良いため、聴いているとたまらなく心地良い。10曲で46分ほどというコンパクトさも魅力で、何度でも聴きたくなる。
どの要素を切り取っても、圧倒的な完成度を誇っている。90年代のガールポップの歴史に燦然と輝く名盤と言い切ってしまおう。

​★★★★★