blue-tonic
1994-10-21


【収録曲】
全曲作詞作曲 井上富雄
3.作詞作曲 Felix Cavaliere・Eddie Brigati
10.作曲 木原龍太郎
全曲編曲       blue tonic 
プロデュース  桜井鉄太郎

1.Start of love ★★★★★
2.激しく長い夜 ​★★★★★
3.A girl like you ​★★★☆☆
4.パラダイス ​★★★★★
5.After wave ★★★★☆
6.Happy ending ★★★★★
7.真昼のビジョン ​★★★★☆
8.Faded violet ★★★★☆
9.Groovy day ★★★★☆
10.Last dream in blue 省略

1988年7月21日発売
1994年10月21日再発(CD選書盤)
BAIDIS/TEICHIKU 
最高位不明 売上不明

blue tonicの2ndアルバム。先行シングルは無し。前作「Moods for Modern」からは、12インチシングルに収録された曲を集めたコンピレーション「The Face」を挟んで1年1ヶ月振りにリリースされた。

blue tonicは1984年、ザ・ルースターズのベースだった井上富雄を中心に結成された4人組バンド。ボーカル・ギターの井上富雄、キーボードの木原龍太郎、ベースの冷牟田竜之、ドラムの田中元尚から成る。結成当初はトロンボーン(井上富雄が担当)やサックス担当のメンバーがおり、ブラスをフィーチャーしたバンドだったという。今作以降は段々とバンドとしての必然性が無くなっていき、1989年に解散した。2015年以降は本格的に活動を再開しており、定期的にライブ活動を行なっているようだ。

blue tonicは「渋谷系」の先駆けとなったバンドと称されることがある。グルーヴ感を重視した、スタイリッシュな楽曲やサウンド面は当時は珍しかった。そのような音楽性から「和製Style Council」という別名もあったという。
井上富雄がORIGINAL LOVEや小沢健二のサポートベースを担当していたこと、木原龍太郎がORIGINAL LOVEのキーボードとして所属していたこと、冷牟田竜之が東京スカパラダイスオーケストラに在籍していたこと…後の「渋谷系」に繋がる要素を持ったメンバーが多いことも大きい。

今作のプロデュースは、後に渋谷系の代表格と言えるユニットであるCOSA NOSTRAの中心人物となる桜井鉄太郎が手がけている。blue tonicが持つ、優れたポップセンスやお洒落な要素を引き出したプロデュースとなった。


「Start of love」は今作のオープニング曲。ポップ性に満ちたメロディーが心地良い曲。どこを取ってもキャッチーであり、隙のない構成のメロディーである。疾走感のあるバンドサウンドに加え、叙情的な音色のサックスやオルガンもたまらない。そのようなサウンド面のせいか、井上富雄のボーカルもどこか楽しげである。後半のスキャットとサックスの絡みは非常に格好良い。
歌詞はタイトル通り、恋の始まりが描かれたもの。「もうどうでもいいから 早く俺に気付いてよ もうどうでもいいから ただ君に捕らわれたいよ」という歌詞はインパクトがある。それでもサラッと聴けてしまうのがこの曲の凄いところ。オープニング曲というポジションにふさわしく、聴き手を今作の世界に引き込む役割を果たしている。


「激しく長い夜」はグルーヴ感溢れるポップナンバー。どことなくスリリングな雰囲気を漂わせつつも、キャッチーに仕上げてくるメロディーは絶品。木原龍太郎によるものと思われるピアノがこの曲では冴え渡っている。重厚なベースやパワフルなドラムにも負けずに、軽快かつ美しい音色で曲を盛り上げている。ボーカルを含め、全ての音が淀みなく流れていくような感覚が非常に心地良い。blue tonicの楽曲に共通して言える要素ではあるが。
歌詞はタイトルからも想像できるように、恋人同士の夜を想起させるもの。全編を通して生々しく、耽美的な詞世界である。
ピアノの音色の心地良さを教えてくれるような曲である。blue tonicの中でも特に好きな曲に入ってくる。


「A girl like you」は1967年にThe Young Rascalsが発表した曲のカバー。当然ながら全編英語詞である。2分45秒ほどという短めな原曲からは約2分長くなっており、アレンジ自体も大幅に変わっている。原曲にあったポップ性は少し薄れ、アダルトな雰囲気を前面に押し出したアレンジに変貌を遂げた。井上富雄の色気のあるボーカルも独自性を発揮している。
原曲への深いリスペクトと、blue tonicの個性が共存している印象がある。実力派ミュージシャンが揃ったバンドだからこそできたカバーと言えるだろう。


「パラダイス」は爽快な曲調が心地良いポップナンバー。今作の収録曲の中で、最も「渋谷系」らしいテイストを持った曲だと思う。鼻歌交じりに聴きたくなるような、全編サビと言っていいほどにポップなメロディーが素晴らしい。木原龍太郎のキーボードが主体となった、お洒落かつポップなサウンドもメロディーの魅力を引き立てている。田中元尚による力強いドラミングが曲に確かな風格を与えている。
歌詞は「パラダイス」を求める人が描かれている。それはどのような場所なのだろうか。聴き手それぞれが解釈できる余地を残した詞世界であり、色々と想像が捗る。
ポップな要素に振り切れた感じがとにかく自分好み。今作の収録曲の中でも「激しく長い夜」と並んで、特に好きな方に入ってくる。


「After wave」はここまでの流れを落ち着けるようなバラードナンバー。AOR色の強い、曲の世界に浸れるような美しいメロディーが心地良い。それでも不思議と耳に残るサビが印象的。アコースティックなバンドサウンドで聴かせる。他の曲よりも全体的な音の数は少なく、井上富雄のボーカルを聴かせるイメージである。
歌詞は鮮やかな情景描写がされたもの。歌詞全体としては散文的で難解な詞世界なのだが、夏の終わりの光景が浮かんでくるような描写が印象的である。
ここまでは比較的ノリの良い曲が並んでいただけに、じっくりと聴かせる曲は新鮮に感じる。この手の路線でも浮いているように感じないのは、メンバーの優れた演奏力によるものだろう。


「Happy ending」はお洒落な雰囲気溢れるミディアムナンバー。どこがサビなのかわかりにくいメロディーなのだが、それがインパクトを与えている。「気持ち良い違和感」とでも言うべきか。跳ね上がるようなバンドサウンドは、聞いていると思わず身体が動いてしまう。メンバー全員が楽しみながら演奏しているような光景が浮かんでくる。
歌詞は「Happy ending」を求める人が描かれている。「恋をすればまた哀しみに出会う」「シナリオ通りには事は運ばない」「憂うつあふれるNight&Day」…タイトルのイメージとは裏腹に、ネガティブでシニカルなフレーズが並んでいる。それでも、ダウナーで聴き苦しい曲にはなっていない。むしろ、何度も聴きたくなるような中毒性がある。


「真昼のビジョン」は爽やかなポップナンバー。淀みのない、美しく流れていくようなメロディーは思わず身を委ねたくなる。それでいて、全編を通して訴求力のあるメロディーである。サウンド面だけで言うなら、今作の中でも特にファンク色の強いものだと思う。キレの良いギターのカッティングや、迫ってくるようなベース、ドカドカしたドラムがたまらない。その脇をキーボードが固め、ポップな味付けをしている。
歌詞は幻想的な光景が描かれたもの。「光のしぶき」「透き通る風雲」「虹色の橋」…ロマンティックなフレーズが並んでいるが、それでも嫌味な感じがしないのが見事。
演奏の聴きごたえというblue tonicの魅力を、より堪能できる曲だと思う。


「Faded violet」はしっとりとした曲調で聴かせる曲。そのような曲調でも、サビはやはり耳に残る仕上がり。そこは徹底している。ブルー・アイド・ソウルの色濃いサウンドが展開されている。全ての音がそれぞれの存在感を発揮しており、この曲の聴きどころとなっている。他の曲にも増して色気を持った、井上富雄のボーカルはこの曲の世界観を構成している。
歌詞は恋人と別れることを決めた男性の心情が綴られたもの。上手くいかない二人の関係を「枯れ果て震えるすみれ」と重ねて描いている。何をしても、元に戻ることはないから別れる。厳しいとも、潔いとも判断できる。
多彩なジャンルを取り入れても、取っ散らからない。簡単なようでいて、かなり難しいことだと思う。


「Groovy day」は陽気な雰囲気に満ちたポップナンバー。サビになっても派手に盛り上がるような曲ではないのだが、聴き終えるとしばらく耳に残る。井上富雄のポップセンスがよく現れている印象。ギターやベースよりも、オルガンの方が前面に出たアレンジはblue tonicならではと言ったところか。
歌詞は恋している時の高揚感を描いたもの…と解釈している。「見飽きた街が 突然オアシス」というフレーズからは、主人公の喜びがよく伝わってくる。タイトルは好きな人に会う日のことなのだろうか?
アルバムの終わり際になっても、ポップ性に溢れた曲を並べてくるのは見事。ノリの良い部分としっとりした部分がはっきり分かれていて、聴き飽きない。


「Last dream in blue」は今作のラストを飾るインスト曲。作曲は木原龍太郎が手がけた。ポップではあるが、耽美的な雰囲気も持ったメロディーや演奏が展開されている。シンセによるブラスに加え、Steve Nieveによるオルガンやヴィブラフォンが前面に出たサウンドで聴かせる。インストで締めるという構成が絶妙。「もう少し聴きたい!」と思うくらいで終わってしまうのだが、そのくらいが丁度良い。


あまり売れた作品ではないので、中古屋では滅多に見かけない。ただ、埋もれてしまうにはあまりにも惜しい。シティポップ・AOR、渋谷系といったジャンルで語れそうな作品なので、お洒落な音楽が再評価されやすい今の音楽界と相性が良いのではと思う。ソウルやファンクの要素も内包されている。
生音とシンセのバランスが合っているので、メロディーやサウンド面には一切の古臭さが無い。この手のアーティストの作品にありがちな、とっつきにくい要素もほとんど無い。強いて言うなら、井上富雄の少々癖のあるボーカルくらいか。メロディーやサウンドといった、blue tonicの魅力をより楽しめるリマスター盤の発売が望まれる。

​★★★★★